Home JGS 「JGS研究2019」プロジェクト論文_ 画像認識AIを利用した既存システムの属人化状態分析ツールの提案

「JGS研究2019」プロジェクト論文_ 画像認識AIを利用した既存システムの属人化状態分析ツールの提案

by iida

チーム名
これからの時代も生き残れるIT人材とは(RM-009)

チームメンバー

NTTデータシステム技術(株) 長澤 雄太
エムエルアイ・システムズ(株) 浜口 栄介(サブリーダー)
かんぽシステムソリューションズ(株) 小池 直也
(株)SCSK 保阪 仁(リーダー)
三菱総研DCS(株) 伊部 英明
三菱総研DCS(株) 古城 海太

アドバイザー

日本アイ・ビー・エムシステムズ・エンジニアリング(株) 鈴木 克利

JGS(日本GUIDE/SHARE)はIBMユーザー研究会の活動です

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論文概要

 既存システムと業務に精通した「高度IT人材」の知識は、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)を加速させるために必要な要素である。

  この「高度IT人材」を既存システムのしがらみから解放し、活用することを、本研究の目的とした。しがらみの多くは「属人化」に起因していることから、「属人化」の原因を見える化し、属人化を解消するためのヒントを提示するツールを提案した。

 「属人化解消」という枯れたテーマであったため、テキストマイニングツールや画像認識AIを活用することで先進性を出しつつ、これまでに例のない属人化状態の“見える化”にチャレンジした。

研究に至った背景

 今、各企業はDXへの取り組みを加速させている。このような時代背景のなか、本研究に集まったメンバーは、いずれも「レガシー」と呼ばれる金融系基幹システムの現場に縛られており、“これからの時代“にどう生き残って行くか、先の見えない状態であった。

議論は、「DXの実現にあたって、私たちは何に貢献できるのか」「そのためには何が必要なのか」といったところから始まった。

 DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(出典:経済産業省「DX推進指標」)と定義されている。

DX 実現のために必要な要素は、①企業がもつデータの活用、②価値を創出するための発想力、③実現するためのしくみである。これらを満たし、実現できる人材こそが、「これからの時代に必要であり、生き残れる人材である」と私たちは結論づけた。

 データの大部分は既存システムのなかに散らばっており、これらを活用する「しくみ」が必要となる。

また、モノリシックな既存システムからサービスを切り出す「しくみ」も必要になるであろう。その意味では、既存システムに精通した人材の活用が、これからの時代には必要である。

ところが、そのような人材は私たちも含めて、既存業務のしがらみから離れられず、活躍の場が限られている現状にある。「なぜ、しがらみから離れられないのか」という議論と研究を重ねた結果、「属人化」というワードに辿り着き、「属人化」を解消するための研究を始めることとした。ここまでで、約4カ月が経過した。

図表1 これからの時代に必要な人材

属人化状態分析ツールの構想

 属人化の原因は多岐に渡っており、決定的な解決策は見い出せなかった。そこで、システムの現場ごとに異なる属人化状態を「見える化」することで、その状態に応じた解決策を提示することが属人化解消の有効な手段であろうという発想のもと、そのためのツールを開発することとなった。

私たちが探した限り、過去に同様の目的でツール化した事例はなく、新規性も出せるのではないかと考え、開発に着手した。ここまでで、さらに2カ月の時間を要することとなった。
ツール開発で実行したこと

(1) Webから「属人化」に関して記載された記事や文献を探す

 属人化状態を数値モデル化するためのパラメータとなる語を探すため、属人化に関して記載されたさまざまな記事や文献をWeb検索して探し、100文書ほどを集めた。

(2) テキストマイニングによるパラメータ抽出

 テキストマイニングには、学術論文や公共機関で利用実績の多いKH Coderというフリーソフトウェアを利用した。KH Coderを用いてWeb検索で集めた文書を分析し、共起ネットワーク図を作成し(図表2)、同時に使われている単語の組み合わせ(共起関係)を探し、最も出現回数の多い単語の組み合わせを属人化パラメータとして抽出した(図表3)。

図表2 KH Coderによる共起ネットワーク図の例

図表3 抽出した属人化パラメータ

 Webで検索した文書には製品宣伝の記事やそもそもシステムとは無関係な文書が多く、当初は共起ネットワーク図を作成しても、単語の出現回数が分散しすぎて特徴を見い出せなかった。このため、結局は1つ1つの文書に目を通して、正しく「属人化」について記載された文書をのみを拾い上げる必要があった。

(3) 属人化要素の定義

 属人化パラメータの抽出と並行した、過去の研究文献(ヒト・コト・モノに着目した属人化が運用保守に与える影響の分析と対応 アブストラクト、2019年6月1日)を参考に、3つの属人化要素(図表4)を定義した。

図表4 属人化の要素

(4) ヒアリング項目の作成

 ヒアリング項目は属人化パラメータ(図表3)と属人化要素(図表4)の組み合わせから連想されるコトやモノから、35問のヒアリング項目を作成した(図表5)。

それぞれのヒアリング項目が、3つの属人化要素のどれに、どの程度関連しているかの重みづけも行った。

図表5 ヒアリング項目

(5)チェックシートの作成

 チェックシートに回答すると、レーダーチャートの画像ファイルが出力されるよう、VBAの組まれたExcelシートを作成した(図表6)。

図表6 チェックシートのイメージ

ヒアリング項目への回答は、「あてはまる」~「あてはまらない」の5段階評価(リッカート尺度)を採用した。レーダーチャートは、属人化の要素に合わせて3種類を出力する(図表7)。

図表7 ヒト型/プロセス型/組織型 3種類のレーダーチャート

(6)属人化モデルパターンを画像認識AIで学習

  属人化要素それぞれの型のレーダーチャートの画像パターンをあらかじめ作成し、画像認識AI(図表8図表9)に学習させた。画像認識AIは、Google Cloud AutoML Vision(AutoML)を利用した。

図表8 画像認識AIのしくみ

図表9 AutoML Visionによる学習

 AutoMLの機能は人物や動物の画像認識を想定しており、判別するにはさまざまなパターン(表情や角度等)の画像が必要とされている。

そのため、今回挑戦したレーダーチャートを画像として判別するような使い方はガイドされておらず、前例も見つからなかった。ここで、画像の特徴ができるたけ顕著になるよう、レーダーチャートの色や形を工夫した。

またAutoMLの仕様では、特徴量の乏しい画像は同一画像と認識されるため、大量の学習用モデル図形を手動で作成する必要があった。

このように試行錯誤しつつ、認識率を確認しながら学習用モデル図形の適切な数(100個以上)を決定した。さらに認識率を高めるために、属人化状態の度合いに応じて3つにラベル付けした(40%、60%、80%)。

(7)ツールの動作と出力イメージ

 出来上がったツールの全体像と動作イメージ、および出力イメージは図表10図11のとおりとなった。

被験者がチェックシートの各ヒアリング項目を5段階評価で回答する。回答はExcelマクロにてレーダーチャート化し、画像ファイルとして出力する。

②画像をGoogle Cloud 上のカスタム機械学習AutoMLに送り、あらかじめ学習した属人化状態モデルと比較する。

③比較結果に基づいて、属人化解消のヒントを提示する。

図表11 出力イメージ

ツールの検証

 メンバーが各所属会社で関わっている30プロジェクトを対象に、チェックシートの回答を集めた(図表12)。

図表12 サンプルプロジェクトの結果

 全要素で属人化しているプロジェクトや、逆にどの要素も属人化していないプロジェクトなど、顕著な特徴のあるプロジェクトについては、個別に聞き取り調査を実施して検証した。

全要素で属人化という判定の出たプロジェクトについては、実際に長期間、要員交代がなかった。また全要素とも属人化していないと判定されたプロジェクトは、すでに対応済みのプロジェクトであったり、立ち上げたばかりのプロジェクトであった。このように結果に関しては納得の行くものとなり、ツールの有効性は確認できた。

分析結果の考察

 では、分析結果はどうであったか。30システムの傾向を整理したところ(図表11)、「組織型」が70%と最も多く、「ヒト型」が30%、「プロセス型」が17%という順になった。

それぞれは重複して判定されるため、すべての型で属人化が進んでいるシステムも存在している。「ヒト型」と「プロセス型」の属人化状態が高いシステムは、「組織型」の属人化状態も高くなる傾向があった。

このような結果から、属人化しているシステム領域を担う人材を流動化させるには、「組織」の課題を経営レベルで解決していく必要があると判明した。

 ただ、「組織型」と判定されたプロジェクトの数が非常に多い結果となったことから、組織型の要素をさらに細かく分けることで、よりきめ細やかな分析ができるよう、改善の余地が残った。

今後について

 検証の結果から、改善の余地はあるものの、このツールで用いた手法は有効であろうことは確認できた。

 今後の課題としては、さらにきめ細かく分析できるよう、属人化要素の分解とヒアリング項目の改良が必要である。また今回の研究では、時間的制約から分析とヒントの提示のみにとどまったので、「ヒントに示されたアクションを実際のプロジェクトで実行して本当に属人化が解消できるのか」を見極められなかった。

今後も継続的にこの手法を活用し、完成度を高めつつ、既存システムの現場に埋もれる「高度IT人材」の活用に役立てていきたい。

また今回開発したツールは、私たちの携わっているシステムの現場に着目したものであるが、属人化の問題はシステムの現場のみに限ったことではない。今後は他業種にも適用し活用できるよう、研究を進めていきたい。

研究秘話

  冒頭、DXの時代に私たちは何ができ、何を必要とされるかという議論から始まった、と記載した。
実はそれ以前に、「これからの時代とは何か」について話合った。メンバーはそれぞれ立ち位置が異なり、そこから見える未来像も異なるため、DXに至るまでに相当な時間を要した。

DXの時代であろう、と皆が納得したあとに、次は「生き残れるとは」の話し合いとなった。「生き残れる」の意味解釈も、それぞれの立ち位置で異なっていた。1つは「生き長らえる」、もう1つは「必要とされる」である。「必要とされる」の意味解釈もまた、それぞれ異なっていた。

このように、普段の生活でも仕事でも同様であるが、人による細かな意味解釈の違いを1つ1つ合わせて行くことは、非常に膨大な手間と時間がかかる。Webニュースのコメント欄やSNSが炎上するのは、このためなのではないかと、あらためて感じた次第である。

 さまざまな議論に時間がかかり、実際の検証を開始して論文作成に着手できたのは、締切まで3カ月を切ったころであったが、いったんベクトルが合った後は、意見も活発になり、非常にスピーディに作業が進んだ。あらためて「コミュニケーション」という、とても基本的なことを学び直した1年間であった。

 業務を離れ、普段あまり考えていないことがらや技術に触れられて、個人的には非常に濃い時間を過ごせた。またこの研究の成果は、少なからず自分が担当する業務に変化をもたらした。

 まだ不完全とはいえ、客観的な分析を通してプロジェクトの問題をあらためて認識できたことで、その後の改善活動を改良できた。結果が出たら、どこかの機会でまた報告したい。

保阪 仁
SCSK株式会社

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