Home JGS 「JGS研究2019」プロジェクト論文_RPA の適用領域拡大検討のための Class2 の RPA モデルの試作と評価

「JGS研究2019」プロジェクト論文_RPA の適用領域拡大検討のための Class2 の RPA モデルの試作と評価

by iida
チーム名
RPAのAI的発展と活用(IP-004)

チームメンバー
(株)インテック 長田 大
(株)インフォテクノ朝日 海野 仁志
コベルコシステム(株)  持田 崇一郎
JFEシステムズ(株)  堀越 秀樹(サブリーダー)
SOMPOシステムズ(株) 岡迫 裕幸
第一生命情報システム(株)  數間 裕紀(リーダー)
リコーインダストリー(株)  川上 敬義

チームアドバイザー
日本アイ・ビー・エム(株)  河村 幸則

JGS(日本GUIDE/SHARE)はIBMユーザー研究会の活動です

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論文概要 

 RPA(Robotics Process Automation)とAIを組み合わせる場合、多くは照会応答系AI、画像系AI、音声系AIが利用されている。一方で、心理系AIや情報探索系AIとRPAを組み合わせた例は少ない。本論文では、導入事例の少ない系統のAIを利用したRPAによる自動化は、RPAの適用領域を拡大し得るという仮説を立てた。

 そこで導入事例が少ないAIのなかから心理系AIおよび情報探索系AIとRPAを組み合わせた3つのモデルの試作と評価を実施した。評価の結果、心理系AIを活用したモデルにはRPAの適用領域拡大の可能性があることを確認した。

はじめに

 RPAは「過度な期待のピーク期」を過ぎて、幻滅期へと向かいつつある。RPAに過度な期待をもった企業が導入後に失望感を感じている一方で、AIやOCRなど他の技術と組み合わせてRPAをさらに強力に推進する企業もある。

 RPAにAIを組み合わせた事例は現在、照会応答系AI、画像系AI、音声系AIを組み合わせたものが主流である。当研究チームはあえて融合事例の少ない心理系AIや情報探索系AIとRPAを組み合わせた3種類のモデルを作成し、新たな業務領域の創出を試みた。

 作成したモデルについて2019年度JGS研究プロジェクトメンバーを中心にアンケート(以下、JGSアンケート)を実施し、いずれかのモデルについて有用であるとの回答が84%となった(回答数33人)。

 アンケートに加え、3つのモデルについて技術的な検証も行った。その結果、心理系AIを用いた2つのモデルについてはRPAの適用領域拡大の可能性があることを確認した。

RPAとAIについて 

(1)RPAとは

 RPAとは、これまで人間が行ってきた定型的なパソコン操作をソフトウェアロボットにより自動化するものである。RPAの登場以前にも、ExcelやAccessのマクロやVBAを用いて業務の自動化は行われてきた。

 RPAが既存の自動化と異なるのは、複数のツールを横断的に利用できる点にある。ExcelやAccessだけでなく、社内システムも自動化の対象にできる(RPAツールとの相性次第)。

 たとえば毎朝8時に社内システムから社員の前営業日までの販売実績を出力し、そのデータをAccessのマクロで整形したうえで、Excelシートに貼り付けて作成した日報を、社内メールで管理職宛てに送付するといった業務もすべてRPAで自動化できる。日本では昨今の働き方改革の動きを受けて、RPA化の機運が高まっている。

(2)AIとは

 AIは世間の認知度は高いものの、その定義は専門家の間でも定まっていない。現在実用段階にあるのは特定分野に特化したAIであり、汎用的な知識をもったAIは実用段階にはないとされている。

 前述したとおり、AIには明確な定義が存在していないが、当研究チームはIBM Watsonのライトプランで使用可能なサービスからAIを7つの系統に分類した。それぞれ照会応答系(チャットボットなど)、画像系(画像認識技術)、音声系(音声検索、自動議事録など)、言語系(言語翻訳など)、知識探索系(テキスト分析、データ検索など)、心理系(性格分析、感情分析)、データ分析系/AIライフサイクル(AIの自作)と呼称している。

(3)RPAのClassについて

 RPAには3段階の自動化レベルがあるとされており、これをClassと呼称している。Class1はRPAのみを利用し定型的な業務を自動化する段階、Clss2は特化型AIとRPAを組み合わせて一部の非定型業務も自動化可能な段階、Class3が汎用的なAIとRPAを組み合わせてすべての業務を自動化できる段階とされている。

 前述のとおり、実用段階にあるのは特化型AIであるため、当研究チームはメインの研究対象をClass2のRPAとしている。

 Class2のRPAも実用化が始まっており、RPA先行企業やRPAベンダーから以下のような導入事例が出ている。

①コンタクトセンター業務

 音声認識から自然言語処理や仕分けアルゴリズム、データマイニングを活用することで精度の高いFAQやリコメンドを行う。

②手書き帳票を利用した事務業務

 画像認識技術により手書き文字をデジタル文字へ変換し、手書き帳票を利用した事務も自動化の対象とする。

③社外からの請求フローの受付

 チャットボットとRPAを組み合わせた自動請求システム。メッセージアプリから自動応答シナリオを呼び出し、一問一答形式で請求者自ら保険金請求を行う。

問題提起

 上記事例では照会応答系、画像系、音声系、言語系のAIが使用されている。Class2のRPAに使用されているAIの大半がこれらの系統に分類できる。実際、事前調査の段階で複数の事例を確認できた。

 しかしそれ以外の系統である知識探索系、心理系、データ分析系/AIライフサイクルを利用した事例は確認できなかった。おそらく定型業務の自動化という観点でRPAと結びつけるのは、難しい系統であるからだろう。

 そこで当研究チームは心理系や情報探索系のAIを利用したClass2のRPAを考案し、かつ実用可能と示せれば、RPAの適用範囲拡大に繋がるのではないかという仮説を立てた。

3つのモデルについての解説 

 上記仮説をもとに、心理系のAIを用いたモデル2つと知識探索系のAIを用いたモデル1つを考案した。なお、モデルにはRPAツールとしてUiPath社のUiPath Community Editionを、AIツールとしてIBM社のIBM Cloud ライト・アカウントを使用している。

(1)パワハラアドバイザーロボ

 1つ目のモデルは、「パワハラアドバイザーロボ」と名付けた。パワハラアドバイザーロボとは、パワーハラスメントに繋がる会話の抑制を目的としたモデルである。

 会議室の会話から感情を感知し、ネガティブなものがあれば出席者に反省を促す。このモデルは音声系AIのSpeech to Text(音声認識)と心理系AIのTone Analyzer(感情分析)を使用する。図表1はモデル図である。

図表1 パワハラアドバイザーロボのモデル図

モデルの仕組みは以下のとおりである。丸数字は図表1の番号に対応している。

① Speech to Textが会議内容をテキスト化し、RPAロボ1がテキストを保管先に保存する。
② RPAロボ2が保管された大量の会議内容をTone Analyzerに入力する。なお論文執筆時点でTone Analyzerは日本語非対応であったため、Google翻訳で英訳してから入力している。
③ RPAロボ2がTone Analyzerから感情データを取得し、会議内容ごとにExcelの表に記入する。感情データは「怒り」「不安」「喜び」「悲しみ」「分析的」「自信」「ためらい」の7つの感情をスコア化した感情データとして出力される。
④ RPAロボ3がExcelの表のネガティブスコアをチェックする。ネガティブスコアは「怒り」「不安」「悲しみ」「ためらい」の合計である。
⑤ ネガティブスコアが高い場合、会議出席者に会話内容をメールして注意喚起する。

(2)メンタルアドバイザーロボ

 2つ目のモデルであるメンタルアドバイザーロボは、日報などの定期的に作成される文書から作成者の性格の変化を読み取り、メンタルチェックをサポートする。見過ごしがちな感情の起伏を数値化し、悩みが深刻化する前に手を差し伸べる時期の早期発見効果が期待できる。

 このモデルでは心理系AIの Personality Insights(性格分析)を利用している。図表2はモデル図である。

図表2 メンタルアドバイザーロボのモデル図

 モデルの仕組みは以下のとおりである。丸数字は図表2の番号に対応している。

① 日々の日報を所定の名称・フォルダに格納する。
② RPAロボが日報ファイルを読み込む。
③ 読み込んだ日報ファイルをPersonality Insightsに入力する。入力内容は「知的好奇心」「外向性」「感情起伏」「協調性」「誠実性」の5つのスコアとして出力される。
④ ③のスコアをExcelに日々転記し、ネガティブスコアをチェックする。
⑤ ネガティブスコアが高い場合、管理者(上司や人事部など)にメールする。

(3) 顧客情報収集ロボ

 3つ目のモデルである顧客情報収集ロボは、大量のニュース情報から顧客企業のポジティブなニュースやネガティブなニュースを選別する。営業担当が顧客に対するネガティブなニュースを事前に把握して、顧客の心証を害さない対応ができる。

 このモデルは知識探索系AIのDiscovery(探索)を利用している。図表3はモデル図である。

図表3 顧客情報収集ロボのモデル図

 モデルの仕組みは以下のとおりである。丸数字は図表3の番号に対応している。

① 営業担当が必要情報をメール送信する。
② RPAロボが一定間隔で営業担当からのメール情報を検索する。題名に特定の文言を含むメールを検索する。
③ 条件に合致したメールを取得する。
④ 依頼メールに含まれる会社名から社名をもとにDiscoveryを使った情報検索を行う。
⑤ 検索されたニュースを「ネガティブ」「ニュートラル」「ポジティブ」の3種類に分けて提示する。
⑥ 提示されたニュースをもとに文章を組み立て営業担当に返信する。

3つのモデルの有効性検証 

3つのモデルについてアンケートと実証を行った。

(1)アンケート

 3つのモデルについて、JGS会員およびRPA導入に取り組んでいる企業を対象にweb形式のアンケートを行った。32人から回答を得て、うち27人が技術研究職であった。

 アンケートでは3つのモデルの説明動画を視聴のうえで、これらのモデルが有用かどうかを質問した。いずれかのモデルが有用だと回答した回答者は全体の84%であった。

(2)パワハラアドバイザーロボの検証

 パワハラアドバイザーロボについてTone Analyzerを使用する工程を検証した。始めに丁寧な上司とパワハラ上司による架空の人事面談の文書を作成した(図表4)。この面談の文書をTone Analyzerに読み込ませ、「怒り」「恐れ」「楽しみ」「悲しみ」「分析的」のスコアに差が出るか検証した。

図表4  丁寧な上司とパワハラ上司の会話例

検証の結果、「怒り」と「楽しみ」のスコアについて明確な違いが出た。丁寧な上司との面接は「怒り」のスコアが0%で「楽しみ」のスコアが60%だったのに対し、パワハラ上司との面接は「楽しみ」が0%で「怒り」のスコアが57%であった。

 パワハラを疑われる会話の場合、「怒り」のスコアが高くなることが判明した。実業務でも「怒り」のスコアが高い会議の参加者に注意喚起のメールを送付することで、対象者に自制を促せるのではないか。

(3) メンタルアドバイザーロボの検証

 メンタルアドバイザーロボについてPersonality Insightsを使用する工程を検証した。同一人物の書いた文章をPersonality Insightsで処理した際に、大きな変化が生じるのかを確認する。

 検証対象として著名人のブログを選出し、「知的好奇心」「外向性」「感情起伏」「協調性」「誠実性」の5つのスコアの変化を分析した。その結果、5つのスコアの変化の大きい時期と変化の少ない時期の両方が現れた。

 今回、スコアの変化が大きい時期に実際に心境の変化に至るイベントが発生したのかどうか、その因果関係は裏付けが取れていない。しかし現時点でもスコアの変化を参考情報として、定期的な面談の際に情報提供することは実現可能である。そうすれば、当初想定したメンタルケアのサポートというメンタルアドバイザーロボの役割は果たせるといえる。

(4) 顧客情報収集ロボの検証

顧客情報収集ロボについてDiscoveryを使用する工程を検証した。Discoveryで特定のキーワードでヒットするニュースを検索し、「ネガティブ」「ニュートラル」「ポジティブ」のAI判定を行う。その後判定した記事を人間が目視で確認し、「ネガティブ」「ニュートラル」「ポジティブ」を判定する。

 人間の判断とAIの判断の一致率は59%であった。収集したテキスト情報から不一致となった理由を確認したところ、同じページにある他の文章も分析対象としていたからであった。

 このモデルの利用が想定される場面では関連するニュースの見出しが多数、同じページにレイアウトされることがほとんどである。目的の記事のみを対象とする仕組みを考えない限り、実用化は難しいと言える。

研究の今後について

 今回の検証で、心理系AIを用いた2つのモデルであるパワハラアドバイザーロボとメンタルアドバイザーロボは検証範囲の有用性を確認できた。

 しかしいずれも実用化に向けた課題を残している状態である。たとえばパワハラアドバイザーロボを実業務に展開する場合、音声を収集する手段を含めて検討する必要があるだろう。このような課題については、今後の研究で追加の検証が必要である。

JGS活動を通じて

 RPAとAIというテーマで苦労したのは、いかにして研究の新規性を保つかという点であった。

 研究活動を開始した当初は、Class2のRPA自体が珍しく、AI-OCRやチャットボットとRPAを融合した事例の研究でも新規性を保てると想定していた。

 しかし本格的に論文執筆を開始する頃になると、これらのモデルはよくRPAの展示会で出展されていた。メンバー間で論文の方向性を検討した結果、実用化済みのテーマを研究しても面白くないという意見が出た。そこで今までのClass2のRPAとは異なるモデルの検討をテーマとすることになった。

 結果的に、既存のClass2モデルの事例研究より多くの知見を得られたと思う。論文についても新規性の部分で、とくに高い評価をいただいた。

 JGS活動終了後も、個人で今後の課題としたテーマの一部に取り組んでいる。たとえばパワハラアドバイザーロボにおける音声認識機能の研究をするために社内研究活動に参加している。またIBM Watson以外のAIについて学ぶための資格試験などにも取り組んでいる。

數間 裕紀氏(リーダー)
第一生命情報システム株式会社

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