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BCP対策の現状と新たな動き|地震以外の自然災害に対する リスク意識の高まり ~気候変動災害に備える|特集

by kusui

「東日本大震災発生後の企業の事業継続に係る意識調査(第5回)」に見る BCP対策の現状と新たな動き

NTTデータ経営研究所は、「東日本大震災発生後の企業の事業継続に係る意識調査」を
2011年から2年おきに実施している。
2019年3月に発表された第5回調査では、
地震以外の自然災害に対するリスク意識の高まりなどがうかがえる。
調査を統括したNTTデータ経営研究所の白橋賢太朗氏に
第5回調査の内容とこれからのBCP対策について話をうかがった。

 


地震よりも
風水害を脅威と感じる

 西日本を中心に河川の氾濫や浸水害、山崩れなどを引き起こし200人以上の死者を出す大災害となった2018年7月の「西日本豪雨」以降、台風・大雨などによる自然災害のニュースを目にすることが頻繁になった。

 第5回調査の結果は、そうした気候変動を背景にしたリスク意識の変化を鮮明に映し出している。

 想定するリスクの順位は、1位「地震(主として直下型地震)」74.3%、2位「地震(東海・東南海・南海連動地震等の超広域地震)」62.3%と、前回までの調査と大きくは変わらないが、「地震以外の自然災害(風水害等)」が前回より4.5ポイント増え、単独3位(54.0%)となった(図表1)

 

 

「台風・大雨などによる風水害は人や施設だけでなくライフラインにも及ぶ広域災害ですが、近年は大災害をもたらす台風が頻発し、地震よりも身近に脅威を感じる存在になっています。調査結果では、風水害等を想定したBCPの策定が進んでいる傾向が見られます」(白橋氏)

 ただし、その傾向は従業員500人未満の企業で顕著に見られ(「99人以下」9.7ポイント増、「100〜500人未満」6.1ポイント増)、「500〜999人未満」3.9ポイント増)、1000人以上の企業では大きな変化はない。これについて白橋氏は、「企業規模が小さくなるほど直近に起きたことへの取り組みを強化しようという意識が働く傾向があるのと、中規模以上の企業では風水害には対応済みとの考えがあるからだと推察しています。しかし第5回調査は2018年12月の実施で、東日本を中心に大変な被害をもたらした2019年の台風15号・19号の影響が織り込まれていないので、次回の調査結果に注目したいと思います」と話す。

 

白橋 賢太朗 氏 株式会社NTTデータ経営研究所 企業戦略事業本部 マネージングイノベーションユニット シニアマネージャー


BCPを発動した企業は
西日本豪雨で21.7%

 第5回調査では、2018年7月の「西日本豪雨」と同9月の「北海道胆振東部地震」の被害の大きかった地域に拠点をもつ企業に対して、BCP発動の有無とその評価を尋ねている。

 西日本豪雨でBCPを発動した企業は全体の21.7%、北海道胆振東部地震では28.5%(図表2)。「発動した」と回答した企業のうち「期待通り機能しており、特段問題はなかった」のは、西日本豪雨で55.4%、北海道胆振東部地震で60.9%あり、「概ね機能したが、問題となる部分もあった」という企業は、西日本豪雨で41.9%、北海道胆振東部地震で37.7%だった(図表3)

 図表4は、上記設問に関連して、機能しなかったBCPの内容を調査した結果である。西日本豪雨では、「災害・事故等発生時の体制設置」(33.3%)と「社員の安否確認方法」(24.2%)が1位・2位となり、北海道胆振東部地震では、「対策本部立ち上げ判断基準の設定」「社員の安否確認方法」「優先して復旧すべき業務・事業の選定」の3つが同率(29.6%)で1位に並んだ。

 この2つの災害では被害の内容に違いがあるため機能しなかった項目に差があるが、「社員の安否確認方法」や「対策本部立ち上げ判断基準の設定」など基本的な項目に課題があることが両災害で浮き彫りになっている。

 なお、BCPの発動については東日本大震災後の第1回調査(2013年)でも尋ねている。そのときの結果と比較すると、「期待通り機能しており、特段問題はなかった」は1.7倍に増加している(34.2%→58.1%)。

「東日本大震災と西日本豪雨、北海道胆振東部地震では被害内容や規模、影響範囲が異なるので単純な比較はできませんが、東日本大震災で得られた教訓が生かされ、事業継続への取り組みが進んだ結果と考えられます」と、白橋氏は述べる。


中規模程度の企業ほど
BCP策定に課題を抱える

 BCPの策定状況については、前回と今回調査の間に大きな変化はなかった。「策定済み」の割合は規模の大きな企業ほど高く、業種別では金融・保険が突出して高いのに対して(68.7%)、教育・医療・研究機関は依然として低く(25.3%)、地域別では関東が高く(47.0%)、北海道は低い(26.8%)という傾向が続いている(図表5)

 

 そのなかで今回の報告書が注目しているのは、従業員99人以下の企業で「策定済み」が7.1ポイントも増えたことである。白橋氏は、「中小企業庁や経済3団体による取り組みが奏功しつつある結果で、2019年に制定された『中小企業強靭化法』も中小企業がBCPを策定する際の大きな後押しになると見ています」と語る。

 その一方、「BCP策定をもとより諦めている企業だけでなく、途中で挫折してしまっている企業も多く存在している」(報告書)ことが前回同様、指摘されている。現在のBCPに対して「課題がある」、または「BCP策定の目途が立たない理由がある」という企業は半数以上(53.1%)にも上る(図表6)

 

 その「課題がある」という企業を従業員別に見ると、99人以下は45.0%なのに対して、100〜499人と500〜999人ではそれぞれ60%程度あり、「中規模程度の企業ほどBCP策定に課題を抱えている」(報告書)。また業種別では金融・保険業が60.0%と最も高く、「BCPの策定自体は進んでいるものの、その内容については課題認識をもっていることがわかる」と報告書は記している。

 図表7は、上記の課題の内容を尋ねた結果である。「自社単独でのBCP策定自体に限界」を感じている企業が多く、そのうち「外部からの調達・供給ができなければ事業継続できない」(47.6%)ことが最多の理由である。

 

 これについて白橋氏は、「課題解決のための外部連携としては、サプライチェーンを形成する企業間、同業者間、地域間の3つが考えられます。このうち最も現実的な解となっているのはサプライチェーンを形成する企業間の連携で、従来はA社が被災して部品などの供給が止まった場合、B社から代替品を調達することが進められてきましたが、代替品の調達にも機器の調整や品質確認などで少なくない時間がかかります。これからは、A社がダメならB社といった代替調達の検討だけでなく、製造業におけるTier1やインテグレータに相当する企業がA社の事業継続にどう貢献するかが、その企業自体の事業継続力を高めるうえで大きなポイントになると考えています」と話す。


進行型災害には、
「タイムライン」を活用すべき

 台風や大雨による浸水害によって工場が操業停止に追い込まれたり、輸送不能に陥ることが、2018年の西日本豪雨でも2019年の台風15号・19号でもあり、それがサプライチェーンの断絶につながり、被害がサプライチェーン全体に及ぶようなことが依然として繰り返されている。台風や大雨による風水害から企業を守り、減災を可能にするような方策はないのだろうか。

 白橋氏が挙げるのは「タイムラインの活用」である。
 タイムラインとは、災害の発生時点を予測を基にして定め、起点に遡って、時間の進行とともに実施する個々の防災行動をまとめたもの(図表8)。2012年に米国東部を襲ったハリケーン・サンディの際にニュージャージー州が採用して大きな成果をあげたことから注目され、日本では2016年に国土交通省が「タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版)」をまとめ、普及に乗り出している。

 

 国土交通省の「指針」は、防災関係機関の連携を想定したものだが、「企業の災害対策にも非常に有効な考え方」と、白橋氏は指摘する。

「従来からの災害対策は地震などの突発型災害を中心に進められ、台風や河川の氾濫といった進行型災害を対象にタイムラインのような防災計画を策定してこなかったのが実情です。事前に策定されたタイムラインによって先を見越した早め早めの行動が可能になり、意思決定者は不測の事態への対応に専念できます。また、個々の防災活動の責任の所在も明確になり、防災行動の漏れや抜けも防止できます。日本ではまだ啓蒙期にあり広く知られていませんが、気候変動による風水害の常態化が懸念される現在、タイムラインを企業が真剣に検討すべき時期に来ていると思います」


[IS magazine No.26 (2020年1月)掲載]

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