この5年でIBM i市場は大きく変貌する 技術・人材・マネジメントの強化を大胆に進める|藤井 星多氏 ~IBM iの若きリーダーたち❶

 

藤井 星多氏
株式会社オムニサイエンス
代表取締役社長 CEO

オムニサイエンスが最近リリースした「OmniSuite」は、本格的なクラウド時代を迎えつつあるIBM iの新しい使い方を強く意識した意欲的な製品群である。同社の藤井星多 代表取締役社長にシリーズ「IBM iの若きリーダーたち」の第1回ゲストとして登場してもらった。

最初の4年は鳴かず飛ばず
ビジネスモデル転換への準備

i Magazine(以下、i Mag) オムニサイエンスは既に34年の歴史をもつ会社ですが(1987年創業)、これまでの歩みをどのように捉えていますか。

藤井 創業から30年間は受託開発とSES(客先常駐開発)を中心に事業を展開していました。IBM i(AS/400)を軸に、販売管理・生産管理システムなどの得意領域はあったものの、核となる強みや特色をもたない会社だったろうと思います。しかし創業から20年ほど経った頃に、このままではいけない、ニッチでも何かの分野でNo.1になれる強みを作ろうと始めたのが、IBM iのモダナイゼーションをPHPでご支援する「PHP on IBM i」です(2008年)。この受託開発ビジネスは着実にお客様数を増やしていきました。そしてその営業のなかで、多くのお客様が、売上規模や従業員数、業種・業態にかかわらず、「IBM iのデータ活用に不満をおもちである」ということを知りました。そこで自社開発したのが「PHPQUERY」です。

i Mag 2014年のことですね。PHPQUERYは順調なスタートを切ったのですか。

藤井 それが最初の4年は鳴かず飛ばずの状態で、PHPQUERYの先行投資を進めるなか、屋台骨であるSES事業のほうが予期せぬ大幅減収となり、会社の売上高も下降線を辿り、苦しい時期でした。

i Mag そうしたなかで、2017年に社長に就任されます。変化はありましたか。

藤井 これといった変化はありませんでしたが、ミャンマーのヤンゴンに設立したオフショア拠点の現地法人(omniAsia)の基礎固めに集中したのと、PHPQUERYをどう伸ばすかで頭でいっぱいでした。ただSES事業の社員は客先常駐が多いために顔も合わせられない、ということが非常に気になっていました。それを変えていきたいという気持ちは強くありましたね。

i Mag 社長就任後も業績面では厳しい状況が続いたのですね。

藤井 2016年度から2019年度までは毎年、減収が続きました。その当時、SESを展開していた他社は社員40〜50名の規模でも新卒を10名も採用したりして攻勢を強めていたのですが、当社はSESに営業リソースをほとんど投入していなかったので、SESの契約が終了すると、そのまま減収になるという状況でした。

i Mag SESに営業リソースを投入しなかったのはなぜですか。

藤井 受託開発とSESという従来からのビジネスモデルを変えるには、今しかないという気持ちだったからですね。SESに営業や採用のリソースを投入するより、PHPQUE
RYの新機能開発・新規開拓営業にリソースを割くほうがよい、と。それでも会社全体の売上がじりじり落ちるので、今は産みの苦しみだ、ここを突き抜けないと将来はない、という思いでやっていました。

i Mag 結局、それが功を奏するのですね。

藤井 はい。2020年度から反転して、それまでの落ち込みをカバーする動きになっています。それと2018年度後半から利益率が大きく伸びるという傾向が顕著になっていました。これはもうサブスクリプションという粗利率の高いビジネスにシフトしたPHPQUERY注力の効果です。PHPQUERYの売上は総売上の15%ほどですが、利益で見ると全体の約1/3を占めるまでになっています。

IBM i資産を価値を
Legacy with DXで高める

i Mag 現在はどのような事業方針ですか。

藤井 製品面では、今年度に「OmniSuite」という新しいサービスを立ち上げます。既にOmniFunctions、OmniTransfer、API-Bridgeという3製品を、R&Dの目的で限られたお客様向けにリリース済みで、この夏から秋にかけて正式にリリースします。また秋口にXML-Bridgeの販売もスタートさせます。XML-Bridgeは日本IBMから移管された製品で、既存のお客様へのサポートは次年度からご提供する予定です。

i Mag 従来のPHPQUERYとZend製品(Zend Server for i)から一挙に製品の種類とカバレッジが広がりましたね。

藤井 それと、今挙げた製品に加えて、クラウド・プラットフォーム周りにも着手していく計画です。これまでオンプレミスや垂直統合で構成されているIBM iをSoEで活用するときは、PASE中のPHPやZend Serverをあれこれ改修していたのですが、Power Virtual Server上でIBM iを展開するならばPASEを使う必要は必ずしもありません。この領域は今後、コンテナ、マイクロサービス、API連携といったレイヤ構造の世界へ向かうでしょう。それを展望すれば、クラウドに関する技術力やデリバリー/サポート能力、製品力は、今こそ強化すべきだと考えています。

i Mag 見通しはどうですか。

藤井 6月初めにPower Virtual Serverへの本番移行をあるお客様にご提案して、突貫で移行作業を行いました。7月初めに本番システムへの切り替えを終えています。当社にとってPower Virtual Serverへの本番移行支援は初めてだったのですが、技術的な裏付けが必要な部分も見えたので、これから何に注力すればよいか確認できたと思っています。この技術的な裏付けは、日本の企業はまだどこも獲得していないと思うので、その裏付けを獲得したベンダーが市場をリードしドライブさせていくと思っています。今後、Power Virtual Serverならではの活用方法や最適化方法に関連するR&Dを進めていきます。

i Mag 中長期についてはどのような戦略ですか。

藤井 今年度のスタートにあたって「MISSION」「VISION 2025」「Omni4 VALUES」の3つから成るコーポレートアイデンティティを発表しました(図表1)。

図表1 コーポレートアイデンティティ

このうちVISION 2025は今後5年間の目標を明確にしたもので、その具体的な内容が中長期経営計画「Legacy with DX」になります(図表2)。

図表2 中長期経営計画 Legacy with DX

 

i Mag 「Legacy with DX」にはどんな意味を込めているのですか。

藤井 「レガシー」というと、IT市場では「古い」とか「時代遅れ」とネガティブな意味で使われますが、本来は「過去に作られた価値のある資産・財産」という意味があります。IBM iのお客様が作ってこられた基幹業務システムは、まさにそうした価値のある資産・財産だと思うのです。ただし、その資産・財産だけでは今の時代にキャッチアップできないのも事実です。それを時代に合わせてスピーディに変化し続ける「DX」の技術を使って、より価値のあるものに高めようというのが「Legacy with DX」です。

IBM iの使われ方の今後は
データハブが鍵になる

i Mag IBM i市場の動向をどのように見ていますか。

藤井 先週(取材は6月中旬)会社のメンバーと合宿をし、IBM i開発の今後についてディスカッションしました。そのときに話題になったのは、Db2 for iやRPGはコンテナ化できないのでCI/CDの世界にうまく乗らない、ということでした。Jenkinsなどを使えばできなくはないのですが、やはりLinux・オープンソースの世界観からは置いていかれます。だから歯がゆいね、という話になりました。

とはいえ、今安定して稼働している基幹のRPGプログラムを、わざわざ多大な時間とコストをかけて焼き直し、オープンにする必要まではないと考えています。それは、プログラムを可視化してメンテナンス可能な状態で「塩漬け」にしておいて、SoE系のアプリケーションとはAPIで連携させるのが現実解だと思いますね。

i Mag その先にあるIBM iの使われ方については、どのように見ていますか。

藤井 最終的には、企業活動に関わるすべてのデータを溜め込む大きな器が必要になるだろうと思います。構造化データでも非構造化データでも、何でも溜め込む器ですね。そしてそのデータを分析したり企業活動に活用することが、差別化や競争優位を生み出すポイントになると考えています。

i Mag データハブの考え方ですね。

藤井 ええ。実はPHPQUERYを使っていただいているIBM iのお客様から、PHPQUERYをグーグルの「Big Query」やAWSの「RedShift」に対応させてほしいというリクエストがきています。Big QueryもRedShiftもクラウドベースのデータウェアハウスで、データの種類を問わずペタバイト級まで蓄積可能です。それをPHPQUERYを使ってIBM iのデータを活用するのと同じモードで活用しようと考えておられるのです。

i Mag オープン系の技術をもった社員も着々と増えているようですが、今後はどんな人材を採用したいですか。

藤井 Z世代と呼ばれる20代半ばのメンバーですね。生まれながらにしてデジタルで育った世代。そうした世代がIBM iに接すると、“こんなことIBM iではできないのですか?”とか、“そんな難しい作り込みをしないでLINEとつないでしまえばよいのでは?”とか、30歳以上だと腰が引けてしまうような発想でIBM iを捉えて、いい刺激を与えてくれるのではないかと思っているのです。そんな発想ができる、エネルギーのある人をぜひ増やしたいですね。それには若い世代もどんどん物を言える、ワクワクするような仕事環境が必要だと肝に銘じています。 


藤井星多氏

1982年生まれ。2005年に大学卒業後、IBMビジネスパートナー・ITベンチャー・起業を経て、2008年に父の創業した株式会社オムニサイエンスに入社。PHP on IBM iビジネスを立ち上げ、サブスクリプション型のデータ活用BIツール「PHPQUERY」の製品化を行う。2017年4月に現職。

株式会社オムニサイエンス
本 社:東京都中央区
創 立:1987年
設 立:2005年
資本金:3000万円
https://www.omni-s.co.jp/

 

[i Magazine 2021 Summer(2021年7月)掲載]

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