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<特別座談会>「地域企業共創AIエージェント実践プログラム」が目指すもの ~北海道大学・学生・地域企業・グローバルIT企業・地域IT企業の5者が共創 |特集 IBM Bob Part5

北海道大学は、日本オラクルおよび日本IBMと連携し、「地域企業共創AIエージェント実践プログラム」と呼ばれる取り組みを推進している。

本プログラムは、北海道大学の大学院生が地域企業の抱える課題に対し、生成AIを活用しながら解決策を提案する実践型プログラム。地域ITベンダーとして、北海道オフィス・システムも参画している。
Part5では、実践プログラムの担当者に、取り組みの狙いや具体的な内容などについて話をうかがった。

<座談会 出席者>

石森 浩一郎氏
北海道大学 副学長
大学院理学研究院教授
Ph.Discover代表

山本 敦之氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業部 エコシステム共創本部
社会課題解決ビジネス推進リーダー

棚橋 賢司氏
北海道オフィス・システム株式会社
DX事業本部 取締役本部長

「北海道大学DX提案実習」で
学生が地域課題の解決策を提案

──最初に「地域企業共創AIエージェント実践プログラム」を始めるきっかけからお聞かせください。

石森 少し遡りますが、北海道大学では2013年に博士課程教育リーディングプログラムが採択されたのに伴い、大学院博士課程修了者のキャリアパスを考える取り組みが拡大されてきました。博士課程修了者といえば、以前は大学などの研究職に就くのが常識と思われていましたが、十数年前から企業におけるイノベーションの担い手としての期待が高まり、博士課程修了者は多様なキャリアパスを選択できるようになりました。しかしその一方で、これまでの博士課程の教育では社会での即戦力として十分ではない、という指摘もありました。

そうした中で、世の中でDXが話題になり始めた頃から、実社会で活躍できる博士課程学生には学問としてのDXだけではなく、社会の現場でのDXを体験する機会があるとよいのではないかという声が上がり、2020年に社会のDX化を進めていた日本オラクルの協力を得て、本学の大学院生を対象にDXに関する対話型セミナーを開催しました。さらに、当時、富良野市のスマートシティ構想に日本オラクルが参加していたことから、この活動に博士課程学生が参加することで、社会におけるDXを用いた課題解決を体験する「北海道大学DX提案実習」を実施することになりました。

2021年度に始まったこの取り組みは参加学生にとっても富良野市にとっても満足度が高く、好評で、その後、北海道市長会のご協力もあり、同様の取り組みは、石狩市、登別市、名寄市へも広がっていきました。

そして去年(2025年)11月に、日本オラクルと関係のある日本IBMから「AIという切り口で地域企業の課題解決に学生が取り組む実践型の授業を実施してはどうか」というご提案をいただき、今回の「地域企業共創AIエージェント実践プログラム」へと発展しました。

──日本IBMは、どのような経緯で北海道大学に提案することになったのでしょうか。

山本 私が所属するエコシステム共創本部は、企業や自治体が単独では解決できない課題を、さまざまなパートナーとの共創によって解決することを目的とした部門です。私自身は社会課題の解決に強い関心をもっていて、昨年「社会課題解決ビジネス構築」のコミュニティを立ち上げました。現時点で30社以上の企業と、ビジネス構築の合宿などを開催しています。そしてその活動を通じて日本オラクルの方と知り合いになり、そのご紹介で石森先生をお訪ねしたのが始まりです。

──その訪問からプロジェクトの発表(2025年1月)まで約2カ月でした。お話はスピーディに進んだのですね。

山本 はい。学生と北海道の地域企業が一緒に、AIを活用して課題解決に取り組むという趣旨に共感していただき、そこからは日本オラクルの方とプログラムの骨子をまとめ、石森先生にご相談しながら詳細を詰めていきました。

IBM Bobなどを使い、AIエージェントの
設計からPoCの検証・評価まで実施

──プロジェクトの内容について教えてください。

山本 プログラムは、「業務理解」「AI設計」「簡易PoC(概念実証)」「成果発表」の4つのフェーズで構成されています。

業務理解では、地域企業へのヒアリングやフィールドワークを通して、業務内容や課題を把握します。AI設計では、業務課題に対してどのようなAIエージェントやAIソリューションが有効かを検討・設計します。次の簡易PoCでは、IBM BobやオラクルのAIツールを使って実際のAIエージェントやソリューションの開発・実装を行います。そして最後の成果発表で、開発したAIエージェントや業務改善案を発表し、企業からフィードバックを受けるという流れになります。

スケジュールは、今年6月から来年(2026年)2月までほぼ毎月、北海道大学と学生、地域企業、日本IBM、日本オラクル、イグアスが一体となって活動し、3月に成果発表会を開催するという予定です。

またAIやAIエージェントに関する知識・技術については、日本IBMと日本オラクルの専門家が直接学生たちを指導します。学生は、地域企業のリアルな課題に触れながら、実践的にAIエージェントの活用を学ぶことができます。

──北海道オフィス・システムはどのタイミングで参加を決めたのですか。

棚橋 今年1月に山本さんが弊社を訪ねて来られ、「実践プログラム」の説明をうかがって、すぐに参加を決めました。

私どもはSI事業を展開しており、AIエージェントを活用した新しいソリューション開発に強い関心をもっています。またRPG開発に関わることも多いため、IBM Bobにも大きな期待を寄せています。そのため実践プログラムに強く共感し、地域企業としてグループ会社の日建片桐リースに参加を働きかけました。

──学生募集の結果はいかがでしたか。

石森 十数名の応募がありました。文系・理系を問わず募集したので、さまざまな大学院から学生が集まりました。3~4人で1チームを組み、全体で3チームになる予定です。

──プログラムを見ると、地域企業の課題理解とAIエージェントの開発を並行して進めるという内容で、とても高度な印象です。

山本 確かに難易度が高いので、参加される学生の知識や経験、進捗に応じてプログラムを柔軟に変更していく予定です。学生の習熟度をみながら、我々がしっかりとサポートしていければと考えています。

さまざまな可能性を秘める
実践プログラムへの期待 

──北海道大学としては、今回のプログラムにどのような期待がありますか。

石森 本学としては、大学院生、特に博士課程修了者が社会のさまざまな場面で活躍してほしいという思いがあります。一方、社会のほうでも、高い専門力や課題解決能力を持つ博士課程修了者への期待が高まっています。

ただし、このような社会の期待に応えるには、彼らが実務を知る人たちと現場で一緒に学ぶことが不可欠で、本学では学外の方々と連携し、一緒になって教育を進める「共創教育」の強化に努めています。

「共創教育」の重要性は、AIについても同様です。AIは大学院生も日常的に使っていますが、社会の現場でどのように使うのかは、大学の中では教えられません。社会に出ていく大学院生にすぐに要求されるのは社会の中でのAIの使い方ですから、そこは在学中から学外の人と一緒に学んでいってほしいと思っています。

それからもう1つは、北海道という地域が元気にならなければ本学も元気にならないので、大学院生に地元の企業に目を向けてほしい、自分たちの力で地域が元気になるという気持ちを持ってほしく思います。その意味で、地域の企業との共創は、たいへん貴重な機会と考えています。

──成果についてはどのように期待がありますか。

石森 AIを使った課題解決は今回が初めてなので、企業の皆様にどこまでご満足いただける成果をお届けできるか、未知数な部分もあります。しかし、大学院生にとっては、そこへ至るまでの過程こそが重要だと考えています。

今回の共創では、大学院生たちは自身の専門とは異なるテーマに挑戦します。その経験を通じて、研究活動の中で培ってきた知識や思考力、分析力が、視点や方向性を変えることで幅広い分野に応用できることを実感してほしいと願っています。

また、今回のプログラムは教育を目的とした取り組みの一環でもあります。参加企業の皆様には、ご不便やご負担をおかけする場面もあるかもしれませんが、大学院生ならではの発想を刺激として受け止めていただき、一緒に進めていただければ幸いです。

──日本IBMとしては、どのような期待がありますか。

山本 日本IBMが共創ビジネスに取り組む背景には、新しい領域、特に社会課題解決の領域で新しいビジネスを広げていきたいという狙いがあります。今回のプロジェクトに即して言えば、北海道の地域課題の解決や地域経済の活性化に貢献しながら、日本IBMとしても持続可能な利益を生み出せる仕組みを構築したいと考えています。

また、石森先生がおっしゃるように、このプログラムは教育プログラムの一環なので、学生の皆さんに高い満足度のもとでしっかりと学んでいただくことが大切です。それと同時に、参加する地域企業にも具体的な成果やメリットを提供できればと思っています。

──北海道オフィス・システムとしては、どのような期待をもっていますか。

棚橋 私たちはIBM関連の分野で数多くのビジネスを展開してきました。その中で、従来とは異なる開発スタイルを実現する「IBM Bob」に大きな関心と期待を寄せています。

特に注目しているのが、AIエージェントの可能性です。現在の企業システムはシステム同士の連携が十分ではなく、業務手順も人の経験や属人的な運用によって成り立っている部分が少なくありません。AIエージェントを活用することで、そうした分断をつなぎ、より柔軟で持続的なシステム運用が可能になると考えています。従来は高いコストをかけて構築したシステムも、数年経つと古くなってしまう課題がありました。しかし、エージェント技術を活用することで、さまざまな仕組みと連携しながら進化し続けるシステムを実現できる可能性があります。

また、AIがプロンプトを通じて適切に応答する仕組みは、新しいシステムの形になるのではないかと期待しています。こうした取り組みを学生の皆さんと一緒に進め、北海道で展開していく第一歩になることに大きな意義を感じています。

──グループ企業の日建片桐リースがいち早く参加を表明した理由は何ですか。

棚橋 日建片桐リースは弊社が所属する片桐企業グループの事業会社であり、お客様の1社でもあります。長年、RPGでシステムを構築してきましたが、従来型の構築手法には限界も感じていました。

そこで、AIエージェントを活用することで、新人教育の期間短縮や運用方法の標準化など、多くのメリットが期待できると考えています。そのため、実際の業務を題材にしながら、グループ企業として共創の取り組みに参加してもらうことになりました。

来年度以降も発展的な継続へ
全国の大学への展開も構想

──今後についてお聞かせください。今回の実践プログラムの次に、北海道大学として考えていることはありますか。

石森 このプログラムは今年限りではなく、本学が推進している「共創教育」の一環として、来年度以降も継続的に実施していきたいと考えており、さらに新しいテーマへも広げる可能性があります。もちろん皆さんのご協力が前提ですので、引き続きご協力いただけましたら幸いです。

──山本さんはいかがでしょうか。

山本 私たちも、来年度以降もぜひ続けていきたいと思っています。言うまでもありませんが、AIの進化は非常に速く、1年後はおろか半年後すら予測することは困難です。ひょっとすると、来年には専門知識がほとんなしでも高度なアプリケーションやシステムを作れる時代になっていかもしれません。また、ロボティクスやフィジカルAI分野の進化も著しいので、来年度はそうした新しい分野の実践プログラムも実現できる可能性があります。技術の進化に合わせながら、今後もさまざまな形で共創を進めていきたいと考えています。

──今回の「実践プログラム」について、ほかの大学から問い合わせがあるそうですね。

山本 はい。すでに複数の大学からお声がけをいただいています。今後は全国の大学に展開していきたいと考えていますが、まずは北海道大学との取り組みをしっかりと成功させることが重要だと思っています。

── 棚橋さんはいかがですか。

棚橋 私たちは今回が初参加なので、まずは多くを学びたいと考えています。また、ふだんから学生を受け入れている企業として、優秀な学生の皆さんと一緒に仕事ができることも楽しみです。

一方で、今回のPoC(概念実証)を北海道全体へ展開していくことが最終的な目標です。技術面だけでなく、実際のビジネスとして展開できる形につなげていきたいと考えています。今回はグループ企業のPoCにも取り組むため、その成果を実用化し、グループ内での展開につなげていきたいという狙いもあります。

[i Magazine 2026 Summer掲載]

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