事例|立命館大学~オープン系からIBM iへ移行 ~事務情報システム再構築プロジェクトのその後

 学校法人立命館は今年で創立120年を迎える。西園寺公望が私塾「立命館」を創始した1869年に遡れば、およそ150年にわたって輝かしい教育の歴史を刻んできた。その中核的存在が立命館大学である。2019年4月、大阪いばらきキャンパスにオーストラリア国立大学(ANU)と提携して、すべて英語による講義を行う「グローバル教養学部」を開設。現在は16学部22研究科を擁してほぼすべての学問領域をカバーしながら、大学改革、学園創造、そしてグローバル化を積極的に進めている。

 

IBM i上で実現した
第4世代の事務情報システム

 例年であれば、桜の咲き乱れる4月のキャンパスはフレッシュな新入生が行き交い、1年のなかで最も活気に満ちた季節を迎える。しかし今年はコロナ禍の影響で、キャンパスに学生や教職員の姿はなく、多くがオンライン授業やテレワークに切り替えられている。

 立命館大学も例外ではない。同大学の情報システム部の業務も原則的にテレワークに切り替えられたが、業務システムの中核として2018年1月に本稼働した新しい事務情報システム「RISING4」はそうした状況でも、着々と機能改善を重ねている。

 同システムは大きく「入学システム」と「学生システム」の2つで構成され、それぞれが基幹系と情報系に分かれている。

 入学システムは大学および大学院の志願者による出願、受験、合否の確認、入学金の納付や入学手続きなどを管理する。志願者に加え、職員による出願管理、合否の登録、入学金の納付管理などの機能もサポートしている。

 一方の学生システムは学籍管理、学費管理、奨学金管理、履修成績管理、原簿管理および2020年4月より利用開始したWeb申請管理という6つのサブシステムで構成されている。

 RISINGの名を冠する同大学の事務情報システムは現在、第4世代である。第1世代は1990年に国産メインフレーム上で本稼働。第2世代はクライアント/サーバー環境へ移行し、1998年に利用をスタートさせた。さらに第3世代はJavaやOracleなどのオープン系技術とパッケージ製品をベースにしたWebアプリケーションとして2006年から運用を開始した。

 そして第4世代のRISING4がシステム基盤として採用するのはPower SystemsとIBM iである。この基盤上で、「立命館スタンダード」と呼ばれる先進的なソフトウェア基盤と、XML-BridgeやFree Format RPG(以下、FF RPG)による独自のアプリケーション・フレームワークを作り上げてきた(図表1)。

 

 2013年から始まった第4世代の構築プロジェクトでは、グローバル化を軸とする教学制度改革やシステム利用者のニーズ拡大に対応すると同時に、システム面の課題を解決するため、同大学ではそれまでIBM iの運用経験はまったくなかったにも関わらず、IBM iの全面採用を決定した。

 WindowsやLinuxの環境では、OSを更改すると、それに伴ってミドルウェアやアプリケーションの移行・改修作業が発生する。機能的な変更はなくとも、維持するために多大な工数を費やすことに疑問が呈され、プログラム資産の継承性が高いソフトウェア基盤が必要と指摘されていた。

 また情報システム部では、パッケージ製品のカスタマイズやその後の追加開発・拡張などの開発作業一切を外部ベンダーに委託していたことで、維持管理コストや工数の増大に直面していた。

 IBM iであれば独自開発型(非パッケージ型)システムの導入、プログラム資産の継承性の高さ、内製主義を可能にするソフトウェア基盤を構築することが可能であり、こうした課題を解決できると判断したのである。

 

ハードウェアもアプリケーションも
非常に安定

 2018年1月の本稼働以降、RISING4は日々、順調な運用を続けている。ハードウェアはもちろんアプリケーション面でも作り込み品質が高いこともあって、業務の全面停止につながるようなシステム障害は一度も発生していない。

 成績発表時など、学生が一斉にアクセスしてシステム負荷が増大する学事イベント(主に3月と9月の年2回)には、開発環境からCPUリソースを一時的に本番環境へ配分している(通常時6コアから、高負荷時は16コアへ増強)。本番稼働後、CPU使用率が100%を超える瞬間は何度かあったが、数分程度。負荷増大でPower Systemsの運用に支障をきたしたことは一度もない。

 可能な限り、負荷が過度に集中しないよう学事日程を調整し、アクセス開始時間を分散させるといった運用上の工夫も功を奏しているようだ。

 また性能改善の取り組みとして、入学システムの大量DB操作をRPGでネイティブ化したことも注目される。

 同大学では10万人単位の志願者の出願登録はクラウドサービス上で処理されている。合否判定を経て、この出願データはRISING4 に登録され、後続の入学手続きに利用されることになる。

 IBM iを使い始めた当初、同大学にはオープン系の開発経験者が多かったため、RISING4のDBを登録するための実装は、全面的にSQLでコーディングしていた。しかし大量のデータ更新処理は時間がかかり、約半日を要していたという。

「改善するためには業務プログラムの処理構造の変更やSQLアクセスのロジック変更、Db2 for iのチューニングといった手段も考えられました。しかしIBM iが得意とする大量バッチ処理であることから、データ操作部分のみをRPGのWRITE/READ命令を使用したネイティブアクセス方式に変更したのです。すると約半日を要していた処理時間が1時間程度に短縮され、劇的な処理性能の改善に驚きました」(情報システム部 情報システム課 師井 学課長補佐)

 

師井 学氏
情報システム部 情報システム課
課長補佐

 

RISING4としての機能拡張
Webアンケート&申請システム

 RISING4に関するシステム改修は、毎年10?12月に主管部署からの開発申請を受け付け、1?3月に審査して開発内容を決定。4月から実際の開発作業に着手する。毎年、大小含めて約20件程度の改修案件を手掛けており、そのほとんどが内製主体である。しかも不具合改修の頻度が少ないため、Society5.0時代やDXに向けた電子化、利用者に向けたWeb機能の向上が中心である。

 たとえば2019年4月には、学生の顔写真を含めた学生情報が完全電子化され、紙の学籍簿が廃止された。

 また同年11月には、教員による次年度出講内容の確認機能や、これまで紙で提出されていた履歴書/業績書のオンライン提出機能など、教員向けWeb機能が大幅に強化された。

 さらにRISING4への大規模な追加開発として、汎用的なWebアンケート&申請システムである「RISING-FDC(Flexible Data Collection)」(以下、FDC)がある。

 これはRISING4のDBと連携しながら、主管部署の担当者が自由にアンケートや申請フォームを作成したり、結果の回収を実行したりするためのシステムである。

 同大学では学内アンケートシステムとして使用していた市販のパッケージ製品が老朽化していたため、RISING4の独自フレームワークを利用して開発することを決定した。フロントエンド側(プレゼンテーション・レイヤ)とバックエンド側(業務ロジック・レイヤ)が完全分離しているフレームワークの特性を活かし(図表2)、バックエンド側はFF RPGでコアとなる業務ロジックを実装。フロントエンド側はより直感的・視覚的に操作できるよう、最新のWeb技術を適用している。

 

 2018年9月に、以前から使用していたアンケートシステムの調査分析を実施。前システムの機能を踏襲しつつ、追加機能や使い勝手の改善を反映しながら仕様を決定した。そして2019年1?12月に開発作業を進め、翌2020年1月から申請フォーム作成を開始し、同年4月から学生や教員による申請受付を開始した。

 開発に使用したのはXML-BridgeとFF RPG、JavaScript、CSS、Rational Developer for i(RDi)、IBM i Access Client Solutions(ACS)である。

 RISING4の一部として実装させることで、学生は受講登録や成績照会する場合と同じように本人認証を行い、申請入力できる。また、基幹データとして管理している学生情報や各種マスタ情報などを、アンケートの発信先などにそのまま活用することが可能になる。

 さらにFDCでは新たな試みとして、RISING4の今後の拡張に汎用機能として利用できるよう、申請フォーム作成機能を独自フレームワークの新しい部品として実装した(たとえば画面遷移間のデータ保持では、従来よりも大容量のデータを保持できる仕組みなどを追加した)。

 フレームワークへの新部品の実装に際しては、現行システムに影響を与えないよう、RDiやRational Team Concert for i でライブラリー管理を徹底するなど慎重に拡張作業を進めている。

 2018年1月の本稼働時には、フレームワークのバージョンはV2.2であったが、FDCの構築時にV2.3へバージョンアップされた。

「2020年4月のリリース時は受講登録の補助機能としての活用が見込まれていましたが、直後から緊急事態宣言の発令などコロナ禍が広がるなか、学生へのアンケート実施や学生支援に関する申請受付を支える重要なプラットフォームとして機能し始めました。6月時点で、当初の想定をはるかに上回る約600件の申請フォームが作成されています。キャンパスに立ち寄れない現在、学生からの各種申請を受け付けるうえで欠かせない電子手段として活用されています」と、情報システム部情報システム課の石井奈穂子課長補佐は語る。

石井 奈穂子氏
情報システム部 情報システム課
課長補佐

 

高い信頼性を背景に
標準Webアプリケーション基盤へ

 IBM iの運用を開始してから3年が経過する。同大学では、以前利用していたオープン系システムと比較して、その導入メリットをどう評価しているのだろうか。

「非常に良好なパフォーマンスを維持できている点がPower SystemsおよびIBM iの最大のよさだと思います。XML-BridgeとFF RPGというユニークな技術を使ってWebアプリケーションを構築していますが、処理速度は他のWeb開発言語と比較しても、まったく遜色はありません。またオープン系システムでは半年に1回は必ずセキュリティパッチを適用し、そのほかに緊急パッチが出たら適宜メンテナンスしていましたが、IBM iになってからは年に最大1回程度で済み、大幅に回数が減少しています」(情報システム部情報システム課 竹村政善課長補佐)

竹村 政善氏
情報システム部 情報システム課
課長補佐

 

 あえてデメリットを指摘するなら、IBM i上で(とくにXML-BridgeやFF RPGを)利用しているユーザーが周辺に少なく、技術面での課題が発生した際に課題や悩みを共有しにくい点だとしつつ、情報システム部業務改善企画課の岡潤也課長は次のように語る。

「しかし逆にそれが内部で高い技術力を保持する原動力につながっているとも考えます。現に開発力・内製力はオープン系システムを使っていた時代に比べると、大きく向上し、本学の100%出資会社である㈱クレオテックのICTソリューション部と連携しながら強固な内製体制を築けていると思います」

岡 潤也氏
情報システム部 業務改善企画課
課長

 

 多くのIBM iユーザーと同じく、要員の確保と育成が難しいという認識もある。とくにオープン系のWebシステムでの開発スキルがあり、かつIBM iでFF RPGを経験している、いわゆる二刀流の技術者は少ないのが現状だ。

「FF RPGの開発経験がないオープン系システムの開発者であっても、それまでに培った知識で対応可能な技術、たとえばSQLやIBM iのShell、RDiなどを使用して本学のシステム環境をまず理解し、そのあと時間をかけてFF RPGやIBM iのコマンドを習得させるように教育しています。今のところ2カ月あれば、既存メンバーとほぼ同等の生産性で業務プログラムを開発できる印象です。FF RPGの経験者が今後市場に増えれば、もう少し初期育成コストが減るのではと期待しています」と、情報システム部情報システム課の服部陽介課長は言う。

服部 陽介氏
情報システム部 情報システム課
課長

 

 同大学ではまもなく、Power Systemsの次期リプレース検討に入る。ハードウェアやOSを更改してもアプリケーション修正が不要であるという、オープン系とは違う資産継承性の恩恵を初めて受けることになるだろう。

 高い信頼性を背景に、Power SystemsとIBM iを引き続き「学内標準のWebアプリケーション基盤」として位置付け、まだ学内で電子化されていない業務を集約して機能追加を実施し、今後も活用していきたいとしている。またIBM i導入時のコンセプトでもあった、学校法人内の他校によるシステム基盤の共同利用についても検討を開始したところである。


 

Interview

 

田尻 実氏
学校法人立命館 情報システム部 部長

 

New Normal時代に向け
リアルとサイバー空間の融合へ

 Power SystemsとIBM iの導入以降、当初の計画どおり、開発・運用の内製体制を作ることに成功したと評価しています。オープン系システム時代に比べて、開発の外注費は劇的に削減されましたし、開発や運用のイニシアティブをより明確にとれるようになった印象です。

 RISING4の計画・開発段階では、2011~2020年の中期計画である「R2020」が進行中でしたが、現在はNew Normal時代を背景に、「リアルとサイバー空間をどう融合するか」という観点で「R2030」の構想を描くことが求められています。リアルな空間があってこそサイバーが活きるし、その逆もまた真なり、です。

 オンライン授業、コラボレーションツールや業務の完全電子化などITへの期待が一層高まり、今まで特別なものであったサイバー空間での活動が、急速に日常化しています。このことにより、学内では情報技術に対するマインドリセットが進み、教育・学習、研究、業務においてパラダイムシフトが大きく進むはずです。リアルと融合するサイバー空間をテンポよく構築していくことが、今後の重要なテーマになると感じています。

 

[i Magazine 2020 Summer掲載]

 

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