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武部鉄工所|次世代のオープンな基盤を求め30年来のACOSをIBM iへ移行 ~ストレートコンバージョンによる移行の堅実性・短期移行を高く評価

 

シャーシーフレームで
国内トップシェア

 武部鉄工所は1919(大正8)年に創業し、第2次大戦直後の1946年からトラック・バスの骨組みであるシャーシーフレームや足回り部品の生産を行ってきた専業メーカーである。現在は神奈川県厚木市の約7万平方メートルの広大な敷地に国内の生産拠点を集約し、1日に1000台以上のペースで、トヨタ、日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックス、いすゞ自動車などのバス・トラック・SUV向けの部品を生産している。

 また、2005年にはタイへ進出してTAKEBE(THAILAND)を設立。2007年からトヨタや日野自動車向け部品の生産を続けている。TAKEBE(THAILAND)は、「グローバル・サプライヤー」を目指す同社にとって「世界展開の足がかりとなる生産拠点」で、専務取締役の川崎卓夫氏は「タイに拠点を置いて10年以上が経ちますが、グローバルなモノ造りのための体力をさらに蓄え、さらなる展開を期す考えです」と語る。バンコク近郊チョンブリ県の10万平方メートルを超える敷地内の大型工場では、シャーシーフレームのプレスから組み立て、塗装までを一貫して行える最新鋭の設備・機器が並ぶ。

 

川崎 卓夫氏 専務取締役

 

 同社が基幹ホストとしてNEC製メインフレーム(OSはACOS)を導入したのは1980年代初めのことである。以降、4回の更新を行い継続的にNEC製メインフレームを利用してきた。ただし2000年代初頭からは将来のWindows系サーバーへの全面移行を念頭にACOS上の各種システムの“切り出し”をスタートさせ、2003年に部品表、2010年に人事・給与システム、2015年には買掛金計算システムを分散サーバーへ移行させた(図表1)。いずれもWindowsサーバーへの移行である。

 

 そして2016年になり、現行メインフレーム(i-PX7300W)の保守切れ(2019年10月)を間近に控えたタイミングで、あらためて移行を本格的に検討することとなった(移行検討は2016年3月にスタート)。この理由を、IT推進室の倉澤礼二室長は次のように話す。

 

倉澤 礼二氏 IT推進室 室長

 

「ACOS上で利用中の基幹システムは、30年前の古いシステムを継承し改修を重ねてきたもので、いろいろと不都合が生じていました。たとえば、生産指示を出すのにも、その都度、紙を出力し配布するやり方で、柔軟なデータ連携や自由なデータ活用が困難なシステムでした。それに加えてドキュメント類が整備されておらず、ベテランのIT部員も既にシステム部門を離れていたのでシステムがブラックボックス化し、改修のたびに重い負担となっていました。今後、会社全体の業務改革や業務改善をスピード感をもって推進していくには、新しい基盤への移行が避けられません。3年後に迫ったACOSの保守切れに間に合わせるには今しかないと考え、検討を開始しました」

 また、「将来的にACOS自体に関する懸念があり、それが検討を進める強い動機でした」と、倉澤氏は言う。

「メインフレームはどのメーカーのマシンであっても、台数的にはかつてと比べて大きく減少しています。メインフレームに対するメーカーのROI(投資利益率)を考えれば、メインフレームへの投資が相対的に縮小し、場合によっては存続自体が危ぶまれることも想定されます。将来にわたる当社の事業基盤の安全と安定を確保するために、メーカーが存続を表明しているうちに、次を検討する必要があると考えました」(倉澤氏)

 

移行のための4条件と
俎上に乗せた3つの移行

 同社にとってメインフレームの移行先プラットフォームは、2000年代初めからWindowsが念頭に置かれ、前述したように2003年の部品表を皮切りに段階を追ってメインフレームからの切り出しが進められてきた。しかし2015年末に「たまたま」(倉澤氏)、JBCCから営業を受けたことから様相が違ってきた。移行先候補の1つとしてIBM i(OSにIBM iを搭載するPower Systems)が浮上したのである。2016年3月からの検討は、ACOS、Windows、IBM iのどれを移行先として選択するか、という比較・検証となった。

 移行の条件として掲げたのは、「安全を期すために」ACOSの保守期限となる2019年10月の1年前までに移行作業を完了していること、「業務改革や業務改善を柔軟かつスピーディに行える」基盤であること、そのために技術革新が活発なオープンな環境を取り込めること、将来性のあるプラットフォームであること、の4つである。

 図表2が、移行先としてACOS、Windows、IBM iを比較した結果である。移行案を大別すると、次の3つになる。

 

①ACOSを継続し、業務改善を進める

②Windowsで再構築

③IBM iへリホスト後、IBM i上で業務改善を進める

 ③の「リホスト」とは、ACOS上のCO
BOLプログラムをストレートコンバージョンし、IBM i上で稼働させることを指す。従来のプログラムのロジックに手を入れることなく、ほぼそのまま移行させるので、プログラム変更に伴うリスクを軽減できる。

 

COBOLのストレート
コンバージョンに注目

 同社が着目したのも、このストレートコンバージョンによるリホストである。倉澤氏は、親会社の日野自動車に在籍していた当時、大型メインフレームのACOS6機から中型ACOS4機への移行を経験済みで、「プラットフォームを切り替えるシステム更新の大変さは想像以上で、相当な覚悟がいることを身に染みて知っていました。その点、リホストであればリスクを低減できる手堅さがあります。移行完了まで2年しかないことを考慮すると、この堅実性は大きな魅力と映りました」と述べる。

 検討作業と並行して、IBM i関連のセミナーへの参加やIBM iを利用中のグループ企業へのヒアリングなどを行い、IBM iについての知見を深めていった。

「資産の継承性とシステムの安定性はACOSと同等レベルですが、IBM iにはACOSに不足しているオープン性があることに注目しました」と語るのは、IT推進室の根本豊氏である。「IBM iではCOBOLのほかにJavaやPHPなどのオープン系言語も扱え、Webやハンディ端末、スマートデバイスからの利用も可能です。安定性+オープン性が、他のプラットフォームにないIBM iの特質であることが理解でき、高く評価しました」(根本氏)

 

根本 豊氏 IT推進室

 一方、Windowsへの移行については「基盤を一気に再構築できる点」を評価しつつも、「2年という期間内に開発を完了できない恐れがあることを強く懸念しました」と倉澤氏は語る。さらにWin
dowsを選択した場合、5年ごとに基盤更新が不可欠となり(IBM iは10年と試算)、長期的に費用がかさむことも課題として挙げられた。

 これらの比較検討の結果、2016年6月にIBM iへの移行を決定。それと同時に、メインフレームからIBM iへの移行に100社以上の実績をもつJBCCをパートナーとして選択した。

 

1200本のプログラムを
洗い出し、800本に絞る

 移行に際して同社が描いたシナリオは、ACOS上にある1200本のCOBOL資産の整理とさらなる別システムへの切り出しを行ってプログラム数を減らし、そのうえで全体をストレートコンバージョンするというものである。

 これに備えるため、ブラックボックス化しているシステムの各ジョブを1つ1つ解きほぐし、そこで使用されているプログラムの順序性や関係性を根気よく整理してドキュメント化していった。これに要した期間は約3カ月(2016年6?8月)。担当した根本氏は、「とくに苦労したのは既存システムのファイルレイアウトの特定で、プログラムのインプット/アウトプットがどのレイアウト資料に対応するのかを紐づけていくのに時間がかかりました」と振り返る。

 切り出しを行った結果、プログラム数は800本となり、コンバージョンを実施。「JBCCのコンバージョン・ソフトを用いた変換もスムーズに進み、すんなりとコンバージョンできました」と、倉澤氏は話す。

 2017年1月から新しい基盤であるIBM iへの基幹システムの移行とテストを行い、同12月に全作業を完了。2018年1月から新システムでの利用がスタートした。

 利用開始以降、「切り替え直後のドタバタはあったものの、切り替えに起因するシステム的なトラブルは一度も発生していません」と倉澤氏。「移行にあたってとくに留意したのは基幹システムと外部システムとの連携で、新たに採用したHULFTと、既存のDataSpiderでJDBCを利用したIBM iとの新規連携も問題なく機能しています」と言う(図表3)。さらに根本氏は、「IBM iは処理性能が高く、ACOSで数十分かかっていた処理が数分で完了するなど、エンドユーザーにも好評です。また、IBM iの特性上、ファイルのオーバーフローがないので、その分、運用負荷が減っていると感じています」と語る。

 

 

 同社の基幹システム移行は想定どおりに進んだ。これについて川崎卓夫氏は、「移行がスムーズに運んだのは、2003年来、基幹システムからの切り出しを積極的に進め、生産指示系とわずかなサブシステムしか残されていなかったことが大きな要因と考えています。当初あった7000本のCOBOLプログラムすべてを対象に移行を進めたとしたら、これほど順調にはいかなかったと思われます。今回の移行作業の過程でドキュメントも整備され、次世代に向けた強力な基盤が整いました」と述べる。

 同社では既に、フレーム組み立てラインの移設に合わせた生産ステータスの見える化と、設備の予防保全を目的とするIoT化のためのシステム構築を進行中である。IBM iをDBサーバーとして使用し、高速開発ツールGeneXusで開発したJavaアプリケーションはクラウドに配置するという、同社では過去にない構成のシステムである。

「これまで手を付けてこなかった、当社のノウハウが詰まった生産システムにメスを入れ、それをベースにタケベ独自の製品を生み出し、海外にも展開していきたいと考えています」と、川崎氏は抱負を語る。

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COMPANY PROFILE
株式会社武部鉄工所
本 社:神奈川県厚木市
創 業:1919(大正8)年 
設 立:1939(昭和14)年
資本金:1億3500万円
売上高:375億円(2018年3月)
従業員数:650名
事業内容:各種バス・トラック用シャーシーフレームの
     組み立ておよび部品製造
http://www.takebe.co.jp

[IS magazine No.21(2018年9月)掲載]