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第一屋製パン|国産汎用機からIBM iへのマイグレーションプロジェクトを完了 ~1万5000本のCOBOLプログラムをストレートコンバージョン

「おいしさに まごころこめて」をモットーに、1947年創業の長い歴史のなかで培われた技術力と商品力をベースに「第一パン」の商標で、パンおよび菓子分野の多彩な商品を提供する。2010年からトヨタ生産方式を導入して品質の改善と原価低減を図り、食を通じた価値提供の基盤を整備。さらにマーケティング力を強化し、他社にない特徴で、「わくわくしていただけるような」価値ある商品を創造している。

 

 

国産汎用機からIBM iへ
周辺システムとの連携を重視

第一屋製パンが、40年近く運用してきた国産汎用機5台をIBM i搭載のPower Systemsへリプレースしたのは2015年のことである。2018年には5工場すべての移行を完了し、汎用機の全面撤去が完了した。

同社は汎用機の将来性を憂慮し、先進的なテクノロジーに対応できる環境を整えたいと、すでに2000年代初頭から他サーバーへのリプレースを検討していたという。しかし、なかなか実現には踏み出せなかったようだ。

検討を続けるなか、2011年に汎用機のモデルをリプレースした際、「これを最後のリプレースとし、次期更改までに必ず基幹システムの移行を実現する」と決定。その直後からCOBOLで開発した基幹システムの全面刷新、ストレートコンバージョン、ERPの導入などを含む多様な選択肢の検討を本格化させた。

そして2013年半ばには、COBOLプログラムのストレートコンバージョンを前提に、システムの安定性と運用性、資産の継承性、先進テクノロジーの活用といった要件に合致するサーバーの選択肢を以下の4つに絞り込んだ。すなわち国産汎用機と同じメーカーが提案するオフコン系サーバー、WindowsもしくはLinuxが稼働するオープン系サーバー、そしてPower Systems上で運用するIBM iの4つである。

最終的には、JBCCが提案したIBM iへのマイグレーション案を選択しているが、コーポレート本部 業務部 ITソリューショングループの吉田隆哉グループリーダーは、その理由を次のように語っている。

「最終段階では、国産汎用機のメーカーが提案するオフコン系サーバーとIBM iの2つが選択肢として残りました。安定性や機能性、導入・運用コストに加え、既存の基幹システムが多種多様な周辺サーバーと連携していることから、データ連携の技術やパフォーマンスを重視し、時間をかけてそれらを慎重にチェックしていきました」

 

吉田 隆哉氏 コーポレート本部 業務部 ITソリューショングループ グループリーダー

 

汎用機上の基幹システムは、オープン系サーバーで稼働する生産管理システムや販売情報系システム、勤怠システムなど多くの周辺システムと連携していた。なかでもEDIサーバーはJCA、JX、Web、FTPなど取引先ごとに多様な通信手法に対応しており、新システムで、これまでどおりのパフォーマンスを確保しながら安定的にEDIを実施できるかが重要なポイントとなった。

そこで同社ではオフコン系サーバーとIBM iの双方で、時間をかけて接続テストを実施。ODBC接続に圧倒的なレスポンスでの処理性能を示したのに加え、バッチ処理でも高いパフォーマンスが確認できたことにより、IBM iの導入を決定した。正式決定は2014年2月のことである。

1万5000本のCOBOLソースを
段階的にマイグレーション

同社では大阪空港、金町、小平、高崎、横浜の5工場のそれぞれに、合計5台の汎用機を導入していた。これらをPower 720上に設定した5つのLPARに統合する(実際には区画管理用と開発用に2LPARを利用しているので、Power 720上には合計7LPARを設定)。

また本番機であるPower 720に対して、バックアップ機としてPower S814を導入している。

「今までは5工場それぞれに5台の汎用機を導入していたので、独立性が確保できていました。しかし今後は1台のPower Systemsが全工場の業務をサポートするので、万一の障害発生時には、全工場の生産業務が停止するリスクが想定されます。そこで当初から障害対策を軸に据え、二重化体制を実現することを考えていました」と語るのは、当時のプロジェクト責任者であった勅使河原厚樹氏(現・スリースター製菓株式会社 高崎工場管理部 管理部長)である。

 

勅使河原 厚樹氏 スリースター製菓株式会社 高崎工場管理部 管理部長

 

本番機とバックアップ機のマシン導入は2014年6月。双方を同期させるHAソリューションには「MIMIX」を採用した。そして同年8月には、JBCCの支援によるCOBOLのマイグレーションプロジェクトがスタートしている。大阪空港、金町、小平、高崎、横浜という順序で、各工場のシステムを段階的にIBM iへ移行した(図表1)。

 

工場で稼働していたのは受注、生産指示、納品書発行、請求管理などのシステムで、基本的には同一プログラムを導入し、各工場の独自性に応じてカスタマイズを加えていた。稼働していたCOBOLのプログラムソース、画面ファイル、CLISTは1工場で平均3000本、5工場で合計約1万5000本に上る。

これに小平工場では請求管理、高崎工場では売上管理など、本社システムの一部が稼働していた。

最初の移行作業は、大阪空港工場を対象にスタートした(図表2)。

 

 

JBCCとともに約6カ月を費やして調査分析、機能設計、試作、ツール開発/量産設計などといった「移行計画」に着手。次に約2カ月かけてツールによる量産(機械変換)と手作業による部分的な変換およびコンパイルを実行。さらに変換が終了したプログラムから順次、テスト・検証を実施して、約1年後の2015年9月に本稼働が開始した。運用に問題がないことを確認すると同時に、汎用機を撤去している。

その後は、ほぼ同じ作業を4工場で繰り返した。

「最初はIBM iに慣れず、OS機能や運用機能などを覚えながらの作業だったので慎重に進め、約1年を要しました。ただし大阪空港工場以降は、次第にコンバージョンに要する工数が短縮されていきました。IBM iはメインフレームよりも運用性が高く、DB関連の処理も容易で、テクノロジーの観点ではオープン系に近い印象です」(吉田氏)

 

5工場で移行を完了
2018年に最後の汎用機を撤去

大阪空港工場での本稼働以降は、2016年7月に金町工場、2017年5月に小平工場、2018年1月に高崎工場、同年5月に横浜工場で無事に本稼働を開始した。プロジェクトのキックオフから約3年10カ月で、5工場すべてのマイグレーション作業を完了し、2018年には最後の汎用機が撤去されている。

「IBM iへの移行・統合により、汎用機時代に比べて初期導入コストは半分以下に、保守費用は5台分が1台分へと削減されました。全般的に運用性が向上しているのに加え、今までたとえばデータ加工に必要なフォーマット変換プログラムなどをすべて汎用機上で作成する必要があったのに対し、現在はオープン系サーバー上で開発して、基幹システムのDb2へダイレクトに連携するなど、周辺システムとの連携・接続も柔軟に実行できるようになりました。汎用機からIBM iへの移行は正解だったと考えています」(吉田氏)

プロジェクトの開始時は、将来的に全工場のシステムを1LPARで運用することを前提に、いずれかのタイミングでシステムの再開発に着手することも視野に入れていたという。

しかしその場合、アプリケーションの不具合が全工場の生産に影響するリスクも高まる。そうした点を考慮に入れつつ、将来に向けた最適なシステムの青写真を策定すべく、ITソリューショングループでは今後も慎重に検討を続けていくようだ。

COMPANY PROFILE
第一屋製パン株式会社

本 社:東京都小平市
設 立:1947年
資本金:33億556万7500円
売上高:256億円(2017年度実績)
従業員数:1609名(2017年12月末)
事業内容:各種パン類、和菓子、洋菓子、クッキー等の製造および販売
http://www.daiichipan.co.jp/
[IS magazine No.22(2019年1月)掲載]