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事例|ホーユー株式会社 ~AWSへのリフト移行を選択し、移行検証の負荷を最小化

COMPANY PROFILE
本 社:愛知県名古屋市
創業:1905(明治38)年
設立:1923(大正12)年
資本金:9800万円
売上高:507億円(単体)、560億円(連結、2018年10月)
従業員数: 1054名(2020年2月現在)
事業内容:ヘアカラー・頭髪化粧品の製造・販売。国内18拠点、海外に3つの生産拠点と9の販売拠点をもち、約70カ国でビジネスを展開する
https://www.hoyu.co.jp/

今年で創業115年を迎える。当初は製薬業でスタートしたが、間もなく染毛剤の製造・販売に進出し、以降の事業の基盤となった。「ビゲンヘアカラー」「メンズビゲン」は、この分野の代名詞的ブランド。現在、ヘアカラー商品の分野でトップシェアを誇る。また、社会貢献にも力を入れ、2014年に「一般財団法人 ホーユー科学財団」を設立。毛髪科学・皮膚科学・薬理学・染色化学に関する研究を支援し、助成金事業も推進している。

 

 

 

BCP対策としての取り組み
データセンター移行を選択

 一般市場向けヘアカラーの「ビゲン」「メンズビゲン」「シエロ」「ビューティラボ」「ビューティーン」、業務市場向けヘアカラーの「プロマスター」などのブランドで知られるホーユーは、今年6月にオンプレミスに配置していた基幹システムの一部をパブリッククラウド(IaaS)へ移行し、運用を開始した。

 この移行にあたっては、オンプレミスのシステム構成・内容を変えずにそのままクラウドへ上げる「リフト」方式で臨んだが、大量のバッチ系処理を行うとレスポンスに難が生じるため、システムの一部をオンプレミスに残すなどの措置を講じた。

 同社は、基幹システムのクラウド移行を以前から構想として描いており、今回の移行はその第1弾。またこの直前に、本社内のマシンルームに設置していたサーバー群をデータセンターへ移設するという取り組みも行っている。

 同社のシステム化の歩みを少し遡りつつ、今回のクラウド移行の背景と内容を見てみよう。

 創業100年を超える同社は(1905年創業)、1970年代に基幹業務の本格的なシステム化に着手し、1989年に東芝製オフコンからIBMのシステム/38へ切り替え、さらに1998年にAS/400(IBM i)に移行して2016年まで約20年にわたり運用を継続してきた。

 しかし、2000年代中盤になると市場の変化に対応してシステムを改修・改築していく困難さが目立つようになり、IBM i上の各種基幹システムを順次切り出し、Windowsベースのサーバーに移行させる方針を固めた。

 この経緯を、情報システム部の原木圭司 次長は、「IBM i上にあった基幹システムはパッケージをカスタマイズしたものが多く、さらに長い年月のなかで改修や拡張を重ねてきたために、融通のきかないシステムになっていました」と振り返る。

 2006年に生産管理システムをWindowsベースのMCFrame(現mcframe)へ移行させたのを皮切りに、2012年に会計システムをSAPへ、2013年に物流管理システム、2014年に販売管理システムをそれぞれスクラッチで開発し、Windowsサーバーへ載せ換えた。2015年ごろにはほぼすべてのシステムの移行が完了し、本社内のマシンルームには約80台のWindowsサーバーが林立することとなった。

 一方、このシステム移行と並行して、BCP(事業継続計画)の取り組みが全社を挙げて始まっていた。名古屋に本社を置き全国各地に拠点をもつ同社では、南海トラフ地震をはじめとして巨大地震の甚大な影響を受ける恐れがあり、それへの対策が大きな課題であった。

 そして、全社の「災害想定復旧シナリオ」に基づく、システム面での取るべき対応策として情報システム部が出した結論は、本社マシンルームから外部データセンターへの全サーバーの移設であった。しかし、この検討の過程で、「パブリッククラウド(IaaS)への移行についても部内で活発な議論があり、基幹システムのクラウド移行を今後推進していこうという気運が高まりました」と、原木氏は話す。

「パブリッククラウドへの移行を見送ったのは、移設対象のサーバーが80台超と多く、移設期限までに十分な検証が行えないのが確実であったのと、クラウド上のミッションクリティカルな基幹システムとオンプレミスのシステムとの連携で十分なパフォーマンスを出せるか見通しが立たなかったからです。会社が要求する高度なBCPを早急に実現するには、既存のシステムをそのままデータセンターへ移設(ハウジング)するしかないと判断しました」(原木氏)

 

オンプレミスかクラウドか
3つのパターンを検討

 データセンターへの移設プロジェクトは2017年5月に始まり、2018年8月に完了し、システムの利用が始まった。

 ところが、データセンターへの移設を完了したのも束の間、販売管理システムと物流管理システムを載せていたブレードサーバーのメーカー保守切れが2019年6月に迫っていることが判明し(2018年11月)、急遽、対応が必要になった。

 システム部門では、このときに3種類の対応策を検討している。各種ソフトウェアのバージョンを据え置く「オンプレミスの入れ替え」、各種バージョンをすべて最新に置き換える「オンプレミスの入れ替え」、そして各種バージョンを据え置いたままの「クラウド移行」の3つである(図表1)。

 

 

「どのパターンが最も安全かつ確実に移行できるか、将来の対応事項やコストなども含めて多面的に比較しました。このうち最も重視した項目は、システム部門が担当する受け入れ検証の負荷です。実は、これと並行して全社規模の大型プロジェクトが進行中で、システム部員の多くがそれに張り付いていました。要員の確保が十分でないなかでスケジュールどおりに進めるには、検証負荷を最小にすることがポイントだと考えました」と、原木氏は述べる。

 その結果、検証負荷が最も最小となるリフト方式によるクラウド移行を選択したが、「ただし、懸念事項がいくつかあり、調査と検証によって払拭することに取り組みました」と、原木氏は言う。

 

機能面・性能面・運用面の不安を
調査と検証により払拭

 その懸念事項とは、次の3つである。

・IPアドレスを変更することによる「機能面の不安」
・一部の基幹システムを先行してクラウド化することによる「性能面の不安」
・基幹システムをクラウド化することによる「運用面の不安」

 機能面・性能面については、2017〜2018年のデータセンターへの移設時の棚卸し結果を基に、販売管理システムと物流管理システムをクラウドへ移行したときの影響やパフォーマンスを調査した。

 これにより、移行対象のすべてのシステムをクラウドへ上げると、大量の帳票印刷やデータ分析などのバッチ系処理でオンプレミスとの間のネットワーク負荷が許容レベルを超えることが懸念されたため、EDIサーバー(HULFT)と帳票・印刷サーバー(e-image)をオンプレミス(データセンター)に残すこととした(図表2)。

 

 

 また、クラウド上のそのほかの業務処理でもピーク時にパフォーマンスが劣化するのを回避するために、クラウドとオンプレミスを結ぶ回線の帯域を、デフォルトの100Mbpsから1Gbpsへと拡張した。

 運用面については、オンプレミスとクラウドでは管理対象と運用方式が異なるため確認と再定義を改めて行い、クラウドへの移行作業と基盤の設定、稼働後の監視・保守・運用をJBCCに委託することにした(図表3)。

 
クラウドへのリフトでは
VM Importサービスを利用 

 クラウドへの「リフト」では、AWSが提供する「VM Import」サービスを利用した。既存システムをそのまま仮想イメージ化(VMイメージカタログ化)し、それをAmazon EC2にインポートすると、AWSの仮想マシンイメージに変換してIaaS上のリソースにマウント(配置)できるというものだ。既存システムの改修などは不要で、IaaSへの移行を完了できる(図表4)。

 

 移行対象となった販売管理システムと物流管理システムのプログラム総数は約300本。同社ではJBCCのサポートを受けて、都合3回、VM Importによるアプリケーションとデータベースの移行および検証を行い、最終的にすべての実データをAWSへ上げて、2019年6月にサービスインした。作業期間は、VM Importの設定を含めて2019年1月からの6カ月間である。

 原木氏は、「データセンターへの移設時に蓄積した知見とハウツーが、今回のクラウドへの移行で大いに役に立ちました。とくに、システムをクラウドへ上げたときのオンプレミス側で受け取るレスポンスの遅延についてある程度予測がついたので、システムの分散配置やネットワークの増強など事前に対策が打てました」と話す。

 ただしサービスイン後に、販売管理や物流管理システム以外のシステムから販売管理や物流管理のデータベースを参照しに来る「想定外」(原木氏)のトラフィックが少なからずあることが判明した。

「これは、個々のシステムが密結合で構築され、データベースを相互に利用し合う構成になっているためで、今後のシステム開発とクラウド利用のための格好の教訓を提供してくれていると考えています。そのほか、クラウド上のシステムのパフォーマンス/レスポンスが実運用のなかでどう変化するのか、オンプレミスにある基幹システムのクラウド化を念頭に置いて、注目しています」(原木氏)

 

パブリッククラウドへの移行は
システム最適化の有力な手段

 現在、愛知県瀬戸市の製造施設に配置している生産管理システムのサーバーが、2020年9月にメーカーの保守切れを迎える。すでに次期システムの検討が進んでいるが、その方向性について原木氏は、次のように語る。

「システム部門に求められる役割が、業務アプリケーションの企画・提案など、より創造性を発揮する部分へと変化しつつあるなかで、運用負荷の軽減は至上命題といっていいテーマです。そのなかでクラウドは、システムの最適化を実現する有力な手段ですが、とは言え、すべてをクラウド化するのがベストなのではなく、オンプレミスに残すべきものは残したほうが最善であることも、クラウド化の経験のなかで理解しています。今後は、クラウド化を軸にしつつも、1つ1つ検証と実績を積み上げ、当社ならではのクラウド・コンピューティングを追求するつもりです」

原木 圭司氏 情報システム部 次長

[IS magazine No.25(2019年7月)掲載]

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