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座談会 IBM・ベンダー・SIerから見たメインフレームの現状と今後 ~市場・技術・受容・課題・人材育成を語り合う

 

◎出席

内藤 祐史氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
ソフトウェア事業本部
z Systemsソフトウェア事業部 ソリューション テクニカルセールス
統括部長

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高橋 利和氏

ロケットソフトウェア ジャパン株式会社
理事 SW製品開発担当

IMS Regional User Group Japan世話人

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荻野圭一朗氏

NTTデータシステム技術株式会社
保険システム事業部
第三統括部 基盤担当
スペシャリスト

日本GUIDE/SAHRE委員会(JGS)
SP部会 部会長

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MIPS値ベースでは増加
新しい利用が着実に広がる

IS magazine(以下、IS) JEITAが毎年まとめているメインフレームの年度別出荷台数調査を見ると、年々台数を落としています。メインフレームの市場動向をどう見ていますか。

内藤 出荷台数については、そうした傾向でしょう。しかし、そのことがメインフレームの先細りを示しているのかというとそんなことはなく、むしろ処理量は増加し、活用の幅が広がりつつあるのが実態です。IBMメインフレームの出荷量をMIPS値ベースで見ると、年々増えています。市場全体が広くあまねく広がっているわけではありませんが、IBM Zの特性を必要とするお客様はより多くのCPUパワーを必要とし、適用の領域を広げておられます。

 

内藤 祐史氏 日本アイ・ビー・エム株式会社 ソフトウェア事業本部 z Systemsソフトウェア事業部 ソリューション テクニカルセールス 統括部長

 

高橋 台数ベースの推移では、JIPDECのレポートどおりだと思います。私の専門のIMSで言うと、10年ほど前のセキュアトランザクション数は1日あたり500億トランザクションと言われていましたが、2018年現在は2600億トランザクションにまで増加しているとのことです。「MIPSベースでは伸びている」という内藤さんの指摘と同様の傾向が見て取れます。

 市場動向としては、「企業データの80%はメインフレーム上にある」という言い方がありますが、その企業データをメインフレームの外へ出さずにメインフレーム上でSoE・SoIの処理をセキュアに行おうという動きが顕著になってきました。トランザクション処理というメインフレームの伝統的な使い方とは別の、分析プラットフォームとしてのメインフレームの登場です。私はそこにメインフレームの活路があると思っていますが、新しい活用方法はこれからもいろいろと出てくるでしょうね。

 

高橋 利和氏 ロケットソフトウェア ジャパン株式会社 理事 SW製品開発担当 / IMS Regional User Group Japan世話人

 

荻野 メインフレームはやがてなくなるという観測は、私が社会人となった2004年当時からありました(笑)。最近は企業統合などで台数ベースでは減る傾向にありますが、それでもIBMのメインフレーム・ユーザーが減少したという実感はまったくありません。またMIPS値ベースで増えているとの指摘にも違和感はありません。

 ただし、そのMIPS値ベースの増加が、利用範囲の拡大によるものか、処理量が増えただけの結果なのかは慎重に判別すべきだろうと思います。

 JGSの活動で言うと、私が参加し始めた2004年ごろは「プリンタ出力の効率化」といったテーマがメインフレームを対象とする研究プロジェクトの主流でした。製品に即したテーマが大半でしたが、今はWatson、Docker、マシン・ラーニングという時代の先端を行くテーマへと変化しています。そして以前は、JGSで研究した成果を企業へもち帰り適用する動きが一般的でしたが、最近の先進的な研究の成果を企業で活用しているという声はほとんど聞こえてきません。つまりメインフレーム市場全体で見ると、新しい技術の普及はこれからという気がしています。

 

荻野圭一朗氏 NTTデータシステム技術株式会社 保険システム事業部 第三統括部 基盤担当 スペシャリスト / 日本GUIDE/SAHRE委員会(JGS)SP部会 部会長

 

内藤 必ずしも新しい使い方だけでMIPS値が伸びているのではないことは、事実です。たとえば金融の分野でトランザクション量が伸びている背景には、キャッシュレスのライフスタイルの定着とそれに伴う少額決済(マイクロペイメント)の拡大という世情の変化があります。しかし、それ以外でも、世界中のIBM Zのお客様の間で新しい活用の動きが出てきています。日本においても、新しい使われ方が徐々に拡大しつつあるというのが実情です。

 

新しい利用を促す
4つの技術動向

IS メインフレーム(IBM Z)の新しい利用を促す技術動向について、内藤さんから解説をお願いできますか。

内藤 IBM Zというと、テクノロジーとしてはハードウェアをイメージされる方が多いと思いますが、IBMとしては、お客様にそのメリットを最大限に享受していただくために、ハードウェアとソフトウェアを合わせたトータルのソリューションで機能拡張を行っています。そこで、ハード/ソフトを合わせた4つの最新技術動向についてお話したく思います。

 1つは、先ほどの高橋さんのお話にもあった「データ活用」です。当社のメインフレームは企業のトランザクション処理やバッチ処理用のマシンとして50年以上にわたって機能拡充を続けていますが、7年前(2011年)に大量のデータを扱う情報系の処理をより高速に行える機能を追加し、以後、拡張を継続しています。

 その中心となるのが「IDAA」(IBM Db2 Analytics Accelerator for z/OS)で、従来はIBM Zに外付けするアプライアンスでしたが、昨年11月にIBM Zのハードウェア上で稼働するオプションをリリースし、ラインナップを拡大しました。アプライアンスと比べて、IBM Zの信頼性、可用性、セキュリティのメリットをより享受しながら高速にデータ処理できます。

 データ活用ではもう1つ、「IBM Machine Learning for z/OS」を2017年に発売しています。当製品は、コアの技術としてSparkのライブラリと実行エンジンをZに取り込み、Db2、IMS、VSAM、SAMなどのZ上のデータを直接読み込んで機械学習の処理を行えます。Zからデータを外部に出さなく済むため、鮮度の高いデータを使用して処理でき、お客様のビジネス成長のための分析を、高い精度で、迅速に実行可能です。

 動向の2つ目は「API」です。Z上で稼働するアプリケーションやデータを外部へ公開し、APIとして呼び出す仕組みを提供しています。製品で言えば「z/OS Connect」や「API Connect」で、Z固有のプロトコルと最近主流のプロトコルであるRESTとの変換を行い、Zの資産を再利用しやすい形で公開します。既存の資産を活用しながら、新しいアプリケーションを効率的に開発できるソリューションです。

 3つ目は「セキュリティ」です。メインフレームは元々、高度なセキュリティ機能を備えていますが、Z14ではさらにその上をいく、Z上のすべてのデータをハードウェアで暗号化する全方位型暗号化機能を提供しました。従来は機密性の高いデータ/ファイルを個々に暗号化していましたが、システム全体を暗号化するという非常に革新的な機能です。

 最後の4つ目は、アプリケーション開発に関する領域です。メインフレームがプラットフォームとして活用し続けられるためには、そのうえでどれだけ多くのアプリケーションが開発され続け、業務処理が実行されるかがキーとなりますが、既存のプログラムを再利用してアプリケーション開発する際に多大のワークロードを要するのは、影響分析とテストです。その影響分析を効率的に行えるのが、「IBM Application Discovery and Delivery Intelligence」(ADDI)です。またADDI以外に、IBM Z用のアプリケーションを、ウォーターフォールのような伝統的な開発手法とは違うアジャイル開発手法で実現し、DevOpsの概念を実現する各種ツールも取り揃えています。

 

アナリティクス・ワークロードを
IBM Z上で走らせる

高橋 内藤さんの挙げた、Z14で実現したPervasive Encryptionはとても重要な拡張ですね。Zの価値を大きく高めるものと思います。

 それと、Z14でより大量のメモリを積めるようにしたのも大きな拡張です。メインフレーム上でアナリティクス・ワークロードを走らせるのが狙いだと思いますが、先ほども触れたように、まさにそこに重要なデータがあるからですね。

 しかしIMSデータのような全件検索に向かないデータを対象にアナリティクスを回すには、「IBM Data Virtualization Manager for z/OS」のような別の仕組みが必要です(Part 3で詳述)。こうしたデータ活用のためのソリューションが広がっていってほしいと思っています。

荻野 内藤さんが指摘された技術・製品はメインフレームの今後の方向を示すもので、どれも非常に重要です。ユーザーの視点で言えば、単体の製品よりも複数の製品・技術の組み合わせで考え、全体的としてどうなのかを検討する必要があるかと思います。

 z/OS Connectは、JGSの研究テーマとして一昨年から取り上げられ、外部からどのように利用するかという連携の仕組みよりもセキュリティをどう担保するかという関心や、スモールスタートをどこから始めるか、Z上のデータベースからどうデータを切り出すかといった観点から論文が執筆されていました。

内藤 今挙げた4つの製品・技術の利用状況をワールドワイドで比較すると、日本のお客様の活用度合いは、まだ十分でないと考えています。多くのお客様にIBM Zの最新機能のメリットを享受していただくために、製品・技術の視点だけでご提案するのではなく、価値の共創を目指した活動を強化するつもりです。

 具体的には、先進的なアプリケーションの短期開発をご支援する「IBM Garage」と同様のアプローチで、IBM Zの最新機能を活用したユースケースを一緒に考えさせていただくことや、リーン・スタートアップの世界で言うMini
mum Viable Product(MVP)のような最小構成で動く実例をご提示することなどを、今後の課題としています。

荻野 内藤さんのその課題意識は、我々SIerとまったく同じです。多くのお客様は先進的な技術を積極的に活用したいと考えておられます。しかしどう活用すべきか、そのアイデアをもっておられない。だからそこを、SIerも一緒になって考えていく。その意味では、問題解決のためのアプローチをさまざまに知っているべき我々Sierの問題もあると痛感しています。

 

プログラミング・コンテスト、
Zowe、JGS研究プロジェクト

IS メインフレーム人材の育成について、どのように考えていますか。

内藤 1つの取り組みとして「Master the Mainframe」という学生を対象としたメインフレーム・プログラミング・コンテストを3年前から実施しています。学生時代からメインフレームに親しんでもらおうというワールドワイドの取り組みで、日本からもこれまでに1000人以上の学生が参加しています。今年も9月11日にスタートしました。

高橋 オープン系の若い世代のエンジニアからすると、メインフレームをやっているのは特殊な別世界の人のように見えているのではないかと思います。自分たちのスキルや経験を活かせる場ではない、という思いがあるのではないか。この観点で言えば、8月の米国SHAREでローンチされた「Zowe」は注目に値する画期的なプロジェクトです。

 多数のベンダーが参加するOpen Mainframe Projectの一環で、z/OSにアクセスするためのAPI Mediation Layer、Web Desktop、CLIなどのインターフェースや各種APIをオープンソースで提供し、オープン系技術をもつエンジニアが容易にIBM Zを利用できる環境を実現しています。またベンダーもZoweを使って製品を開発でき、利益も享受可能です。Zへの参入障壁を取り除くとともに、人材育成とオープン系エンジニアの取り込みという観点からも見逃せない取り組みです。

荻野 JGSでは、毎年一定数のIBM Z関連の研究プロジェクトを実施しています。今はZの基盤だけを知っていれば済む時代ではないので、AIやアナリティクスなどの先進的なテーマをいかに取り込んでいくかが課題です。

 JGSが他のユーザー会の研究プロジェクトと異なるのは、すべてのチームにIBMの有識者がアドバイザーとして入り、最新の技術情報や現場の生の話を聞けることです。こうした体制と交流をとおして、IBMの新しい技術を企業内へ展開する強い回路が作られると考えています。

 

メインフレーム
IBM Zの今後

IS IBM Zの今後をどのようにお考えですか。

内藤 IBM Zはお客様の基幹システムを支え続けながら、時代のニーズを反映して進化し続けています。今後のIBM Zは、業界のなかでも独自のポジションを維持し続け、スーパーサーバーとでも呼ぶべき究極のインフラとして利用され続けると確信しています。また、そうなるように私どもも日々努力を続けていくつもりです。

高橋 保険業務を1つ取ってみても、1つの契約が何十年にも及び、そのデータを長期にわたって保持し続ける必要があります。この種のニーズはさまざまな分野でたくさんあると思いますが、それを同一のアーキテクチャで長期に維持できるのはメインフレームしかありません。IBM Zは長く継続可能なサーバーとして価値を高め、重要な社会インフラとして存在し続けるだろうと思います。

荻野 圧倒的な上位互換と下位互換を備えるサーバーはメインフレームです。私もIBM Zは将来にわたって使い続けられると考えています。

[IS magazine No.21(2018年10月)掲載]

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