プロンプト
大規模言語モデル(LLM)やマルチモーダルモデルを効果的に利用するには、何をしてほしいかを的確に伝える必要がある。普段我々が利用しているのはChatGPTやGemini、Claudeのチャットインターフェースだが、ここに入力するAIへの指示を「プロンプト」と言う。
よく考えられたプロンプトは期待するアウトプットを生成させる一方、曖昧なプロンプトでは意図しない結果や、精度の低い回答しか得られないことが多い。
実際にAIを始めて使ってみた人の感想で多いのは、「ほしいのとは違うものを出力してくる」とか「わりと嘘をつく」などだが、その原因はAIの能力不足というよりも、プロンプトに含めるべき情報が不足しているケースがほとんどだ。
AIを利用するには、「コンテキスト」という概念も重要になってくる。コンテキストとは直訳すると、「文脈、文章の前後関係」である。
AIでもこの意味で解釈されるケースはあるが、現在ではAIに与えるすべての情報のことをコンテキストと呼ぶ場合が多い。つまり、プロンプトはコンテキストの中に含まれるということだ。
よいプロンプトの構成要素
プロンプトには、AIがタスクを正確に理解し、実行するために必要な情報をもれなく含んでいる必要がある。具体的には、以下の要素を意識することが重要である。
役割
AIに特定の専門家(「あなたは熟練のRPGプログラマーです」など)の役割を与えることで、出力のトーンや専門性をコントロールする。
指示
何をしてほしいのかを、具体的かつ明確に記述する。
出力形式
どのような形式(例:JSON、Markdown、箇条書きなど)で出力してほしいかを指定する。
これらの要素を適切に組み込むことで、AIの回答は期待している結果にぐっと近づく。プロンプトをどのように記述すべきかという技術をプロンプトエンジニアリングといい、生成AI活用の成否を分ける重要なスキルと見なされている。
コンテキスト
よく知られている5W1Hは相手にわかりやすく伝えるために必要な情報の要素で、1つでも欠けると伝えた情報が曖昧になったり、間違って受け取られる可能性が高くなる。これは人間だけでなく、生成 AIでも同じだと言われる。
先ほどのプロンプトに含める要素は、5W1Hに当てはめると以下に相当する。
Who=役割
What=指示
How=出力形式
残りの要素は、When、Whereおよび Whyである。
When=いつの時点なのかといった時制を明確にする
Where=利用環境、地域や業界といった場所に関する情報
Why=目的は何か、など
つまり、プロンプトに記述した「作業指示」を正確に生成AIに理解させるには、「背景や条件、参考情報など」の前提条件がさらに必要で、これらをすべて含んだ概念をコンテキストと呼んでいる(図表1)。

狭義の意味でのコンテキスト(When、WhereおよびWhy)をどのようにAIに与えるかは、利用しているサービスによって異なる。最も簡単な方法は、コンテキストのすべてをチャットのプロンプト入力欄に記述することである。これは誰にでもすぐに実践できる方法だが、毎回入力しなければならない不便さがある。
コンテキスト情報を別のファイルに保存しておき、プロンプト内でそれを参照させれば、社内での共通の前提条件を共有できて便利である。
Geminiであれば Googleドライブのファイルを参照可能なので、より効率よくAIへの指示が出せるようになる。
ハイコンテキスト文化とAIの対話
日本は言語的表現そのものだけでなく、文脈や暗黙の了解に大きく依存するハイコンテキスト文化であると言われる。「一を聞いて十を知る」「空気を読む」といった言葉に代表されるように、少ない言葉で多くの意図を伝えるコミュニケーションをよしとする傾向がある。
しかし生成AIは、人間のようにその場の空気や文化的背景を完全に理解しているわけではない。AIにとっては、与えられたプロンプトがすべてである。
したがって我々が普段、人間同士で行っているようなハイコンテキストなコミュニケーションをそのままAIに持ち込むと、意図を正しく伝えられない可能性が高い。
AIに「一を聞いて十を知る」ような働きを期待するのであれば、その「十」に至るために必要な背景情報、すなわちコンテキストを明確に与える必要があることを常に意識しておきたい。
生成AIは非常に優秀な新入社員である。しかも世の中の言語や法律など、多岐にわたる知識を有しているスーパー社員である。
しかし、配属されたばかりの特定の組織やプロジェクトに関する暗黙の知識は当然持ち合わせていない。これは長年その組織で働いてきた社員であれば、あえて伝えなくとも共有されている「暗黙の情報」であり、まさにコンテキストにほかならない。いわば共通認識であり、言葉を交わさなくても理解し合える情報である。こうした情報は、当たり前だがAIには伝わらない。
このことから、AIは真の意味で思考しているのではなく、与えられた情報に基づき、次に続く可能性が最も高い言葉を予測しているに過ぎないと言える。
したがって、その予測の確実性を高めるための情報、すなわちコンテキストをどれだけ必要十分に提供できるかが、依頼した仕事の成果を左右する決定的な要因となる。
この原則は、社内における業務指示の際にも同様に重要である。指示を怠り、期待する結果が得られなかった際に「どうしてできないのだ」と憤ることがあるが、それは依頼された側の能力不足ではなく、依頼する側が必要な指示を十分に提示していないことに起因する。
AIに対しても、1度や2度の結果で「使えない」と判断するのではなく、「与える情報が不足しているのだな。もう少し整理して再度依頼してみよう」と考える姿勢が極めて重要であると筆者は考える。
現在の生成AIは会話の履歴を記憶するので、AIと会話するなかでそういった必要な情報を逐一渡していくことで、出力をチューニングすることもできる。よく言われている「AIとの壁打ち」が、これに相当する。
完璧なコンテキストを用意するのはハードルが高いが、壁打ちは今からでも取り組める方法である。役割、指示、出力形式を含んだプロンプトにプラスして、「不足している情報があれば質問してください」の一文を加えてAIと会話してみよう。
IBM i開発での
プロンプトエンジニアリング
IBM iの開発現場でも、この技術は極めて有効である。たとえば、以下のような場面が考えられる。
「あなたは 20 年以上の経験を持つIBM iのベテランRPG技術者です。以下のRPGソースコードのロジックを解析し、処理内容を日本語で箇条書きにしてください。特にお金の計算に関わる部分は詳細に説明してください」
このように、役割と具体的な指示、そして分析対象となるソースコード(コンテキスト)を明確に与えることで、AIは開発者の意図を汲んだ質の高いドキュメントを生成できるはずだ。
著者|
小川 誠 氏
ティアンドトラスト株式会社
代表取締役社長 CIO CTO
1989年、エス・イー・ラボ入社。その後、1993年にティアンドトラストに入社。システム/38 から IBM i まで、さまざまな開発プロジェクトに参加。またAS/400 、IBM i の機能拡張に伴い、他プラットフォームとの連携機能開発も手掛ける。IBM i 関連の多彩な教育コンテンツの作成や研修、セミナーなども担当。2021年6月から現職。
新・IBM i入門ガイド [コード生成編]
<基本用語>
01 生成AI&IBM i市場動向
02 生成AI
03 大規模言語モデルとマルチモーダルモデル
04 プロンプトとコンテキスト
05 AIエージェント
06ハルシネ―ションとセキュリティ
07ファインチューニングとRAG
08 APIとMCP
<基本ツール>
01 コード生成AIの思考プロセスと主要ツール
02 IBM i開発環境構築ロードマップ
03 Visual Studio Code
04 Code for IBM i
05 Git
06 Markdown
<開発ツール>
01 AIファースト開発環境
02 IBM Bob
03 対話型・CLI型AIツールの戦略的活用術
04 学びを止めないための次の一歩 リンク集
[i Magazine 2026 Spring掲載]







