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ハイブリッドクラウド時代のリソース最適化とコスト削減戦略 ~3つのFinOps製品であるIBM Turbonomic、IBM Cloudability、IBM Kubecost

Text=岩田 夏実、呉 与宸(日本IBM)

IBM iをPower VM上で運用してきた企業にとって、仮想化技術の安定性と拡張性は大きな強みだ。一方で、システムのモダナイゼーションやクラウドシフトが進む中、従来のインフラ構成を見直し、パブリッククラウド環境への段階的な移行を検討する動きが加速している。

本稿では、パブリッククラウド/マルチクラウド環境への移行や、移行後の運用とコスト面での最適化に有用なソリューションを紹介する。

クラウド移行を加速するIBM Turbonomic 

既存環境からパブリッククラウドへ移行するに際して課題となるのは、複雑化した仮想化環境での現状把握と、どのワークロードをどのような形でクラウドへ移行すべきか、という点だ。

多くのケースでは、リソースの利用実態とアプリケーション要件が部門ごとに分断されており、移行の意思決定が遅れる原因になっているとともに、過剰投資になる可能性をはらんでいる。

たとえば移行計画を策定するにあたり、これを手動で行うことの難しさは想像以上に大きい。各仮想マシンの構成、利用状況、依存関係、業務影響を1つ1つ調査し、現行環境と移行先クラウドのスペックやコストと照らし合わせて検討する必要がある。

さらに、計画策定後に状況が変わると(たとえば急な業務負荷の変化や新規アプリケーション導入など)、再評価と再計算が発生し、計画全体の見直しが必要になる。

このように、移行対象の洗い出しから構成選定、スケジューリング、関係者間の調整に至るまで、多くの判断と手作業が積み重なるため、静的な一度きりの計画では、現実の変化に追いつかなくなるというジレンマを抱えることになる。

こうした背景のもと、移行計画の策定支援ソリューションとして注目されているのが IBM Turbonomicである。IBM Turbonomicは、オンプレミス環境での仮想マシンの構成や使用状況を自動的に収集・分析し、クラウド移行に向けた初期アセスメントをサポートする。

Power VM環境に導入することで、IBM iを含む既存ワークロードの構造を横断的に把握し、どのシステムがクラウド移行に適しているかを可視化できる。

移行候補の抽出に加えて、IBM Turbonomicは各ワークロードにとって適切なクラウド環境の選定にも寄与する。

たとえば、処理性能や可用性の要件に応じて、Amazon Web Service(以下、AWS)、Microsoft Azure(以下、Azure)など、複数のクラウドサービスの中から移行先候補を提示し、それぞれの構成に対するコストや稼働見通しの比較検討を行える(図表1)。

図表1 各構成に対するコストや稼働見通しの比較



このように、IBM Turbonomicは部門間の認識を揃え、技術的・経済的な要素を統合的に検討するための基盤として、移行の意思決定を支援する「計画立案のガイド」としての役割を果たすことができる。

クラウド移行は、単純なインフラの置き換えではなく、組織全体のIT戦略に深く関わる。IBM Turbonomicの導入により、移行対象の特定からシナリオ策定までを効率化し、IBM iの資産を活かしながら次世代のクラウド環境へと移行する道筋を、より現実的かつ具体的に描くことが可能となるだろう。

クラウドコスト管理の現状と課題 

近年、クラウドの利用は急速に拡大しており、2027年までには世界中の90%の組織がハイブリッドクラウドアプローチを採用するとの予測がある(Gartner Forecasts Worldwide Public Cloud End-User Spending to Total $723 Billion in 2025)。

クラウドの利用拡大は今後も続くと予測され、企業におけるクラウド活用の重要性はますます高まっている。一方で、クラウドへの投資額の増加に伴い、各事業部やチームごとのクラウド利用状況を把握することがさらに困難になると予想される。

さらには、オンプレミスからクラウドに移行したシステムにおいて、適切なリソースの割り当ては初期段階の大きな課題となる。リソース不足に対する懸念から、実際に必要な容量以上に過剰に割り当ててしまい、無駄なコストが発生する一方、リソース不足が原因で障害が発生するリスクも存在する。

オンプレミス環境では、一度サーバーを購入して導入すれば、その後の運用は比較的安定している。しかし、クラウド環境では新規サービスの追加や拡張が容易な一方で、リソース構成の頻繁な見直しが不可欠となる。

そのためクラウド環境では、リソースの継続的な管理と最適化、およびコストコントロールが重要な課題となる。

では、ネイティブツールを利用してリソースの最適化やコストの削減をどう実践するのか、AWSを例にとって考えてみる。

パフォーマンスやコストの最適化のためのAWSサービスの1つとして、AWS Trusted Advisorがある。このサービスではAWSの設定や利用状況を自動的にチェックし、コスト削減やパフォーマンス向上などのアドバイスを提供する。

たとえば、低稼働率のAmazon EC2 インスタンスで、過去4日間の毎日のCPU使用率が10%以下、ネットワークI/Oが5MB以下である場合にアラートが発生する(低稼働率の Amazon EC2 インスタンス)。

このアラートを指標として、該当インスタンスの停止あるいは終了を実行する。このような操作を、1つ1つのリソースに対して適用することでパフォーマンスやコストの最適化を行える。

該当EC2インスタンスを最適化するにあたって、実際に最適化アクションを実行する前に、このEC2インスタンスが何に利用されているかを確認し、本当にアクションを実行していいのかを判断せねばならない。

しかも、稼働しているインスタンスが何百台もあったり、AWSだけでなくAzureやGoogle Cloudなど、自社でマルチクラウドを使い分けていたりするケースもある。

複雑なマルチクラウド・アーキテクチャに対してのパフォーマンスやコスト管理には膨大な時間がかかり、それらのリソースを完全に最適化し、コストを管理するのは非現実的であると考えられる。

さらにクラウド領域に関する高度な専門知識を有するエンジニアが、こうした作業に多くのワークロードを費やしている点にも課題がある。


クラウドのビジネス価値を最大化するFinOpsの導入と実践 

前述の課題に対する解決策として、FinOpsに注目が集まっている。

FinOpsとは、財務(Finance)とDevOpsを組み合わせた造語であり、クラウドリソースのコスト管理と最適化においてビジネス価値の最大化を目的とした方法論である。

グローバルではFinOpsの標準化を目指し、非営利の業界団体「FinOps Foundation」が設立され、Linux Foundationの一員として活動している。

このFinOpsという規律は、米国ではすでに業界標準となっており、2024年11月には日本支部も設立された。さらに2025年3月にはオライリー・ジャパンから『クラウドFinOps 第2版』が出版され、日本国内でも注目が高まりつつある。

FinOpsではInform、Optimize、Operateという、以下の3つのライフサイクルが基本とされている(図表2)。

図表2 Inform、Optimize、Operate



Inform
最初のステップとして、クラウド利用状況を可視化し、すべての利害関係者に対して、どのリソースにいくら費用がかかっているかといった情報を提供する。これにより、費用対効果の高い意思決定を行うために必要な理解を促す。

Optimize
可視化されたデータを基に、コスト削減の機会を特定する。多く利用されているリソースには投資を行い、不要なリソースは適切にサイジングし、無駄なコストを削減する。

Operate
リソースの調整を自動化することで、運用への人為的な介入を削減する。FinOpsの推進に向けて、パフォーマンス管理の自動化を進め、コスト最適化の取り組みを持続的に実現する。

FinOpsの導入により、クラウドコストの大幅な削減が実現するだけでなく、コストのリアルタイムでの可視化、迅速かつ柔軟な予算調整、そしてリソース利用の最適化が可能となる。

これによって、ビジネスのスピードと柔軟性が大きく向上し、競争力の強化にも繋がる。

テクノロジー投資の成果を最大化するには、クラウドコストの適切な管理が不可欠である。IBMでは、これを実現するために、IBM Turbonomic、IBM Cloudability、IBM Kubecostという3つのFinOps製品を提供している。

それぞれの製品の特徴を順に紹介していこう。

IBM Turbonomicで実現するリソース最適化

IBM Turbonomicはクラウド移行計画の策定支援ツールであると同時に、リソース最適化ツールとしての一面も持つ。

クラウド環境のインフラ運用では、柔軟性とスケーラビリティに加えて、コスト管理の複雑さという新たな課題が生まれる。「必要なときにリソースを増やし、不要になれば削減できる」というクラウドの利点は、手動運用ではその真価を十分に発揮できない。

特にIBM iを含む業務システムをクラウドに移行した場合、移行直後はオンプレミス時代の構成をそのまま引き継ぐケースが多く、リソースが必要以上に割り当てられていることが少なくない。

結果として、CPUやメモリの利用率は低いにもかかわらず、インスタンスコストが高止まりするという非効率な状態に陥りやすい。

こうした状況に対し、IBM Turbonomicは継続的かつ自動的にリソースを最適化するための仕組みを提供する。クラウド上の各リソースにおける実際の使用状況を収集し、アプリケーションパフォーマンスを損なわずに必要最小限の構成へと調整を提案・実行する。これにより、コスト削減とパフォーマンス維持の両立が可能となる。

リソースの配置や割り当てで、IBM Turbonomicは単なる閾値ベースのルール設定のほかに、アプリケーションのパフォーマンスに基づいて、自動的に判断・実行できる点が特徴として挙げられる。

たとえば、クラウド環境の特定のワークロードでCPUやストレージI/Oの使用率が高騰し、アプリケーションの応答時間が悪化するようなケースでは、IBM Turbonomicがそのボトルネックをリアルタイムに検知し、処理の分散やリソースの再割り当てといったアクションを自動的に提案・適用する。

これにより、ユーザーへの影響が顕在化する前に性能劣化の原因を除去し、システム全体の健全性を保つことが可能となる。

さらに、複数クラウド環境をまたいだリソース管理にも対応しており、ハイブリッドクラウド構成でも一貫した最適化が実現される。

たとえばIBM Cloud上のIBM iと、パブリッククラウド上のWebフロントエンドが連携するような構成でも、エンドツーエンドでのパフォーマンスとコストのバランスを自動的に管理できる(図表3)。

図表3 パフォーマンスとコストのバランスを自動的に管理

IBM Cloudabilityで実現するクラウドコストの可視化 

IBM CloudabilityはApptioの主力製品の1つであり、FinOpsの実践を支援するクラウドファイナンスソリューションである。

マルチクラウド環境に対して、リアルタイムのコスト監視、リソースの最適化、計画的な予算管理を通じて、クラウド環境を効率的に管理できる。それによってクラウドコストの透明性が向上し、無駄な支出を削減することにつながる。

たとえばIBM Cloudabilityを利用した横河電機では、結果として38%の削減効果が見られた。

ここからは、IBM Cloudabilityの機能について紹介していく。

UI/UXに優れたダッシュボード

ウィジェットがあらかじめ用意されており、これによってさまざまなステークホルダーからそれぞれの角度でクラウドコストを参照できる。

ウィジェットをカスタマイズして自分のダッシュボードを作成することも可能で、ファイナンスの担当者には月ごとの予実管理、プロジェクトマネジメントの担当者には使用率とコストの支出のグラフなど、それぞれに応じた形でビューを設定できる(図表4)。

図表4 ダッシュボードによるコスト管理



異常検知 

クラウド利用では、予期せぬコスト増加発生のリスクが常に存在する。コストの可視化が不十分な場合、月末に多額の請求額が判明するケースも少なくない。

この機能では、過去のコスト傾向に基づく統計的な標準偏差分析を通じて、通常とは異なる支出を自動検出し、即座にアラートを発報するため、日次単位で過剰なコスト発生を早期に検知可能である(図表5)。

図表5 異常検知

スコアカード

同規模のクラウドコストを支出している企業群を対象に、グローバル全体でクラウドコストを比較・分析することで、自社のコストマネジメント状況をベンチマークできる。

これにより自社のポジションを客観的に把握し、さらなる改善施策に活用することが可能となる(図表6)。

図表6 スコアカードによるコスト管理

ライトサイジング

リソース最適化を推進する中で、パブリッククラウドの膨大なインスタンスやサイズの選択肢の中から、常に最適なものを選定・維持するのは、人手による管理では限界があり、非常に困難である。

この機能では、クラウドの利用状況データに基づき、各リソースに対して最大5件の最適化提案を提示する。あわせて、提案を適用した場合に見込まれる最適化効果も可視化されるため、より精度の高い意思決定を支援する(図表7)。

図表7 ライトサイジング

コミットメントマネージャー

リザーブドインスタンス(RI)やSavings Plans(SP)の活用にあたっては、最適な選定・購入判断に加え、導入後のパフォーマンス把握や既存契約の管理が求められるが、これらの業務は煩雑であり、運用負荷も高いのが現状である。

この機能では、最適なRIやSPの選定を提案するとともに、各インスタンスにおけるパフォーマンス状況を可視化する。さらに、現在購入済みのRIやSPを一覧化し、使用率、契約年数、節約額などの情報を一目で把握することが可能となる(図表8)。

図表8 コミットメントマネージャー

コストの予測・予算管理

クラウドコストの予算策定にあたっては、今後のコスト推移予測が不可欠である。この機能では、過去の支出パターンをもとに今月のコスト予測を可視化できるほか、予測モデルを設定することで、中長期的な推移の見通しも提示可能である。

さらに、設定した予算に対して超過の兆候が見られる場合や、実際に超過した場合には、アラート通知によって早期対応を支援する(図表9)。

図表9 コストの予測・予算管理

さらにIBM CloudabilityはPremiumライセンスを提供しており、IBM Turbonomicとの連携が可能である。

IBM Cloudabilityのインターフェースから、IBM Turbonomicのリソース最適化レコメンドを表示でき、一元管理を実現する。これにより、効率的な意思決定が促進され、コスト削減の迅速な実行が可能となる。

IBM Kubecostが提供する新しいコスト管理の未来 

2024年9月にIBMがKubecost社を買収したことにより、IBM Kubecost が新たなFinOps製品として加わった。

Kubernetesクラスターの利用が増加する中、Kubernetesリソースに対するコストの可視化、管理、最適化が重要な課題となっている。これに対してIBM Kubecostを活用することで、Kubernetesリソースの使用状況をリアルタイムで可視化し、過剰利用によるコスト増加を早期に検知できる。

また、各部門のコンテナ使用量に基づいた課金が可能となり、コスト管理の精度が高まる。さらにマルチクラウド環境でも、複数のクラスターの使用状況を個別に、または統合して効率的に管理できる(図表10)。

図表10  IBM KubecostによるKubernetesリソースの管理

IBM Kubecostでは、オープンソースであるOpenCostというツールが用意されている。OpenCostを活用すれば、まずは小規模にスタートし、企業の進化に合わせて拡張していける。

またIBM Kubecostは無償ライセンスも提供しており、監視対象やデータ保持期間などに制約があるものの、開発環境でのコスト監視やPoC(Proof of Concept)、さらにはコスト意識の醸成を目的として導入するのに適している。

さらにIBM Kubecostのサンドボックス環境は、誰でもアクセス可能である。ぜひ、実際に機能を確認しながら、その使い勝手を試してほしい。

FinOps実践でクラウドコスト管理の最前線へ

IBM Turbonomicは、クラウド環境への移行に伴う課題を解決し、ハイブリッド環境でのリソース使用状況を可視化する。

またリソースの最適化を実施し、コスト効率を最大化する。クラウド移行後は、IBM Cloudabilityを活用してクラウドコストを可視化し、問題を迅速に特定、コスト削減を実現する。

さらにIBM Kubecostを利用することで、ハイブリッド環境におけるKubernetesのコスト監視と最適化を詳細に行い、全体の運用効率を向上させる。

適切なIT投資は、企業のビジネスパフォーマンスを最大化するための鍵となる。コストの可視化とコスト意識の共有は、FinOpsの実現に向けた重要な第一歩となるだろう。

著者
岩田 夏実氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 オートメーション・プラットフォーム事業部
テクニカルセールス

2018年から約6年間、SIerにてインフラエンジニアとして主にAWS環境の開発・保守を経験。2024年にIBM入社後、製品テクニカル・セールスとしてAIOpsポートフォリオ製品群を主軸に担当し、運用高度化の分野に注力しつつ、コミュニティ活動にも力を入れる。現在はApptio製品であるIBM Cloudabilityを主に担当し、FinOpsの分野で活動している。

著者
呉 与宸氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 オートメーション・プラットフォーム事業部
Automation Technical Specialist

2023年にIBM入社後、製品テクニカル・セールスとして一貫して運用高度化・FinOpsソリューションに携わる。現在はリソース最適化ソリューションであるIBM Turbonomicを主に担当し、FinOps分野に注力している。

*本記事は筆者個人の見解であり、IBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。


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