日本IBMが6月24日・25日に開催した「IBM i World 2025」の基調講演にIBM i CTO、Distinguished Engineerのスティーブ・ウィル氏が登壇し、「AI時代のIBM i製品戦略とロードマップ」と題して基調講演を行った。
講演の冒頭でウィル氏は、ここ数年来の講演と同じく、IBM iのグランドストラテジー(3つの製品戦略)と製品ロードマップなどに触れ、さらに今年4月発表のIBM i 7.6の4つの特徴について説明した。
ウィル氏は続けて、IBMが推進中のIBM watsonx Code Assistant for i(WCA4i)に話を進めたが、この中で新しい情報があったので紹介したい。
ウィル氏はIBM iの次(Next)として、「AIベースのIBM iへ進化する必要があります」と述べ、そのために「私たちはLinuxの世界にあるオープンソースを、より明確にIBM iに統合する能力を身につける必要があります」と断言した。
ウィルが上図を一般向けの講演で示したのは初めて。そして、次のように付け加えた。
「多くのIBM iユーザーはまだ、その能力を身につけていません。しかしAIの世界で起きていることの大半は、Linuxベースのオープンソースの世界で起きているのです。そのことを理解し、IBM iユーザーは現在のワークロードにオープンソースを組み込んでいく必要があります」
オープンソースに関する最近のIBM iのトピックスの1つとしてウィル氏は、「大規模な開発プロジェクトではRational Developer for i(RDi)を多くのユーザーが使用していますが、近年オープンソースのVisual Studio Code(VSCode)のプラグインであるCode for IBM iを利用するユーザーが増えています。今年、VSCode/Code for IBM iはRDiに追いつき、来年にはそれを上回るでしょう。また来年にはSEU/PDMと同等規模の利用数になると思われます」
WCA4iについては、次のように過去1年の取り組みを説明した。
「過去1年間、私たちは多くのお客様・パートナーからRPGコードを収集し、RPGを理解するための大規模言語モデル(LLM)のトレーニングを行ってきました。このLLMがWCA4iの核心を成しています。
現在、既存のRPGコードをモダナイゼーションするには複数のタスクが必要であることがわかっています。下図の円は、モダナイゼーションを進めながら新しい人材を投入していく際に必要な複数の段階を表しています。
下図の一番上の「理解」(Understand)では、開発プロジェクトを理解し計画を立案できる人材が必要です。それを終えて具体的なタスクを選択したら、そのタスクを担当する開発者がプロジェクトの内容を理解する必要があります。そのためには、ソフトウェアの内容を説明(Explain)するアシスタントが側にいるのが理想的です。そしてソフトウェアの説明だけでなく、新しいRPGコードまで効率的に生成(Generate)できればもっと理想的で、さらにアシスタントがテストコードまで生成できれば(Unit test)、生産性と品質は飛躍的に向上するに違いありません。
現在、そのようなツールは存在しません。私たちは現在、そのようなツールを目指して、ロードマップに沿って、一番最初の「理解(Underestand)」と「説明(Explain)」から始めています」
WCA4iの今後の方向性は、「AIエージェント」と、ウェル氏は語る。
「1年ほど前、市場の話題は大規模言語モデルでしたが、半年前からAIエージェントへ変わりました。
当時私はAIエージェントについて何も知りませんでした。そこでWCA4i開発チームのビジネスアーキテクト、ジェシー・ゴルジンスキーに説明を求めました。しかしそれでもAIエージェントをWCA4iでどのように活用すべきかイメージがつかめなかったので、スコット(フォスティー氏、Db2 for i開発責任者)とジェシーとリアム(アラン氏、Code for IBM i開発をリード)と議論を重ねてきました。そしてその活用について確信をもつように至りました」
ウィル氏は、WCA4iにおけるAIエージェントについて「あくまでも私の考え方」として、次のように説明する。
「AIエージェントは、特定のタスクを理解し、計画し、実行するために自律的に動作するアプリケーションです。AIエージェントはLLMを使用して推論し、ツールやその他のシステム、その他のLLMなどと連携して、ユーザーの目的に沿った回答を取得します。
その際、ツールや外部サービスなどにアクセスするためのオープンなプロトコルがMCP(モデル・コンテキスト・プロトコル)です。
たとえば私たちは、IBM iシステムで何が起きているのかを知ろうとする場合、Navigator for iやACSを使用します。Navigator for iやACSの裏側ではサービスやコマンドが走り、情報を取得しています。
WCA4iでは、チャットインターフェースを用いて、MCPクライアント経由でMCPサーバーにアクセスし、そのサーバー上でどのように指示内容を実行するか判断します。IBM iの場合、すでに多くのサービスが利用可能なため、MCPの利用は簡単です。
MCPクライアントは自律的で、独自に動作します。IBM iで必要なことは、IBM iのすべての機能をMCPクライアントやAIに公開し、Navigator for iやACSにログインしたのと同じように利用できるようにすることです。
実際、当社のエンジニアはMCP対応のAIツールを作成し、世界中に存在するMCPクライアントからそれらを呼び出すことができました。これがIBM iの未来の一部です」
最後にウィル氏は、IBM iのグランドストラテジーにおけるAI関連の取り組みを下図のように説明し、講演を締めくくった。
ウィル氏の基調講演「「AI時代のIBM i製品戦略とロードマップ」を含む6月24日・25日開催「IBM i World 2025」のWebリプレイセミナーが、7月29日(火)・30日(水)に実施される。
申込URL:https://ibm.biz/iworld2025ibmweb
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