第7回は石川県金沢市に、メーカー、ITベンダー、ユーザーで活躍する3名の若手担当者が集まった。
全員、学生時代にITを学び、オープン系の開発環境をよく知る彼らが、初めて5250画面を見たときに感じた戸惑い、衝撃、ショック。それが現在の充実感に変わるまでの過程を語り合う。
出席者 (写真左から)
原 勇気氏
澁谷工業株式会社
グループ生産・情報統轄本部
情報・知的財産本部
経営情報システム部
樋口 雄大氏
中橋システム株式会社
ソリューション開発部 開発四課
アプリケーションSE
斉藤 純氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
テクニカル・セールス
戸惑い、衝撃、ショック
初めて5250画面を見たとき
i Magazine(以下、i Mag) 最初に皆さんの自己紹介をお願いします。
樋口 金沢に本社があるITベンダーの中橋システムで、アプリケーションSEをしています。大学では情報学部でCやJavaなどの開発言語を学び、ITベンダーで仕事をしたいと考えて入社しました。今年で10年目になります。当社はIBM i上で稼働する建材・住宅設備メーカー向けの基幹システム「Expert-Ns」を開発・販売しています。私はRPG Ⅳを活用しながら、お客様先で求められるカスタマイズ開発や新規開発に対応し、要件定義や設計、開発、導入作業、運用支援などに従事しています。
斉藤 2024年4月に日本IBMに入社し、今年で2年目です。大学では電気工学科で無線通信に関する技術を専攻し、プログラミングの知識なども学んでいたので、IT系への就職を希望していました。今はテクニカル・セールス、いわゆる技術営業として、IBM PowerおよびIBM iやAIXなどについて、お客様先に伺って最新の技術情報をお伝えしたり、セミナーなどで解説したりしています。
原 金沢に本社を置く澁谷工業の経営情報システム部で、SEをしています。当社は飲料等をペットボトルやびんといった多様な容器に充填するボトリングシステムや包装システムなどを製造する機械メーカーで、いわゆるユーザー企業のSEとして、主に要件定義や設計作業に従事しています。入社して11年目で、最初からIT部門の所属です。いまは、IBM i上で稼働する営業系システムの再構築プロジェクトに携わっています。大学は情報系で、CやPHPなどの開発言語を学びました。当社では標準言語としてRPG Ⅳが必須で、それに加えDelphi/400を使用したDelphiアプリケーションとPHPでWebアプリケーションを開発しています。
i Mag 皆さん、入社してから一定期間の教育を受けたうえで、IBM iに向き合うことになったと思いますが、そのときのIBM iの第一印象を教えてください。
樋口 私は入社前にEOL/400を渡されて、IBM iやRPGについて予習したうえで、入社後すぐに実践教育が始まりました。先輩から指導されたり、アドバイスを受けながら、少しずつ実践の場に出ていく、いわばOJTのような形です。初めて実際に5250画面を見たのは、入社後の教育が始まってすぐでした。正直に言うと、ちょっと驚きました。黒画面に驚いたというより、RPGの固定フォーマットなど、自分が大学時代に学んだオープン系の言語とあまりに違うので、それに驚いた覚えがあります。でもRPGは命令言語の使い方が決まっているので、それを覚えてさえしまえば、初心者でも使いやすい言語だと思います。入社後3カ月ぐらいでコマンドに慣れるとともに、最初の驚きは消えていき、今では当たり前にRPGを使っています。

斉藤 私も正直に言うと、初めて見た5250画面は衝撃でした。学生時代はVisual Studio Codeで開発していて、それまでの人生で一度もファンクションキーを使ったことはありませんでした。「ファンクションキーってなんだ、それどこにあるんだ」という感じで、おおいに戸惑いました。若手の先輩が勉強会を開いて指導してくれるのですが、先輩が慣れた感じで操作していくのに、自分はついていけない、追いていかれるという焦りを感じましたね。配属は入社が決まった時点でわかっていたので、IBM PowerやIBM iを担当していくのに迷いはなかったのですが、操作性の違いには慣れなくて、「自分はこれからやっていけるだろうか」と、少し自信をなくしかけたこともありました。今年に入ってやっといろいろ慣れてきて、自信を取り戻してきたところです。
原 当社は入社後、ITを対象にした6カ月間の研修があります。最初の2カ月はDelphi、次の2カ月はPHP、そして最後の2カ月がRPG Ⅳです。DelphiとPHPは基本的にIBM iのDb2と連携したアプリケーション開発ですが、一部のアプリケーションはオープン系DBと連携し、オープン系の環境で開発します。大学時代にPHPを学んでいたこともあって、どちらも違和感なく進められたのですが、RPG Ⅳになって、あまりに違うのでショックを受けました。RPG Ⅳは固定フォーマットだったのですが、桁位置が固定されているといった使い方そのものが初めてで、苦手意識がいつまでも消えなかったです。実際のところ、私がRPGを使っていたのは最初のころだけで、すぐにDelphiとPHPが中心となり、そのバックエンドでプロシージャーとして少しRPG Ⅳを使うといった感じでしたね。
IBM iに関する仕事
よさ、やりがい、姿勢について
i Mag メーカー、ITベンダー、ユーザーというそれぞれの立場から、IBM i関連の仕事を進めるうえで、IBM i市場全般に関する希望・要望・期待などがあればお話しください。
樋口 やはりネットを検索しても、IBM i関連は情報が少ない、古い、わかりにくいというのが悩みです。なにか不明なことがあると、詳しい先輩に尋ねたり、IBMに聞くことになります。今は生成AIなどのツールもあるので、チャットボットなどを充実させて、すぐに必要な情報が得られるような環境になると助かります。
斉藤 それを言われるとちょっと辛いですが、情報の少なさは確かにご指摘のとおりです。私は日本IBMにいるので、情報を発信する側です。会社としても情報の少なさは認識していて、チーム全体で情報発信に努めています。以前よりも増えてきたとは思いますが、まだまだ少ないですよね。私も日頃から、誰かが必ずこの情報を必要としていると信じて、情報発信するように努力しています。自分のメモ代わり、勉強の記録としても、Qiitaなどに書き込むようにしています。
原 私はかなり最近までIBM iに苦手意識があったので、実はあまりIBM iの情報に接してきませんでした。学生時代に自分が学んできたオープン系の環境、つまり自分の得意な領域で勝負する機会が多くあって、同じアプリケーションを開発するにしても、IBM iよりオープン系環境のほうが開発スピードも早いし、作りやすいと感じていました。だから実際のところ、i Magazineもあまり読んでいなかったです(笑)。でも最近、Rational Developer for i(RDi)やACSを使いだし、オープン系と同じように開発できることを理解しました。またオープン系サーバーのバージョンアップが本当に大変で、何度も苦労した経験から、IBM iのよさに気づくようになりました。だから最近はi Magazineを隅から隅まで読んでいますし、役に立つと感じる記事もずいぶん増えました(笑)。

i Mag 皆さんよりさらに若い世代、つまり後輩たちにIBM iの仕事のよさややりがいを伝えていくには、何が必要だと思いますか。
原 私は先ほど、ずっとIBM iが苦手で、最近になって「プラットフォームとしてのIBM i」のよさに気づいたとお話ししました。理由は、IBM iでも新しい開発環境を使用できることや、オープン系サーバーのバージョンアップの大変さにありますが、もう1つきっかけがあります。それは、経済産業省が公開した例の「2025年の崖」です。あのなかで、レガシーシステム化の問題が指摘されていて、それは当社にとっても現実的な課題です。だから当社の問題として、そして自分の将来やキャリアを考えたうえでの自分自身の問題として、つまり2025年の崖を「自分ごと」として考え始めたのです。IBM iの歴史や優位性、必要性などについて情報を集めるうちに、「なぜIBM iなのか」がすとんと腹落ちしたというか、理解が一気に進みました。IBM iが苦手だった自分がここ数年、いろいろと読んで、考えて、向き合い方が変わった経緯を、後輩たちにぜひ伝えていきたいと思います。
斉藤 いい話ですね。私が自分の経験のなかで最も有意義であったのは、お客様と会話することだと思っています。テクニカル・セールスというのは、実際の開発・運用に携わる機会がないので、実際の経験や意見をお聞きして、気づきを得たいと考えていました。でもお客様のなかには、ITやIBM iに本当に詳しいプロフェッショナルな方々がたくさんいて、自分がIBM PowerやIBM iの最新情報を説明しに伺ったにもかかわらず、逆にお客様から知識を授けていただき帰ってくることが多かったです。お客様と会話すると、こういう詳しい方々と有意義な会話ができるようになりたいと、やる気が沸き上がってくるのを感じました。お客様と話すことの大切さを、後輩たちにうまく伝えていければと思っています。
樋口 それは同感です。私はITベンダーの立場ですが、お客様と話して、何に困っているか、何を目指しているかをお聞きして、システムとして実現し、作り上げていくことが何より楽しいし、魅力的で、貴重な経験になると思います。この現場体験が何より人を育てていくということと、IBM iのよさについて私も後輩たちに伝えていきたいです。
i Mag ITの仕事をしているなかで、一番充実感のある瞬間、楽しさを感じる瞬間はどういうときですか。
樋口 やはりお客様から現場で、「すごく使いやすくなった」「このシステムを導入してよかった」とのご意見やご感想をお聞きするときです。この瞬間が最も充実していますし、やりがいを感じます。
原 私はユーザーの立場ですが、アプリケーションを開発して、エンドユーザーに喜んでもらう瞬間に、同じような充実感があります。その点はメーカーでもITベンダーでも、そしてユーザーのIT部門でも同じですね。それから私は、今やっていることが、つまり自分が開発に携わっているシステムが、会社の大きな目標に貢献している、あるいは部門・部署の重要な問題を解決に導いていると感じる瞬間がとても好きです。
斉藤 私はなにか新しい技術、難しい技術を理解できた瞬間に、とても充実感、達成感を感じます。IT業界では常に新しいテクノロジーが登場しているので、理解するための努力は尽きることがありません。
これからのキャリアプラン
どんな将来を目指すか
i Mag 最後に皆さんの将来の目標を教えてください。
樋口 プロジェクトマネージャーを目指すことです。設計・開発のスキルを継続的に獲得していくことはもちろんですが、それに加えて、プロジェクトのスケジュールや人員配置、お客様との調整といったマネジメント能力を身に付ける必要があり、今それを勉強しています。それからIBM iはアプリケーションとインフラが密接に連携しています。アプリケーション面の知識だけでなく、IBM Power、IBM iというインフラ面の知識ももっと身に付けて、IBM iに関するお客様の質問になんでもお答えできるように知識を増やしていきたいです。
斉藤 日本IBMの担当者として、IBM PowerおよびIBM iの知識やスキルを増やしていきたいと思います。今までのスキル継承はもちろん、IBM iはいろいろと新しい機能が登場しているので、それらの最新テクノロジーをキャッチアップしていきたいです。昨年から日本IBMがスタートさせたIBM iの若手技術者コミュニティ「RiSING(ライジング)」は、今年も継続していきます。私は直接の担当ではないのですが、自分に年が近い若手の先輩がコミュニティを盛り上げているのを間近に見て、自分にもいろいろとできることがあるという自信につながっています。若手の裁量でいろいろなことにチャレンジできる部署なので、IBM i市場の活性化に向けて努力していきたいです。

原 私はユーザー企業のシステム部門にいるエンジニアとして、成長していきたいです。IT市場に身を置いているわけですが、自分が属している会社は製造業ですので、DXやスマートファクトリーなど、自分の個性を出しつつ、会社の成長に貢献していければと考えています。ただし、私はIBM iが好きですが、IBM iに関してやりたくない仕事もあります。たとえばRPG Ⅲをメンテナンスするとか、桁あふれを修正するとか、不要な作業はできるだけ減らして、本来の業務に集中できるような環境にしていきたいです。そのために、RPG ⅢからRPG ⅣあるいはFF RPGへのコンバート作業を実施するとか、自動化・効率化の仕組みを実現していく必要があると考えています。
撮影:林 賢一郎
[i Magazine 2025 Summer掲載]