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本番機はオンプレミス、開発区画はPowerVSというハイブリッド環境を実現  ~移行・運用支援サービス「PVS One」の利用で、開発区画をクラウドへスムーズに移行 |ルビコン株式会社

ルビコン株式会社
本社:長野県伊那市
設立:1952年
資本金: 3億9600万円
売上高:593億円(2025年3月期、連結)
従業員数:1318名(グループ総従業員数 2635名)
概要:各種コンデンサおよびスイッチング電源の開発、設計、製造および販売
https://www.rubycon.co.jp/

本番環境はオンプレミスで
開発環境はクラウドで

長野県伊那市。森のように樹々が連なる広大な敷地にルビコンの本社がある。同社は、アルミ電解コンデンサを主力とする電子部品メーカーである。主な製品にはアルミ電解コンデンサをはじめ、フィルムコンデンサ、PMLCAPなどの各種コンデンサ、スイッチング電源などがあり、設計から製造・販売までを一貫して手掛けている。AV機器や家電製品、自動車、産業機器、医療機器など幅広い分野で採用されており、顧客の数は世界で5000社以上に上っている。

同社では1990年代に、海外拠点でAS/400の利用を開始し、以降、数年周期でマシンをアップグレードしてきた。本社はもともと国産メインフレームのユーザーであったが、2017年にIBM iへ移行。このとき、メインフレーム上で稼働していた販売管理や生産管理などのCOBOLプログラム(バッチ系)をIBM iへコンバージョンし、ユーザー・インターフェースはWindowsアプリケーションに刷新している。

IT運用を担当する情報システムセンターには総勢21名が在籍するほか、生産技術を担当する別部署には工場系システムの担当要員が8名所属している。

情報システムセンターは、IBM i上で稼働する基幹システムに従事する基幹システム係と、BIなどのオープン系アプリケーションやネットワークなどを担当する情報系係に分かれている。RPGやCOBOLを使用する開発者と、オープン系のVisual BasicやSQLなどのスキルをもつ合計13名ほどの開発者が内製による開発体制を支えている。

同社は、次のマシンの更新時期である2025年2月に向けて、前年5月ごろから次期システムの検討を開始した。Power 9からPower 10へ、OSは7.3から7.5への移行である。

それまではPower 9を搭載した本番機1台を本社に設置し、本番用と開発用に2つのLPARを設定していた。またこれとは別に、遠隔地にある支店にコールドスタンバイ用のIBM Powerをもう1台設置。通常はLTOにバックアップデータを保存し、本社のサーバールームとは別棟にある金庫に保管する。本番機が何らかの理由で利用不能になった場合は、LTOを支店に運び、コールドスタンバイ用マシンを設定して本番機として運用するという体制であった。

更新に際しては、システム支援などで長い付き合いがある、長野市に本社を置く炭平コンピュータシステムから従来どおりのシステム内容で提案があった(別のITベンダーからも同様の提案があったという)。つまり本番機をリプレースして、2つのLPARを設定する一方、災対機としてもう1台設置するという構成である。

これとは別に、同社ではクラウドサービスにも関心があり、MONO-X(当時のオムニサイエンス)ともコンタクトを取っていた。IBMが提供するIBM iのクラウドサービスである「Power Virtual Server」(以下、PowerVS)への移行・運用支援サービス「PVS One」を提供するMONO-Xからは、本番機や災対機も含めてすべてクラウドサービスへ移行するという提案が出された。

「炭平コンピュータシステムは当社のシステムを熟知しているので、できれば付き合いを続けたいと考えていました。一方で、BCP対策の強化は当社の重要テーマであり、今以上の体制を構築したいという要望がありました。そして将来を見据えて、クラウドサービスの知見を少しでも増やしたいとの思いもありましたが、本番機・災対機を含めてすべての環境をクラウドへ移行するには、まだためらいがありました」と、情報システムセンターの元吉功センター長は当時を思い返す。

元吉 功氏

そこで同社が検討したのは、次のような構成であった。本番機は今までどおりオンプレミスで運用し、設置場所としてはデータセンターへ移設してBCP対策水準を引き上げる。その一方、開発区画はクラウドサービス上に設定するという、いわばハイブリッド構成案である。

データバックアップは
Data DomainとICOS間で

検討を開始してから2カ月ほど経過したころ、炭平コンピュータシステムとMONO-Xが窓口を一本化することを決定した。移行プロジェクトは炭平コンピュータシステムが担当し、PVS Oneによる実際の移行・運用作業はMONO-Xが担うという役割分担である。炭平コンピュータシステムとMONO-Xの2社体制で、同社が考えていたハイブリッド構成案を実現する。この提案が2024年10月に正式決定し、同月から移行プロジェクトがスタートした。

オンプレミスで運用する本番機は外部のデータセンターに設置。開発区画はPowerVS上に置き、データセンターとPowerVS間のネットワークを設定する。またLTOによるバックアップを廃止し、本番機側はData Domain、PowerVS側はICOSにデータを保存し、それぞれのデータを双方にバックアップする。

MONO-Xのバックアップアセット「PVS One R2」を使ってオンプレミスの本番データを日次でICOSに遠隔保管し、有事に備えている。

「通常時はPowerVSを開発用として利用しますが、有事の際はICOSからデータをリストアし、リソースを増強して、PowerVSを本番環境として活用することも想定しています」と語るのは、北原直泰リーダー(情報システムセンター 情報システム課 基幹システム係)である。

北原 直泰氏

検討時には当然ながら、ハイブリッド運用で求められるコストも精査した。

「前回の更新時である2019年に比べると、物価高や為替変動など環境要因が大きく変わったので、前回より相当コストが上がると覚悟していました。しかし2台目の災対機が不要になり、本番機上のLPARも設定不要になったことで、結果的には想定よりも低コストに抑えられました」(元吉氏)

旧本番機から新本番機へのデータ移行に想定以上の転送時間がかかり、ライブラリーを整理するなど、途中、移行スケジュールや移行対象の確定に苦労もあったが、移行は当初の予定どおり、2025年2月に完了し、同月から運用を開始した。支店に設置していたコールドスタンバイ用の災対機もこれ以降に撤去している。

「クラウドの知見を増やしたいという思いで、開発区画のみをPowerVSで運用したのですが、実際に利用し始めるとオンプレミス環境での操作感と何も変わることはなく、通常の運用管理業務の負担が軽減されるメリット以外に違いを感じることはありませんでした」(北原氏)

コストやセキュリティ、リソース、BCP対策など検討事項は多いものの、今回の開発区画での運用経験を糧に、将来的には本番環境を含めた完全クラウド化を目指していきたいとしている。

図表1 オンプレミスとクラウドのハイブリッド構成

 

 [i Magazine 2025 Autumn号掲載]

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