Power10搭載モデルの特徴
Power10プロセッサを搭載したIBM Powerのモデルは、小~中規模システム向けのサーバーであるスケールアウト・モデル、大規模システム向けのサーバーであるエンタープライズ/スケールアップ・モデルで構成される。
それぞれのモデルには、以下のマシンタイプ・モデルが存在する(図表1)。

◎スケールアウト・モデル
Power S1012(9028-21B)
Power S1014(9105-41B)
Power S1022s(9105-22B)
Power S1022(9105-22A)
Power S1024(9105-42A)
Power L1022(9786-22H)
Power L1024(9786-42H)
◎エンタープライズ/スケールアップ・モデル
Power E1050(9043-MRX)
Power E1080(9080-HEX)
*IBM iは、Power E1050 を除くマシン上で稼働する。
スケールアウト・モデルとエンタープライズ・モデル
スケールアウト・モデルは、1ソケット2U/タワーのPower S1012、1ソケット4U/タワーのPower S1014、2ソケット2UのPower S1022/S1022s/L1022、2ソケット4UのPower S10
24/L1024の7モデルで構成される。
Power L1022、Power L1024はLinux用に提供されているモデルであるが、コアの25%まではAIX、IBM i区画を構成することが可能である。
Power S1012、Power S1014、Power S1022sは、エントリーモデルの位置づけとなる。これら3モデルのPower10プロセッサはシングルチップ・モジュール(SCM)、Power S1022/L1022、Power S1024/L1024はデュアルチップ・モジュール(DCM)である。
一方のエンタープライズ/スケールアップ・モデルは、Power E1080がIBM iでサポートされる。
Power10プロセッサの概要は、図表2のとおりである。

Power10プロセッサの機能であるAI推論、機械学習を実行するMatrix Math Accelerator(MMA)、透過的なメモリ暗号化は、すべての Power10モデルで利用可能である。
ZLIB
IBM i 7.5で追加されたデータ圧縮のためのZLIBアルゴリズムは、Power10プロセッサのオンチップNest Accelerator(NX)GZIPを自動的に使用することで、少ないCPU負荷で、より高速に圧縮オプションを実行できる。
メモリ
メモリは、Differential Dual Inline Memory Module(DDIMM)テクノロジーを採用し、業界標準のISDIMMと比較してメモリ可用性が2倍に向上している(Power S1012 は ISDIMMを使用)。
DDIMMは、Power10マシン発表の時点ではDDR4であったが、2024年7月よりDDR5メモリが提供されるようになった。DDR5 DDIMMメモリは2つのDRAMポートを備え、DDR4 DDIMMメモリと比べてバンド幅やエネルギー効率、ロードのレイテンシーが大幅に向上している。
メモリに関しては、POWER9ではエンタープライズ・モデルのみで利用可能であったActive Memory Mirroring(AMM)が、Power10ではスケールアウト・モデルでも構成可能になった(Power S1014、S1012 を除く)(図表3)。

AMMの構成によってPowerVMハイパーバイザーで使用される重要なメモリ領域が2重化され、システムの可用性が向上する。AMMを構成する場合は、メモリDIMMを最低8枚(4フィーチャー)構成する必要がある。
PCIeスロット
Power10マシン本体の PCIeスロットは、Gen5が採用されている(一部スロットはGen4)。I/O拡張ドロワーは、PCIe Gen4用およびGen3用のドロワーが接続可能である(Gen3用ドロワーは営業活動終了済み)。
I/O拡張ドロワーには6スロットのFanOutモジュールが2台搭載可能で、合計12スロットを提供する。ただし、FanOutモジュールを1台接続するためには本体にPCIeアダプターが1枚必要になるため、I/O拡張ドロワーを1台接続することで増加するPCIeスロットは、10スロットとなる。
内蔵ディスク
Power10マシン本体の内蔵ディスクは、NVMeドライブのみとなる。
Power S1014、S1024/L1024では、NVMe U.2ドライブが8スロットのバックプレーンを2台まで構成可能で、最大16ドライブを搭載できる。
Power S1022、S1022sでは、NVMe U.2ドライブが4スロットのバックプレーンを2台まで構成可能で、最大8ドライブを搭載できる。
IBM iではNVMeドライブはIBM i 7.4 TR1以降でのサポートであるが、Power10 SCOモデルではIBM i 7.3でもサポートされるようになった。
Power E1080は、システム・ノードに15mm NVMe ドライブ2スロット、または7mm NVMe ドライブ4スロットのバックプレーンを構成できる。
NVMeドライブ用の拡張ドロワー(NED24)により、ドロワーあたり24ドライブを構成できるが、NED24を接続するにはプロセッサが2ソケット以上の構成が必要になる。また、NED24を接続するために必要となる本体側のPCIeアダプターが、I/O拡張ドロワーを接続するためのPCIeアダプターと共通であるため、NED24を接続することでI/O拡張ドロワーの台数が減ることになる。
HDD、SSDドライブは、EXP24SX SASストレージ・エンクロージャを接続することで構成可能になる。
EXP24SXを接続するためのSASアダプターは、従来のアダプターがPower10 SCOモデルでもサポートされる。EXP24SXおよびSASアダプターは営業活動終了済みである。
サービス・プロセッサ
Power10モデルのサービス・プロセッサは、これまでのFSPに代えてenterprise Baseboard Management Controller(eBMC)が搭載される(Power E1080を除く)。eBMCはPCIeアダプターで、HCM/ASMIを接続するEthernetポート、UPSケーブルを接続するUSBポートが提供される。
FSPを使用するシステムでは、仮想化を管理する情報はFSPを介してHMCと通信されるASMIが、eBMCでは、HMCがサーバーのFWスタックと直接通信する。また、ASMIを使用する際の画面が一新されている。
IBM iで構成可能なPower10の各モデルの特徴
次に、IBM iで構成可能なPower10の各モデルを見ていこう。
Power S1012(9028-21B)
Power S1012 は2024年5月発表の最新モデルで、2Uハーフサイズまたはタワーのコンパクトな筐体が特徴である。
Power10プロセッサは、シングルチップ・モジュール(SCM)の1コア、4コア、8コアが提供される。メモリは最大256GB、内蔵NVMeは800GBまたは1.6TBドライブを4ドライブまでの構成で、最大容量は 3.2TBである。
1コア・プロセッサはIBM iのみで構成が可能で、1区画のみとなる。メモリは64GB、内蔵NVMeは800GBまたは1.6TB ドライブを2ドライブまでの構成で、最大容量は3.2TBである。
4コア、8コア・プロセッサでは、AIX/IBM i/Linuxの構成が可能である。4コア・プロセッサで IBM iを構成する場合は、メモリは32GBまたは64GBの構成となる。
Power S1012 の筐体は、1コアではタワー型のみ、4コアではラック型、タワー型の選択が可能、8コアではラック型のみとなる
Power S1014(9105-41B)
Power S1014は1ソケットのエントリーモデルで、4Uラックマウントまたはタワー型の筐体が選択可能である。
Power10プロセッサは、シングルチップ・モジュール(SCM)の4コア、8コア、24コアが提供される。IBM iが使用できるのは、4コア、8コアのモデルである。
メモリは最大1TB、内蔵NVMeは最大16ドライブ搭載可能である。
4コア・プロセッサのIBM i構成では、メモリは最大64GB、内蔵NVMeドライブは最大6.4TBとなる。また、拡張I/Oドロワー、拡張ディスク・エンクロージャは接続できない。
Power S1014の4、8コア構成では、200V/100V電源機構を選択できるので、100V電源で使用することが可能になる。
Power S1022s(9105-22B)
Power S1022sは、2Uラックマウント・モデルである。
Power10プロセッサはシングルチップ・モジュール(SCM)の4コアまたは8コアで、2ソケットの構成が可能である。
メモリは最大2TB、内蔵NVMeは最大8ドライブ搭載できる。
IBM iでのサポートは、4コア2ソケット構成の場合はネイティブ環境でサポートされる。8コア1、2ソケット構成ではVIOS仮想環境でのサポートで、最大4コアまでのIBM i区画を複数構成可能である。4コア1ソケットの構成では、IBM iはサポートされない。
プロセッサが4コア1、2ソケットまたは8コア1ソケットで、内蔵NVMeドライブが4ドライブまで、拡張ドロワーを接続しない構成の場合は、200V/100V電源機構を選択できるので、100V電源で使用することが可能になる。
Power S1022(9105-22A)
Power L1022(9786-22H)
Power S1022/L1022は、2Uラックマウント・モデルである。
Power10プロセッサはデュアルチップ・モジュール(DCM)の12コア、16コア、20コアで、12コアは1ソケットまたは2ソケット、16、20コアは2ソケットの構成である。
メモリは最大4TB、内蔵NVMeは最大8ドライブ搭載可能である。
IBM iはVIOS仮想環境でのサポートで、1区画に構成できるコア数は最大4コアに制限される。
Power S1022s/S1022/L1022は奥行きが812mmと長いため、ラックへ搭載する際の考慮点がある。IBM S42ラックへ搭載する場合には、下記のいずれかの対応が必要になる。
● ラック・エクステンションを構成して、ラックの奥行きを伸ばす
● ケーブル・マネージメント・アームを取り付けない
● ラックの背面ドアを取り外す
Power S1024(9105-42A)
Power L1024(9786-42H)
Power S1024/L1024は、4Uラックマウント・モデルである。
Power10プロセッサはデュアルチップ・モジュール(DCM)の12コア、16コア、24コアで、12コアは1ソケットまたは2ソケット、16コアと24コアは2ソケットの構成である。
メモリは最大8TB、内蔵NVMeは最大16ドライブ搭載可能である
Power S1022、S1024は、スケールアウト・モデルで初めてプロセッサのCapacity Upgrade on Demand(CUoD)をサポートした。CUoD のサポートにより、将来のワークロードの成長に合わせて、プロセッサの活動化コードを段階的に追加することで、サーバー導入時の初期投資を抑えられる。
Power S1022、S1024は、Power Private Cloud with Dynamic Capacity(PEP 2.0)をサポートする。PEP 2.0 のサポートにより、プール内のサーバー間でプロセッサ・リソースを共有して効率よく使用できる。
また、プール内のリソースを超えたワークロードが発生した場合には、分単位の従量制でダイナミックにリソースを追加して使用することが可能になる。PEP2.0のプールは、Power S922、S924のGモデルと混在が可能なので、POWER9からPower10への移行の際にも活用できる。
Power E1080(9080-HEX)
Power E1080はエンタープライズ/スケールアップ・モデルで、5Uのシステム・ノードと2Uのコントロール・ユニットで構成される。システム・ノードは最大4台までの構成が可能で、マルチノードによる高度な可用性を実現する。
Power10プロセッサは、シングルチップ・モジュール(SCM)の10、12、15コア、ノードあたり4ソケットの構成で、4ノード構成では最大240コアとなる。
メモリはノードあたり最大16TB、4ノードで最大64TBとなる。
内蔵PCIeスロットは、ノードあたりLow ProfileのGen5スロットが8スロットある。また、Gen4拡張I/Oドロワーをノードあたり4台接続できる。
内蔵NVMeは、ノードあたり15mm厚のドライブを2ドライブまたは7mm厚のドライブを4ドライブ構成できる。また、NVMe拡張ドロワー(NED24)をノードあたり2台接続することが可能である。
Power E1080のプロセッサ、メモリはCuDに対応しており、Capacity Up
grade on Demand(CUoD)による段階的なアップグレード、Elastic CoDにより一時的なワークロード増加への対応が可能である。また、PEP 2.0 のサポートにより、プール内でのリソースの共有や、分単位の従量制での一時的なリソース拡張に対応する。
プロセッサ・グループ
IBM iソフトウェアのライセンスは、ハードウェアモデル/マシンサイズに基づいて決定される。Powerハードウェア・プラットフォームには、3つのマシンサイズ・グループ(Small、Medium、Large)が存在する。IBM iの場合、マシンサイズ・グループにマップされるプロセッサ・グループ(別名「ソフトウェア層」)が存在する。
・Small:プロセッサ・グループ P05、P10、P20
・Medium:プロセッサ・グループ P30
・Large:プロセッサ・グループ P50(現在は使用されていない)
Power10マシンのプロセッサ・グループは、図表4のように分類される。

これらのすべてのグループは、IBM iライセンス移転グループにもマッピングされる。
プロセッサ・グループ P05/P10 のマシンは、IBM iライセンスはプロセッサ・ライセンスとユーザーライセンスの両方が必要になる。
プロセッサ・グループP20/P30のマシンは、IBM iライセンスはプロセッサ・ライセンスのみであるが、5250対話型ワークロードを使用する場合には、ハードウェアの5250 Enterprise Enablement機構を使用するプロセッサ・コア数分が必要になる。

著者
三神 雅弘氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power テクニカルセールス
新・IBM i入門ガイド[基礎知識編]
01 IBM iの歴史
02 IBM iの基本用語
03 IBM iの仮想化
04 Powerの仮想化
05 IBM iのストレージ・サポート
06 IBM iのインターフェース
07 IBM iとデータベース
08 IBM iとファイル・システム
09 IBM iと文字コード
10 IBM iとOSSサポート
11 IBM iのHA/DR
12 Power10のポートフォリオ
13 Powerプロセッサの歩み
14 IBM iのLPMとCoD
15 IBM Power Virtual Serverの概要
16 IBM iのライセンス
17 基礎知識編FAQ
[i Magazine 2025 Summer号掲載]