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生成AIの衝撃が会社を変えた 社長交代に見えるMONO-Xの戦略とこれから  ~MONO-X 藤井星多氏(代表取締役会長)、下野皓平氏(代表取締役社長)

2025年6月、MONO-Xはそれまで社長であった藤井星多氏が代表取締役会長に就任し、取締役であった下野皓平氏が代表取締役社長に就任することを発表した。社長交代の背景には、どのような考えがあるのか。藤井氏と下野氏にその理由とこれからの事業戦略を聞く。

生成AI登場の衝撃
これからのビジネスが変わる

i Magazine(以下、i Mag) 今年6月に今まで社長であった藤井さんが代表権のある会長に就任し、下野さんが代表取締役社長に就任されました。この理由を教えてください。

藤井 その起点には、生成AIの存在があると考えてください。私にとって、また当社にとっても、大きな転回点となったのは、生成AIの登場でした。2022年12月にChatGTPを初めて触ったとき、私は大きな衝撃を受け、今後のビジネスが確実に変わっていく予感を抱きました。生成AIという大波が到来し、今まで積み上げてきたものの一切が無に帰す、というと少し大げさですが、単なる開発受託に依存するIT業界は、あっという間にオワコン化していくだろうとまで考えました。要件を伝えると、人間に代わって生成AIがプログラムを開発してくれる、今人間が行っている仕事の多くは生成AIが代わりにやってくれる、ならばこれからは生成AIにはできない、人間だからこそできる仕事やビジネスを考えていかねばならないと、当時下野といっしょに昼食をとりながら、興奮して話したのですが、下野はわりと冷静でしたね(笑)。

いずれにしても、生成AIは脅威であると同時に大きな変化のチャンスであると捉え、今後は生成AIを中心にビジネスを展開していくことが必要です。そのために会社をどう変えていくべきかを、ずっと考えてきました。

i Mag 確かにこの1~2年で、変化を軸とした大胆な戦略に着手されてきましたね。

藤井 そうですね。2024年3月にミガロホールディングスにSEサービス事業を譲渡し、オムニサイエンスから現在のMONO-Xに社名を変更しました。それとともに、当社が提供できるビジネスバリューを書き換え、バックオフィスの改革にも取り組んできました。これまで私が社長として、生成AIを軸にしたビジネスを引っ張ってきたのですが、実際に取り組むうちに、これは現場任せではスピード感が足りないと感じ始めたのです。そこで社長業を下野に託し、私は生成AI関連のビジネスに集中していくことを決意しました。今回の社長交代、会長就任の背景には、まずそれがあります。

下野 私がMONO-Xに入社したのは2020年で、5年にわたり藤井とともにビジネスに取り組んできました。生成AIに関しては、藤井ほどの熱量はないですが、やはり今後は生成AIを軸にビジネスを舵取りしていくべきだという思いは同じです。私はこの5年間に取り組んできたビジネスをもっともっと大きくしたい、今までやってきたことを完遂させたいと強く思っています。組織として次のフェーズに備える体制づくりの一環として、今までとは異なる役割分担を担うことに異議はありませんでした。

藤井 MONO-Xの基盤であるIBM iビジネスの経営は下野に任せ、私は新時代をつくる生成AIビジネスに全力を注ぐという体制です。今回の社長交代を考えた理由は大きく事業軸、人材軸、組織軸の3つがあって、事業軸としては、今お話ししたとおりです。

次に人材軸・組織軸ですが、生成AIに関しては、ベテランエンジニアのほうが若手技術者より、抵抗感が強い傾向があると感じました。これは裏返していうと、生成AIは若手がベテランをリードできる、大きなパラダイムシフトだと言えるでしょう。そこで当社のビジネスの幅を広げ、若手を責任者へ積極的に登用することで、このパラダイムシフトを組織として活かしていこうと考えたわけです。下野を社長とすることで、経営陣の意識を変えていく狙いもありますし、私が生成AI関連で多様なビジネスを創出していくことで、若手にチャンスを与えたいとの思いもあります。

生成AIを活用したソリューションを相次いでリリース

i Mag これから本格的なAI時代を迎え、ITビジネスはどのように変わっていくのでしょうか。

藤井 生成AIにはできなくて、人間にできることは何だろうとずっと考えてきました。AIエージェントの普及によって、「作る力」や「論理的思考」は誰でも利用できる当たり前のものになりつつあり、ほとんどの課題は解決の道筋を見つけやすくなっています。だからこそ、人間に求められるのは「課題を設定する力」だと考えています。「課題を解く側」で終わるのか、それとも「課題を見つける側」になれるのか、企業にとっても個人にとっても今後は常に意識する必要があります。社会の課題を発見し、そこにAIを使って課題を解き、ビジネスとして育てていく。この役割は人間にしか担えません。そんな新しいビジネスを立ち上げるモメンタムを起こせる人材を、組織の中にどれだけ抱え、生み出せるかが、これからの企業の成長のカギになるのではないかと考えています。

i Mag 事業は現在、どのような体制で展開されているのですか。

下野 今まではクラウド事業とプロダクト事業の2つに組織化してビジネスを推進してきました。これはどちらもIBM iを軸にしています。しかし今年7月からは、IBM i事業部とAI事業部に組織を変更しました。IBM i事業部は、Power Virtual Serverへの移行・運用サービスである「PVS One」をベースとしたクラウド事業、およびノーコードでアプリケーションを作成できる「MONO-X One」、API作成ツールである「API-Bridge」、そしてデータ活用ツールである「PHPQUERY」など、クラウド事業とプロダクト事業をすべて扱っています。当社のIBM iビジネスを集約した部署になります。

一方のAI事業部はAIに特化した部署です。生成AIを活かし、どのような業務を遂行していくかを模索しながら開発を進めています。藤井は今、こちらに集中していて、社長時代より楽しそうです(笑)。

i Mag 生成AIをベースにした新しいソリューションを開発しているのですか。

藤井 具体的なソリューションは、今のところ3つです。たとえば現在FAX受注入力業務は、FAXを受け取ったあと、手作業で5250画面に入力していますが、これを生成AIに処理させる「kozokaAI FAX受注入力」があります。いわばAI-OCRの生成AI版というべき製品です。

それから今はPHPQUERYでデータを抽出し、ExcelやBIツールを利用してグラフ化などを実行していますが、この実行結果に対して自然言語でやり取りし、データ分析の結果をインサイトとしてAIが見解を述べてくれる「kozokaAI インサイト」があります。それから生成AIで議事録を作成して分析する、たとえば営業マン30人分、1カ月合計で600時間分の商談データから現状や傾向を分析する「kozokaAI 商談ログ」などがあります。

私たちが特に注目しているのは、非構造化データの領域です。世の中のデータのうち、構造化データはおよそ2割に過ぎず、残り8割は非構造化データだと言われています。この膨大な非構造化データをいかに扱えるかが、AI活用の本丸であり、未来を制するカギになると考えています。

i Mag 生成AIに関する特許もいくつか出願されていますね。

藤井 実は、生成AIに関してはすでに1件特許を取得していて、現在さらにもう1件を出願中です。取得済みの特許は、生成AIが基幹システムと連携して、ユーザーが自然言語で問い合わせた内容を自動的にSQLに変換し、そのままリアルタイムで実行して結果を返す、という仕組みに関するものです。

たとえば、「この商品の売上を直近3カ月で出して」といった問いかけをすると、裏側でSQLが生成されて、即座に結果が返ってくる。これまで専門知識が必要だったデータ活用を、一気に身近なものにする仕組みです。一方で、現在出願中の特許はもう少し業務寄りの内容で、基幹システムのマスター情報を参照しながら、AIエージェントが受注入力などの業務処理を包括的に担えるようにするプログラムに関するものです。つまり、データを“取得する”だけではなく、実際の“業務を動かす”ところまで、AIが踏み込めるようにする仕組みです。

現在、お客様先を回り、現場で今、どのようなAI活用が求められているかをお話ししています。先ほどお話ししたFAX受注入力業務やデータ分析、議事録の作成・分析などのソリューションも、そうした会話の中から生まれてきました。

パートナー流通を軸にした
再販モデルへのシフトを進める

i Mag 社長に就任されて最初の仕事は何でしたか。

下野 いろいろありますが、手ごたえを感じているのは、パートナー様を軸にした再販モデルを作っていくことです。2024年12月から、パートナー流通をメインにした再販モデルを打ち出し、今年に入ってから積極的に展開しています。今まで当社は直販を中心に活動してきたのですが、仲間を増やしていったほうがソリューションやサービスをお客様へ確実にお届けできるよう、「パートナーと一緒にお客様に価値を届けられるように、パートナーにとっても販売しやすい体制を整えていこう」と、社内で伝えています。

MONO-X Oneではイグアス様が総販売店となってパートナー様への流通経路を増やしていますし、PVS Oneもお取り扱いいただくパートナー様が着実に増えています。これにはパートナー様と当社との責任分界点が明確になったこと、移行・管理などに必要とされる独自のソフトウェアやツールをアセットとしてご提供できるようになったことが大きいです。

i Mag 3年後、あるいは5年後にはMONO-XはAIの会社になっていそうですね。IBM iについては今後、どのように取り組んでいきますか。

藤井 AIカンパニーを目指していることは事実ですが、現状はIBM i事業部の売上のほうが圧倒的に多く、IBM iに強い会社であるという点は変わっていません。それは当社の強みです。ただ生成AIという大波を前に、IBM iであるかどうか、IBM iに強いかどうかは、あまり関係なくなるのではないかと考えています。大事なのは、IBM iを含めて、次のAI時代に求められるソリューションは何かを追求していける会社であることです。その一環として、今はスマートグラスやロボット基盤モデルといったフィジカルAIの領域にも関心を持っています。これらが広がれば、お客様の現場にさらに役立つアプリケーションを開発できると考えているからです。

また私たちは現在、グループ経営へ移行する準備を進めています。事業ごとに深掘りしつつも、グループ全体として新しい挑戦を加速できる体制を整えようとしているところです。そのために最も重要なのは、各事業から「モメンタムを起こせる人材」をどれだけ生み出せるかです。新しい事業やアイデアを実際に動かす推進力を持った人を増やすことで、グループ全体として大きな成長を実現したいと考えています。

下野 私はこれまで積み上げてきたIBM iビジネスを大切にしながら、成長曲線を2倍・3倍に増やしていきたいと考えています。IBM iの現在の導入状況を見ると、個々の会社の強み、優位性、個性を最もよく具現化できるのがIBM iであると感じています。IBM i上で基幹システムをRPGにより作り込んでおられるお客様が多いのも、IBM iなら自社の独自要件、つまりその会社ならではの個性を最もよく反映できると考えておられるからでしょう。その個性を具現化する武器として、IBM iに加えて、新たにAIも加わると考えていただければよいのではないかと思います。

撮影:竹迫嘉文

 

[i Magazine 2025 Autumn号掲載]

 

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