矢野経済研究所は10月28日、国内の従業員エンゲージメント市場を調査し、参入企業の現況や動向、市場の課題と展望を明らかにした。

市場概況
従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウドの市場規模は、事業者売上高ベースで2023年が91億円、2024年は前年比122.3%の111億3000万円と推計した。
従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウド市場は、2022年度(2023年3月期)決算から始まった人的資本情報の開示義務化により、活性化した。
その後、人的資本経営を推進する流れの中で「従業員のエンゲージメントや離職率」のデータ開示が株主等への説明責任の一環として重視されるようになった。加えて人材獲得競争の激化や人手不足の深刻化に対応するために、従業員の定着・成長支援への投資である従業員エンゲージメント向上への取り組みは不可欠となっている。
注目トピック
近年、日本国内の従業員エンゲージメント市場は、徐々にではあるが確実に変化の兆しを見せている。従来も、エンゲージメントの重要性を認識していた企業では、診断・サーベイの実施やコミュニケーション改善といった取り組みが行われてきたが、可視化された結果をもとに具体的な施策を打ち出し、組織変革にまでつなげていた企業はごく一部に限られていた。多くの企業では、診断・サーベイを実施しても活用方法が定まらず、継続的な改善活動に結びつかないことが課題となっていた。
しかし、現在、エンゲージメント向上への取り組みは「測ること」から「組織を実際に動かすための行動へつなげること」へと軸足を移しつつある。この「組織を実際に動かす行動」とは、調査結果をもとに部門別での優先課題を明確化し、マネジャーへのフィードバックや1on1の実施、目標設定や育成方針の見直し、現場の声を反映した人事制度の調整など、具体的な施策を実行することである。
単なるデータの把握にとどまらず、アクションの立案・実行・検証までを含むPDCAサイクルを回す企業が増えている。こうした流れを後押ししているのは、人材を取り巻く環境の一層の厳しさである。慢性的な人材不足や採用難、若手の早期離職、高齢化による属人化などの課題が、いまや多くの企業にとって事業継続に直結する深刻な経営リスクとなっている。
このような構造的な課題に対応するうえで、エンゲージメントは “あると理想的なもの”ではなく、“なければ人が定着しにくい”という現実的な経営指標へと位置付けが変化している。
近年、経営層が主導してエンゲージメント施策を導入・実行する企業が中堅・中小企業を含めて急増している。クラウドサービスの進化によって導入・運用の負荷が軽減され、また人材定着や現場活性化といった目に見える課題に直結すると考えられているからである。さらに、金融機関など外部パートナーを通じた支援スキームも整備され、これまで動きが鈍かった企業層にも実装のハードルが下がりつつある。
このように、エンゲージメント向上への取り組みは、もはや一部の先進企業だけの取り組みではなく、事業運営に不可欠な基盤として、多くの企業が本格的に導入・実行へと踏み出す段階に入っている。
将来展望
2025年の従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウドの市場規模は前年比120.4%の134億400万円と見込む。2025年度(2026年3月期)決算においては、人的資本情報の開示コンテンツとして、エンゲージメントスコアを開示する企業は引き続き増える見込みである。
さらに上場企業以外においても、離職防止や人材定着の観点からエンゲージメントスコアを測定し、組織改善に取り組む企業は増加する見通しである。
ただし、2024年同様、タレントマネジメントシステム等との競合があることから、同市場規模は前年比120%程度の伸びになる見込みである。
[i Magazine・IS magazine]







