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12α Power11のポートフォリオ ~Power S1122からPower E1180まで6モデルを展開、IBM Spyre for Powerを搭載しAI統合インフラへ |新・IBM i入門ガイド[基礎知識編]

Power11搭載モデルの特徴

2025年7月9日にPower11モデルが正式発表され、同年7月25日から提供が開始された。Power11プロセッサを搭載したIBM Powerのモデルには、以下のマシンモデルが存在する(2025年12月時点、図表1)。

図表1 Power11搭載モデル



◎スケールアウトモデル
Power S1122(9824-22A)
Power L1122(9856-22H)
Power S1124(9824-42A)
Power L1124(9856-42H)

◎エンタープライズ・スケールアップモデル
Power E1150(9043-MRU)
Power E1180(9080-HEU)

スケールアウトモデルは2ソケット2UのPower S1122/L1122、2ソケット4UのPower S1124/L1124の4モデルで構成される。

Power L1122、Power L1124はLinux専用モデルとしてラインナップされている。そのためプライマリーのオペレーティング・システムとして、Linuxの選択が必要となる。

Power L1122、Power L1124はLinux用に提供されているモデルであるが、コアの25%まではAIX、IBM i区画を構成することが可能である。S1012の後継モデルであるS1122は、2026年に提供予定である。

Power11の大きな特徴として、以下の4つが挙げられる

① 業務継続性の向上 

Powerはそもそも、計画外停止、障害などによる停止がほとんど発生しないサーバーである。さらにPower11では自律的なパッチ適用やワークロードの自動移動といった高度なテクノロジーにより、重要なアプリケーションを停止させずに計画的なシステムメンテナンスが実行可能である。

図表2のようにサーバーハードウェアや搭載しているアダプターのファームウェア(FW)、VIOSの更新などで、業務を継続させたまま自動的にファームウェアの更新作業ができるようなサーバーメンテナンスのワークフローを提供している。

図表2 ファームウェアの更新

HMC画面からファームウェアの更新機能を提供しており、システムファームウェア更新、I/Oアダプターファームウェア更新、VIOS更新をまとめて実施できる。従来のように、更新プログラムを個別にダウンロードして手作業で適用するのではなく、対象サーバーに対して必要な更新を実施する。

② IT運用効率の向上 

Power11ではエネルギー効率を大幅に向上している。同等のx86サーバーと比較して、1Wあたりのパフォーマンスの性能は2倍となり、1世代前のPower10モデルよりもさらにエネルギー効率を向上させた。

これはPower11チップのパッケージングで、新しいヒートシンク技術の採用やインターポーザー(中間基盤)上へのチップ搭載により、高いクロックスピードでも熱効率を上げ、消費電力を抑えることが可能になっているからだ(図表3)

図表3 Power11のパッケージング



さらにPower11では、サーバーを動かす場合のエネルギー効率モードを選択可能になった。CPUは高いクロックで稼働すればするほど、その分エネルギーを消費する。Power11では、CPUをどのモードで動かすか、というPowerモードが3種類用意されている。

図表4を見てみよう。左の赤い四角は「Max performance」で、最大クロックで稼働するモード。右の赤い四角は「Maximum energy saver」で、消費電力を低く抑えて稼働させるモード、つまりCPUのクロックを落として、消費電力を抑えることを優先させるモードになる。

図表4 3つのPowerモード

そして、真ん中の赤い四角にある「Energy efficient」が、Power11でさらに強化されたモードである。これは、CPUのクロックを10%程度しか抑制せずに、28%ほどの消費電力を抑制できるモードになる。

これらのモード設定を自動的にスケジューリングする機能も新しくサポートされた。平日は最大パフォーマンスモードで稼働させ、休日はエネルギー効率モードで運用する、という設定が可能。この自動スケジューリング機能を利用することで、管理者の手間を省きつつ、IT運用を効率化できるようになった。


③ セキュリティのさらなる強化

Power11では、耐量子暗号化機能が強化された。

IBM Powerでは、もともとファームウェアにIBMの署名を入れており、ファームウェア起動時にこれが合致しないと起動できない仕組みになっている。

Power11ではこれに加えて、図表5の緑の部分にあるように、耐量子暗号アルゴリズム(ML-DSA)による「Quantum Safe(耐量子)ファームウェア署名」が追加された。

図表5 Quantum Safe ファームウェア署名

これによって、ファームウェアを改竄し、その上の階層にあるデータをリスクに晒すような犯罪からシステムを守れるようになった。Power11では、こういった将来に起こりうる犯罪を見据えた耐量子暗号化機能が強化されている。

またランサムウェア対策として、IBM Power Cyber Vaultソリューションを提供された。

これは、Power11搭載サーバーだけで実現するのではなく、IBMのストレージ製品であるIBM Storageで提供する「Safe Guarded Copy機能」を中心に、他ソフトウェアやIBMエキスパート・ラボのサービスを統合して作り上げる統合ソリューションである。

Safe Guarded Copy機能とは、データのポイント・イン・タイムコピーを、ストレージ装置内の「エアギャップ」と呼ばれる隔離された領域に作成することで、万一データが破壊された場合でも、迅速かつ確実に元の状態に復旧するソリューションである。

④ AI統合インフラストラクチャとしてのサーバー 

Power11はオンチップのAIアクセラレーションに加え、オフチップの専用アクセラレーターを採用することで、オンプレミス環境におけるAIワークロードが、従来のオンチップ高速化と比較して最大10倍の性能向上を実現している。

Power11はオンチップアクセラレーター(MMA)で機械学習やデータ分析を低レイテンシーで実行できる一方、画像分類や生成AIなど高度なディープラーニングには、オフチップの「IBM Spyre for Power」を追加することで、計算性能とメモリ帯域を大幅に強化している。

IBM Spyre for Powerは、2025年12月よりPower11搭載サーバー向けに提供が開始されている。Power11では初の外付けAIアクセラレーター用のPCIe接続カードで、拡張I/Oドロワーに8枚のカードを構成することで稼働する(図表6)。

◎カード1枚あたりのスペック
コア:32コア
メモリ:128GB DDR5
接続帯域:PCIe Gen5による高帯域通信

図表6  IBM Spyre for Power


また、watsonx.aiやRed Hat AI Inference Server(AIモデルの推論を効率的に実行するためのサーバー環境)と統合可能で、AIワークロードをシームレスに移行・運用できる。

IBM Spyre for Power+Turnkey AIにより、企業はオンプレミス環境で生成AIやRAGなどの高度なAIワークロードを、クラウド並みの柔軟性とスピードで実行できる。さらに、事前構築されたAIサービスカタログと統合推論基盤により、導入から運用までを簡素化し、セキュリティとコンプライアンスを維持したまま迅速にスケール可能となる。

ちなみにTurnkey AIとは、企業がAIを迅速に導入・運用できるように設計された統合型ソリューションで、IBMが提供するAIサービスをコンテナ化し、ワンクリックで導入できる。業界向け、業務向けの多彩なAIサービスが作成されており、迅速かつ容易なAI活用が可能。図表7は現時点で発表されているサービス群である。

図表7 業界・業務向けのAIサービス

実際の操作イメージは、図表8のようになる。

図表8  Turnkey AIの操作イメージ

「IT Ops | Development」のIT Service Desk Assistantを選択する、と必要なAIサービスが青色に選択されてインストールが可能になる。インストールが完了すると、ユースケースに必要なAIアシスタントが導入されて稼働する仕組みである。

IBM iで構成可能なPower11の各モデルの特徴 

次にIBM iで構成可能なPower11の各モデルを見ていこう。

Power S1122(9824-22A)
Power L1122(9856-22H) 

Power S1122(9824-22A)、Power L1122(9856-22H)は2Uラック型のスケールアウトモデルで、2ソケット構成のみをサポートする。

Power11プロセッサは、シングルチップ・モジュール(SCM)の4コア、10コア(eSCM)、16コア、24コア、30コア(DCM)が提供される。メモリは最大4TB、内蔵NVMeは最大8ドライブ構成可能。PCIeスロットはLow Profileで最大10スロットを搭載できる。

IBM iは4コアプロセッサ×2のみネイティブ構成が可能で、それ以外はVIOS仮想環境でのサポートとなる。IBM i構成時は1区画あたり最大4コアまでで、サブスクリプションライセンスが必須である。

DCM構成のみでCUoDとPEP2.0をサポートし、将来のワークロード増加に対応可能。PEP利用時は256GB以上のメモリ構成が必要となる。

Power S1124(9824-42A)
Power L1124(9856-42H)

Power S1124(9824-42A)、L1124(9856-42H)は4Uラック型のスケールアウトモデルで、1ソケットまたは2ソケット構成を選択できる。

Power11プロセッサは16コア(1ソケットまたは2ソケット)、24コア、30コア(2ソケットのみ)が提供される。メモリは最大8TB、内蔵NVMeは最大16ドライブ構成可能である。PCIeスロットはFull Heightで最大10スロットを搭載できる。IBM i 構成時はサブスクリプションライセンスが必須。CUoDとPEP2.0をサポートし、プール内でのプロセッサリソース共有や従量課金による動的拡張が可能である。

Power E1150(9043-MRU) 

Power E1150はエンタープライズ向けのミッドレンジモデルで、4Uラック型の筐体を採用している。

Power11プロセッサは16コア(3.50~4.20GHz)、24コア(3.25~4.20GHz)、30コア(3.00~4.10GHz)が提供され、最大4ソケット構成で120コアまで拡張可能である。メモリは最大16TB(4ソケット構成時)、内蔵NVMeは最大10ベイを搭載できる。PCIeスロットはGen5/Gen4で最大11スロットをサポートする。ただしIBM iは、Power E1150ではサポートされない。

CUoDとPEP2.0をサポートし、プロセッサおよびメモリの動的拡張が可能である。PEP利用時は256GB単位でのメモリ構成が必要となる。

Power E1180(9080-HEU) 

Power E1180はエンタープライズ向けのスケールアップモデルで、最大4ノード構成が可能である。

Power11プロセッサは40コア(3.90~4.20GHz)、48コア(3.90~4.40GHz)、64コア(3.80~4.30GHz)が提供され、最大256コアまで拡張できる。メモリは最大64TB(4ノード構成時)、内蔵NVMeはノードあたり最大4ドライブ、NVMe拡張ドロワーを最大8台接続可能。PCIeスロットはGen5でノードあたり8スロットを搭載する。

CUoDとPEP2.0をサポートし、プール内でのリソース共有や従量課金による動的拡張が可能である。IBM iは7.6以降をサポートし、サブスクリプションライセンスが必須となる。

プロセッサグループ 

IBM iソフトウェアのライセンスは、ハードウェアモデル/マシンサイズに基づいて決定される。IBM iの場合、マシンサイズ・グループにマップされるプロセッサ・グループ(別名「ソフトウェア層」)が存在する。

現時点(2025年12月)で、Power11で実装されているプロセッサグループはP10、P20、P30のみでP05は実装されていない(図表9)。

図表9 IBM iにおける各モデルのソフトウェア・グループ

 

著者
今尾 友樹氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 
IBM Power テクニカルセールス

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