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設計・アーキテクチャ重視の自律型AIをどう設計するか ~「AI Agent Jump Start」で学ぶ基礎からマルチエージェントまで

Text=山口 亜希子(日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング)


日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング(ISE)では、生成AIの次のステージである「Agentic AI(自律的に行動するAI)」に対応できる人材を育成するため、AI Agent Jump Startという学習コンテンツを開発し、社員に提供している。

本コンテンツは、技術記事共有サービス「Zenn」上でも公開されており、社外の人も自習に活用することが可能である。

◎AI Agent Jump Start 記事一覧
https://zenn.dev/dxclab/articles/99f61d9de2744e

本稿では、「Zenn」で公開されている各記事のエッセンスを抜粋・サマリーし、紹介する。実装コードや詳細な理論を深く知りたい場合は、適宜「Zenn」の元記事を参照してほしい。

1 学習カリキュラムの全体像

本プログラムは、概念理解から実践までを段階的に習得できるよう、「基礎編」と「応用編」の2段階、全8モジュールで構成されている。

基礎編
エージェントの基礎概念、小規模エージェントの実装、MCP(Model Context Protocol)連携の体験を目的とする。

応用編
Production-Readyな(本番環境に耐えうる)エージェント構築を目指し、18の設計パターンやフレームワーク選定基準を学ぶ。

 

図表1 基礎編カリキュラム
図表2 応用編カリキュラム

2 AIエージェントとは:自律的に“行動”するAI

AIエージェントとは、大規模言語モデル(LLM)を中核に持ち、指示を理解して自律的に行動するシステムを指す。従来のチャットボットが回答のみを行うのに対し、エージェントは外部ツールやデータベースにアクセスし、複数の行動を組み合わせてゴールを達成できる点が特徴である。

その動作サイクルは、Think(考える)→Act(行動する)→Observe(観察する)の繰り返しであり、試行錯誤しながらビジネスシナリオに柔軟に対応する。

[AI Agent Jump Start 基礎編#2]
AIエージェント基礎
https://zenn.dev/dxclab/articles/22963330ea6565

3 実践力を養う「基礎編」のハンズオン

「基礎編」の大きな特徴は、座学だけでなく実際に手を動かして学ぶハンズオンが充実している点である。Pythonを用いてエージェントを動かす仕組みを体験し、ツール定義やプロンプト設計を習得できる。

具体的には、「ハンズオン基礎」に加え、「実装演習」が用意されている。学習した要素を組み合わせ、エージェント経由でMCPを呼び出す翻訳アプリを実際に構築するなど、実戦的な設計・実装力を養うことが可能である。

[AI Agent Jump Start 基礎編#1]
Agents SDKでエージェント設計・実装を始めるための事前準備
https://zenn.dev/dxclab/articles/e5ed0884b65988

[AI Agent Jump Start 基礎編#3] ハンズオン(基礎)
https://zenn.dev/dxclab/articles/ab2f3fbbaedc94

4 「ここから応用編」戦略的導入:エージェントを使うべきか否か

エージェントの実装には、タスクの複雑性とROIを見極める戦略的な判断が求められる。

・使うべきとき
手順を固定できない複雑なタスク、非構造化データの対話的整理、外部アクションとの連携が必須な場合など。

・使わないべきとき
手順が明確な定型処理、ゼロエラーが求められるミッションクリティカルな領域、単発のLLM呼び出しで済む場合など。

非エージェントの「決定論的チェーン(Level 0)」から、高度な「協調型マルチエージェント(Level 3)」まで、4つの成熟度レベルを定義し、段階的な導入を推奨している。

図表3  Figure 3. AIエージェントの段階的な導入

[AI Agent Jump Start:応用編#1]
失敗しないAIエージェント設計:段階的導入と目的に応じたデザインパターンの選び方
https://zenn.dev/dxclab/articles/808efaaa7db736

5 18の設計パターンによる課題解決

AIエージェント開発には、幻覚(ハルシネーション)や説明可能性の欠如といった課題が伴う。これらを解決するため、18の設計パターンを6つの機能コンポーネントで整理している。

特に「計画生成」と「振り返り(Reflection)」のパターンは、推論能力と信頼性を向上させる鍵となる。

・計画生成
ワンショット、インクリメンタル、マルチパスなどの手法で複雑なタスクを分解する。

・振り返り
セルフリフレクション、クロスリフレクション、ヒューマンリフレクションを組み合わせ、誤り検知と精度向上を図る。

[AI Agent Jump Start:応用編#2]
AIエージェント設計の課題解決:18パターンによる体系的アプローチ
https://zenn.dev/dxclab/articles/823bbf703f53f4

6 マルチエージェント設計:協調と関係性

より複雑な業務には、複数のエージェントが協調するマルチエージェントが適している。設計の際は、「どう合意するか(協調)」と「誰が次を呼ぶか(関係性)」の2軸で整理することが重要である。

エージェント間の関係性パターンには、以下の3つの代表的な型があり、これがシステムの制御フローとアーキテクチャを決定する。

ネットワーク型:各エージェントが次に呼ぶ相手を決定できる、最も柔軟な構造。
スーパーバイザー型:単一の管理者がフローを中央集権的に管理する。
階層型:スーパーバイザーを階層化し、より複雑な制御を可能にする。

[AI Agent Jump Start:応用編#3]
AIエージェント設計の課題解決:マルチエージェントのデザインパターン
https://zenn.dev/dxclab/articles/683ddbadf401f0

7 フレームワーク選定:Data×Flowの視点

実装ツールの選定は多層的であり、まず「どのレイヤのツールか」を決定する必要がある。

ノーコード/ローコード
DifyやLangflow。GUIベースでPoCから運用までのサイクルを高速化できる。

コードベース
LangGraph、MAF(Microsoft Agent Framework)、OpenAI Agents SDK。より細かな制御や既存アプリへの組み込みに適している。

選定の基準として、状態管理の思想である「Data」と、制御構造の表現方法である「Flow」および運用・拡張性の観点から比較している。

[AI Agent Jump Start:応用編#4]
エージェントフレームワーク概観
https://zenn.dev/dxclab/articles/aa77bce91fa16e

終わりに:AIエージェント成功への「体系的アプローチ」

優れたAIエージェント開発は、確かな設計指針から始まり、適切な実装ツールを選択することで完成する。本プログラムが提唱する以下の4つの指針が、プロジェクトを成功に導く鍵となる。

Start with Why
まずエージェントが本当に必要か、どの成熟度レベルから始めるかを定義する。

Build with Patterns
共通の課題には、実績のあるデザインパターンを適用する。

Scale with Structure
マルチエージェント化では、協調と関係性の型を明確に設計する。

Choose with Purpose
フレームワークは、Data/Flowの思想とプロジェクト要件に基づき、戦略的に選択する。

この体系的アプローチが、AIエージェントを単なる実験に留めず、ビジネスで成功させるための不可欠な要素である。

各モジュールの詳細な解説や実装コードについては、「Zenn」のリンク集から確認できる。基礎から応用まで、自身の学習フェーズに合わせてぜひ活用してほしい。

著者
山口 亜希子氏

日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
AI Garage Innovation, DX Center
シニアITスペシャリスト

2010年、日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリングに入社。さまざまな業種・業界のWeb/IoT/ビッグデータなどアプリケーション開発の要件定義~本番運用まで、デベロッパーまたはアーキテクトとしてフルスコープで経験。近年は、ユーザー体験を重視しデザインシンキングを活用した企画構想や、アジャイル開発でのプロダクト開発を中心に従事。

*本記事は筆者個人の見解であり、IBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。


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