i Magazine 2026 SUMMER号掲載
「特集 IBM Bob」Part1を全面改稿
「i Magazine 2026 SUMMER」号で「特集 IBM Bob」を掲載しました。しかし、同号の発行直後に「IBM Bob V2」と「Premium Package for i」がリリースされ、IBM Bobを取り巻く製品・機能体系は大きく進化しました。そこで両製品と密接に関わるPart 1について、最新情報を反映する形で以下に著者が全面的に改稿しています。
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近年、生成AIはソフトウェア開発のさまざまな工程に急速に浸透しつつある。しかし、その多くはコード補完や対話支援といった個別機能にとどまり、エンタープライズ環境における実運用を前提とした統合的な支援という観点では、依然として課題を残している。
IBM Bob は、こうした状況を背景として設計された、エンタープライズ向けの統合AI開発支援基盤である。特定の言語や工程に限定されることなく、計画、実装、レビュー、運用、モダナイゼーションに至るまで、ソフトウェアライフサイクル全体を横断的に支援することを目的としている点に特徴がある。
IBM Bob の提供機能は、従来の生成AIによる支援という枠組みを超え、実務における役割単位で整理されている。具体的には、Agent、Ask、Planと複数のモードが用意されており、これらは ビルトインのエージェントハーネス(AIエージェントを制御する仕組み)によって有機的に連携する構成が採用されている。
なお、IBM Bob V1時代にあった5つのモードはそれぞれの役割が整理・再編され、現在では図表1のようにAgent、Ask、Planの3つに集約されている。

また、IBM Bob V2アップデートで追加されたサブエージェント機能を活用することで、今までよりもさらにコスト効率よく、なおかつ並列化により高速に作業を行うことが可能となった。
IBM Bob のモード体系
IBM Bobは、開発作業の性質に応じて最適化された専門的なモードを提供する。各モードは異なる役割定義、ツールアクセス権限、動作特性を持ち、開発者はタスクの性質に応じて適切なモードを選択することで、より効率的な作業が可能となる。
❶ Agent モード:実装作業の中核
Agent モードは、日常的なコーディング作業に最適化されたモードである。コードの作成、修正、リファクタリングを自律的に実行し、read(読み込み)、edit(編集)、コマンド実行等各ツールへのアクセスが許可されている。
サブエージェント機能などを活用したトークン利用効率を重視した設計となっており、一般的な開発タスクに対して高い費用対効果を実現する。機能実装、バグ修正、コード改善といった場面で特に有効である。
❷ Ask モード:コードを変更せず状況把握
Askモードは、質問応答と情報提供に特化したモードである。ソフトウェア開発、技術、関連トピックに関する詳細な説明を提供し、既存コードの分析や理解を支援する。read(読み込み)等ツールへのアクセスが可能であり、コードベースに関する会話的な質問や情報収集に適している。
重要な点として、このモードではファイルの変更を行わないため、安全にコードの理解を深められる。
❸ Plan モード:設計と計画立案
Planモードは、実装前の計画立案と設計に特化したモードである。IBM Bobが経験豊富な技術リーダーとしての役割を担い、情報収集とコンテキスト理解を通じて詳細な実行計画を作成する。read(読み込み)、edit(Markdownファイルのみ編集可能)等ツールへのアクセスが許可されている。
大規模な機能追加や複雑な変更を行う前に、まずPlanモードで設計を固め、その後Agentモードで実装するという段階的アプローチが推奨される。これにより、全体像を把握した上で実装を進めることが可能となる。
モードの選択指針
開発作業を開始する際は、以下の指針に従ってモードを選択することが推奨される。新規プロジェクトや複雑な機能の場合、まずPlanモードで実装前の計画を立てる。日常的な開発タスクの大部分には、Agentモードを使用する。ファイルを変更・追加せずに説明だけが必要な場合はAskモードに切り替える。
モード間の切り替えは、ドロップダウンメニューまたはBobが適切なタイミングで提示するモード切り替え提案を受け入れることで実行できる。

IBM Bobにおける主要機能の詳細
❶ 開発フロー全体を通じた協働型実行
IBM Bobは単一のプロンプトに対する応答ではなく、複数ステップにわたる処理を自律的に実行する。
具体的には、指示内容の理解、関連ファイルの特定、システム全体の文脈の把握、タスク分解、実行、結果検証、自己修正といった一連のプロセスを段階的に進める。このプロセスは開発者の確認を挟みながら進行するため、AIに処理を委任しつつも統制を維持できる構造となっている。

❷ コード理解・可視化機能
既存コードの解析と理解支援は、IBM Bobの重要な機能の1つである。
コードの処理内容を自然言語で説明するだけでなく、フローチャートやER図などの視覚的表現を生成し、アプリケーション構造を直感的に把握できるようにする。また、ファイル間の依存関係やデータ構造、影響範囲の分析も実施可能であり、大規模・長期運用システムにおいて特に有効である。

❸ コード生成・ドキュメント生成機能
IBM Bobはコード生成と同時に、その説明や手順、意図を統合したドキュメントを出力する。いわゆる「Literate」な生成スタイルにより、開発成果物の可読性と共有性を高めることが可能となる。
またコメント付与、テストコード生成、開発ドキュメント作成なども含め、開発作業全体を包括的に支援する。
❹ モダナイゼーション支援: IBM Bob V2とPremium Package
レガシー資産のモダナイゼーションにおいても、IBM Bobは重要な役割を担う。例えば、レコードレベルI/OをSQLベースへ置き換える、可読性の低い命名を改善するなど、単なる変換ではなく、文脈理解に基づいた構造的改善を行う。この機能により、既存システムの価値を維持しながら近代化を進めることが可能となる。
このモダナイゼーション支援は、IBM Bob V2アップデートと同時期にリリースされた各種Premium Packageによりさらに強力となっている。
Premium Packageは、汎用的なコード支援にとどまらず、IBM i、エンタープライズJava、IBM Zという、それぞれ異なる技術的背景を持つ環境に向けて、専用のスキル、ツール、エージェント型ワークフローを提供するものである。
各プラットフォームに蓄積された業務ロジックや依存関係を踏まえ、理解、計画、実装、検証を一連の流れとして支援することで、モダナイゼーションをより反復可能で管理しやすいプロセスへと変えていく。
IBM Bob Premium Package for iは、RPGなど、IBM i固有の言語や開発資産を対象としたパッケージである。ライブのIBM i環境やソース・メンバー、アプリケーション・コンテキストへ直接接続し、ワークフローの中でコードの読み取り、書き込み、コンパイルを実行できるよう設計されている。ソースを外部ツールへコピーして個別に処理するのではなく、実際のアプリケーション構造とプラットフォームの文脈を踏まえて支援する点が特徴となる。
IBM Bob Premium Package for Java Modernizationは、大規模かつ長期間運用されてきたJavaアプリケーションを、変更前の理解から実装、検証、レビューまで一貫して支援するパッケージである。
対象となるのは、古いJavaランタイムやフレームワーク、複雑な依存関係、文書化不足、セキュリティ上の課題を抱えるエンタープライズJava環境であり、単純なコード生成ではなく、構造化されたモダナイゼーション・ワークフローを提供する。
IBM Bob Premium Package for Zは、IBM Zアプリケーションの開発とモダナイゼーションをIBM Bobの体験へ統合したパッケージである。
メインフレームのモダナイゼーションでは、個々のCOBOLやPL/Iコードを変換するだけでは不十分であり、プログラム間の依存関係、ミドルウェア、データ、運用上の制約を含むアプリケーション全体の理解が必要となる。同パッケージは、IBM Z固有の言語知識、ミドルウェア認識、アプリケーション・メタデータ、静的解析を活用し、こうした文脈を踏まえた支援を提供する。
専用モードは、影響分析やコードのリファクタリングなど、実行する作業に応じてAIの振る舞いを切り替える。再利用可能なBob Skillsは、チームをまたいで一定品質の結果を得るために利用でき、セキュアなツールは開発環境内でのファイル読み取り、コード作成、コマンド実行を支援する。また、リポジトリー単位のAGENTS.mdルールを通じて、コーディング標準やガバナンスを既定の作業ルールとして適用できる。
❺ リファクタリング機能
長年運用されたコードに対する品質改善も自動化される。未使用変数の削除、処理構造の整理、命名規則の統一などを通じて、可読性と保守性の向上を図る。これにより技術負債の軽減と保守効率の向上が期待できる。

❻ コンテキスト理解と対話型支援
IBM Bobは開発環境やコードベースのコンテキストを理解し、必要に応じて追加情報を要求する。単に質問へ回答するだけではなく、「何をすべきか」を提案しながら処理を進める点が特徴である。この挙動により、特に初見のコードベースに対する理解や調査効率が向上する。
❼ 運用・DevOps連携
IBM Bobは開発フェーズに閉じたツールではなく、運用領域との連携も前提としている。監視データや運用情報を踏まえた改善提案により、開発と運用のサイクルを統合する。
IBM Bobにおける内蔵ツールと実行基盤
IBM Bobの特徴の1つは、単なる生成AIではなく、実行可能なツール群と統合されたエージェント実行環境を備えている点にある。各モードは役割に応じて利用可能なツールが制御されており、安全性と生産性の両立が図られている。
具体的には、read(読み取り)、edit(編集)、command(コマンド実行)、MCP(外部連携)といったツール群が提供される。これらがAIエージェントハーネスにより統合的に制御される。
さらに、IBM BobはIBM iやwatsonx Orchestrateなど他のIBM資産やMCPを通じて外部システムとも連携し、複数システムにまたがる処理を統合的に実行できる。またCLIベースのBob Shellも提供されており、ヘッドレス環境での実行も可能である。
エンタープライズAIに求められるセキュリティとガバナンス
生成AIの業務利用では、情報漏洩や不適切なコード生成といったリスクが存在する。IBM Bobはこれらのリスクを前提とし、設計段階からセキュリティとガバナンスを組み込むShift Left型のリスク低減が実現されている。
PII(個人情報)検知、API利用制御、コード起因のリスク検出などの機能が組み込まれており、開発プロセス全体にガードレールを提供する。
このような設計により、IBM Bobは自律性と統制を両立したエンタープライズAIとして位置付けられる。
IBM Bobの価格体系とコストモデル
IBM Bobの価格体系は、ユーザーライセンスと従量課金を組み合わせたハイブリッド型である。ユーザー単位のライセンスに加えて、AI処理に伴うトークン消費をBobcoinとして管理する。
1 Bobcoinは約40万トークンに相当し、AIによるコード生成や解析などの処理に応じて消費される。タスク単位での消費量は用途に応じて異なり、開発規模に応じたコスト管理が可能となる。
さらに、複数のモデルを動的に使い分けることでトークン消費が最適化され、コスト効率の高い運用が可能となる点も特徴である。
IBM Bob は、統制された自律型AIを中核とするエンタープライズ開発・運用基盤として進化を続けている。その設計思想は、実運用を重視する企業にとって重要な選択肢となり得るものである。
[i Magazine・IS magazine]
著者|
田中 瑞城 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 ソフトウェア・エンジニアリング事業部
アソシエイト データプラットフォーム パートナーテクニカルスペシャリスト







