アフターコロナの働き方・業務・情報システム

 

 

新型コロナの感染拡大が始まって約半年。
この間の一連の事態の進展は、新型コロナ以降の世界がもはや以前とは同じではないことを示した。
アフターコロナの情報システムはどのような観点で、何を指標としどのような取り組みが必要になるだろうか。
調査レポートや講演から、さまざまな見方や知見を整理した。

 

今知っておくべき「現状」と
システム化をめぐる「考え方」「方向性」

 

「一歩前進、二歩後退」

 コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)が7月2日発表の「COVID-19:ブリーフィング・ノート」の冒頭で記している、新型コロナ対策の現状を表した言葉だ。

 昨年暮れから始まったとされる新型コロナの流行は、世界の感染者数が1100万人以上、死者数は52万人以上、日本では約2万人が感染し、900人以上が死亡している。しかも世界では依然として感染拡大の勢いが衰えず、日本でも再び拡大の兆候が見られる(図表1図表2)。

 

図表1 新型コロナの感染状況-日本:2020年10月28日現在(出典:Yahoo! Japan)

図表2 新型コロナの感染状況-世界:2020年10月27日現在(出典:Yahoo! Japan)

 

 その一方、新型コロナは次のような問題を顕在化させている。

・世界的な経済の低迷
・新しい実情に合わない旧来の働き方
・新しい事態に適合しない事業の進め方
・経済格差による不平等の拡大
・公衆衛生に対する観念・行動のあり方
・監視と個人情報の扱い、その利用・統制の問題

 こうした多面的かつ複合的、かつ刻々と状況が変化するなかで、情報システムはどのような貢献ができるのだろうか。

 

新型コロナの現状が
不確実性をもたらす

 

 京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授は、自身のサイト「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」で「証拠(エビデンス)があり、正しい可能性が高い情報」として、新型コロナの特質を以下のようにまとめている。少々長い引用となるが、現在が不確実かつ流動的であることの要因なので、見ていただきたい。

病 態

・国、地域により致死率が異なる。
・感染後、症状が出るまでの潜伏期間は1から17日とばらつきがある(平均は5?6日程度)。
・感染しても30~50%では症状が出ない(無症候の割合はもっと高い可能性もある)。
・感染してもPCR検査で陰性となる場合がある。
・発症しても多くの場合は発熱や咳などの軽症。
・味覚・嗅覚異常が主症状のことがある。
・高齢者や持病を持つ患者を中心に一部の患者では肺炎等で重症化、致死率も高い。

感 染

・1人が何人に感染させるか(再生産数)に関して、何も対策がなく誰も免疫を持っていない時の基本再生産数(R0)は2以上、しかし、公衆衛生上の対策により有効再生産数は1未満にすることができる。
・咳等の飛沫とドアノブ等を介しての接触で感染する。
・集団感染(クラスター)が世界各地で報告されている。
・クラスター以外(家庭内など)でも感染する。
・症状がなくとも、他の人に感染させる場合がある。

対 策

・手洗いやマスクしていても感染することがある。
・ワクチンはまだ開発されていない。
・レムデシビルが日米で治療薬として承認、アビガンは承認される見込み。

 以上から言えるのは、新型コロナはまだ実態が究明されていないということと、それゆえに決定的な対策を講じることができないでいる、ということだろう。そして、そのような状況のなかで、企業は事業を推進し、システムを対応させていかざるを得ないということである。

 

88.4%の企業が事業の見直しや
新規事業を検討へ

 

 しかし、多くの企業はすでに対応へ動き出している。

 野村総合研究所が5月9日~19日に国内企業のCIOを対象に実施した「新型コロナウイルス影響に関するCIO調査」(回答:2019年度売上高1000億円以上の69社。うち49%が1兆円以上)では、88.4%が「ITやデジタルを活用したビジネスモデルの見直しや新事業検討の必要性が高まった」と回答し、領域別に見ると、「働き方改革」をさらに推進するのは44.9%、「ITインフラ」の整備を拡大させるのは29.0%、「顧客接点業務」を見直すのは26.0%という結果だった。

 図表3は、そのデジタル化の優先度を項目別にまとめたものである。

 

 

 

 トップ3は、「ペーパーレス化」「リモートワーク化」「採用のデジタル化」の順で、以下「経理業務のペーパーレス化」「押印処理のデジタル化」「契約プロセスのデジタル化」「セキュリティ対策の導入・見直し」「ネットワークの見直し」「非対面営業の強化」などが続く。

 これらの項目は多くの企業で従来から課題としてきたものだろう。それが新型コロナによって前倒しや見直し、内容の質的な変更を余儀なくされていると見ることができる。

 とは言え、今後の状況次第では、図表3に見られる企業の判断・選択が大きく変わる可能性もある。

 

アフターコロナに
影響を及ぼす4つの要素

 

 マッキンゼーでは、今後の状況に影響を及ぼす要素として、「需要の変容」「労働力の変化」「規制の不確実性」「ウイルスの理解」の4つを挙げている(図表4)。

 

 それは、次のような理由からである。

[需要の変容]

オンライン購入の急増や購入先(ブランド)の切り替え、国内消費への関心の高まりなどが顕著に見られ、まったく新しい消費パターンが広がりつつある。

[労働力の変化]

雇用の不安定化やサプライチェーンのニアショア化、リモートワークの拡大などによって労働力に対する需要が変化し、新たなハイブリッドのリモートワークモデルが出現している。

[規制の不確実性]

中国から国内または第三国への生産拠点の移転を支援する日本政府の政策(4月)のように、製造場所やサプライヤーの収益構造に影響を与える新たな規制が導入される可能性がある。そのほかにも、さまざまな規制が発令される可能性がある。

[ウイルスの理解]

ウイルスに関する3つのトピックス(日本および海外の公衆衛生の現実、ウイルスの感染パターンや検査の効果、ウイルスに関する新たな解決策)が個々に変化し、同時に不確実性も変化する。

 そしてマッキンゼーは、これら4つの要素が変化するなかで、「企業は一連の対策を変えていくことが必要になる」と、複合的な視点の必要性を指摘する。

 では、アフターコロナの状況下におけるシステム戦略はどのようなものであるべきか、どのような観点でITを使っていけばよいのだろうか。

 

今後の社会経済のあるべき姿は
「3密回避型産業構造」

 

 産業戦略研究所の村上輝康代表(元・野村総合研究所理事長)は、今回の新型コロナによる状況を「社会システムの危機」と捉えている。

 そして、そうした危機の状況下では、「危機が強制するライフスタイルの変化がパニックを生み出し、パニックの抑え込みの失敗がマクロ経済にショックを発生させ、それらが起因となって新たな均衡(新しいノーマルな状態)へと移行する」と、新型コロナの流行が必然的に社会経済の変化をもたらすことを示唆する。

 その先例が、1970年代の第1次オイルショックで、日本はその危機を乗り越えるためにさまざまな施策と取り組みを展開し、高度成長型の産業構造から省エネルギー型産業構造へとドラスティックな転換を遂げた。

 そこで今回、日本が変革の目標とすべきは「3密回避型産業構造」である、と村上氏は指摘する。つまり、密接・密集・密閉の3つの「密」を回避した、非接触・遠隔・超臨場をベースとする産業構造が、新しい社会経済像という。

 そして、これら3密を回避するためのエンジンこそITで、密接に対しては「非接触」、密集に対しては「遠隔」、密閉に対しては「超臨場」を実現する手段としてITは貢献すべき、と村上氏は述べる(図表5図表6)。

 

 

 

 3密を回避するためのITは、これまでのユビキタス化、スマート化、オートノマス化で培ってきた技術を応用できる。既に、非接触分野ではチケットレスやサービスロボット、遠隔分野では遠隔医療や無人店舗など、超臨場では超臨場感ライブなどが登場している。

 ただし村上氏は、「それらのほとんどは社会実験の域を出ていない。それらのなかから生産性向上や付加価値の拡大に貢献する兆しを選別し、制度とビジネスを統合して社会実装を進めるべき」と指摘する。

 

在宅勤務が促す
アジャイル型組織への転換

 

 2月以降の新型コロナへの対応のなかで、最も顕著な動きの1つは在宅勤務だろう。従来は、介護や育児などを抱える従業員や通勤困難者のための制度という意味合いが強かったが、今や急速に働き方のスタンダードになりつつある。

 実際、在宅勤務を定常化させて今後も継続するという企業が増えている。また、オフィスにおける密集を避けるための交替勤務や時差出社、フレックス制度なども進みつつある。

 こうした変化は、従来からの組織体制や業務の進め方に変化を与えずにはおかないだろう。そしてマッキンゼーは、この一連の変化を「より本質的な変革のチャンスとして捉えるべき」と主張する。

「日本企業は効率性を追求することによって、確固とした組織、プロセスを確立してきた。それがいまや技術革新が目覚ましいスピードで進み、反復可能な作業が自動化により機械に置き換わり、さらに顧客のニーズが多様化した。そのなかで、現状の組織やプロセスが不十分であり、変革が求められていることを多くの経営者が理解している。だが、その実行が十分にできていないという大きな課題が残る」(*1

(*1)「新型コロナが促す企業変革、生産性を高めるアジャイル型組織とは何か」、Web版Diamond Havard Business Review掲載)

 マッキンゼーは、この課題を解決し得る組織体制は「アジャイル型」にほかならないと指摘する(図表7)。

 

 

 アジャイルは、ソフトウェア開発における開発手法の1つで、開発対象を小さな単位に分割して実装とテストをクイックに繰り返すことによって全体の開発期間を短縮するものだが、アジャイル型組織はそれになぞらえて、組織の単位を小さくし、1つの目的へ向けて機動的に活動できる形態をさす。

 マッキンゼーではそのメリットとして、次の4点を挙げている。

・ 成果を重視した働き方を促進し、生産性向上につながる。
・ 権限移譲を促し、現場のオーナーシップを醸成できる。
・ 「ワンチーム」で顧客ニーズにすばやく対応できる。
・ 完璧・リスク回避を求める組織文化が変わる。

 マッキンゼーがハーバード・ビジネススクールと共同で行った最近の調査によると、「新型コロナによる市場の変化への対応では、アジャイル型組織のほうが従来型組織よりも迅速に対応できた」という結果が得られているという。

 

開発・運用・保守も
アジャイル型へ

 

 組織の単位が小さくなり、システム化のニーズもより細かい単位で発生することを考えると、システム部門の開発体制もそれへの対応が必要になる。

 ここで思い起こされるのが、「システム構造はプロジェクト体制を反映する」という「コンウェイの法則」である(図表8)。

 

 たとえば、モノリシック(一枚岩)なアプリケーションであるならば1つのモジュールに多数の機能を格納するので、開発チームが「ユーザー・インターフェース」「アプリケーション・サーバー」「データベース」の各担当に分かれ、相互に確認を取り合いながら開発するスタイルが合っている。

 開発方法も、1工程ずつ実装内容を決めて進むウォータフォール型が合う(図表8左側の体制)。

 ただしこの開発スタイルは、プログラムの一部をクイックに改修・拡張しリリースしたいというニーズにはフィットしない。ごく一部の改修・拡張であっても、プログラム全体が密結合になっているので影響範囲の確認やテストに相応の時間がかかるからだ。

 コンウェイの法則に基づけば、アジャイル型組織の細かいシステムニーズに対応するには、図表8右側の体制が必要になる。ビジネス要件を細かい要件に分割し(要件#1~#3)、それらを少人数のユニットで開発し(サービス#1~#3)、さらに運用・保守も担当するという体制である。

 各ユニットが開発・運用・保守するプログラム(サービス)は、それぞれ疎結合で結ばれている。これであれば、部分的な改修・拡張を相対的にすばやく行うことが可能だ。

 新型コロナはシステム部門の体制変更も促し、企業にとってアジャイル開発・保守を可能にする体制が必要になる。そしてプログラム自体も、モノリスからモジュール化へ、そしてコンテナの採用、マイクロサービス化へと進んでいくように思われる。

 本稿の前半で紹介した野村総合研究所の「新型コロナウイルス影響に関するCIO調査」にもその傾向が表れており、「開発・運用方法の見直し(アジャイル・DevOpsなど)」と「システムの疎結合化(マイクロサービスなど)」が優先度の上位にランクされている。

 

システムを抜本的に見直し
取り組みを加速させるチャンス

 

 新型コロナによって事業環境や働き方が大きく変わるなかで、企業システムのアーキテクチャそのものを見直すべきとの議論も起きている。

 予期せぬ事態にも柔軟に対応できるシステムとするために、プログラムのコンポーネント化やモジュール化が提唱され、アジャイル開発・運用を可能にするチーム編成の必要性が説かれている。

 また、密接・密集・密閉を回避するための無人化・省人化の取り組みとして、「ハイパーオートメーション」と呼ぶ新しい自動化の考え方も提唱されている。これはRPAやiPaaS(統合PaaS)、AIサービスなどプリセットされたサービスやツール/アプリケーションを組み合わせて、従来にないスピードで、従来なかったソリューションを実現しようという考え方である。

 アフターコロナに対応する新たなシステム基盤・アプリケーションへの取り組みは緒に就いたばかりであり、どの企業もこれからという段階にある。

 そのなかでDXへの対応は多くの企業にとって新型コロナ以前からの課題であり、今後も大きなテーマであり続けるだろう。新型コロナへの対応を、システムを抜本的に見直し、目標に向けての取り組みを加速させるチャンスと捉える視点が必要になるように思われる。

 

 

[i Magazine 2020 Summer(2020年7月)掲載、Web掲載にあたり情報をアップデートしました(2020年10月29日)]

 

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