ガートナージャパンは5月17日、「AIエージェントとは? 定義と特性、AIエージェント活用の利点やリスク、導入の課題」と題する記事を公開した。
最近、「AIエージェント」や「エージェント型AI」という言葉をネット上でよく目にする。たとえば最近のニュースリリースでは以下がある。
・オラクル、Oracle AI Agent Studioを発表(3月21日)
・非構造化データの課題を抱えるエージェント型AI─IBMがその解決策を発表(5月12日)
・IBMとSalesforce、IBM Z上で企業データの有効化と、エージェント型AIに自社データを活用するための新たなエージェントを発表(5月15日)
ガートナーの定義
ガートナーによると、AIエージェントとは「デジタルおよび現実の環境で、状況を認識し、意思決定を下し、アクションを起こし、目的を達成するためにAI技術を適用する、自律的または半自律的なソフトウェア」である。RPAと比較すると「段違いに洗練されており、タスクの自動化だけでなく、一定の「エージェント性」も有する高度なシステム」という。
一方、エージェント型AIとは「組織のために行動し、自律的に意思決定を下してアクションを起こすために、組織に代わって行動する権利を付与された、目標主導型のソフトウェア‧エンティティ」である。そのために「記憶、計画、センシング、ツール利用、ガードレールなどのコンポーネントと共にAI手法を使用する」という。
また「AIエージェントはエージェント型AIの1つ」であり、チャットボット→RPA→AIエージェント→エージェント型AI、の順に段階的に進化しているとする。
ガートナーでは、2028年までに、日常業務における意思決定の15%がエージェント型AIによって行われると予測する。
AIエージェントが備える5つの特性は、次のとおり。
・適応性:エージェントが、自身の環境や目的の変化に応じて、その振る舞いや戦略を調整できる能力
・積極性:エージェントが、将来のシナリオを予測し、戦略的な意思決定を下し、目的達成のために自らアクションを起こせる能力
・目的の複雑性:エージェントが、高度な意思決定と問題解決の能力が必要な、相互に関連する複数の目的達成に求められるタスクを管理し、実行できる能力
・環境の複雑性:高度な不確実性、変動性、複雑性を伴う環境で、エージェントがタスクを制御し、実行できる能力
・自律性:ほとんど/まったく人間の介入なしで、エージェントがどこまでも独立して稼働できる能力
AIエージェントの仕組み
AIエージェントのプロセスは「認識」「判断(推論)」「実行」の3つのステップに分けて考えることができる。「これは人間の行動プロセスに似ており、AIエージェントの動作原理を理解するうえで役立つ」と、ガートナーは述べる。
認識
ユーザーからの質問や要求を解析し、その意図を正確に把握する段階。内部知識と外部知識のどちらが必要かを判断し、必要に応じて外部データベースやAPIを参照して関連情報を取得する。AIエージェントがこれらの知識を取り込むためには、LLM、RAG、グラウンディング、Webサーチなどを組み合わせる必要がある。
判断(推論)
大規模言語モデル(LLM)などが、内部知識や検索結果をもとに情報を整理し、推論を行う。複雑なタスクや高い精度を要する場面では、Chain of Thought(CoT)やFew-shot Scaffoldingなどの技術を活用して段階的に推論を進める。
実行
最終的にAIエージェントが具体的なアクションを起こす段階。ここでは外部サービスの呼び出し(Function Calling、Tool Use、API呼び出しなど)が含まれる。
適用例
AIエージェントの適用例として、ガートナーでは以下を挙げている。
・コンシューマー環境:商品の販売や個別要件に合わせたソリューションの提案、顧客サポートなど
・インダストリー環境:プロセスの動的最適化や反復作業の自動化、品質管理の強化など
・インフォメーション環境:意思決定を支援する情報分析、拡張、照合、評価、要約など
・クリエイティブ環境:さまざまな形式のコンテンツ資産の編成や最適化、生成など
・ソーシャル環境:コミュニティやグループ間での効率的なファシリテーションや情報共有
・ロジスティクス環境:輸送プロセスやサプライチェーンの管理、自動調整
またAIエージェント同士を連携させたマルチエージェント・システム(MAS)では、「個々のエージェントでは対処できない複雑なタスクを処理したり、分散型の意思決定を行うことが可能」として、以下の適用例を挙げている。
・エネルギー/公共事業: スマート・グリッドの最適化、エネルギー需給の動的なロード・バランシング
・サプライチェーン: スケジュール/計画/経路/交通信号制御の最適化、サプライチェーン全体の最適化
・通信: ネットワーク最適化、不正検出
・ヘルスケア: エージェントを使用した、複雑な医療エコシステムの行為者 (例えば、個人、世帯、医療機関、保険者) のモデル化
AIエージェント利用のメリット/リスク
主なメリットとして以下を挙げている。
・業務効率の向上
・イノベーションの促進
・多様な環境での適用
・マルチエージェント・システム(MAS)による高度なタスク処理
・柔軟性と適応性
・情報分析と意思決定の改善
・高度な自動化
・学習と改善
主なリスクは以下のとおり。
・データ漏洩とプライバシー侵害
・敵対的攻撃
・不正利用
・意思決定と法的責任に関するリスク
・知的財産権の侵害
・法令遵守違反
・責任所在の不明確化
・信頼性に関するリスク
・不適切な意思決定
・予期せぬ行動
・マルチエージェント・システムの複雑性
ガートナージャパン「AIエージェントとは?定義と特性、AIエージェント活用の利点やリスク、導入の課題」
https://www.gartner.co.jp/ja/articles/ai-agents
[i Magazine・IS magazine]