IBMは9月17日、年次イベント「Think Japan」で、日本におけるAI製品・ソリューションの共創を推進する新たな取り組みとして、「IBM AI Lab Japan」を2025年10月に立ち上げる計画を発表した。
IBM AI Lab Japanは、ユーザー企業やパートナー企業との連携を通じて、AIエージェントを含む業務アプリケーションから、AIモデルなどを管理するAIソフトウェア、ハイブリッドクラウド環境で構成されるIT基盤、AIが稼働するためのChipなどを含むAIハードウェアまでを含む「フルスタックAI」の活用を促進し、日本企業がAIの利点を最大限に享受できる環境を提供するとともに、国内におけるソブリンAIの確立にも取り組む。
日本の産業競争力強化には、AIによる生産性向上と新たな価値創出が不可欠である。その実現には、AI技術の開発・導入に加え、日本独自の要件を踏まえたユースケースをより迅速に生み出していくことが重要となる。
また、経済安全保障の観点から、特に規制の厳しい産業では、国内で開発された信頼性の高いAIやITインフラストラクチャへのニーズが高まっている。さらに、企業が用途に応じて最適なAIを柔軟に活用できるよう、多様な選択肢の提供が求められている。
IBM AI Lab Japanは、IBMの技術、コンサルティング、研究開発の強みを結集し、国内のパートナー企業や学術機関との協業を通じて、エンタープライズ向けAIの開発および実装を推進する戦略的拠点である。
IBMとパートナー企業の持つ「フルスタックAI」の技術と知見を集約し、ユーザー固有の課題や将来への要件に基づく、信頼できるAI活用の加速を支援する。具体的には、以下の3つの領域での共創を推進する。
◎日本市場向けのAI製品の開発・実装支援
IBMの東京ラボラトリー内にAIに特化したソフトウェアおよびハードウェアの開発拠点を設置し、IBMの海外の開発部門とも連携して、日本企業特有のニーズに即したIBM製品の開発・改良を加速する。ソフトウェア領域では、ユーザーの生産性向上を促進するAIエージェントの社会実装を支援し、ハードウェア領域では、AIチップのユーザー製品への実装を支援する。
◎AIソリューションの共同開発
IBMやパートナー企業が提供するAIエージェントを活用して、ユーザーがより迅速にAIエージェントを利用できるソリューションを提供する。また、企業内データとAIを安全かつ効率的に運用するための統合的なAI管理基盤の設計・開発を行う。さらに、規制の厳しい産業におけるAI活用の促進に向け、ソブリンAIや業界特化型AIの開発にも注力する。
◎AIを組み込んだ製品・ソリューションの共同開発
IBMが提供する業界向けソリューションと、ユーザー企業やパートナー企業が提供する製品や業務アプリケーションへのAIの組み込みを促進し、それぞれの製品・ソリューションの付加価値の向上を推進する。
これらの取り組みで共創された製品・ソリューションは、パートナー企業との協業を通じて、同様の課題を持つユーザー企業へ展開することを目指す。また、成果の一部をオープンソース・コミュニティに提供し、日本におけるエンタープライズAIの発展に貢献する。
IBM AI Lab Japanは、虎ノ門に設置されているIBM Innovation Studioを起点とし、国内外の研究開発拠点とも連携しながら、物理的・デジタル両面でのコラボレーション・スペースを展開する。集中的なワークショップやデモ、概念実証などを通じて、ユーザー企業やパートナー企業とAIのユースケースを開発し、製品・ソリューションの設計から実装まで伴走する。
すでにAI分野に強みを持つ幅広いパートナーへ参加の呼びかけを開始しており、オープンな共創を拡大していく。国産唯一のガバメントクラウド提供事業者として条件付き認定を受けているさくらインターネット株式会社とは、同社のAI Lab Japanへのエコシステム・パートナー企業としての参画に向けた協議を開始している。またIBMは、株式会社松尾研究所とも、AIパートナーシップ契約の締結に向けて協議を進めている。
日本IBM代表取締役社長の山口明夫は、次のように述べている。
「IBM AI Lab Japanは、日本企業が直面する課題に寄り添いながら、実践的なAIユースケースを通じて解決策を共創するための戦略的拠点です。IBMが有するグローバルな技術力や知見と、日本国内の多様なパートナーの強みを活かした連携により、日本市場固有のニーズに的確に応えるAI製品・ソリューションを迅速に提供し、AIを起点とした産業変革とイノベーションの加速に貢献してまいります」
株式会社松尾研究所 取締役の金 剛洙氏は、次のように述べている。
「AIの社会実装を進めるうえでは、技術革新のみならず、現場の実情に即したユースケースの創出が不可欠です。現在、IBM様との連携について議論を進めており、日本におけるAIの応用範囲を広げ、先端技術の社会実装を進めたいと考えております」
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