IBMは4月9日、IBMメインフレームの次世代モデル「IBM z17」を発表した。新しいIBM Telum II プロセッサを搭載したIBM z17は、AI時代に向けて完全に設計された初のメインフレームとなる。提供開始予定は2025年6月18日(米国時間)。
z17は、z16と比べて1日あたり50%多くのAI推論を処理でき、融資のリスク軽減、チャットボットの管理、医療画像の分析、小売犯罪の防止など、250を超える幅広いAIのユースケースを通じて、さまざまな業界でビジネス価値を高められるとしている。
IBM z17の新機能
IBM z17は、マルチモデルのAI機能をはじめ、データを保護する新しいセキュリティ機能、AIを活用したシステムの使いやすさと管理を向上させるツールなど、以下のような機能を備えている。
◎AIをデータのあるところへ
z17のAI推論機能は、IBM Telum IIプロセッサに内蔵された第2世代のオンチップAIアクセラレーターによって強化されている。これにより周波数や計算能力が向上し、さらにキャッシュ・メモリの容量が40%増加したため、1日あたり4500億回以上の推論処理が可能となり、各推論リクエストの応答時間は1000分の1秒を実現する。
◎AI向けアクセラレーションの拡張
IBM Spyreアクセラレーターは、PCIeカードを介して2025年第4四半期に提供予定で、Telum IIプロセッサを補完する追加のAIコンピューティング機能を提供する。これらを組み合わせることで、マルチモデルのAIをサポートするために最適化された環境を構築できる。IBM Spyreアクセラレーターは、システムに含まれる企業データを活用し、アシスタント実行を含む生成AI機能をメインフレームに導入するために特別に設計されている。
◎AIを活用してユーザー・エクスペリエンスを強化
z17は、IBM watsonx Code Assistant for ZおよびIBM watsonx Assistant for ZなどのAIアシスタントやAIエージェントを活用して、開発者やIT運用のスキルと効率を向上するように設計されている。さらに、IBM watsonx Assistant for ZはZ Operations Uniteと統合され、システムデータをリアルタイムで活用した、AIチャットによるインシデント検出と解決を可能にする。
ソフトウェアとハードウェアの完全な統合
IBM z17はハードウェアのイノベーションやAI 対応のソフトウェア機能、オープン・スタンダードおよびツールの豊富なサポートを緊密に連携させることで、ハイブリッド環境に完全に統合できるようにゼロから設計されたシステムである。
これにより、差別化されたパフォーマンスと信頼性を実現するとともに、開発者やシステム運用担当者がIBM Zを管理および活用する方法を以下のように刷新する。
◎AI向けオペレーティング・システム
IBMは、2025年第3四半期に提供予定のIBM Z向けフラッグシップ・オペレーティング・システムの次期バージョンであるz/OS 3.2の概要も発表した。z/OS 3.2は、システム全体でハードウェアによって高速化されたAI機能や、システム管理機能を強化するAIによる分析機能(オペレーショナルAIインサイト)に対応するように設計されている。
さらに、z/OS 3.2は、最新のデータアクセス方法、NoSQLデータベース、ハイブリッドクラウドでのデータ処理に対応している。
これらの新機能は、AIソフトウェアがより広範な企業データを活用し、予測的なビジネスの示唆を導き出すのに役立つ。
◎統合されたIT運用
同時に発表されたIBM Z Operations Uniteは、IBM Z全体の複数ソースから得た主要なパフォーマンス指標とログデータをOpenTelemetry形式で統合し、AIによってIT運用を合理化する。異常の検出時間を短縮し、潜在的なインシデントの影響を切り分け、解決時間を短縮するように設計されている。
IBM Concertと併用することで、運用チームは、企業全体の運用データを自動的に関連づけることができる。IBM Z Operations Unite は、2025年5月30日(米国時間)に一般提供を開始する予定。
◎効率化のためのAIアクセラレーター
PCIeカードを介して提供される拡張オプションのIBM Spyreアクセラレーター(2025年第4四半期に提供予定)により、IBM z17はプラットフォーム上の顧客体験の変革を目指す。ユーザーは、データや機密性の高いビジネスロジックをプラットフォーム外に移すことによる追加のリスクを負うことなく、IBMのGraniteモデルをベースに、z17上でIBMのAIアシスタントとAIエージェントを直接実行できる。
これらのソリューションは最適化されたスタックが組み込まれており、セキュリティと拡張性を備えながら生産性向上を実現できる。
レジリエンスの構築:セキュリティとサイバー防御を核に
IBM z17は、強力なセキュリティとレジリエンシーに向けて、以下のような機能を新たに提供する。
◎シークレット管理
IBMの子会社であるHashiCorp社が3月に発表した機能がIBM Zで利用可能になり、ハイブリッドクラウド間でのシークレット管理を標準化する。IBM Vaultは、IDベースのセキュリティを活用して、シークレット、証明書、キー、トークンなどの機密データへのアクセスを認証および許可する。
IBM Vaultの追加により、IT資産全体にわたるシークレットのライフサイクル全体を管理することで、重要なワークロードを保護するための統合ソリューションを利用できるようになる。
◎AIを活用したデータ・セキュリティ
IBMは、プラットフォーム上で機密データを検出および分類する新しい機能を提供する予定である。これは、Telum IIプロセッサと自然言語処理機能を活用し、AIに組み込む前に、ミッションクリティカルなデータを特定・保護できる。
さらに、最新のAI主導のセキュリティソリューションであるIBM Threat Detection for z/OSは、サイバー攻撃の可能性とされる潜在的に悪意のある異常を検出・特定するように設計されている。
AIを活用したサポートをIBM z17に拡大
ユーザーごとに特化した包括的なIBMのサポート体制は、IBM Z を利用するユーザーの、従来の保守では対応しきれない多様なニーズに応える。IBM Technology Lifecycle Servicesが提供するIBM Support for z17は、ピーク・パフォーマンスのために環境を最適化し、リスクを最小化し、ミッション・クリティカルな業務を妨げることなくシステム運用を支援する。
IBM watsonx上に構築されたIBMのAIプロセス機能は、インシデントの修復を最適化し、解決するまでの時間を短縮でき、IBM Zシステムでも利用できるようになった。
セキュアでアジャイルなストレージを提供
IBM Storage DS8000は、IBM Zの統合ストレージ・ソリューションとして重要な役割を担っている。
最新世代のIBM Storage DS8000(第10世代)は、IBM z17の能力を最大限引き出すように設計されており、企業が重要なワークロードを処理できる環境を提供する。
さらに、一貫性のある最適化されたデータ・パフォーマンスと、データの収益化を支援しながらビジネスの成長を促進する最新のIBMの技術を採用できるモジュラー・アーキテクチャを提供する。
IBM ZとIBM Storageを組み合わせることで、ミッションクリティカルなワークロードのためのセキュアでアジャイルなプラットフォームを提供する最新のインフラストラクチャが実現する。
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