
上野 誠也氏(右)
ベル・データ株式会社
代表取締役社長
成瀬 正樹氏(左)
ベル・データ株式会社
アプリケーションビジネス本部 本部長 執行役員
上野 誠也氏がベル・データの代表取締役社長に就任してから1年が経過した。就任直前にランサムウェア攻撃を受けるという、予期せぬ事態も発生したが、その成長戦略にゆらぎはない。同社のアプリケーションビジネスを担う成瀬正樹氏とともに、ベル・データの戦略の今を聞く。
ランサムウェア攻撃により得た変化と気づき
i Magazine(以下、i Mag) 社長就任から1年が経ちましたね。上野さんにとって、どのような1年でしたか。
上野 一言でいえば、「試練と成長」の1年でした。ご存じのように、当社は2024年9月19日にランサムウェア攻撃を受けました。私の正式な就任が10月1日でしたから、就任直前に発生したインシデントでした。そのため、就任のご挨拶よりも関係各所にご心配とご迷惑をおかけしたことへのお詫びからスタートすることになりました。発生直後からユーザー企業様とビジネスパートナー様に向けて、担当社員とともに事態のご説明とお詫びに伺いました。
まさに波乱の船出と言ってよいと思います。その一方で社員たちの「成長」を強く感じた1年でもありました。今回のことで社員全員が一丸となり、事態の把握、復旧、対策、お客様へのお詫びに奔走するとともに、これまでのビジネスをより強く継続していくことに尽力してくれました。そのことを、とても心力強く感じました。

i Mag この件に関するお客様からの反応はいかがでしたか。
上野 一部のお客様からは、情報開示の遅れを指摘されましたが、一方、応援してくださる声が多かったのはありがたかったです。「何か協力できることはないか」とのお声を頂戴したり、「明日は我が身と思うと決して他人事ではない。今回の経験を踏まえたセキュリティ提案を望む」といったご依頼をいただくこともありました。これまでの社員の努力と、今まで築いてきたお客様との信頼関係があったからこそと感謝しています。
i Mag 今回のセキュリティインシデントを経験して、変化したことはありますか。
上野 もちろんセキュリティ環境の見直しなどいろいろとありますが、社員の意識の変化も見られました。今までのベル・データは、「お客様の要望通りのものをご提供する」というスタンスでやって来ましたので、セキュリティ製品においても、さまざまなものを取り扱っていました。それが今回の経験を経て、自分たちで検証し、自信をもってお客様に安心を提供できるセキュリティ製品はなにかを考えるというような意識が芽生えています。
まだすべて収束しているわけではありませんし、お客様へのご説明とお詫びが続いている最中ですが、今後は今回のインシデントで何を経験し、どういった気づきを得たかを伝えられる「語り部」のような活動を展開できたらと考えています。
「継承するもの」と「改革するもの」の両輪で
IBM iビジネスを成長させる
i Mag 昨年、社長就任の際のインタビューで、Power市場のプラットフォーマーとなることを掲げて、戦略や施策をいろいろとお話しいただきました。予期せぬセキュリティインシデントで予定どおりにいかない部分もあったかと思いますが、社長就任から1年を経過して、戦略や施策の進捗具合はいかがですか。
上野 当社の強みや優位性を発揮できる事業領域として、Power事業とアプリケーション事業の2軸に沿って戦略を展開していく方針は変わりません。Power事業についてはクラウドサービス、パートナー様との共創、コミュニティの形成、Power×Open×AIのハイブリッド、そしてストックサービス強化の5つを柱に展開していますが、最も進捗が見られるのは、パートナー様との共創です。ここは今まで当社があまり実施してこなかった領域なのですが、AIやクラウド分野のそれぞれに頼もしいパートナー様と共創できるようになりました。
i Mag もう1つのアプリケーション事業についてはいかがですか。
成瀬 アプリケーション事業もIBM iにターゲットを据えています。当社は「継承するもの」と「改革するもの」の両輪で、IBM iビジネスに取り組んでいく方針です。特にお客様が長年にわたって構築・運用してこられた膨大なRPG資産は業務知識と技術的ノウハウが凝縮された財産であると捉えています。一方で、技術者の高齢化や次世代人材の育成が追いつかないという課題から、こうした貴重な資産の活用が難しくなってきているという声も多くいただいています。
そこで当社では、「モダナイゼーションパック」をご提供しています。これは「X-Analysis」を用いたプログラム資産の可視化に始まり、RPG Ⅲ、ⅣからFF RPGへの変換、RPGに関する技術者教育、アプリケーション保守、SIによる開発支援、Powerアプリケーションの検証と導入など、過去のRPG資産を最大限に活かす各種サービスをご提供しています。

上野 また今期からはAMS(アプリケーションマネージメントサービス)を強く打ち出しています。システムやアプリケーションの運用・保守・管理を一括してお引き受けし、日常的な運用システムの運用・保守から改善提案、利用者対応、セキュリティ管理など、幅広い業務をカバーしていきます。
成瀬 アプリケーション保守はどうしても受け身というか、お客様が要望される作業を受託して業務を進めていく形態になります。一方のSIは、お客様のニーズに沿ったシステムを開発していくわけですが、気合と徹夜で乗り切るような前世紀型の業務がまだ色濃く残っています。お客様にとっても、当社のようなベンダーにとっても、双方にメリットのある手法を考えたとき、AMSが最適解であるとの結論に至りました。アプリケーション保守とSI双方のそれぞれよい点を取り入れ、お客様に対してプロアクティブにアプローチしていくAMSを今後のビジネスの中核に据えていく予定です。
上野 AMSは、当社にとっての大きな転換点であり、モダナイゼーションの柱に据えていきます。成瀬が着任してから、アプリケーション保守はここ数年、急激に業績を伸ばしている領域であり、技術者不足に起因するお客様のニーズと課題を強く感じています。
Power市場のプラットフォーマーを目指して
i Mag それでは「改革するもの」についても、お話しください。
成瀬 改革するものは、やはり生成AIですね。当社がAI戦略に据えている製品は2つあります。1つは「生成AI連携サービス for i」です。これはIBM i 環境に生成AIを組み合わせて、IBM i 内にあるデータ活用をご支援するSaaS型クラウドサービスサービスです。
たとえば、「受注ファイルから得意先別の受注金額を税抜で集計したい」という指示文を投入すると、受注ファイルと指示文の解析を行い、バックグラウンドでSQL文を生成し、受注ファイルに対して処理を実行し、その結果を自然な日本語に変換して返してくれるといったサービスです。
こうした一般的な生成AI機能(指示文の投入と回答文の生成)に加えて、テンプレートや操作内容などをナレッジとして登録する機能を設けることで、ユーザーの操作を容易にするとともに、的確な回答を得やすくします。
もう1つは、AI分析モデルを活かした分析ツールです。これはAI型第3世代クラウドBIソリューションである「Geminiot」(ジェミニオ)を、当社がIBM i向けにカスタマイズし、予測分析や需要予測、故障予知などに役立てるBIツールです。デジタルツイン作成やETL機能、AI分析モデル、ダッシュボード機能など、データ活用に必要なすべての機能がオールインワンで搭載されており、AI技術者がいなくても業務へのAI活用が可能な環境を提供します。
BIツールとAIを組み合わせて需要予測や販売予測に役立てるという目的がイメージしやすいのか、生成AI連携サービス for i もですが、Geminiotのほうも、お引き合いは多いです。
企業ユーザーの方々は企業内で、あるいは毎日の業務で生成AIをどう役立てていくのかといったイメージをまだ明確に描けない様子が伺えるので、生成AI連携サービス for iのほうはそれを一緒に考えていく伴走支援サービスとしてご提供しています。
上野 今回のセキュリティインシデントで、ベル・データは変わったと思いますし、もっと変わっていかねばならないと考えています。IBM iビジネスに関していえば、「継承するもの」、いわゆるRPGで作り上げてきた過去の資産と、AI活用に代表される「改革するもの」をうまく組み合わせ、IBM iの価値をさらに高めていくことで、Power市場のプラットフォーマーを目指していくつもりです。
ベル・データ株式会社
本社:東京都新宿区
設立:1991年
資本金:3000万円
売上高:120億円(34期)
従業員数:270名 (2024年10月1日)
https://www.belldata.com/
上野 誠也氏
2000年にベル・データに入社、九州支店営業部に配属。2011年に九州支店長、2016年に大阪支店長に就任、2018年に執行役員、大阪支店長 兼 西日本営業統括部長。2023年に執行役員、IBM i事業責任者 兼 ベル・ホールディングス 経営企画室長。2024年10月より現職。
成瀬 正樹氏
1999年に福岡の開発会社、2007年にIBM i系の開発会社へ入社。2020年にベル・データへ入社し、アプリケーションビジネス本部へ配属。2021年に本部長補佐に就任。2023年10月より現職。
撮影:千葉 格
[i Magazine 2025 Autumn号掲載]







