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IBM iの利用継続を前提に、尾家流モダナイゼーションを考える ~越智 亮介氏 尾家産業株式会社 |IBM iの新リーダーたち⓮

越智 亮介氏
尾家産業株式会社
経営企画室長 兼 システム部長

ホテル・レストラン・居酒屋などの外食産業や、お弁当・総菜・宅配などの中食事業、工場やオフィスへの給食事業、病院や介護施設へのヘルスケア事業など、多角的な食材事業を展開する尾家産業。IBM iの利用継続を前提に、外部連携や自動化など、多彩なIT施策を打ち出す同社の越智亮介氏に、尾家流モダナイゼーションの真髄を聞く。

人材育成・スキル継承が
目下の最大のテーマである

i Magazine(以下、i Mag) 最初に越智さんのプロフィールからお聞かせください。

越智 私が尾家産業に入社したのは、1994年です。学校でコンピュータを学び、配属も最初からIT部門でした。当社はもともと1970年代に国産オフコンを導入し、その後は拠点ごとにシステムを導入していきました。ただその頃よく見られたように、拠点ごとにさまざまなシステムを導入していたので、統一性に欠ける面があり、システムを効率的に運用できているとは言えませんでした。

そこで1991年から、全社統一システム「OTIS(オーティス)」の構築に動き出しました。当時は拠点ごとにIBM i(当時のAS/400)を1台ずつ導入し、合計40台が稼働していました。全拠点のAS/400を統合し、共通システムを構築するプロジェクトが動きだしたわけです。

このプロジェクトは1994年にいったん終了し、その後も段階的にハードウェア的なシステム統合を進めました。1998年にはAS/400を4台にまで集約し、2002年には1台へ完全統合しました。その間の2000年には、現行システムである尾家産業独自の基幹システム「SMILE(スマイル)」が本稼働しています。

私が入社したのは、この全社統一システムの構築を進めている真最中でした。当時は部長と部員が1人いましたが、部長はほかの部門を兼務し、ITの実務にはタッチしていなかったので、事実上の「ひとり情シス」状態でした。そこに新入社員として自分が加わったのです。

SMILEの開発は難航しました。私は前のOTISを担当していたので、1997年にSMILEプロジェクトがスタートした当初は、プロジェクトには参加していませんでした。外部から2名、社内から1名を招集し、外部ベンダーの支援を受けつつ3名で開発を進めました。

しかし予定どおりに進まず、1999年4月から私がプロジェクトに入りました。1999年4~12月にベンダーが作ってきたプログラムをチェックし、バグを見つけては修正を指示し、1999年12月に本稼働させました。稼働後もバグがいろいろあったので、その都度、私がプログラムを修正して対応してきました。

i Mag いろいろなトラブルが起きるなか、プロジェクトを推進してきたのですね。

越智 そうです。先ほどもお話ししたように、私は実質的な「ひとり情シス」状態にあるシステム部に入ったのですが、SMILEの開発を経験したことで、外注オンリーの構築体制が孕むリスクを認識しました。そこで内製体制の重要性を痛感し、段階的にシステム部の要員拡充に努めてきました。私がシステム部長に就任したのは2016年ですが、それ以前もそれ以降も、人員の拡充と人材の育成が、当社にとっての大きなテーマになっています。

現在のシステム部は、私を含めて10名で構成されています。2024年4月からはシステム部のなかで開発課と運用課の2つに組織を分けました。開発課は4名、運用課は5名が在籍し、開発課の2名は昨年入社した新人社員です。

i Mag 今後もIBM iの利用を継続していく予定ですか。

越智 SMILEは改良を重ね、現場のニーズをきめ細かく反映した基幹システムとして完成しています。それを捨てて、IBM iから他のプラットフォームへ移行するつもりはありません。今後のIT計画は、IBM iの継続を前提にしています。経営側もそこはよく理解してくれていて、「IBM iの運用を中止しろ」といった類の要望は一切ありません。ただ経営側から心配されているのは、世代交代やスキル継承についてです。これまで常に開発最優先の体制で来たので、改修に伴うドキュメントを正確に残していない点が、IBM iを継続させていくうえでの最大のウィークポイントだと思っています。

私が入社してからほぼ30年、すべての開発の記録は私の頭の中にあります。そのため「越智がいなくなったら、どうするのか」「次世代の人材育成に向けて、スキル継承を確実に進めるべきではないか」と、心配されているわけです。

私もそのことは十分に認識しており、人材育成とスキル継承に努めています。2024年春に開発課と運用課を分けたのも、そのための試みの1つです。課が存在しないと、課長も任命できません。2人の課長に私の経験やノウハウを伝えるとともに、既存のプログラムについて仕様書を作成するなど、明示化・可視化を進めています。

i Mag 今、人材育成を進めていくうえで、なにか課題はありますか。

越智 よく指摘されているように、システム部の担当者が現場を知らないことが最大の課題だと考えています。当社では、他部門からシステム部への異動も一部にはあるのですが、ほとんどの部員が最初からシステム部の所属になっています。事業所や部門からSOSに近いリクエストが届くと、みな一生懸命、その要望に応えようとがんばります。でも現場を知らないと、「なぜ必要なのか」「なぜ求められるのか」を理解できず、真に必要なシステムとして具現化できない面があります。

理想は、他部署へ1年ほど所属して現場業務を学び、その知識をもってシステム部に帰ってくることなのでしょうが、人事制度もあり、また個々人の適性やタイプもありますから、簡単に実現するとは思えません。

かく言う私自身も、最初からシステム部の所属で、身をもって現場業務を体験したことはありません。同じ環境で苦労してきた人間として、現場部門とのコミュニケーション方法など、自分の経験やノウハウをできるだけ伝えていきたいと思っています。

尾家流モダナイゼーションとはなにか

i Mag 尾家流モダナイゼーションをどう考えていますか。

越智 IBM iのモダナイゼーションという観点で、重視している点は3つあります。まず開発言語として、RPGとLANSAの二刀流で進めること。2つ目は基幹システムに蓄積された豊富なデータを最大限に活用していくこと。この手段として、さまざまな外部連携を実現しています。そして3つ目は、システム部に対して、そしてエンドユーザーに対しても多様な形で自動化を進め、業務の効率化や生産性向上を目指していくことです。

二刀流については、2007年に開発ツールとしてLANSAの導入を決めました。誰でも使える生産性の高いツールを探していた時期に、LANSAと出会いました。

IBM iは優れたプラットフォームですが、やはり見た目は重要です。新入社員たちは初めて5250画面を目にしたとき、揃って戸惑った表情を浮かべます。「これ、なんですか?」と言いたげですね(笑)。そこで新しいアプリケーションやモバイル、あるいは利用ユーザーが多くGUI画面が必要とされるようなアプリケーションはLANSAで開発する一方、バッチ処理を主体にした既存プログラムの改修・追加開発などはRPGで進めるようにしています。現在はRPGとLANSAが5対1ぐらいの割合でしょうか。でも今後はLANSAの割合が増えていくと考えています。

また既存プログラムは大半がRPG Ⅲで開発されていますが、今後はILE RPGやフリーフォームRPGを採用する計画で、教育や移行計画を策定していきます。どう計画すればよいか、今検討を進めている段階ですね。いずれにしても、RPGとLANSAをうまく棲み分け、使いこなしていくことが、モダナイゼーションの第1歩でしょうか。

i Mag 外部連携については、どう考えていますか。

越智 IBM iの基幹システムには、貴重なデータが蓄積されているので、外部連携によりその価値を高めていくことが、もう1つのモダナイゼーションであると考えています。 

たとえばメールの自動受信や自動データ変換処理、障害発生時の通知や取引先へのデータ送信といったメールの自動送信。ボイスシステムやハンディターミナル、ソーターシステム、デジタルピッキングシステムといった物流システムとのデータ連携。さらに取引先とのEDI連携や発注書の自動FAX送信、請求書の電子化、LINEでのチャットボット連携、外部ストレージやデータ分析ツールの利用、Web商品カタログなど、いろいろと実現してきました。

i Mag これらを見ると、外部連携と自動化は重なる部分が多いですね。

越智 そのとおりです。外部連携と自動化は、効率化や生産性向上の大きなカギになる取り組みであり、今後もいろいろと進めていく予定です。たとえばAI-OCR、需要予測発注システム、タレントマネジメントシステム、SMILEのWeb化、LINEによる発注システム、新ボイスシステム、社員からの問い合わせに答えるAIチャットボット、新しいBIツールの導入、シンクライアントのクラウド化などを計画しています。

ただし自動化を進めていくと、不具合や意図したとおりに動いていない点に気づきにくくなることが注意点です。自動化によりブラックボックスとなる領域が増えないように、いろいろと工夫していく必要があります。

システム部の主導では
DXを実現できない

i Mag 外部連携や自動化により、業務の効率化や生産性向上を目指していくわけですね。

越智 そうです。ただ既存の業務フローを変えることなく、業務の効率化を図っていくのでは不十分ではないかと考えています。既存の業務フローのままでは、いくら効率化を進めても限界があります。業務を抜本的に見直し、改革に着手したうえで、効率化や生産性向上をITで支援していくべきでしょう。これはシステム部の問題ではなく、業務部門の課題であり、IBM iのモダナイゼーションではなく、会社としてのモダナイゼーション、いわばこれが「尾家流モダナイゼーション」であると思います。

そこでまず、2024年6月から全社員のITスキルアップを目指して、「ITスキル勉強会」を開始しました。全事業所とzoomでつないで、メールやExcelなど基礎的なITスキルを各事業所の担当者に伝える。その担当者が事業所内に伝えることで、業務統括部主体の全社的な取り組みとして進めています。これは現社長の意向もあって、一気に取り組みが進みました。1人の担当者がExcelの操作に1時間を要していたのが30分になるだけでも、全体で見れば大きな生産性向上につながりますからね。

また現在利用しているBIツールの定義を自分たちの手で作りたいなどと考える一部の上級者向けに、こちらはシステム部主体でリアルな研修の場を設けています。今は2グループで、合計12名が定義の作成方法をはじめとするBIツールの高度な利用方法を学んでいます。

i Mag 尾家産業にとってのDXをどう考えていますか。

越智 2025年度から新たな中期経営計画がスタートします。これまでの中経ではITのスキルアップを強く意識した内容でしたが、2025年度から始まる新しい中経では尾家流DXの実現を謳っています。ただしDXの発想は、システム部主導ではうまくいかないと思っています。お客様、社員、ステークホルダー、すべての満足度を向上させるDXは、やはり現場部門が発想し、推進し、システム部はITでそれを支援するという形が理想です。

私は2023年6月から経営企画室長を兼務しています。システム部とは別の視点で経営企画やDXを考えていく必要があってのことですが、2022年4月からは業務統括部の主導で業務改革プロジェクトがスタートしました。2025年4月からは業務統括部がDX担当部門となります。その際に、各部署からの代表者を集めたDX推進チームを発足させたいと考えています。業務統括部はもちろん、営業部や物流部など各部署を巻き込んだ形で、DXを推進していきます。尾家流DXへの答えが出るとすれば、そのチームがうまく機能した時だと考えています。

尾家産業株式会社
本社:大阪府大阪市
創業:1947年
設立:1961年
資本金:13億570万円
売上高:1113憶円(2024年3月期)従業員数:885名(2024年3月末) https://www.oie.co.jp/

越智 亮介氏
1994年に尾家産業へ入社。当時、進行していた全社統一システムや基幹システム構築プロジェクトに携わり、陣頭指揮をとる。2012年にシニアプロフェッショナル就任。2016年にシステム部長、2023年から経営企画室長を兼務。

撮影:イノウエ ショウヤ

 

[i Magazine 2025 Spring号掲載]