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IBM PowerとIBM iの成長戦略を4つの柱で描き、3つのチーム改革で推進する ~原 寛世氏 日本アイ・ビー・エム株式会社

原 寛世氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
理事 テクノロジー事業本部
IBM Power事業部 事業部長

 

2022年9月1日に、原寛世氏がテクノロジー事業本部 IBM Power事業部の事業部長に着任した。IBM Powerを統括する立場から見ると、現在のPower市場およびIBM i市場はどのように映っているのだろうか。そしてどのような戦略・施策で、この市場を成長させようとしているのだろうか。

テクノロジー・ライフサイクルを
見据えた新サービスの立ち上げ

i Magazine(以下、i Mag) 2022年9月から、テクノロジー事業本部 IBM Power事業部の事業部長に着任されたわけですが、それまでのキャリアを簡単にお話しください。

 私は大学を卒業してからまず、国内の通信機器メーカーに就職して数年間、北米向け携帯電話の販売プロジェクトに従事したのち、1997年に日本IBMに入社しました。日本IBMでのキャリアを振り返ったとき、大きく3つのフェーズに分けられます。最初はセールススペシャリストとして経験を積んだ時期。これが入社してから2003年までで、最初はリース・ファイナンス事業に携わり、それを通してIBM iのマイグレーションなどをご提案していました。

次フェーズが2004年から約6年間、マネージャーとして勤めた時期で、アジア・パシフィック・グループのマーケティング部門でサービス開発担当を皮切りに、ソリューションセールスとしてサービス業や金融系のお客様を担当したり、オンラインリース契約の開発やソフトウェアコンプライアンスを担当するなどして経験を積みました。この時期にワールドワイド共通のIBM認定再生品(Certified Pre-Owned)を開発したり、PCレンタル事業を新たにスタートさせたりもしています。そして3つ目のフェーズが、2011年にグローバル・テクノロジー・サービス(GTS)事業本部に移り、個別の成長イニシアティブの責任者として、SIビジネスをベースに多彩な事業を立ち上げ、展開していった時期です。

GTSに移ってからは、IBM製品だけでなく、他社製品とのインテグレーションが主軸となり、この時期にアップルやレノボ、DELL、VMWare、HPなどさまざまなメーカーやベンダーとのアライアンス推進に尽力しました。モバイルファーストを提案するため、自ら率先して働き方改革を推進したりもしています。

このように新しい事業を立ち上げたり、新しい領域に挑戦することに大きなヤリガイを感じてきました。その中でもとくに自分自身の中でマイルストーンとして刻まれている挑戦が、2019年にテクノロジーコンサルティング&インプリメンテ—ションサービス(TC&IS)事業を立ち上げたことです。

そのころすでに、DXという言葉が登場しており、お客様にとってのToBeモデルを描いたうえでIT投資のロードマップをご提案するDXコンサルティング事業を立ち上げました。これには今までと異なる新たな人的リソースが必要と考え、社内外から約80名の人材を集め、DXを軸としたコンサルティング組織を確立しました。

さらに2020年6月には、テクノロジー事業本部 製品保守サービスに異動して、テクノロジー・サポート・サービス(TSS)の販売部門を担当することになりました。TSSとは製品保守事業を指します。IBM製品および他社製品をインテグレーションした環境を保守する体制はすでに確立されていましたが、次世代の保守サービスの在り方を創出することが私に与えられたミッションでした。

製品保守というサービスは、導入された製品をただ単に修理やメンテナンスするだけでなく、お客様の現在の課題や要望、今後に向けた考え方を最も的確にキャッチできる窓口なのです。製品の導入からメンテナンス、更新、運用監視やヘルスチェック、次期への移行・拡張といったトータルライフサイクルという考え方の中で、次世代に向けて満足度の高い使い方、お客様の事業や業績を拡大させる利用方法をご提案し、新しいライフサイクルをスタートさせることをサービスの核と考えました。

つまりIBM製品を中心に、エンタープライズネットワークまでを含んだお客様のIT環境全般におけるテクノロジー・ライフサイクルのパートナーを目指そうという考え方です。そこでテクノロジー・サポート・サービス(TSS)から、テクノロジー・ライフサイクル・サービス(TLS)へと呼称を改め、ビジネス化を推進しました。

2022年9月に現職として着任したわけですが、IBM PowerをベースとしたDXやモダナイゼーションにも、このテクノロジー・ライフサイクルという考え方を反映させたいと考えています。単に製品をリプレースするのではなく、満足度の高い次世代に向けたIBM Powerの利用方法を積極的にご提案していきたいと考えています。

IBM PowerおよびIBM iの成長戦略を4つの柱で描く

i Mag 久しぶりにIBM PowerおよびIBM i市場に戻ってこられたわけですが、市場の印象は変化していましたか。

 2011年にGTS事業本部に移動する前は、さまざまな形でIBM PowerやIBM iをご提案する機会があったのですが、2011年以降は他社製品とのアライアンスやモバイル環境の刷新などがミッションになったので、少し離れた感覚がありました。11年ぶりに戻ってきて強く感じたのは、IBM PowerやIBM iをベースとする経済圏、いわゆるエコシステムが以前にもましてしっかりと形成されていることでした。着任後、いろいろなお客様やビジネスパートナー様とお話しする機会を得て、そのことを真っ先に感じましたね。この市場に携わる方々とともに歩み、成長する方策を開拓していくことが、私に求められる第1のミッションであると強く感じました。

i Mag  IBM Powerの成長戦略を今、どのように描いているのですか。

 成長戦略は現在、4つの柱で描いています。IBM Powerを信頼して、活用し続けてくださるお客様を大切にしながら、お客様の業務継続という観点でのサステナビリティへの対応、強化されたセキュリティ基盤を継続的にご提供していきます。そして「DXによる新しいアプリケーションを摩擦レスに稼働させるサービスとしてのビジネス」へと、IBM Powerを拡張することにフォーカスしていきます。具体的には人手不足への対応策として、まずはシステム運用周りから強化できるよう、パートナー様と協業しながらモダナイゼーションを加速させます。

1つ目の柱としてはまずコアビジネスとして、既存システムからPower10への更改が挙げられます。Power10は基幹システムの基盤に求められるパフォーマンス、信頼性、セキュリティを強化しています。お客様のサステナビリティの課題に対応すべく、Power10は1台の集約率を高め、ITインフラで消費する熱量や排出CO2の削減とパフォーマンスの向上を両立させています。たとえばドイツのBoschグループ様ではE1080の導入により、20%のエネルギー削減と75%のパフォーマンス向上を果たしたというレポートも出ています。

金融機関、製造業、流通、エネルギー、医療機関に至るまで、日本の屋台骨を支える各インダストリーの基幹業務でIBM Powerが導入されています。そうした既存のお客様に対し、単に製品を更新するのではなく、今後に向けた新しい使い方をご提案し、付加価値を高めたうえでの更改をどう実現するかが重要です。「IBM Powerが実現する世界」としての鳥瞰図をインダストリーごとに作り、IBM Powerを中心とした提案の広がりを示していきたいと考えています。

そして、新たなお客様を増やしていく取り組みも重要です。とくに日本のメインフレームをご使用のお客様に対し、今までの投資とアプリケーションの仕組みを維持しながら、システムのモダナイズをIBM Powerで実現し、メインフレーム以上の性能を体感いただき、将来の拡張性を提供していきます。

2つ目の柱が、SAP HANAの主要プラットフォームとしての推進です。IBMがSAP社とアライアンスを組んでから、昨年で50周年を迎えました。IBM i、AIXでSAPを利用しているお客様も数多くおられます。ただし我々の課題としては、2027年のSAP ECCのサポート終了に向けて、SAP ERP製品、とくにSAP S/4HANAのプラットフォームとして、IBM Powerに向けられる注目度が圧倒的に足りないと感じています。

イン・メモリ・データベースであるSAP HANAの運用に最適化したIBM Powerの優位性をもっと強く打ち出す必要があります。それとともに、案件対応のスピードも高めていかねばなりません。たとえば見積もりやサイジングなど、お客様がSAP HANAのプラットフォームとしてIBM Powerをご検討いただいた際の対応力を高めていくことが大きなテーマです。

i Mag  残る2つの柱は何になりますか。

 3つ目の柱はモダナイゼーションです。これは全業種分野において、DXを推進されるお客様に対して加速します。ITインフラのイノベーションとして、IBM Powerをパブリッククラウドでもプライベートクラウドでも、より柔軟性のある“クラウド”として活用いただき、その複雑なインフラ環境の運用管理を自動化することで、最適化を推進します。アプリケーションの側面ではIBM Cloud Paksや、強力なISVソリューションの活用による新しいアプリケーションをより俊敏に提供し、既存アプリケーションとの連携を容易にすべく、ソリューションプロバイダーの力を結集して、強力なエコシステムを形成します。それにより、次代を見据えたモダナイゼーションを加速化していきたいと考えています。

昨年はIBM iの新しい開発ツールとして「IBM Merlin」をリリースしましたが、必要とされるシステムリソースへの投資や新しいスキルが必要なことなど、いろいろなご指摘をいただきました。そこで、誰もがもっと簡単にMerlinを利用できる環境整備に向けた取り組みも計画しています。

そして4つ目、最後の柱が「Power-as-a Service」の推進です。IBM Powerは、パプリッククラウドとしてPower Virtual Serverを提供しており、全世界15のデータセンターでの利用数は拡大し続けています。そしてPower Private Cloud with Dynamic Capacityによるプライベートクラウドも急成長しています。

お客様が業務に合わせたクラウド環境をご利用いただけるよう、導入方法、管理方法、そして支払いに至っても柔軟性を提供しています。IBM iサブスクリプションモデルも昨年末に発表しました。IBM PowerもIBM iもサブスクリプション提供を可能にし、その先でPower環境をサービスとして利用いただけるよう、ISV様やビジネスパートナー様との協業により、SaaSメニューの充実、IBM iサブスクリプションの普及、クラウド化のご支援などに取り組んでいくつもりです。そこで最初にご提供するのが、SAPとなる予定です。

技術人材の強化と
パートナー支援策の展開

i Mag 戦略の実現に向けて、どんな改革に着手するつもりですか。

 先ほどお話しした4つの柱を中心にした戦略には、技術人材、すなわちテクニカルチームの強化が欠かせません。テクニカルチームが営業担当者に同行してお客様への提案を補足するのではなく、テクニカルチームが主体性を持って積極的にお客様と会話し、情報提供や技術支援を通してIT利用の付加価値を高めていくことが必要です。

具体的には3点ほど、チーム改革を行います。まず1つ目は、3名の力強いSME(Subject Matter Expert)を私の直属に配置します。それぞれ特色のあるシニアなメンバーであり、この3人のSMEとともに4つの柱の戦略を具体的にドライブしていきます。

2つ目はテクニカルチームの強化策として、私のチームではセールスとテクニカルセールスの人数配分を逆転させます。今まではセールスの人数が圧倒的に多かったのですが、今後はテクニカルスキルセットを持つ人材を多く配置し、その人数配分を逆転する体制に変えていきます。これによりお客様が実現したい取り組みに対して、技術的な側面からともに考え、課題解決のスピードを高めていきます。

3つ目として、7つのスクワッドチームをIBM Powerの組織内に部門横断的に作ります。今年の戦略の柱を、具体的にビジネスとして進めていくための「方法」に注目し、7つの取り組みを定義しました。各々の領域の第一人者がロールの枠を超えてリーダーとなり、具体的な推進方法について、もしくは推進の阻害要因を取り除くために、チームでディスカッションし、同じゴールに向かう戦略実行者を増やすことが目的です。これらのチーム改革により、単なる掛け声だけの戦略ではなく、力強く、より具体的に戦略の実現に取り組んでいきます。

その上で、ビジネスパートナー様のご支援を強化することも必要です。お客様への提案力、技術力、運用保守のレベルを高めていくためにも、複数社のローカルパートナーとスキームを組み、エコシステムを形成していくことが求められています。この1〜2年が勝負と考えていますので、全力で取り組んでいくつもりです。

原 寛世氏

1997年、日本IBMに入社。ソリューション・セールスとしてサービス業、金融業のユーザーを担当。2011年、グローバル・テクノロジー・サービス事業本部に異動。2016年より、ワークプレース・サービス事業部長に就任。その後、DXコンサル事業などを立ち上げるTC&IS事業部長を歴任。2021年にテクノロジー事業本部 製品保守サービス セールス部門を担当。2022年9月より現職。

 

[i Magazine 2023 Winter(2023年2月)掲載]

 

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