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基幹の総合物流システムをAWS-IBM iのハイブリッドで再構築 ~AWS上のシステムはコンテナ/マイクロサービスで開発、IBM iと連携 |安田倉庫株式会社

安田倉庫株式会社
本社:東京都港区
創業:1919(大正8)年
資本金:36億210万円
売上高:597億5600万円(2023年3月期)
従業員数:2098人(2023年3月期)
概要:倉庫業、運送事業・利用運送事業、通関業・港湾運送事業、物流機器の販売・賃貸業、物流情報システムの開発・運営業、不動産業など
https://www.yasuda-soko.co.jp/

既存システムは安定稼働中
デジタル化への対応が困難

総合物流企業の安田倉庫は、IBM i上で運用してきた基幹システム(総合物流システム、YOURSⅡ)を再構築し、AWSとIBM iで構成される新しい基幹システム(次世代総合物流システム、Next YOURS)の運用を2023年2月に開始した。

AWS上のシステムはコンテナ/マイクロサービスで開発され、IBM i上の基幹システムと連携するというもの。

このシステム構成を選択した理由について執行役員の木下徹氏(情報システム部長)は、「従来のYOURSⅡは、業務を遂行するうえではまったく問題なく、長期にわたって安定稼働してきました。ただし、利用技術の制約により、さらなる業務効率の向上や社内外を含めたデジタル化への対応が困難になってきています。また、経済産業省が発表した「2025年の崖レポート」に明記されているように技術者が減少していくことを踏まえると変革を検討しないといけないと考えました」と説明する。

木下 徹氏

同社は現在、中期経営計画「変わらず、変える。YASDA Next Challenge 2024」(2022年4月〜2025年3月)を推進中である。その内容は、物流拠点や輸配送ネットワークを拡大し、さらに労働集約的な物流業務の高度化を図るというもの。

物流拠点の拡大では福岡県小郡市に新たな物流拠点(九州営業所 第二倉庫)を設けたほか、重点領域のメディカル物流では埼玉県加須市に医薬品専用設備を備える加須営業所を建設、今後も東京都大田区に医療機器物流専用拠点として「羽田メディカルロジスティクスセンター」を新設予定である。輸配送ネットワークの拡充では北陸、長野、京都に本社をもつ物流企業を子会社化し、海外ではシンガポール、インドに新たに拠点を設けた。また物流倉庫で利用する自動搬送車(AGV)や自動走行搬送ロボット(AMR)などの導入も進める。

こうした取り組みにおける情報システム部門の役割について、業務部の瀧澤和貴担当部長(兼 サステナビリティ推進室長)は、「中期経営計画で実施するいずれの施策も情報システムの支えなしには推進できず、情報システム部門への期待はこれまで以上に大きくなっています。今回の基幹システムの再構築も、将来へ向けた重要なステップと理解しています」と語る。

 

瀧澤 和貴氏
図表1 YOURSⅡからNext YOURSへ
図表2 Next YOURSのアーキテクチャ

事業継続性の観点で
システムを見直し、将来構想

同社は2020年に、YOURSⅡの今後について日本IBMに助言を求めた。そして日本IBMからは「事業継続性の観点で既存システムを見直し、将来を構想すべき」という趣旨の提言があった。

「日本IBMの提言は、当社が主軸言語としているCOBOLの将来性(技術者数の減少)や今後の市場・技術動向などを踏まえたもので、お客様ニーズに迅速に応え得るシステム基盤のあり方や、ITの活用による生産性向上の考え方など多岐にわたるものでした。私のほうでも、物流現場の労働集約的な作業は早急に解決すべきと考えていたのと、これまで顧客ごとに個別最適で構築してきたのでシステムの肥大化が進み、新規要件への対応に多くの時間がかかっていることも課題と考えてきました。経済産業省の“2025年の崖レポート”に深く共鳴する点があったので(レガシーシステムの克服とDX推進の必要性)、日本IBMの提言の方向で基幹システムをモダナイゼーションすることに決めました」(木下氏)

同社では次のステップとして、複数のベンダーにRFPを依頼した。そのRFPについて情報システム部の北村健太郎氏(システム運用グループ 兼 システム開発グループ グループマネージャー)は、「今回の再構築は、対象となるシステムの規模が大きく、ビジネスへの影響も小さくないことが予想されました。当社が抱えるYOURSⅡの課題をベンダー各社はどのように解決しモダナイゼーションを図るのか、その考え方を知りパートナーとしたく提案を求めました」と説明する。

北村 健太郎氏

プログラム資産を増やさず
改修・運用を容易にする仕組み

4社への依頼の結果、日本IBMの提案を採用した。冒頭で触れたAWSと既存のIBM iによるハイブリッドクラウドである。他のベンダーは、ローコードツールによる全面再構築やIBM i上での再構築などを提案してきたという。

またIBMの提案はIBM CloudとPower Virtual Serverの組み合わせだったが、安田倉庫では最終的に、クラウドはユーザー数が多く自社のほかのサービスでも利用中のAWSとし、さらにYOURSⅡが現在も安定稼働していることから利用中のIBM i(Cloud Power)を継続利用することとした。

日本IBMの提案は、YOURSⅡの一部をAWSへ切り出し、新規に開発するコンテナ/マイクロサービス・ベースのアプリケーションをAWS上に配置して、それとIBM iとを連携させるというものである。

その考え方について日本IBMからは、「安田倉庫様は従来、荷主用のシステムを、既存プログラムのコピーと荷主固有部分のプログラミングで開発してきました。しかしその方法では開発・保守の工数は増える一方で、プログラム資産も膨大となります。

ご提案の内容は、荷主用システムを荷主固有の部分と各社共通の部分に明確に分け、荷主固有部分については部品化したソフトウェアの組み合わせで開発し、それと各社共通部分を連携させるというものです。その方法であれば、プログラム資産はそれほど増えず、荷主ごとのシステムは作りやすく、改修も運用も容易になります」という説明があった。

またソフトウェア部品の開発については、同じ機能を複数作らず、ほぼ同じ機能を作る必要がある場合は類似機能を拡張して新しい部品/サービスとする。アーキテクチャと設計・開発手法については、継続的な拡張と開発プロセスの自動化を実現するものを確立し、運用面では部品/マイクロサービスの保守・運用を軽減する仕組みを採用する、という考え方だった。

同社ではこれを受け、Red Hatのコンテナ・オーケストレータとROSA(Red Hat OpenShift Service on AWS)を採用した。

コアの業務ロジックは継承し
5250画面などを改修・開発

同社は上記の考え方に基づき、開発方針の策定作業に入った。そのポイントについて情報システム部システム開発グループの中岡豊氏(マネージャー)は、次のように説明する。

中岡 豊氏

「YOURSⅡはシステム規模が大きいので、再構築を一挙に進めると最低でも5年はかかり、巨額の投資が必要になります。また開発を進めても効果を享受する前に機能が陳腐化したり機能不足に陥る可能性があります。そのため新しいシステムは全面的な作り替えを行わずに必要なところから業務単位でAWSへ切り出し、段階的にモダナイゼーションしていくことを決めました。開発方針としては、コアの業務ロジックに大きな変化はないのでそのまま継承し、時代の変化に対応できていない5250画面や属人的な作業になっている紙中心のプロセスの新規開発や改修を行うこととしました」

開発作業は2022年4月にスタートした。開発の対象をロット1、ロット2とインフラ構築の3つに分け、並行して開発を進めた。ロット1は「YOURS Web」と呼ぶ荷主向けインターネットサービス、ロット2はハンディターミナルやスマートフォン端末を活用して倉庫作業をデジタル化するシステムである。AWS上の部品/マイクロサービスなどの開発は日本IBMが支援したが、「最盛期には約50人のエンジニアが参加した」という。

またプロジェクトと並行して、コンテナ/マイクロサービスに関する日本IBM提供の技術研修を、情報システム部門とアプリ開発を委託しているベンダーで受講した。

インフラについてはROSAの運用・保守で実績のある会社が少なく選定に難航したが、AWSのインフラ環境の運用保守で実績をもつサーバワークス社がIBMの支援を受けて対応することになった。

IBM i上でモダナイゼーションを
進める基盤が整う

2023年2月の本番移行後は、「大きなトラブルはなく、稼働しています」と、中岡氏は話す。ただし、物流現場で使用するハンディターミナルなどの応答速度に課題があったため、AWS上にキャッシュメモリを配置して高速化を図った。

「事務処理ではまったく問題のない応答速度でしたが、物流現場では瞬時の応答が必要なため、本番移行後に対処しました」と、中岡氏は話す。

今回の基幹再構築プロジェクトを振り返って木下氏は、「今回は、AWSへ切り出す部分を最小限に抑えたことで移行・再構築に伴うリスクを最小化でき、計画どおりにプロジェクトを進めることができました。導入コストもYOURSⅡ構築時の1/3程度で済んでいます。今まではIBM iの領域内でしか新しい開発に取り組めませんでしたが、今後は外部のクラウドサービスなどを活用しながらモダナイゼーションを進められる基盤が整ったと考えています」と総括する。

今後は、事務系システムのWeb化やデータ活用の高度化に取り組む予定。またIBM i上のCOBOLプログラムを段階的にJavaへ移行していく計画だが、「データベースはIBM iに残す想定」という。現在は荷主別、拠点別のシステム化を横展開で推進中である。

図表3 Next YOURSの開発スケジュール

 

[i Magazine 2024 Spring掲載]