
ウェルネット株式会社
本社:北海道札幌市(本店)、東京都港区
設立:1983年
資本金:6億6778万円
売上高:109億1864万円(2025年6月期)
従業員数:131名(2025年6月30日)
事業内容:代金決済・電子請求・電子決済、携帯認証ソリューションの開発・提供
https://www.wellnet.co.jp/
2025年7月に
モダナイゼーションプロジェクトが始動
ウェルネットはITベンダーとして、社会インフラとも言える代金決済・電子請求・電子決済、携帯認証ソリューションの開発・提供を担ってきた。
日本で初めて、ペーパーレスかつリアルタイムな現金決済をコンビニ各社と実現。またQRコードで飛行機に搭乗できる仕組みを開発して以来、多種多様な決済をワンストップで実現するデジタル認証プラットフォームを構築してきた。
昨今では「決済+α」を合言葉に、クラウドサービスの提供範囲を拡大し、2024年6月からはサーバー型認証システム「スルッとQrtto(クルット)」を開始。これはスマートフォンでデジタル乗車券を購入し、そのままチケットレスで電車やバス、観光施設が利用できるデジタル乗車券サービスで、主に関西圏で利用が可能である。導入する鉄道会社の増加とともに順調に拡大する一方、このABT認証技術は湘南モノレールやJR北海道でも導入され、交通事業者のDX推進に貢献している。
さらに2024年7月には日本通信と協業し、「マイナンバーカードを用いた本人認証機能」を実装して、なりすましなどの不正を抜本的に解決した。
同社は東京・大阪に営業部隊、札幌に営業部隊と開発部隊を設置し、2025年8月には福岡に新たに営業拠点を開設した。現在は東京・札幌・大阪・福岡の4拠点体制で、地域に根差した営業活動を展開。コンビニ収納、QRコード、交通サービス、電子マネーシステム、マルチペイメントを柱に、先進的なITプラットフォームの開発・提供にまい進している。
同社がIBM PowerおよびIBM i(当時のAS/400)を利用し始めたのは1997年。コンビニ収納代行システム(社内では「Billingシステム」と呼称)を稼働させるプラットフォームとして導入したのが最初である。
現在は、IBM i上で3つの区画を運用している。1つ目の区画では前述したコンビニ収納代行システムが稼働し、2つ目の区画では、顧客と密接に連携する個社専用システムが稼働している。そして3つ目は開発区画である(図表1)。

このIBM i環境のモダナイゼーションに向けてプロジェクトがスタートしたのは、2025年7月のことである。その背景を詳しく見てみよう。
IBM i上で稼働するシステム
保守できるのはたった1人
プロジェクトの責任者である中條(ちゅうじょう)洋次取締役 執行役員 サービス開発部長が同社に着任したのは、2024年8月のことである。

ちなみにサービス開発部は、同社が手掛ける多種多様なシステムの開発に従事する部署で、約60名の技術者が所属しており、本拠地は札幌市にある。
中條氏は着任早々、コンビニ収納代行システムなど重要システムが稼働するIBM i環境の課題に直面した。その最大の課題は人員不足。当時、RPG Ⅲで開発されたコンビニ収納代行システムを保守できる人員は、たった1名しかいない状況であった。
そのたった1人とは、坂本綾子氏(サービス開発部 決済基盤チーム リーダー)である。導入当初は複数名いた開発者も徐々に数が減り、2014年にはついに坂本氏だけになった。
「コンビニ収納代行システムはアプリケーションの保守もそれほど頻繁ではなく、1人になった当初も、そのことをあまり深刻には捉えていませんでした。しかし2019年に消費税変更への対応で作業量が急増し、外部から技術者の手を借りたのを契機に、今の状況のままではいけない、私だっていつかは居なくなると、深刻に考えるようになりました」(坂本氏)

もちろん同社としても、手をこまねいていたわけではない。Javaや.NETなど、オープン系言語で開発する人的リソースは潤沢なので、そこから人員を異動する形で、若手を対象にRPG人材を増やす努力は続けてきた。しかし教える側は日常業務に手をとられて十分なパワーを発揮できず、教えられる側にも、「この言語を覚えたからと言って、これからの自分のキャリアにどう活かせるのだろうか」との疑問が生じ、人員の増員・定着ができない状況が続いた。
IBM iは導入以来、単純更改(サーバー機購入とアプリケーションの載せ替え)を続けてきたため、システム環境は導入当初のまま。IBM iの資産継承性の高さもあり、RPG Ⅲで開発したシステムは今もそのまま稼働している。開発環境も、また日常的に業務を行う一般ユーザーの操作環境も、5250画面のままである。
中條氏はこの状況を知って、変革の必要性を痛感した。
「IBM iの環境を変革していかないと、お客様、会社、社員の誰にとってもよくない。IBM iはお客様に業務を提供するうえで、安定性、堅牢性、スピード感に優れたプラットフォームであることは疑いないが、今のままの運用を続ける限り、当社にとって成長はないと考えていた」と、中條氏は当時を振り返る。
「これは当社だけの問題ではない。IBM iを使っている日本中のユーザーに共通する問題だ」と考えた中條氏は、答えを求めて北海道オフィス・システムに相談を持ち掛けた。ちなみに北海道オフィス・システムは、IBM Powerのハードウェア更改を実施した2015年から付き合いがあり、ハードウェア面だけでなく、さまざまな相談に乗ってきた。
北海道オフィス・システムのアレンジにより、日本IBMからIBM iの事業責任者が札幌を訪れ、中條氏をはじめサービス開発部のメンバーたちと議論を重ねた。IBM iの最新技術や利用方法に関する理解が進み、ウェルネットはIBM iの将来に光明を見出すことになった。
それを受けて北海道オフィス・システムがIBM iのモダナイゼーションに関する提案を行ったのが、2025年5月。これが了承されて、2025年7月からモダナイゼーションプロジェクトが動き出したのである。
人員不足と属人化を解決する
モダナイゼーション提案
プロジェクトの主要課題となったのは、以下の3点である。
まず、「人的リスクの解消」。コンビニ収納代行システムのプログラムを複数人で保守可能な人的体制を構築する。
次に、「開発効率・業務効率の改善」。サービス開発部の技術者および一般ユーザーが操作・開発しやすいシステム環境へ変革する。
そして、「他システムとの統合」。類似したシステムを統合し、保守業務を効率化する。具体的にはマルチペイメントサービスや送金サービス内の類似機能を統合する。
これらの課題を解決するために、北海道オフィス・システムでは、次のような導入・構築を提案した(図表2)。

まず、Javaや.NETなどの利用経験がある技術者でも、開発しやすいプログラム言語に刷新する。具体的には、現行のRPG Ⅲプログラムを、RPGコード変換ツールである「ARCAD Transformer RPG」(三和コムテック)により、フリーフォーマットRPG(以下、FFRPG)に自動変換する。
次に、IBM iの運用・開発経験の少ない技術者であっても、システム構造や調査工数を迅速に把握し、システムトラブル発生時でも正確に影響度分析などを理解してすぐに対処できるように、システム解析・可視化ツールである「X-Analysis」(GxP)を導入する。
さらに、Javaや.NETなどの利用経験がある技術者に対して、今までと親和性のある開発環境を用意すべく、EclipseベースでFFRPGの開発を進められる統合開発環境「Rational Developer for i」(以下、RDi)を採用する。
このほか、IBM iで初めて開発する技術者に向けて、万全の教育プログラムを整備する。
ここまでがサービス開発部に向けた内容であるのに対し、一般ユーザーに向けた業務効率化案としては、ユーザー・インターフェースを改善し、これまでのように5250画面ではなく、Web画面での操作を可能にする。そのために、5250画面のWeb変換ツールである「aXes」(ランサ・ジャパン、フェアディンカム)を導入する。
以上がプロジェクトの第1フェーズである。開始は2025年7月、終了は2026年11月の約17カ月。第1フェーズを経て体制を強化した後、各システムが将来を見据えたあるべき姿に向かって、最適化を進めていく。具体的には新機能の搭載、マイクロサービス化、クラウド化、DR対策など。こうした目標に向かって、第2フェーズの終了は2027年12月を予定している。
RPG ⅢからFFRPGへ
「ARCAD Transformer RPG」で変換
第1フェーズは、中條氏をプロジェクト責任者に、坂本氏をプロジェクトリーダーに据え、坂本氏とともにプロジェクトの立ち上げを主導した大石亮太氏(サービス開発部 決済基盤チーム リーダー)、Javaなどオープン系言語での開発経験がある神林大一氏と田中時生氏(ともにサービス開発部 決済基盤チーム)が参加。
北海道オフィス・システム側からも同様にプロジェクトリーダーが参加した。各担当領域の現状確認と双方の情報連携、要望整理や進捗確認を担うタスクチームも両社に設けた。業務の担当者や、導入製品のベンダー各社も適宜して参加して、プロジェクトがスタートした。
進捗は以下のようになる(図表3)。

まず、2025年9月からRDiおよびX-Analysisの導入設定を開始した。
「X-AnalysisではFFRPGへの変換を見据えて、約1200本あった現行プログラムの棚卸しに着手しました。使用していないプログラムの変換・テストといった無駄な作業を省くべく、X-Analysisの分析結果と坂本の業務経験の両輪で厳密に分析を進め、移行対象のプログラムを約300本弱に絞り込みました」(大石氏)

続いて同年10月から、ARCAD Transformer RPGを使用した、RPG ⅢからFFRPGへの変換作業がスタートした。前述したように、X-Analysisで対象プログラムを絞り込み、ソース変換作業(具体的にはRPG ⅢからRPG Ⅳを経てFFRPGへ変換)と、ソース変換後のオブジェクト作成を実施した。
実際に変換作業を始める前に、三和コムテックの担当者を交えながら、RPG ⅢからFFRPGへは変換できない項目を洗い出し、RPG Ⅲの段階でプログラムに修正を加えた。こうした努力もあり、実際の変換プロセスでは変換が不能であったプログラムは一切なく、作業はスムーズに進んだという。
また変換作業と並行して同年12月からは、プロジェクトメンバーが参加するFFRPGコーディングのオンサイト研修がスタートした。変換後のソースについて今後自社内で保守していくための知識を身に付けることを目的に、研修は朝から夕方までほぼ終日を費やし、約3週間にわたって、札幌の本社で実施された。講師役を担当したのは、福岡情報ビジネスセンターである。
2026年2月にはすべての変換作業が終了し、動作テスト(現新比較・総合)と本番環境への移行を実施する。変換作業全体に要する期間は約8カ月で、2026年6月には、変換を終えたFFRPGのシステム運用がスタートする予定である。
さらにaXesによる5250画面からWeb画面への変換は、今年6月から約5カ月をかけて実施する。カスタマイズ教育と変換後のプログラム調整およびテストを経て、今年11月からの本稼働を予定している。
オープン系言語の開発者を
RPGの世界へ投入
Javaなどオープン系言語で開発に従事してきた神林氏と田中氏は、このプロジェクトを契機に、コンビニ収納代行システムの担当となった。ともにRPGによる開発経験はまったくない。プロジェクトが始まった当初、RPG Ⅲの現行プログラムを調査したが、読み込むのに苦労したという。
「いろいろと調べて命令の内容はなんとか理解できるものの、インデントがないことに慣れないなど、かなり苦戦しました」(神林氏)

それがFFRPGの研修を受けて以降は、それほど苦痛には感じなくなったという。
「RPG Ⅲの状態ではかなり厳しかったのですが、FFRPGの研修で実際の開発方法などを学んだ以降は、これだったらわかるな、というレベルまで理解が進みました。RDiがEclipseベースの開発環境であったことも、効果があったと思います」(田中氏)

ちなみにRPG Ⅲのベテラン開発者である坂本氏は、FFRPGについてどう感じたのだろうか。
「私はRPG Ⅲの開発・保守と並行して、Javaなどオープン系言語の開発にも従事していました。オープン系言語での開発が続いて、その操作感に慣れてしまうと、RPG Ⅲに戻ったときに、『やりにくいな』と感じていました。しかしFFRPGになって、そのやりにくさをまったく感じなくなりました」(坂本氏)
モダナイゼーションプロジェクトは今秋の完了に向けて、順調に続いている。IBM iやRPGを理解できる人員の不足、導入した当時のまま変わらない開発・操作環境。それが生み出す課題は、中條氏の指摘するとおり、同社だけでなく、全IBM iユーザーに共通する課題である。
モダナイゼーションに向けた同社の取り組みは、多くのIBM iユーザーに重要な示唆を与えることになるだろう。
[i Magazine 2026 Spring掲載]






