Text=三品 拓也(日本アイ・ビー・エム 東京基礎研究所)
最新技術について学ぶための手段は多々あれど、「国際会議に参加する」というのはなかなか敷居が高いもの。本稿では、筆者が参加した国際会議「KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025」について、発表内容から見えるKubernetesの最新トレンドや、国際会議に参加する意義について紹介したい。
KubeCon+CloudNativeCon とは?
KubeCon+CloudNativeConは世界5カ所(日本以外は欧州、中国、北アメリカ、インド)で開催される、Kubernetesとクラウドネイティブ技術の最新成果を発表する会議である。
日本では昨年まで「KubeDay Japan」というローカルイベントが開催されており、今年初めてKubeCon+CloudNativeConに格上げされた。主催者であるCloud Native Computing Foundation(CNCF)が公開しているflickerアルバムを見ればわかるとおり、今年が初めてということもあってか参加者は非常に多く、1500枚のチケットは完売したとのことである。
この盛況を受け、来年も「KubeCon+CloudNativeCon Japan 2026」として開催されることが基調講演で発表された。

この会議は 開催を告げる記事で以下のように謡っている。
この2日間のイベントは、日本および世界中からの参加者が、クラウドネイティブコミュニティの仲間や志を同じくする人々と交流し、ネットワークを築き、協力する機会を提供します。
このとおり、一般的な学術会議よりもコミュニティの交流を重視している。また、発表は研究成果の公表というよりコードへの貢献を説明する内容が多く、ライブデモも盛んに行われる。
また、発表会場の外にはスポンサー企業のブースが並び、ちょっとした展示会のような趣もある。規模は異なるが、RSA Conferenceに似た、発表+展示という形式の会議である。

発表内容の傾向
発表にはカテゴリが付与されている。カテゴリごとの発表数を数え上げたものを図表3に示す。

Kubernetesの効率的運用を目指すOperations+Performanceや、マルチクラスター等のKubernetesプラットフォームの改善に関する発表が含まれるPlatform Engineeringの数が多いのは当然として、AIワークロードの処理に関する発表がそれらと同数の5件あることが興味深い。
ここで挙げた数には含まれないが、AI専用ハードウェアをKubernetesから利用する枠組みとして新しく提案されているDRA (Dynamic Resource Allocation) も複数の発表で話題となっていた。
KubeCon 攻略! お勧めの聴講方法
KubeDayでもKubeConでも、発表はすべて英語で行われる。そしてCNCF公式YouTube チャンネルを視聴すればわかるとおり、正直言ってその英語はなかなかに聴取困難であり、なんの予習もなしに行くと頭の中にクエスチョンマークが踊るだけで終わってしまう可能性がある。
そこで、ここではお勧めの聴講方法を2つ紹介したい。
① 事前に発表資料を読み込む
KubeCon の場合、発表者は当日より前に発表資料をアップロードするよう指示されているので、聴講者側は発表より前の段階でその内容を把握できる。
そこで、スケジュール管理システム(今回であればこちら)で興味のある発表を登録しておき、事前に資料を読み込んでキーワードを頭に入れてから聴講することをお勧めしたい。
② 発表後に個人的にコミュニケーションを取る
発表者が日本語話者であれば、もう1つの技として「発表時には発表者の顔と名前を覚えておき、発表終了後に個人的に内容を聞きに行く」という方法がある。
実際、私も自身の発表(A Journey and Lessons Learned To Enable IBM AIU Accelerators in Kubernetes)の直後に日本の方から質問を受けて日本語でやりとりしたし、IBM Research のブースに立っているときには日本語で発表をリプレイした。
発表者は自分の発表内容をより多くの人に知ってもらいたいと思っているので、わざわざ質問しに来てくれた人に対してはなるべく懇切丁寧に説明してくれるはずだから、臆せず声を掛けることもお勧めしたい。
たとえ英語話者だったとしても、一方的な発表と違ってわからないところがあればその場で「それはなんですか?」と聞けるので、こちらも臆せず話しかけてみてはいかがだろうか。
今回の KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025に限らず、KubeCon の発表資料は イベントスケジュールサイトに、発表ビデオはCNCF公式YouTube チャンネルにすべて公開されるので、参加しなくても発表内容を把握することは可能である。
しかし、ここまでで紹介したように、発表後に登壇者とやりとりしたり、同じ内容に興味を持っている人と繋がったり、といった現地参加ならではの価値もあるので、一度は現地参加を検討してみることをお勧めしたい。本稿で、現地の雰囲気を知っていただければ幸いである。

著者
三品 拓也氏
日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所
スタッフ・リサーチ・サイエンティスト
TEC-J Steering Committee メンバー
2004年、日本アイ・ビー・エム(株)入社。東京基礎研究所にてセキュリティ、コンプライアンス関連の研究に従事。2020年から Kubernetes (OpenShift) のコンプライアンス検証ツールの研究・開発を担当。2023年からはAIハードウェアをOpenShiftから利用するためのソフトウエア群を研究・開発するプロジェクトに参加中。
*本記事は筆者個人の見解であり、IBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。
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