IBM iの進化に伴う変化と
サポート終了となるIBM i機能
長年にわたり高い安定性とアプリケーション資産の継承性で多くの企業の基幹システムを支えてきたIBM iは、現在もユーザーのニーズに継続的に対応し、進化し続けている。最新バージョンのIBM i 7.6では、セキュリティの強化、アプリケーション開発やシステム管理における機能強化など、新しいテクノロジーが利用でき、より現代的な開発・運用環境へと移行が進んでいる。
その一方で、2024年5月7日に、2025年4月30日付で営業活動とサポートが終了したソフトウェアが発表されている(*1)。
*1 発表レター AD24-0477:ソフトウェアの営業活動終了およびサポート終了:IBM i Modernization Engine for Lifecycle
Integration( Merlin) 1.0.0、 IBM Rational Developer for i9.6、およびIBM iポートフォリオのその他の一部の機能
本稿では、発表レター AD24-0477でサポート終了および営業活動終了となったソフトウェアの機能の一覧と背景、後継製品について記載する。
2025年4月30日付で、IBMはプログラム・リリースの一部のIBM iの機能について、サポートを終了した。図表1は発表レターに記載されている内容である。

サポート終了の背景
現代的な開発への飛躍
IBM iは「過去の資産を継続しつつも新しいテクノロジーを取り入れる」ことを特徴としたプラットフォームである。しかし以下の理由から、古いユーティリティーや機能の廃止は避けられなくなっている。
・セキュリティ上のリスク:最新のセキュアなプロトコルへの置き換えが必要
・新機能との非互換性:ACSやNavigator for iとの機能の重複があり、開発・運用効率が損なわれる
・保守コストの増加:古いコードベースを維持するためにコストや人材が必要
・スキルの世代交代:若手エンジニアが使い慣れたIDEやWeb技術を活用しにくい
IBMはこのような背景を踏まえ、現代的な開発スタイル(例:Rational Developer for i、Code for IBM i、SQL)へユーザーを導こうとしている。単に古いものを捨てるのではなく、未来の基幹システム像へ向かうための過程と捉えていただけると幸いである。
各機能の役割と後継製品
ここでは、各機能の役割と後継製品について、発表レターの内容に加えて補足する。
◎BOOTPサーバー
役割:BOOTPサーバーは、ネットワーク上のワークステーション(クライアント)にIPアドレスなどの必要な情報を割り当てるサーバーである。シン・クライアントなどHDDをもたない端末が起動時にBOOTPを使ってサーバーから情報をもらっていたが、今では、BOOTPはほとんど使われておらず、DHCPに置き換わっている。
後継製品:Internet Systems Consortium(ISC)のDHCPサーバーのKea(https://www.isc.org/kea/)のアドオンでBOOTPの機能が提供されている。
◎DHCPサーバー
役割:DHCPサーバーは、クライアントがネットワークに接続する際に、自動でIPアドレスなどの設定を割り当ててくれるサーバーである。
後継製品:Internet Systems Consortium(ISC)のDHCPサーバーのKea(https://www.isc.org/kea/)。Internet Systems Consortium (ISC)のDHCPバージョン4では、IBM iのDHCP サーバーでは使用できない機能が提供されている。具体的には、ISCのDHCP 4は、インターネット・プロトコル・バージョン 6 (IPv6) に対するサポートと、2つの DHCPピア・サーバー間のフェイルオーバーを提供する。
◎RADIUS(リモート認証ダイヤルイン・ユーザー・サービス)
役割:リモート認証ダイヤルイン・ユーザー・サービス (RADIUS)は、ダイアルアップ接続での認証に使用できる。RADIUSクライアント/サーバー・モデルには、RADIUSサーバーのクライアントとしてのNetwork Access Server(NAS)操作がある。NASとしての役割を担うシステムは、RFC 2865で定義されているRADIUS標準プロトコルを使用し、指定されたRADIUSサーバーに、ユーザーと接続の情報を送信する。
後継製品:IBM iのRADIUSサーバーの直接的な後継製品はない。RADIUSサーバーの機能を必要とする場合は、外部のRADIUSサーバーを使用するか、または他の認証方法を検討する必要がある。
◎DNS(ドメイン・ネーム・システム)サーバー
役割:ドメイン・ネーム・システム (DNS) は、 ホスト名およびそれに関連するインターネット・プロトコル (IP) アドレスを管理するための分散データベース・システムである。DNS を使用すると、ユーザーがホストを見つけるときに IP アドレス (IPv4 の場合は 192.168.12.88 など、IPv6 の場合は 2001:D88::1 など) ではなく、www.jkltoys.com のような単純名を使用できる。
後継製品:IBM iのDNSサーバーの直接的な後継製品はない。外部のDNSサーバーを使用する必要がある。
◎RouteD
役割:RouteDは、IBM i上でルーティング情報プロトコル (RIP) のサポートを提供する。RouteD を使用することで、トラステッド・ネットワーク内のシステムが互いに現行の経路情報を更新できるようになり、ネットワーク・トラフィックの効率を上げることができる。
後継製品:IBM iの OMPROUTEDサーバー。OMPROUTED は、RIP、 Internet Protocol バージョン 6 (IPv6) 用の RIP 次世代 (RIPng)、および Open Shortest Path First (OSPF) ルーティング・プロトコルをサポートする(図表2)。

IBM i 7.6では、RouteD サーバーの設定に使用されていた下記CLコマンドは削除されている。
TCP/IP RouteD の設定 (CFGTCPRTD)
ROUTED 属性の変更 (CHGRTDA)
RouteD コンフィギュレーションでの作業 (WRKRTDCFG)
◎VPN(仮想プライベート・ネットワーク)でのIKEv1 プロトコル
役割:仮想プライベート・ネットワーク(VPN)は、システムと IBMサポート・サービスとの間のユニバーサル・コネクションを構成するときに、サービス情報を保護することができる。
後継製品:VPN IKEv2 プロトコル。IBM i 7.6では、VPN接続を設定する際に、 IKEv1 を使用するオプションが削除されている。 代わりに IKEv2を設定する。
◎IPComp
役割:IPCompは、データグラムを圧縮することによってIPデータグラムのサイズを縮小し、通信パフォーマンスを向上させる。
後継製品:IPCompはIKEv1でサポートされるが、IKEv2ではサポートされない。IKEv1がサポート終了となるため、IPCompもサポート終了となる。直接的な後継機能はない。
◎QoS(Quality of Service)サーバー
役割:QoS(Quality of Service)サーバーを使用することにより、ネットワーク全体のTCP/IPアプリケーションのネットワーク優先度と帯域幅の指定が可能である。
たとえば、マルチメディアなど予測可能で信頼できる結果が必要なアプリケーションを送信する場合、パケットの優先順位が重要である。QoSポリシーは、パケットの優先順位を管理でき、また、システムから発信されるデータの制限、接続要求の管理、およびシステム・ロードの制御が可能である。
後継製品:IBM iのQoS(Quality of Service)サーバーの直接的な後継製品はない。代替方法として、ルータやスイッチなどのネットワークデバイスで、パケットの優先度付けや帯域制御を行うことが考えられる。
◎HTTP Server用のFRCA(Fast Response Cache Accelerator)
役割:FRCA(Fast Response Cache Accelerator)は、Licensed Internal Codeにあるメモリ・ベースのキャッシュに静的コンテンツと動的コンテンツの両方を保管することにより、WebおよびTCPサーバー・アプリケーションのパフォーマンスとスケールを向上させる。
後継製品:IBM HTTP Server for iはApacheをベースにしており、mod_cacheやmod_cache_diskのようなキャッシュモジュールでコンテンツのキャッシュを制御できる。また、サポート終了に伴い、Fast Response Cache Acce
lerator(FRCA)for Apache HTTP Server はIBM i 7.6では利用できなくなっている。
◎パフォーマンス・グラフィックス
役割:IBM Performance Tools for iのメニュー「9.パフォーマンス・グラフィックス」(図表3)から、パフォーマンス・データを図表4のように5250画面でグラフ表示できる。
後継製品:Navigator for iのパフォーマンス機能の「データの調査」のグラフ表示。図表5のようにWebブラウザ上でパフォーマンス・データをグラフ表示できる。5250画面よりも見やすく、同じ画面でデータをテーブル表示することも可能である。IBM i 7.6では、パフォーマンス・グラフィックス(オプション9)は削除されている。

◎パフォーマンス・アドバイザー
役割:IBM Performance Tools for iのメニュー「10. アドバイザー」(図表3)から、該当のパフォーマンス・データに対して図表6のようにパフォーマンス改善のためのアドバイスを表示する。

後継製品:パフォーマンス・アドバイザーの直接的な後継製品はない。Navigator for iのシステム・モニター機能を活用することで、CPU使用率やディスク容量の使用率が閾値を超えるとメッセージを送信できる。IBM i 7.6では、パフォーマンス・アドバイザー(オプション10)は削除されている。
◎GDDM(Graphical Data Display Manager)
役割:モニターまたはプリンターに出力するために、テキストおよびグラフィックスを定義して表示する。主にAFP(Advanced Function Presentation)印刷で使われていた。
後継製品:GDDM(Graphical Data Display Manager)の直接的な後継製品はない。IBM iではグラフィカルなUIや帳票印刷(GUIベースのアプリケーションやPDF印刷など)が使用でき、それらへの移行を検討する必要がある。IBM i 7.6では、GDDM(SS1、オプション14)は、提供されない。GDDMを使用するプログラムがない場合、QGDDMという名前のライブラリは、IBM i 7.6にアップグレードする前または後に削除できる。QGDDMライブラリのプログラムやGSSオブジェクトを使用するユーザーアプリケーションは、変更する必要がある。
◎OptiConnect
役割:OptiConnectは、WAN(広域ネットワーク)やLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)テクノロジーを利用したローカル環境で、複数システム間の高速接続を提供する。OptiConnectソフトウェアは下記の機能をサポートしており、複数のIBM iのシステム間の高速接続やデータ共有に使用できる。
・分散データ管理機能(DDM)
・分散リレーショナル・データベース・アーキテクチャ (DRDA)
・Db2 マルチ・システム
・ObjectConnect
・拡張プログラム間通信機能 (APPC) による標準的な会話
・システム・ネットワーク体系配布サービス (SNADS)
・ソケット・サポート、など
後継製品:代替手段として、TLS(トランスポート・レイヤー・セキュリティ)を使用したObjectConnect over IPを使用することが推奨されている。ObjectConnectはオブジェクトを他のシステムに転送する機能を提供する。OptiConnect の直接的な後継製品ではないと考える。また、OptiConnect の製品(SS1、オプション23)は、IBM i 7.6では削除されている。既存のOptiConnectコマンドはすべて削除され、OptiConnect、ハードウェアリソースは作成されなくなる。
◎IBMマネージメント・セントラル・サーバー
役割:IBM i Access for Windowsに同梱されていた「System i ナビゲーター」の一部の機能として提供されていた。マネージメント・セントラル・サーバーは複数のシステムに対して、同時にシステム管理タスクを実行できた。現在では、System iナビゲーター自体が提供されておらず、使われていない。
後継製品:Navigator for i。Navigator for iには、PTF管理やシステム・モニターなど、マネージメント・セントラル・サーバーの主要機能が含まれている。
◎ビジネス・グラフィックス・ユーティリティー
役割:ビジネス・グラフィックス・ユーティリティーは、ビジネス・チャートの作成、削除、および表示をすることができる。
後継製品:ビジネス・グラフィックス・ユーティリティーの直接的な後継製品はない。IBM iではグラフィカルな帳票印刷(PDF印刷など)が使用できる。ビジネス・グラフィックス・ユーティリティーはIBM i 7.6から削除されている。
<後編へつづく>
[i Magazine 2025 Summer号掲載]