矢野経済研究所は9月22日、国内のERPパッケージライセンス市場を調査し、参入企業やユーザー企業の動向、将来展望を明らかにした。
◎市場概況
システムのリプレースや更新で具体的なIT投資が進行
近年、民間企業のIT投資はDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉に支えられていた。しかし、これまで一部企業では抽象的であったIT投資の目的やゴールが明確化し、DXという言葉があまり使われなくなると同時に、システムのリプレースや更新など具体的なIT投資が進んだ。
結果として市場は順調に成長し、2024年のERPパッケージライセンス市場規模(エンドユーザ渡し価格ベース)は、前年比12.1%増の1684億4000万円と推計した。
主な成長要因としては、老朽化したシステムのリプレースや、保守契約切れを迎えるシステムからの更新、システムの乗り換えの進展だが、こうした案件においてクラウド化が大きく前進した。
最近は、Fit to standard(業務内容に合わせてシステム開発や機能変更をするのではなく、システムの標準機能に合わせて業務を変える考え方)が、ユーザー企業に根付き始めていることもあり、クラウド基盤(IaaS・PaaS)を利用しないSaaSのみの導入も拡大基調にある。
◎注目トピック
クラウド(SaaSのみ)市場規模は前年比30%以上の拡大
ERPパッケージライセンス市場におけるクラウド型利用(IaaS・PaaSとSaaSを含む)の市場規模は、2024年に1106億1500万円、ERPパッケージライセンス市場全体に占める割合は65%程度となっており、前年から約5.5ポイント増加している。
データドリブン経営(蓄積・収集したデータをもとに意思決定を行う経営手法)への需要拡大や、システムの運用負担を低減する狙いから、ERPパッケージライセンスのクラウド化は依然進展を続け、2026年には7割を超えると予測する。
近年は生成AIを利活用する影響もあり、最新テクノロジーを利用する目的でクラウド基盤(IaaS・PaaS)を利用しないSaaSのみを導入するユーザー企業も多く、2024年のERPパッケージライセンス市場におけるクラウド(SaaSのみ)市場規模は前年比36.2%増の371億8600万円と推計する。
市場の成長に伴い、製品数も増加している。また、最近はSaaS製品でありながら個別カスタマイズや任意のタイミングでのアップデートが可能な製品もあるなど、柔軟性を持ったSaaS製品も提供されている。
こうした市場環境を受け、クラウド(SaaSのみ)市場がERPパッケージライセンス市場全体に占める割合は、2025年には25%程度まで達すると予測する。
※クラウド型利用(IaaS・PaaSとSaaSを含む)の市場規模はERPパッケージライセンス市場規模の内数、クラウド(SaaSのみ)市場規模はクラウド型利用(IaaS・PaaSとSaaSを含む)市場規模の内数となる。
◎将来展望
2025年もユーザー企業のIT投資意欲は旺盛
2025年のERPパッケージライセンス市場規模(エンドユーザ渡し価格ベース)は、前年比11.7%増の1881億9000万円を予測する。2025年もユーザー企業のIT投資意欲は旺盛で、老朽化したシステムのリプレースや、保守契約切れを迎えるシステムからの更新、システムの乗り換え案件を中心に市場は成長すると考える。
インボイス制度への対応のような大きな課題こそ見られないものの、GX(グリーントランスフォーメーション、温室効果ガス排出量削減への取り組み)やデジタルインボイス(構造化された電子データの適格請求書)、新リース会計基準など、ERPパッケージライセンス市場の成長に寄与する案件に関する相談は増加基調にある。
また、AIや生成AI、AIエージェントに関しては、ERPが持つデータとAIとの掛け合わせで業務の効率化だけでなく、ユーザー企業の競争力向上につながる機能が整ったとき、需要が拡大すると考える。
加えて、販促面では対面(リアル)の商談に注力するERPパッケージベンダーが増加している。製品の情報提供に重きがあるものではオンラインでの商談が適しているなど、オンラインマーケティングとの併用ではあるが、製品選定段階では対面商談の効果が大きいと考えるベンダーが多く、対面の販促にかける工数が増加している。
中長期的な観点での不安要素は人手不足である。まず人数に関しては、不足感は残るものの、パートナーの拡充が進むERPパッケージベンダーが多く、人数不足解消の兆しが見えている。一方で、人材の質にはまだ課題も多い。新しくパートナーになった企業に対しては、教育の機会や販促支援ツールの提供などが必要になると考える。
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