第6回は、東京のメーカー/ベンダー側で活躍する3名のIBM i担当者たちが集合。
多くの人たちが感じるIBM i市場の「情報不足」と「コミュニティ」の課題について、日頃の思いを込めながら率直に語り合う。
出席者(写真左から)
須賀 満里奈氏
三和コムテック株式会社
技術部 第1グループ
肥沼 沙織氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power テクニカル・セールス
大江 遥氏
株式会社ソルパック
ソリューションビジネス事業部
AMS・基盤
IBM iの担当になると
若手技術者はやめてしまうのか?
i Magazine(以下、i Mag) まず、皆さんの自己紹介からお願いします。
肥沼 私は2015年に、前職でITベンダーに入社しました。そこで8年ほど勤めて、2023年に日本IBMに転職しました。もともと前職でも、IBM iアプリケーションの開発・保守を担当していました。日本IBMに入社してからはIBM PowerおよびIBM i担当のテクニカル・セールスとして、お客様先に伺ってIBM iの新しい使い方をご紹介したり、ご相談に乗ったりと、プリセールスを行っています。最近はテクニカルセミナーでIBM iの最新テクノロジーをお伝えするような仕事を精力的にしています。

須賀 2019年に三和コムテックに入社しました。当社は海外のIBM iソリューションを国内で提供するのが主要な業務です。オープン系の製品も扱っていますが、私は最初からIBM iソリューションの担当部門に配属されました。今は「MIMIX」や「LaserVault Backup」など、主にIBM iのHAやバックアップソリューションを担当しています。
大江 2014年にソルパックに入社しました。入社してすぐにIBM i関連の部署に配属され、IBM i上で稼働する基幹システムの開発・保守、カスタマイズやアドイン開発など、主にRPGを使った開発・保守業務に携わってきました。またここ1~2年は、ソルパックが提供しているRPG研修サービスの講師を務めています。
i Mag 最初にIBM iを知ったときの印象はどのようなものでしたか。オープン系と比べて、違和感はありましたか。
肥沼 私は前職で最初に配属されたのがJavaをメインとするオープン系の開発部署で、それからあまり時間をおかずにIBM iの担当部署に異動した経緯があります。正直にお話しすると、Javaなどのオブジェクト指向の考え方が当時の自分には合わず、苦手意識があるなかで、仕事量が増えていく状況でした。「こんな状況でやっていけるのかな、ITに向いていないのかな」と、将来に不安を抱いていました。そのようなときにIBM iの担当部署へ異動になり、手続き型言語であるRPGを知って、すごくしっくりきたのです。「これならやっていけそうだ」と、初めて自信がもてた瞬間でした。そのため私自身は、IBM iにまったく違和感はなかったですね。
須賀 私は、初めて5250画面を見たときはちょっと違和感がありました。コマンドを覚えるまでが大変で、最初は使いづらく感じました。でもコマンドに規則性があるので、いったん覚えてしまえば使いやすく感じましたね。
大江 私も最初からIBM iの担当部署に配属されたのですが、そこでは全員が5250画面と向き合っていて、それが当たり前という雰囲気だったので、とくに違和感はなく、すぐに溶け込んだ記憶があります。
i Mag 「IBM iを担当しろと若手に伝えると、いやがってやめてしまう」という話を聞いたことはありますか。IBM iと新人技術者の関係がよくないと、まるで都市伝説のように伝わっている話なのですが。
大江 そういうことを指摘する人たちって、私より年齢が上の人という気がしますね。私自身がそんな風に感じたことはありませんし、少なくとも私より若い後輩たちから、そうした感想を聞いたこともないです。
須賀 同感です。そうした話って、上の人たちから出てきますよね。以前、IT業界にいる友人にIBM iのことを聞いてみたら、「なにそれ、知らない」と言われて、やっぱりあまり知られていないのかと残念に思ったことはあります。でも私の同年齢で、IBM iを否定的に考えている人はいないように思います。
肥沼 今思い出したのですが、前職でオープン系の部署からIBM iの部署への異動が決まったとき、他部署の方から「残念だったね」と言われたことがあります。それはたぶんに、「オープン系は花形、IBM iは古くさい」という意識から出た言葉だったのではないでしょうか。私は「それは違うだろう、しっかり仕事をして見返してやろう!」と思い、少々カチンときつつ、よりやる気がでてきた記憶がありますね(笑)。実際にIBM iを担当して、基幹システムの重要性を肌で感じるようになり、お客様の最も大切なシステムをお守りしているという自負というか、プライドをもてるようになりました。
IBM i RiSING
IBM iの世界に若手コミュニティ登場
i Mag IBM iに関して、最も欠けているものは何だと思いますか。ちなみに過去の回でほぼ共通して指摘されたのは、「情報不足」と「コミュニティ」でした。
大江 情報が足りないという点は、やはり否定できないですね。やっと見つけたIBM iのサイトが、英語をそのまま翻訳したような、よくわからない日本語で書かれていたり、とても古い情報だったりして困惑することがあります。またIBM iにもヘルプ機能がありますが、片言すぎるというか、説明不足というか、読んでもよく理解できないこともありますね。

須賀 わかります。不具合が起きて、エラーIDと原因はわかったものの、どうすればいいのか対策が書かれていなくて困り果てた経験があります。何度も日本IBMに問い合わせて、やっと解決策を得られました。エラーIDと原因はわかるのだから、その場ですぐに解決策を得られたら楽なのに、と思ったことは何度もあります。
肥沼 やはりGitHubなどにも、RPGの情報は圧倒的に少ないですからね。お客様の基幹システムに関わる情報でもあるので、簡単に公開できないことも理由の1つにありますが、このあたりはコミュニティと連携しつつ、少しずつコードを共有するなどの取り組みが必要だと感じています。
i Mag コミュニティと言えば、日本IBMの主催で、「IBM i RiSING」というIBM i若手技術者向けのコミュニティが昨年、スタートしましたね。肥沼さんは主催者側、須賀さんは昨年参加、大江さんは今年、参加されるそうですね。
肥沼 IBM i RiSINGには、ユーザーおよびベンダーから合計74名のIBM i若手技術者にご参加いただきました。日本IBMの箱崎事業所に足を運んでのオフライン参加およびオンライン参加というハイブリッド型で、20~30代の若手技術者ばかりでした。実際に全メンバーが集まったのは6月、8月、そして10月の3回で、10月は天城ホームステッドでの1泊参加(もしくはオンライン参加)でした。その間に各チームで1カ月に1回程度の頻度でWebやIBMの事業所で顔を合わせ、テーマに向けたディスカッションや研究を進めました。
須賀 IBM iについては、社内の同世代で気軽に話せる人が少ないので、IBM i RiSINGに参加して、ほかの参加者の方々と交流したり、相談したり、なにか課題が出されて「うちの会社だったら、こうするかな」と真剣に考えたりと、すごく有意義な時間を過ごせました。今までにない、若手技術者の貴重な情報共有・交流の場という感じでした。
肥沼 「私がIBM iを触り始めたときに、どうしてこういう場がなかったのだろう」と思うほど、貴重な場だったと思います。私は主催側で、チームアドバイザーの役目を務めたのですが、若い人ばかりだったせいか、スピード感もあって、吸収も早かったです。たくさんの方々から質問をいただきましたし、アドバイザーである私がいないときにも、参加者同士でディスカッションが盛り上がっていました。
大江 今年は当社から若手技術者を参加させる予定で、その「付き添い役」として(笑)、私も参加する予定です。先日、キックオフに参加したのですが、経験8年以上のベテラン技術者は私を含めて4名だけだったので、「これは若いな」と思いました(笑)。若手技術者の成長の場になりますし、私もRPGをよく知らない方々向けの研修コースを担当しているので、教材づくりの新たな視点を得られるのではないかと期待しています。
肥沼 皆さんからとても好評をいただいていて、今年も4月からの本格的な活動開始前にもかかわらず、すでに70名以上の方にご参加をいただいています。それぞれの課題をもった複数チームを編成しているのですが、昨年は開発関連のテーマが多かったので、今年は詳細にアンケートをとって、参加者の皆さんの興味や関心がどこにあるのかを事前にできるだけ調査して臨みたいと考えています。
IBM iのエキスパートとして
これからも知識や経験を増やしていく
i Mag IBM i市場では世代交代が進みつつあります。これまでIBM iを担ってきたベテラン層に経験、スキル、技術など、ぜひ残してほしいもの、あるいは残す方法についてなにか要望はありますか。
須賀 当社ではソリューション製品から入るので、IBM iの基本的な知識を徹底的に学ぶという面は多くないように思います。OSとしてのIBM iの知識があれば、ソリューションの機能をもっと理解できるはずだと思うことはありますね。ただIBM iは暗黙知というか、こちらから聞かないと、なかなか情報が出てこない面があって、全体像がよくわからないなか、何を聞くべきなのかをこちらで考えるのは、負荷が大きいように思います。理想を言えば、残す側にいる人たちが残される側へ伝える努力、可視化する努力をしてほしいと感じます。

大江 私が生まれる前のプログラムが、当たり前のように動いている世界ですからね。お客様からも世代交代に関するご相談がこのところ増えています。IBM iは人に依存する部分が大きいので、記録も資料もエビデンスも何も残っておらず、「自社システムがどうなっているかわからない、どうしよう」と、SOSに近いようなご相談も増えています。やはり記録に残す、そして可視化するという努力が日常的に求められると思います。今からでも遅くないから、ともかく目に見える形で残していくことが必要です。
肥沼 当社でも、IBM iビジネスを支えてきた超ベテランが会社を去る局面が出てきて、その経験やノウハウをどう残すかが大きな課題になっています。今はチームで残すべきスキルを洗い出し、スキル表を作成して、ベテランから若手へ継承すべく、担当を決めて勉強会を開催しています。
須賀 それは興味深い試みですね。当社にも、特化した領域に優れたスキルをもつ人がいるので、継承のための計画を立てていきたいです。
大江 同感ですね。たとえば当社にも、IBM Powerの優れたリプレーススキルをもつ人がおり、その人なくしては、リプレースビジネスに支障が生じるのではないかと危惧するほどです。リプレースは5年に1度しか実施されず現場に立ち会う機会が少ないし、実機がないと難しい面があります。どうすればそのスキルを継承できるかに悩んでいたので、ぜひ参考にしたいですね。
i Mag 今後、どのようにキャリアを積んでいきたいと考えますか。
須賀 今はIBM iについてまだ知らないことが多いので、目の前のことに集中して、IBM iを突き詰めていきたいですね。IBM iのソリューションについてお客様に聞かれれば、なんでも答えられるような存在になりたいです。
大江 ソルパックは、「日本の最後の1台になったIBM iまで面倒をみます」と謳っているので、この会社にいる限り、IBM iの仕事はなくならないだろうと思っています(笑)。だから私もIBM iに関する知識やスキルを今後も磨いていきたいですね。それから「若手」を少し脱しつつある立場としては、どんどん若手や後輩を増やして、チームとして力をつけていきたいと考えています。人材なくしてビジネスは成り立たないので、そこは努力していきたいです。
肥沼 私は当社の先輩のようなIBM iのエキスパートになりたいです。前職ではアプリケーションの担当でしたが、「技術者としてIBM iに強くなりたいなら、アプリケーションだけでなく、インフラに強くならねばいけない」と痛感していました。IBM iの強みでもあり、特異な点でもあります。前職ではアプリケーションの知識と現場業務の運用を上司・先輩方、時にはお客様からも教えていただきました。これは私にとって大事な経験と資産になっています。そして日本IBMに入社して、インフラもアプリケーションも両輪で知識を増やせるようになったことにとても満足しています。それがとてもうれしいし、いま技術者として幸せだと感じています。この気持ちを大切に、IBM iのエキスパートを目指していきたいです。
撮影:広路和夫
[i Magazine 2025 Spring号掲載]