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どうする、RPG!|RPGで内製主義を貫くIBM iユーザーの「今」と「これから」

IBM iでは、ほかのサーバー分野に比べて、内製主義を貫いてきたユーザーが少なくない。それはRPGという、簡易で開発生産性の高い言語の存在が深く関係している。
 今回の特集では、RPGによる自社開発型のシステムを運用してきた11社のユーザーを取材し、現状と今後について話を聞いた。以下は、その取材レポートである。

 

このままでいいのか
RPGのままでいいのか

資産継承性の高いIBM iユーザーには、長期にわたる改修を重ねながら、今もシステムを運用している企業が少なくない。大半がRPGで独自に開発したプログラムであり、改修を重ねた結果、自社の要件に最も適したシステムとして完成している。今さら大規模な工数と予算をかけ、リスクを覚悟して作り直したとしても、「今以上に得られるものはない」との結論に至り、全面再構築やオープン系サーバーへの移行を見送ってきたケースをよく耳にする。

しかしそうしたユーザーたちが、まったく不安を感じていない、というわけではない。将来的なIT環境に思いを馳せるとき、「このままでよいのか」という疑念が生じる。その不安をもたらす大きな要因の1つに、RPGの存在がある。

システム資産の大半がRPG(とくにRPG Ⅲ)で作られている。しかしこの開発言語は、もはやIBM iの世界でしか使われていない。歴史が長いということは、裏を返せば、古い言語ということだ。最先端の技術を追い求めるITベンダーの若手開発者は、RPGを覚えたがらないと聞く。使う場面の減っている古い開発言語を習得しても、自らのキャリアやスキルアップに寄与しないから、と考えるのは仕方のないことだろう。

一方、システム部門内を見渡しても、現行システムの設計・開発に携わった技術者の多くは退職していたり、高齢化していたりで、RPG開発者の人口減は否定できない。

RPGシステムを使い続けるにしても、開発・運用を担える人材をこの先、社内外で確保できるだろうか。「このままでいいのか」はすなわち、「RPGのままでいいのか」という不安であると言える。

このほかにも、IBM iを取り巻く不安要素はある。

たとえばIBMはいつまでIBM iやRPGを提供し続けるのか、という疑問だ。IBMはPOSに始まり、プリンタやPC、System xの製造から撤退し、外部に売却してきた経緯がある。最近ではPureSystemsの例もある。「IBMはこの先ずっと、IBM iを提供していくのか」という点に、ユーザーは少なからず不安を覚える。

また経営側やユーザー部門からの、「いつまで古いオフコンを使っているのか」というプレッシャーも、無視できない。システム部門はIBM iの優位性をよく理解しているので、この先も継続的に利用したいと望むが、ITを理解していない人ほど(主に5250というクラシックな画面のせいで)、IBM iは時代遅れの古いオフコンだと思い込む。

IBM iを取り巻くこうした不安要素があるなか、RPGで開発したシステムを今も運用しているIBM iユーザーたちは、どう考えているのだろうか。

システム担当者の多くが抱くに違いないこの問いを起点に、本特集は企画された。

【図表】IBM iを取り巻く課題と解決策

RPGは内製主義を支える
最良の言語である

RPGで作られた基幹システムをこの先、どうするか。この問いに対して、唯一の「正解」はない。企業を取り巻く外部要因、システムの運用状況、社内の人員体制、システム担当者の考え方、ベンダーとの関係、そして経営的な判断などさまざまな理由によって、答えは変わるからだ。

そこで本特集では、11社のIBM iユーザーにインタビューし、現状と今後についてどう考えているかを取材した。

具体的には、運用歴とシステム内容に始まり、システム部門の人員体制と年齢構成、RPGを含む開発言語に対する考え方、IT人材の育成、そして今後のIT方針について、各社のシステム責任者に話を聞いている。

これらのユーザーに共通するのは、いずれも運用歴が長く、RPGで独自に開発したシステムを運用していること。そして規模の大きい開発が発生した際は、状況に応じて弾力的に外部ベンダーの協力を得るが、基本的に自分たちのシステムは自分たちの手で作ろうという、「内製主義」「自前主義」「自社開発型」を掲げている点である。

会計システムなど標準化の進んだ領域を除き、販売管理や生産管理など、企業の独自性が反映されるシステムについては、とくにその傾向が強い。

企業を取り巻く状況の変化、新たな事業やサービスへの参入、顧客からの要求、ユーザー部門でのニーズなど、さまざまな理由で改良・改修あるいは新規開発の必要が生じた際、外部に任せず、自分たちで実施する。そのほうがスピード感をもって対応でき、低予算で済む。

何より自社の業務を最も理解しているのは、自社の社員をおいてほかになく、内製あるいは自社開発こそが、競争力の源泉となる自社の強みをシステムに反映する最良の手段である、との信念を強く抱いている。

もちろん状況に応じて外部の協力を求めるし、今の時代に100%内製で開発を貫くのは厳しいのも確かだが、自分たちの手が届かなくなるようなシステムの要塞化、ブラックボックス化は避けたいと考えている。

そしてRPGは、そうした内製主義を貫くうえで、非常に優れた手段であるという点で、今回取材した全ユーザーが一致している。

RPG開発者がいなければ
自分たちで育てる

RPG開発者の高齢化や減少傾向が顕著になりつつあるなか、開発者の育成・確保にはどう対応していくのだろうか。

最も多く見られた回答は、「社外で確保できないのなら、社内で育てていく」である。

今回取材したのは、グループ内のITベンダーという役割を担う京王ITソリューションズを除き、純粋なユーザー企業ばかりである。システム部門に配属されるのは新卒の場合もあれば、他部門からの異動、あるいは中途採用のケースもあるが、それまでIT教育を受けたことがなく、当然ながら開発経験をもたない一般社員が中心である。

いわば、「ITの素人」である彼らに対して、配属と同時にコンピュータやネットワークの仕組みを基礎から教えると同時に、RPGによる開発方法を学習させる。最初の教材は、以前に使っていたEOL、独自に作成したテキスト、アイ・ラーニングなど外部の研修コース、IBMユーザー研究会が提供しているeラーニングの教材コンテンツなどいろいろだが、すぐに周りの先輩開発者をコーチ役につけて、OJTをスタートさせる。最初は簡単な修正作業から始め、段階的に本格的な開発に携わっていく。

適性やセンスによって異なり、熟達のレベルも多少は違うが、早くて3カ月、長くても1年程度で、開発の戦力として育つという。「それは、RPGだから可能なのであって、JavaやPHPではこうはいかない」というのが、一致した見方である。

習得の容易なRPGだからこそ、社内でゼロから開発者を育て、内製主義を支える人材を生み出していけるわけだ。

なまじオープン系言語の開発経験があると、最新もしくは主流言語とは呼べないRPGを嫌うケースもあるだろう。しかし開発経験のない、いわば「真っ白な状態」でシステム部門に配属されたなら、RPGへのアレルギーもない。Excelを使っていくような感覚で、RPGを覚えていく。RPGはそれが可能な言語である。

ただし社内でRPG開発者を育ててはいるものの、プログラマーの養成が目的ではないという点も、全ユーザーが同じように指摘した。真に目指すべきは、「業務を理解し、業務でITをどう使うか、どう変えていくかを発想し、提案できる」というIT人材像。これからのシステム部門は、業務部門にいわれたとおりを実行するのでなく、自ら発想し、攻めの姿勢で自ら提案していく必要がある。RPGなどの言語習得は、その第1ステップという位置づけだ。

業務を理解するには、ユーザー部門とのコミュニケーション力や、思考力・発想力を鍛える必要があるのは確かである。その一方、技術力や開発力をまったくもたないと、業務とITを関連づける発想に至らないとの意見は多い。

技術力や開発力の裏付けがあってこそ、「今、存在しないモノ」を考え出し、業務を改革する力が育つ。また状況に応じて外部に委託する場合も、的確な指示やコントロールが可能になる。

RPGと別言語/別ツールの
2本立てで開発を進める

次に、開発言語の考え方について見ていこう。

今回取材したユーザーの多くがRPGに加えて、新しい言語や開発ツールを使用する「2本立て」(3本立ての場合もあり)の運用であった点に注目したい。

たとえば基幹系はRPGだが、Web系(あるいはオープン系)やGUI画面の開発にはPHPやJava、あるいはDelphi/400やLongRange、Biz/Browzer、GeneXusなどの言語や開発ツールを使用している。

既存システムはRPGで維持するが、新規開発は別の言語やツールを使う方針を明確にしているケースが多い。とくに画面回りやモバイルへの対応、そのほか従来のRPGでは対応できないニーズに対して、別の言語/ツールを積極的に活用する。またRPGのスキルを活かしてWebやモバイルのアプリケーションを開発するツールの利用も見られる。

RPG以外の言語/ツールを使用している場合は、最初の開発は外部に委託し、その後のメンテナンスは自社で、というケースもある一方、「Webやモバイル系の開発も外部に委託せず、自社で開発できるようになる」という点を評価しているケースもあった。

ちなみにRPGを学習させ、次に別の言語やツールの開発スキルを身に付けさせて、「2カ国語を話せる」ような人材に育てたいとの意向が多く見られた。その一方、RPGもしくは別の言語/ツールと、必要に応じてどちらかに専念させるケースもある。それは各社の方針によって異なるが、多くのユーザーが、できれば複数の言語やツールを使いこなせるように育てたいと答えている。

また既存資産はRPG Ⅲで作成している一方、新規開発にはRPG Ⅳを採用し、教育はⅣで実施している例がいくつか見られた。

今回取材したユーザーは概ね、RPG Ⅳに積極的に取り組む意思を示している。

たとえばリコーロジスティクスでは、改修頻度の高い一部のRPG ⅢのソースをⅣへ変換するとともに、フリーフォームRPG(以下、FF RPG)や「Rational Developer for i」、オープンソースのプロジェクト管理ソフトウェアなどを採用し、オープンで主流とされている開発環境や手法に統一することで、オープン系開発者から見たIBM iのハードルを解消しようと考えている。RPG開発者の不足を、オープン系からの人材登用で補う狙いも兼ねているようだ。

ちなみにFF RPGは7.3のOSが必要なので、まだ環境として準備できていないものの、OSのバージョンアップが実現し次第、FF RPGを試してみたいとの声が少なからず聞かれた。

アウトソース主流から
インソース重視への回帰

IT市場では一時期、企画・設計などの上流工程だけを担当するようにシステム部門をスリム化し、開発・運用の実作業はアウトソーシングする傾向が主流であった。しかし最近、アウトソーシングからインソースへの揺り戻し傾向が一部で見られる。

もちろん企業規模が大きくなるにつれ、すべてをインソースで対応するのは無理があり、アウトソースなくしてのIT運用はもはや現実的ではない。しかし大手ユーザーであっても、市場や顧客、あるいは社員との接点となる、変化の激しいフロントエンド系のシステムは、できれば社内で対応したいとのニーズが増えている。ベンダーとの要件の検討や折衝など、外部への開発委託はさまざまな点で工数を要するからだ。

また自社での開発力や技術力が低下するのに比例して、ITの活用力や発想力も衰えるとの指摘がある。

IBM iはRPGの生産性やオフコン時代からの経緯もあって、もともと内製中心で運用してきたユーザーが多いが、一般に見られるこうしたインソース重視の傾向と併せて、内製を支えるプラットフォームとしてのIBM iの優位性に、あらためて目を向けてはどうだろうか。

IBMは2016年4月に、IBM iの最新バージョンである7.3を発表した際、IBM iの最新ロードマップを公表した。そこには、2027年までのバージョン・アップグレードが記されている。これはつまり、IBM iは少なくとも2027年までは存在し、拡張され続けることを意味する(もちろん2027年以降も拡張され続ける可能性は十分にある)。

10年先までのロードマップが発表されるのは、IBM iをおいて、ほかに例がない。これはIBMが、企業活動の中核を支える基幹システムとして運用されているIBM iの重要性をよく認識しているからであろう。

こうしたロードマップとIBMの訴求努力もあって、「IBM iはこの先、なくなるかもしれない」との不安は解消されつつあるようだ。

今回取材したユーザーの多くが、「未来のことは、わからないけれど」「まだ一抹の不安はあるものの」などと前置きしつつ、「IBM iは少なくとも10年はなくならないようだ。IBMがIBM iを提供し続ける限り、当社はIBM iを使っていくし、IBM iを使い続ける限り、RPGでの開発は続けていく」との力強いコメントが複数見られた。

「IBM iは、まだまだ捨てたものじゃない」

あるユーザーの取材で、最後に語られたこのコメントが、IBM iユーザーの思いを象徴していると言えそうだ。

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i Magazine 2017 Spring(2月)掲載

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