事例|富士貿易株式会社 ~SDGs対応の一環として倉庫業務を効率化、BCP対策を強化

 

 

 

世界屈指のマリン・サプライヤー
酒・食品類の輸入・販売も展開

 

 1953年に神戸で産声を上げた富士貿易は、外国航路を行き来する大型船舶への日用品や食料品、船舶用部品などの供給で事業を拡大してきた会社である。

 現在、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカの17カ所に拠点を設け(現地法人・駐在員事務所)、地球全体をカバーするマリン・サプライヤーとして、大型貨物船や巨大タンカー、外洋クルーズ船などの運航に欠かせない存在となっている(図表1)。

 

 得意先としては、海外の大手船会社や日本を代表する貨客船会社など300社以上が名前を連ね、5000隻以上の船舶が同社のサービスを常時利用中である。

 また1980年代半ばからは、グローバルなネットワークを駆使して酒・食品類の輸入にも進出し、日本におけるワインブームやバーボンウイスキーブームの火付け役になったことでも知られる。

 システム面では、1970年にIBMのシステム/3を導入し、それ以降、システム/38、AS/400、System i5と、IBMミッドレンジ機を中心に基幹システムを運用してきた。現在は、昨年(2019年)末に切り替えたPower 914(OSはIBM i 7.3)を利用する。

 基幹システムは、中心となる販売管理システムをシステム/3の導入時にRPG Ⅱで自社開発。その後、システム/38への切り替え時にRPG Ⅲで書き換え(1985年)、さらに2008年のシステム刷新時にRPG Ⅳを使って全面改築し、その後部分的な改修を続けながら現在に至っている。

 

コロナ以前にノートPCを配布
在宅勤務にも即座に移行

 

 同社はここ数年、SDGs(持続可能な開発目標)への対応を目標として掲げ、その一環として、倉庫内作業の効率化や事業継続基盤の強化に取り組んできた。そして、それらの活動にひと区切りをつけた直後に、新型コロナによる非常事態に直面することになった。

「グローバルな製造業の多くが生産を縮小したり海外への渡航が厳しく制限されるようになったことから船の運航が大幅に減少し、当社のマリン・サプライ事業にとっては大きな向かい風となっています。その一方、酒・食品類の輸入事業は国内の“巣ごもり消費”の影響で、倉庫が空になるほどの忙しさが続いています。

 当社は新型コロナの流行以前に全社員にノートPCを配布し、業務の効率化、事業継続基盤の強化を進めてきました。それが功を奏して在宅勤務へもすぐに切り替えられ、業務を継続できています」と語るのは、常務取締役の小池雄三氏である。

 

小池 雄三氏
富士貿易株式会社
常務取締役

 

 

iPadでバーコードを読み取り入出庫管理
LongRangeでIBM iとの連携を実現

 

 同社のマリン・サプライ事業は、顧客の船がどこにいても、顧客の求めに応じて世界各地の主要港で即座に納品できることが特徴である。そのために常時5万点を超える商品を世界各地で在庫し、即納できる体制を敷いている。

 サプライ品には、乗客・乗員の毎日の生活に欠かせない日用品や食料品のほかに、船舶の安全な運航に必要な部品・装置類などもあり、じつに多岐にわたる。

 同社ではそれらサプライ品の倉庫への入出庫・在庫管理を、従来はすべて手作業で行ってきた。

 まず入庫では、仕入先への注文品が倉庫に到着すると、発注した商品(部品)の情報を基幹システムからラベルに出力し、それを個々の商品(部品)に貼り付けて倉庫の棚に収納。次にIBM i上の倉庫管理システムへ手動で入力してきた。

 出庫では、顧客からの注文品のリストを基幹システムから紙にプリントアウトし、目視で注文品のピックアップと検品を行い、倉庫管理システムに手動で反映させてきた。

「しかし、手作業ゆえのミスが起きたり、繁忙期には従業員の肉体的・精神的な負担がかなり大きくなるなど、課題が顕在化していました。また入庫時のラベル出力では、実際には着荷しなかった商品のラベルも打ち出されるなど、無駄もいろいろと目立っていました」と、小池氏は従来の状況を説明する。

 

デバイスはiPadにすぐに決定
開発言語はPHPかRPGか

 

 その倉庫作業の効率化プロジェクトを、同社は2018年半ばにスタートにさせている。当初、システム化のイメージとして描いたのは、基幹システムの発注データをバーコード付きのラベルで出力し、そのバーコードをスマートデバイス付属のカメラアプリ(またはバーコードリーダー)で読み取り、それをアプリに取り込むことによって倉庫管理システムと連携させるという仕組みである。これを実現すると、基幹システムへの手入力やその他の作業を大幅に削減できる。

 実装方法の検討を進めるなかで、スマートデバイスをiPadにすることは、すぐに決まった。表示スペースが大きく文字が見やすいからである。しかし、IBM i上の倉庫管理システム(RPG Ⅳベース)とiPadアプリケーションとの連携方法については、すぐには決まらなかった。

 開発言語の候補として挙げられたのはPHPとRPGの2つである。これは、開発パートナーのアイ・ディー・シーがPHPエンジニアとRPGエンジニアを多数擁していたという事情による。アイ・ディー・シーは、富士貿易の情報システム部門が1989年に独立してできた会社で、独立後も富士貿易のシステム構築・運用を一手に担ってきた経緯がある。

 

開発・保守の生産性は
RPGのほうが高い

 

 半年に及ぶ検討の末に、開発言語はRPGに絞ることとし、iPad用アプリケーションの開発ツールとしてランサ・ジャパンのLongRangeの採用を決めた。

 LongRangeは、RPGやCOBOL、CLのスキルだけでスマートデバイス用のネイティブアプリを開発できるツール。「Long Rangeスタジオ」と呼ばれるフレームワークでメニューやフォームなどのパーツを定義し、IBM iと連携するフォーム部分をRPGやCOBOLで記述するだけでネイティブアプリの開発が行える。

「PHPを使って開発するにしても、連携のためのプログラミングやセッション管理などのスキルは必要です。そうであるならばRPGのほうがはるかに開発・保守が容易で、LongRangeを使えばさらに生産性は高くなります。RPGに軍配が上がりました」と、アイ・ディー・シーの小林慎二 取締役は製品選定の理由を語る。

 

小林 慎二氏
株式会社アイ・ディー・シー
取締役

 

 

作業ミスが激減
現場担当者から感謝の言葉も

 

 2019年3月にLongRangeを購入して開発に着手。同9月には入庫管理用システムの開発を終え、神戸にある船舶部品用倉庫の1つでサービスインした。

 構築したシステムは、基幹システム上の発注データから部品ごとのバーコード付きラベルを倉庫内のZebra製バーコードラベルプリンタで出力し、それを手作業で個々の部品に貼付。そのバーコードをiPadのカメラアプリまたはBluetooth接続のバーコードリーダーで読み取るとiPadアプリケーションに取り込まれ、IBM i上のLong Rangeサーバー経由で倉庫管理システムに反映されるという仕組みである(図表2図表3図表4)。

 

 

図表3 入庫時の登録画面(iPad)
図表4 入庫時の登録結果表示画面(iPad)

 

 導入効果はめざましく、「作業ミスが激減し、ペーパーレス化が一段と進みました」と小池氏。小林氏は、「現場の担当者からは繁忙期でも定時に帰宅できるようになった、と喜ばれています」と、従業員の反応を話す。

 現在は、出庫管理用システムのブラッシュアップ中で、まもなくサービスインする予定(図表5図表6)。

 

 

図表6 出庫時ピッキング品の読み込み画面(iPad)

 

 その後、国内にある残り5カ所の倉庫へ横展開し、2021年3月までに全倉庫のシステム化を完了する計画である。

「その段階になれば、業務の効率化や業務品質の向上が一段と進み、変化に迅速に対応可能な体制に、さらに一歩近づけると考えています」と、小池氏は期待を述べる。

 

10年来のHAツールをリプレース
Maxava Max DRでシンプル・低コストを実現

 

 倉庫内作業の効率化と並行して、同社では事業継続基盤の強化にも取り組んできた。

 じつは、この取り組みには“前史”とも言える長い道のりがあり、元をたどると1995年1月の阪神・淡路大震災に行き着く。

 当時同社では横浜本社と神戸支社の2カ所でそれぞれ別の基幹システムを運用していた(サーバーはともにIBM i)。その理由は、横浜本社と神戸支社で扱う商品がまったく違っていたからである。

 そして阪神・淡路大震災では、神戸市東灘区にあった神戸支社の社屋が操業不能となる被害を受けた。ところが、その屋内に設置されていたIBM iはほぼ無傷で、ネットワークさえつながればすぐに使える状態だった。そこで、ただちに兵庫県明石市に仮のオフィスを設け、リモートでIBM iの運用を再開した。

「そのときにBCP(事業継続計画)の重要性を痛いほど深く認識しました。それ以降は、新しい事業やシステム化に取り組むときには必ず、BCPを考慮するようになりました」と、小池氏は話す。

 また小林氏は、「震災まではIBM iのキャパシティ(CPW・メモリ・ディスク量)を業務の処理量ちょうどに合わせてプランニングしていましたが、次にIBM iを切り替えるときは、どちらか一方が使えなくなっても他方のIBM iにプログラムとデータを投入すれば運用を継続できる、余裕のあるシステム構成にすることを決めました」と、当時を振り返りつつ語る。

 実際に、2000年と2005年の2度のIBM iのリプレースでは、マシンスペックを十分に余裕のある構成とし、その時点で取り得る最善の対策を講じた。そして2005年以降、安定した運用を続けていたが、2011年3月の東日本大震災では、今度は横浜本社の社屋とIBM iがともに大きなダメージを受け、運用が困難になった。

「そのときはもう、IBM iの2重化に踏み切るしかないと痛感しました」と、小池氏は振り返る。

 

最初に導入したHAツールで
問題・課題が顕在化

 

 同社がすぐに取りかかり選択したのは、横浜本社と神戸支社の2つの基幹システムを再構築して統合し、神戸支社に本番機、横浜本社にバックアップ機を配置するというHA構成である。

 HAのためのツールはA社の製品を採用した(2011年12月)。そして2018年9月まで約7年にわたりHAツールを利用してきたが、その運用を続けるなかで「気になる点が徐々に膨らんでいきました」と、小林氏は語る。

「最大の問題となっていたのは、本番機のデータがバックアップ機側に正しく反映されないことがたびたびあり、毎日のように両方のログを目視で確認する必要があったことです。万一、データのロスがあれば手動で対処したり、本番機の一時ファイルを削減するなどの措置を講じていましたが、そのための手順も複雑で大きな負荷となっていました。さらに保守費用が高いことも負担でした」(小林氏)

 そうしたところへ、「平成30年台風21号」が神戸市付近を直撃し(2018年9月)、神戸支社の1階が水没。長時間の停電が発生してIBM iが停止するという被害に見舞われた。

 このとき同社は、本番システムをバックアップ機に切り替えなかった。

「バックアップ機に切り替えるという選択肢も当然ありましたが、数時間で通電するとの情報があり、本番システムを停止させたまま待機することにしました。本番システムを止めることによる業務への影響と通電後の本番機への切り戻し作業を比較した結果、切り戻しのほうが負荷が大きいと判断したためです。利用中のHAツールに対してはそれくらい、使いづらいという認識をもっていました」と、小林氏は話す。

 

新しいHAツールは
運用のしやすさとコストを重視

 

 台風21号の後、事業継続基盤をあらためて見直すことにし、新しいHAツールの選定をスタートさせた。2019年1月のことである。

 小池氏は、「関西ではそれまで台風や大雨による災害はほとんどありませんでしたが、気候変動による風水害が今後も多発する恐れがあるという観測もあり、またIBM iもEOS(保守サービス終了)の時期を迎えていたので絶好の機会と捉え、事業継続のための基盤を1から考え直すことにしました」と、見直しの理由を述べる。

 新しいHAツールの要件は、「機能がシンプルで手間がかからず、導入・保守コストを低く抑えられるもの」とした。HAツールの長い運用経験に基づく、同社ならでは考えが詰まった判断だ。

 その結果選択したのは、Maxavaの「Max DR」である。同製品は、中堅・中小企業向けの「Maxava HA SMB」の多彩なHA機能を1方向・1区画でのみ利用可能な日本向けのライセンスで、本番システムのすべてのトランザクションをリアルタイムにレプリケーションし、本番システムが停止した場合は即座にバックアップ機へスイッチし、運用を継続できる。さらに強力な監査ツールやユーザー管理ツールも備え、低コストで導入・運用可能な点が大きな特徴である。

 本番システムのレプリケーションが1方向に限定され、バックアップ機から本番機への切り戻しができない点について小林氏は、「本番機への切り戻しの際は、横浜から神戸へデータを転送する方法よりも、データをメディアに落として神戸へ持参するほうが、当社の場合、早くて確実です。あくまでも日々の運用のしやすさとコストを重視しました」と説明する。

 導入コストは、従来のHAツールと比べて3/4、保守費用は約1/2、HAツールの運用マニュアルは1/5で済んだという(図表7図表8)。

 

 

 

日本の安定したBCP対策を
どう海外展開するか

 

 Max DRはサーバーのリプレースにより導入したPower 914上に搭載され、2019年12月から本番システムの運用が始まった。Max DRの導入は、ソリューション・ラボ・横浜が担当した。

 そして約6カ月が経過したが、小林氏は「日々の運用において非同期がまったく起きないので、毎日のログのチェックを忘れてしまうほどになっています。コストだけでなく、運用面の導入効果も非常に大きいと感じています」と高く評価する。

 同社は1990年代から数々の災害を経験するなかで、BCPのレベルアップを着実に進めてきた。そして新型コロナへの初動対応でも、全社員を即座に在宅勤務に切り替えるなど、BCPのレベルの高さを示した。

「今後は、日本でのBCPの取り組みをどう海外に展開していくかが課題です。またパンデミックへの対応でもニューノーマルを前提とした社内規程の整備など、BCP対策としてやるべきことがまだたくさん残っています。事業継続に対する脅威は今後も次々に起こるでしょうから、さまざまな事態を想定して、柔軟に対応できる基盤を作っていきたいと考えています」と、小池氏は抱負を語る。

 

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COMPANY PROFILE
本 社:神奈川県横浜市
設立:1953年
資本金:1億円
売上高:306億2800万円(2019年3月期)
従業員数:210名(グループ全体:910名)
事業内容:船舶用マリン・サプライ、酒・食品の輸入、海外プラントへの機器輸出など
http://www.fujitrading.co.jp/

アジア、ヨーロッパ、南北アメリカの各地に拠点をもつ世界屈指のマリン・サプライヤー。2023年に創業70年を迎えるのを機に、新社屋建設の計画を進める。

 

サプライ品の商品カタログ
「Marine Stores Guide」
https://marinestoresguide.com/

 

[i Magazine 2020 Summer(2020年7月)掲載]

 

 

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