事例|安井家具株式会社 ~スマートデバイスで「現場」改革。店舗で使用する基幹システムの95%をiPhone・iPadで利用可能にし、新たな顧客体験を創出

 

店舗の超大型化・業態変更により
店内でのコミュニケーションが課題に

 安井家具は、愛知県を中心に「ファニチャードーム」と呼ぶ大型の家具・ホームファッション専門店を10店舗展開する小売企業である。創業は100年以上前の1914(大正3)年と古く、1970年代までは「地域一番店」として圧倒的な優勢を誇っていたが、1980年代に入って消費者の嗜好の多様化が進み、さらにホームセンターや全国展開の家具・インテリア店が登場すると、徐々に影響を受けるようになった。

「それ以降の当社の歩みは、地域の中堅専門店としてどう生き残るかという戦いの連続で、それは現在も続いています」と語るのは、取締役の杉浦秀文氏(経営企画部長)である。

 1992年に、従来からの家具専門店にホームファッション(家庭用品)の品ぞろえを合わせた新業態「ViViホーム」をオープン。1980?90年代をとおして愛知県内に6店舗を出店したが、それも次第に行き詰まりを見せ、「1990年代末ごろには、当社は事業の根本的な見直しを迫られていました」と、杉浦氏は振り返る。

 そして、新たに打ち出したコンセプトが「デスティネーション・パワフル・メガストア」である。「ファニチャードーム」は、それを具体化する店舗だ。

 

杉浦 秀文氏 取締役 経営企画部長(職位は取材当時)

 

「デスティネーション・ストアとは、お客様がその店だけを目的に来店する店舗で、信頼のおけるいい商品が豊富にそろい、生活を快適にするための提案や楽しい演出がたくさん詰まっている店舗です。当社は、伝統的な安井家具店のあり方を自ら否定して、ファニチャードームに社運を賭けたわけです」(杉浦氏)

 ファニチャードームの1号店である「稲沢店(現・新稲沢店)」は2000年にオープンした。フロアスペースは3000坪以上あり、従来型店舗の3倍以上もある。

 同社ではこのときに、店舗の本格的なIT化をスタートさせている。従来は中・小規模な店舗スペースだったので販売員同士は顔の見える範囲で接客や仕事ができたが、今度は従来の3倍以上の3000坪以上もあり、まず販売員同士のコミュニケーションが問題となった。

 

iPhoneの利用を前提とした
新しい店舗システムを検討

 その解決策は、店内にWi-Fi環境を構築し、販売員全員にPHSをもたせることだった。内線・外線の連絡はこれでスムーズに行える。さらに、従来はホストとの入出力にダム端末を使用していたが、それをPCに切り替え、ホスト(IBM i)連携のエミュレータを搭載して店頭に配置した。

 そして顧客から在庫などの問い合わせがあると販売員がPCでホストを検索し、売上があるとPCに入力し、売上伝票や配送伝票を印刷して顧客に手渡すようにした。それまでは電話で本部に在庫照会したり、売上があった場合は複写伝票に手書きして顧客に渡し、専任オペレータがあとでダム端末に入力するやり方だったので、大きな変革であった。

 また、この稲沢店でプライス作成用にiMacを利用したのが、Apple製品の初めての導入である。

「基幹システムの機能が携帯端末でできたら、さらに効率のよい店舗作業や接客ができるのではないかと当時、漠然と感じていました。そうなれば、1台の小さな端末で基幹システムを利用でき、電話もコミュニケーションも可能です」(杉浦氏)

 杉浦氏のこの思いは、2007年にiPhoneが発表されて具体的な像を結び始める。ちょうどそのとき、2008年にオープンする予定の超大型ファニチャードームのプロジェクトが立ち上がったところで、すぐさまiPhoneの利用を前提としたインフラの検討が始まった(図表1)。

 

 

 しかし、2008年に登場した最初のiPhone(3G)はバッテリの駆動時間が数時間しかもたず店舗での長時間利用に合わなかったため、採用を断念。超大型店のほうも、耐震偽装問題やリーマンショックの影響でオープンの延期を余儀なくされていた。

 ただし、このときに検討したシステムは、iPhoneの電話機能以外をネットワーク機能付きPDAに代えて構築し(電話機能は従来のPHSから携帯電話に変更。PDA画面とIBM iとの連携は.NETで開発)、既存の2店舗(当時)のファニチャードームから導入し、全店に展開された。

 この導入により販売員はPDAを携行して接客し、その場で売上商品の決定や在庫の照会をし、顧客からの問い合わせにすぐに回答できるようになった。そのほか、店頭での配送情報の確認や、インパクトプリンタからレーザプリンタへの切り替えなども実現した。

 杉浦氏のIT化の考え方は明快である。徹底した効率化によるコストダウンと、新たな顧客体験による顧客満足度の向上である。コストダウンについては次のように説明する。

「当社のような中堅の専門店では、すべての商品をオリジナルで統一することはできません。メーカーの人気商品を仕入れることになりますが、そうした場合は全国展開の専門店のほうが規模のメリットがあり非常に有利な条件で仕入れられます。当社としては、その差をどこかで埋めなければ競争のスタートラインに立てません。それがIT化で、効率化によるコストダウンをつねに意識して取り組んでいます」

IBM iとの連携に「i-web RPG5」を採用
HTML5、CSS3、JavaScriptでアプリ開発

 2010年にバッテリ駆動10時間(Wi-Fi接続時)のiPhone 4が発売されてバッテリ問題が解決し、年来の構想に再度着手することになった。システム基盤はPDA導入時にできていたのでiPhone・iPadに置き換えるだけだったが、IBM iと連携するMac(Safari)とiOSアプリをどう開発するかが新たな検討課題になった。

 このときに採用したのは、IBM i上にWeb化ツール「i-web RPG5」(アクセル社)を配置し、基本はHTML5、CSS3、JavaScriptの組み合わせで開発するというものである。開発フレームワークにはCordova、UI用ライブラリとしてJQueryと、iOS9からはOnsen UIを使うことにした(図表2図表3)。「Web化しておけば、デバイスが今後どのように変化しても対応可能だからです」と杉浦氏。

 

 

 

 同社は1990年代からIBM i上で基幹システム「YASS」を運用してきたが、このときの開発でも基幹側のプログラムにはいっさい手を加えていない。なお、Macからの基幹アクセスにはIBM i Accessを採用した。

 システムの実装は、ベンダー探しに時間がかかったため、2012年中ごろからスタート。2013年1月にカットオーバーし、店舗へのデバイス(初代はiPod touch、現在はiPhone)の配布を開始した。

店舗で使用する基幹システムの95%を
iPhone・iPad上で利用可能に

 開発し搭載したiOSアプリは多岐にわたる。杉浦氏は「これまで店舗で使ってきた基幹システムの95%をiPhone・iPad上で利用できるようにしました」と語る。

「iYASS1」はiPhone用の店舗業務アプリで、売上進捗確認、家具接客対応、発注処理、移動処理、検収処理、棚卸などの機能をもつ。iPhone用としてはこのほか、組織アドレス帳や電話ダイヤル/FaceTime発信、メール・メッセージ機能などを備える「yContacts」(*)、勤怠管理、作業指示確認、作業実績入力、業務日報などの機能をもつ「yWorks」、ノーツを利用できる「yNotes」、動画表示の「ySign」(**)、インタラクティブ・サイネージ対応の「yInfo」(**)などがある。店舗で利用しているiPadでは、接客処理や伝票処理機能をもつ「iYASS2」と「yWorks」「yInfo」(**)が利用できる。

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(*はObjective-C、**はSwiftによる開発)。

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 同社では、iPhone・iPadのキッティング作業をすべて自社で行っている。現在配布済みの台数は、個人用のiPhoneが400台、管理/営業用のiPadが150台。

「最初は、キッティングのやり方がまったくわからず、一から調べるところよりスタートしました。その後、24ポートの大型USB Hubを購入したり、Apple Configuratorという一括構成ツールがあることを教えられて使い始めるなど、試行錯誤を繰り返して現在の形を作ってきました。今は、各店舗に充電用ドックを配備して充電管理も行っています」と、経営企画部 企画システムグループの大山里江氏は話す。

 

大山 里江氏 経営企画部 企画システムグループ(職位は取材当時)

 

 図表4は、iOSアプリの開発体制である。名古屋・熊本・札幌にいる3名の外部プログラマーにiOSアプリの開発を委託しているが、それ以外の要件定義や設計、UI/UXのデザイン、iOSアプリと連携するRPGプログラムの実装、およびプロジェクトの進捗管理とユーザー向けマニュアルの作成などは自社の作業である。

 

紆余曲折の結果
設計・UI/UXのデザインは自社で

 全体のシステム設計とUI/UXのデザインは杉浦氏、開発された機能/UIの確認や、進捗管理、運用マニュアルの作成などは大山氏が担当する。「最初は一般的なやり方で進めようとしましたが、当方の思いや意図が外部協力者になかなか伝わらず、紆余曲折の結果、自分たちでやったほうが早いとなり、現在の体制に落ち着きました」(杉浦氏)

 同社は今、物流現場(宅配)でのiPhone・iPadの利用拡大と、iPadで利用するPOSレジの開発を進めている。また、この春には基幹システムとダイレクトに連動するオンラインショップもオープンする予定だ。

「システム化の最終的な目標はお客様の満足度向上ですが、それを実現するためには、現場の販売員・従業員に喜んでもらえるシステムを作ることこそ重要です。そう考えると、iPhone・iPadを使ってできることは、まだたくさん残されています。その適用は当社の生き残りにつながることで、当社の戦いはこれからも続いていきます」と杉浦氏は述べる。

 

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COMPANY PROFILE

安井家具株式会社

本社:愛知県名古屋市
創業:1914(大正3)年
設立:1948(昭和23)年
資本金:2億円
売上高:115億円(2014年6月)
従業員数:395名(2014年6月)
事業内容:家具・インテリア用品小売。家具・ホームファッション・ホームインテリアの総合店舗「ファニチャードーム」を、愛知県を中心に岐阜県・三重県に10店舗を展開
http://www.yasuikagu.co.jp/http://www.yasuikagu.co.jp/

[i Magazine 2017 Spring(2017年2月)掲載]

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