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災害対策や耐障害性の強化を目指し、Power Virtual Serverへのクラウド移行を果たす ~「PVS One」による移行・運用支援を得て、6カ月で移行を実現 |株式会社パイロットコーポレーション

株式会社パイロットコーポレーション
創立:1918年
設立:2002年
資本金:23億4072万8000円
売上高:1261億6800万円 (連結、2024年12月期)
従業員数:1094名
概要:筆記具等のステイショナリー用品、玩具、リング等の貴金属アクセサリー、セラミックス部品等の製造、仕入、販売
https://www.pilot.co.jp/

災害対策や耐障害性の強化
価格最適化を狙いにクラウド移行

パイロットコーポレーションは、万年筆をはじめボールペン、シャープペンシル、マーカーなどを製造販売する総合筆記具メーカーである。筆記具以外にも、手帳やノートなどの文具、玩具や指輪、セラミックス製品など、筆記具づくりの技術を応用して幅広く事業を展開している。

代表的なヒット商品の1つが、消せる筆記具「フリクション」である。また最近では2024年10月に発売した、まっすぐきれいな線が引ける蛍光ペン「KIRE-NA(キレーナ)」が、学生を中心に話題となっている。

同社は1989年にAS/400へ切り替え、その後リプレースを重ねながら、会計管理・生産管理・販売管理・物流管理といった基幹システムを運用してきた。クラウドが本格化し始めた2010年代から、IAサーバーのクラウド移行を開始。現在はネットワーク負荷分散の観点からオンプレミス環境に設置した一部のサーバーを除き、IAサーバー群はAWSのクラウド環境へ移行している。

基幹システムが稼働するIBM iも、早くからクラウド化を検討してきた。IBM PowerをPOWER7から POWER8へリプレースした2018年に、IBM以外のベンダーが提供するIBM iのクラウドサービスを検討したが、この時はクラウドならではのメリットがあまり認められず、オンプレミスと比較してコストが割高になるなどの理由で、移行を見送った経緯がある。5~6年サイクルのマシンリプレースを想定すると、その次の更新は2023~2024年ごろになる。

「Tier4のデータセンターでオンプレミス運用していましたが、冗長化や代替拠点の確保などBCP対策を強化する必要がありました。さらに耐障害性の強化と運用管理の負荷軽減、コスト最適化などの目的で、次の更新時にはクラウド移行を実現したいと考えていました。そこで2023年春から、具体的な検討を開始したのです」と語るのは、情報システム部の笹倉一成部長代理である。

笹倉 一成氏

検討チームのメンバーは、IBM iの開発・運用を担う同社の情報システム部 ITオペレーション課、それに基幹システムの開発・運用を長く担当し、今回のクラウド移行ではプロジェクト・マネジメントと移行作業を担うソリューション・ラボ・ジャパン(以下、SLJ)、そしてIBM iのクラウドサービス「IBM Power Virtual Server」(以下、PowerVS)の移行・運用支援サービスである「PVS One」を提供するMONO-Xの3社である。このミーティングは2023年4月から、月1回の頻度で定期開催された。

「クラウドの検討を始めた当初から、信頼性・安全性の観点からIBMのPowerVSに決めていました。BIツールとしてMONO-XのPHPQUERYを以前から利用しており、同社の支援を受けていたので、PVS OneでMONO-Xの支援を得られることが大きな安心材料となったことは確かです。また、SLJは長いお付き合いの中で当社環境をよく知っていますし、過去2回のリプレース時と同じPMがアサインされたので、プロジェクトに関してもほぼ心配ありませんでした。そうした理由により、この2社を交えてクラウド移行の方法や注意点、ネットワーク帯域の確認、移行スケジュールなどを検討していきました」(笹倉氏)

ネットワーク帯域については、利用しているネットワーク回線とPowerVSとの接続メニューが複数あったため、早い段階で問題ないと確認された。課題となったのはPowerVS環境へのデータ移行方法と、テープバックアップの代替手法である。

データ移行方法は、移行作業を担当したSLJがテスト転送などを経て最適化し、短時間で実施する方法を確立した。テープバックアップの代替手段はMONO-Xが複数提案した中から、最終的にFalconStorの仮想テープライブラリーを利用することになった。本番環境のある東京リージョンでFalconStorにデータをバックアップし、災害対策として大阪リージョンに構築したFalconStorの仮想テープライブラリーへ同じデータを送信して、バックアップする仕組みである。

オンプレミス環境で新しいIBM Powerを導入した場合と、PowerVSを利用してクラウドへ移行した場合の価格も詳細に比較した。結論から言うと、2018年調査時に比べて価格差が解消され、ほぼ同じコストであるとの印象を抱いたという。

ただし本社および2つの工場での本番環境、開発環境、BI環境などを含めて合計7区画を運用している。PowerVSへ移行した場合、今後のシステム統合により区画を減らせれば、コスト削減を見込めた。

またBCP対策強化として冗長化を考えた場合、オンプレミス運用では、ホットスタンバイにしろ、コールドスタンバイにしろ、IBM Powerをもう1台導入する必要がある。この2台目のマシンのコスト、データセンターの費用、さらに5~6年経過後の次の更新費用、機器障害発生時の運用管理作業などを考えると、クラウドのほうが相対的にコストは抑えられるとの判断が働いた。

移行決定は2023年8月、移行プロジェクトは2024年1月にキックオフした。最初の1カ月で全体計画と移行スケジュールを策定し、2月にMONO-XがPowerVS上に稼働環境を設定。3月からSLJが移行作業を開始し、7月に移行を完了した。実際には6月初旬と6月末に工場関連の4区画、7月初旬に本社関連の3区画がPowerVS上で本稼働を開始している。

「マシンを更新するたびに、処理スピードの向上を体感していますが、今回もその例に漏れず、レスポンスが大幅に向上しました。ただしエンドユーザーは、クラウド環境へ移行したことにまったく気づいていません」と指摘するのは、間中伸一課長(情報システム部 ITオペレーション課)である。

間中 伸一氏

また柴崎わかな課長(同上)もこう語る。

「クラウド移行に際しては、ディスク容量などのリソースを必要最低限に絞れたことがコスト削減に寄与したと考えています。運用開始後に、仮想テープライブラリーの容量を少し増やしましたが、リソース面の変化はそれ以外ありません。今後データは想定どおり増えていくと思いますが、クラウドなので、いつでもリソースを増やせるという安心感があります」

柴崎 わかな氏

夜中1~2時間で実施されるバックアップ時を除いて、IBM iの稼働時間が大幅に増えたため、24時間体制で操業している工場など

南口 智之氏

では、実績入力の可能時間が増加するなど、利便性も向上しているようだ。

さらにBCP訓練を大阪リージョン内で実施したが、BCP用に保管されたデータから本番環境をリストアして再稼働するまでに数時間程度であることが判明した。

「東京リージョンの信頼性、可用性が十分であることから、大阪リージョンでの再稼働は想定していませんでしたが、復旧シナリオの1つとして評価できる結果でした」と、南口智之上級係長(同上)は語る。

同社ではパイロットのDXを目指し、業務改善や意識改革などを推進していく。クラウド移行がもたらした運用管理の軽減やコスト最適化などのメリットは、DXを追求していく大きな推進力となるだろう。

図表1 クラウドサービスの運用状況

 

[i Magazine 2025 Summer掲載]

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