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個人を変え、企業を革新する新しい「学び」のヒントはどこにあるか? ~アイラーニング 片岡 久 氏に聞く

ビジネス環境が激変し、ビジネスの進め方が大きく変わり、それを担う人の意識・思い・使命感が変わる今、教育・学びも大きな曲がり角を迎えている。これからの教育・学びを、4月にアイ・ラーニングラボの担当に就任した片岡久氏はどのように見ているか。Part 1では、インタビューとコラムを紹介する。個人を変え、企業を革新する新しい「学び」のヒントはどこにあるかアイ・ラーニングラボ 片岡 久氏に聞く。
 
 
 

女子カーリングチーム「だよね~」が
示唆するもの

 
IS magazine(以下、IS) 4月1日にアイ・ラーニングラボを設立されましたが、その背景と目的は何ですか。
 
 
片岡 昨今、社会のいたるところでデジタル化が進んでいますが、このことは複雑さと不確実さが増す現代において、さまざまな事象をデータ化し解析することによって少しでも確実な未来を予測しようという動きの表れと見ることができます。
 
 一方デジタル化は、自らもデータを生み出すことによって、これまでにない規模の影響を社会とビジネスに与えつつあります。その結果、デジタル社会で活躍する人材には、ITとビジネスの両方のスキルを身につけることが求められています。つまり、どちらのスキルも学ぶ必要があり、学び続けることが求められているわけです。
 
 アイ・ラーニングラボでは、これからの学びのニーズの拡大に対応するために、「学びの技術」と「学びの本質」の2つの研究を進める計画です。「学びの技術」の研究では、いかに効率よく多くのものを学べるかを追求し、デジタル・ビジネスを勝ち抜くためのスキルをどのように身につけるかを探究します。
 
 「学びの本質」の研究では、学びの意味を問い、学ぶことによって実現するビジョンや価値を探索し、デジタル時代における人の生き方や組織のあり方を考察します。学びに関する2つの研究活動を並行して行うことで、テクノロジーの進歩を人の成長と組織の進化へつなげることができると考えています。
 
IS 新しい学びの形について、こうあるべきという考えはありますか。
 
片岡 具体的な研究はこれからですが、いくつかイメージをもっています。社会の複雑化とともに、患っている人とそうでない人の区別がつきにくくなっています。たとえば自閉症の人が治癒していく過程では、自分が他人に受け入れられているという感覚を、他人のいろいろな言葉によって少しずつ理解していく過程があるそうです。世の中には自分とは別にほかの人の声がある、ほかの人の声が自分の声と同じくらいに聞こえる、と自閉症の人が認知できると、だんだんと自分の心を開いてくると言います。そしてこれと同様のことは、ビジネスで精神的に変調をきたす人にも起きていると考えられています。
 
 このことをビジネスの面で捉え直すと、同僚や上司、あるいは仕事でつながりのある人の声を素直に受け入れる心の余裕がもてると、人は生き生きと仕事ができ、クリエイティブにもなれるということが考えられます。
 
 

デジタルトランスフォーメーションの
なかで考える新しい「学び」

IS 組織や集団が生き生きと活動し、クリエイティブになるには何が必要なのでしょうか。
 
片岡 そのヒントとしては、グーグルの「プロジェクト・アリストテレス」が参考になると思っています。グーグルが2012年に実施した、生産性の高い働き方を探る調査プロジェクトですが、その当事者のレポートを読むと、リーダーがずっとしゃべっていることはなく、メンバー全員が同じくらいの量の言葉を発しています。心理学の用語では「心理的安全性」と言いますが、自分が感じたままの思いや言葉を他人へ率直に伝えられる環境や雰囲気があると、高い生産性を生み出せるのです。
 
 それで思い出すのは、平昌オリンピックで大活躍した日本の女子カーリングチームです。大変なプレッシャーのなかで競技を続けていたと思いますが、失敗してもしょげることなく、何が起きても「そだね?」とポジティブに認め合っていました。あれを見ると、これこそが新しいチームの作り方だと思います。根性論などとは対極にある心のもちようで、旧態依然とした上意下達の組織風土のなかでは決して起こりえないことでしょう。
 
 

個人の自己実現に会社が
どれだけ貢献できるか

 
IS 会社には会社としての目標があり、それが事業部、部、課へと下されて、それぞれの目標が設定され、そして個人の目標が決まります。そうしたシステムのなかで、これからの学びは、どのように考えられるべきですか。
 
片岡 MBO(目標管理制度)における目標は評価とセットで捉えられていて、個人とマネージャーとの間で目標と評価の合意があって初めて意味をもつものです。しかし今や、その目標と評価の対は機能しなくなっているか、早晩、機能しなくなるものと思います。なぜなら、変化のスピードが早くなり、目標そのものが期の途中で変わってしまうからです。
 
 また、目標達成でのみ仕事の成果を評価されることは、個人の価値が部門の目標を達成するための手段でしかないことを示すだけです。そうした考え方の下では、組織や人を生き生きとクリエイティブにさせる学びは、遠い存在と言わざるを得ません。
 
 企業におけるこれからの学びを考えるときは、仕事を、ビジョン、ミッション、バリューの観点で捉えることが必要です。ビジョンは企業が目指す理想像であり、ミッションはそこへ到達するための具体的な活動、バリューはミッションを遂行するときに組織の一員として仕事をする自分が共有すべき価値観です。
 
 この企業が掲げるビジョン、ミッションに共感し、価値観を共有できれば、個人の活動は価値を実現する意味のある行動となり、個人はよりクリエイティブであろうとするでしょう。最近の学生が、ビジョンをもつ企業で働きたいという意識を高めているのは、企業において価値のある活動をしたいという気持ちの表れではないでしょうか。そうした環境においてこそ、学ぶことが意味をもってくるわけです。
 
IS そのような認識とマインドをもつ個人に対して、企業はどのように学びの機会を提供していけばよいのですか。
 
片岡 つまり若い人たちにとっては、会社でいかに自己実現できるか、どれだけ周囲の人に影響を与えられるかが重要なのです。そして、そうした若者は、常に仕事を通じて自分自身を成長させていくことを目指しています。
 
 単に決められたカリキュラムを受けるだけでなく、まさに「学習する組織」として与えられた環境で、自ら学びの感性を磨き、自分が組織への貢献のために必要と思うことを選び、学ぶようになります。そうした自主的な学びの機会や学べる環境をどう提供するかが、重要なキーワードになっていくと思います。
 
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インタビュー|片岡 久 氏

株式会社アイ・ラーニング
アイ・ラーニングラボ担当
 
1952年、広島県生まれ。1976年日本IBM入社後、製造システム事業部営業部長、本社宣伝部長、公共渉外部長などを経て、2009年に日本アイ・ビー・エム人財ソリューション代表取締役社長。2013年アイ・ラーニング代表取締役社長、2018年より同社アイ・ラーニングラボ担当。ATD(Association for Talent Development)インターナショナルネットワークジャパン アドバイザー、IT人材育成協会(ITHRD)副会長、全日本能率連盟MI制度委員会委員を務める。
 

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