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BCPの策定スタイルそのものが限界にきている ~NTTデータ経営研究所の過去4回のBCP調査から見えてくるもの|─NTTデータ経営研究所 白橋 賢太朗氏に話をうかがう

by kusui

NTTデータの100%子会社でコンサルティング事業を展開するNTTデータ経営研究所は、「東日本大震災発生後の企業の事業継続に係る意識調査」を2011年から2年おきに実施している。東日本大震災という未曽有の大災害から7年。企業のBCPに対する取り組みや意識はどのような状況にあり、どう変化してきたのか。第1回調査から担当を務める白橋賢太朗氏(事業戦略コンサルティングユニット シニアマネージャー)に、過去4回の調査から見えるものについて話をうかがった。

 

 

約4割が策定済み
約2割が策定中

i Magazine(以下、i Mag) 第4回調査の「現在の企業のBCP策定状況」を見ると、全体では約4割が策定済み、約2割が策定中という結果です(図表1)。 

白橋 企業の規模別に見ると、従業員数が多くなるにつれて策定済み企業の割合が増え、500人以上では半数以上が策定済みです。その一方、99人以下になると策定済みは20.3%にとどまり、策定予定なしは29.3%に上ります。

 

 

i Mag 業種別ではどのような状況ですか。

白橋 事業継続への要求レベルが高いと想定される金融・保険業は、策定済みが66.7%、策定中が14.5%で、合計すると8割を超え、群を抜いています。次いで公共機関が策定済みと策定中の合計で6割を超えますが、その他の業種は軒並み、策定済みが5割に届かず、とくに教育・医療・研究機関は16.4%と低い水準です(図表2)

 

BCPの策定を
多くの企業が断念している

i Mag 過去4回の調査から見えてくるものは何でしょうか。

白橋 図表3を見てください。第1回~第4回のBCPの策定状況をまとめたものですが、策定済みは第2回の2013年1月時点で、第1回(2011年7月)の約1.5倍の40.4%へと増加しています。第1回調査は東日本大震災前の策定状況を尋ねたものなので、震災を契機に企業が大きくBCP策定へ動いたことがうかがわれます。しかしその後はほとんど伸びず、第3回、第4回とも停滞しています。一方、策定中は、第1回から第2回へ11.1ポイント伸びて30.0%となりましたが、第2回から第3回へは逆に7.7ポイント減少して22.3%、第3回から第4回へはさらに2.6ポイント減少して19.7%になりました。

 策定中であれば、遅かれ早かれ策定済みへと変わるはずですが、策定済みの数・比率が伸びないなかで策定中が減っています。このことから読み取れるのは、BCPの策定に一度は取り組んでみたものの、多くの企業がその途中で、何らかの理由で断念してしまったということです。

 

i Mag 衝撃的な結果ですね。事業規模別、業種別などで傾向が見られますか

白橋 顕著なのは製造業で、策定済みの割合は第2回(42.2%)から第4回(44.0%)へ1.8%増の横ばいなのに対して、策定中の割合は第2回の55.9%が第4回では20.2%へ急落し、35.7ポイントも減少しています。

i Mag 2013年(第2回調査)時点で策定中だった業種は、2017年(第4回調査)になるとどれも減少していますね。

白橋 そうです。事業規模別でも特段の差異は認められず、一様に停滞しています。

 

 

経営資源に限りがあるので
代替策を立てられない

i Mag その理由は何でしょうか。

白橋 3.11が起きてから1年間は、BCPを自社で見直そうという動きが顕著にありました。しかし自社だけで考えてもうまくいかないので、1年後以降に外部コンサルティング会社を招聘して対策を検討しようという動きが起こりました。その結果として、策定断念に至ったのだと考えられます。

 BCPについて本格的に取り組もうとすると、初動対策だけでは不十分なことは明らかです。事業を継続させるにはその先の、被害を受けた経営資源に対する代替策が必要になるからですが、多くの企業がこの段階でBCP策定を断念してしまったと推定されます。つまり代替策という壁があるのです。

i Mag どうしてでしょうか。

白橋 日本の企業は99%が中小企業です。事業所の所在地を見ると、拠点が複数あったとしても、ある地域に偏在していることがよくあります。そうした場合、地域一帯で災害が起きすべての拠点が被災したとすると、代替とする拠点を考えようがなくなるわけです。ITに関わる部分はクラウドなどで代替可能ですが、人や施設は、事業拠点が限られていたり地域に偏在していると、代替策を講ずるのは非常に困難です。言い換えれば、経営資源が限られていると、代替策のハードルは途端に高くなるのです。

i Mag 現実的にはそうなのでしょうね。

白橋 BCPに関して課題をもつ企業にその理由を尋ねると、「単一拠点で事業を行っており、代替となる自社拠点がない等」「代替要因を配備するたけの余裕がない等」が上位を占めます(図表5)。そして最も多いのが、「外部からの調達・供給ができなければ事業継続できない等」という結果です。要するに、自社だけでBCPを考えても限界があるのです。それが、BCP策定に一度は取り組んでみたものの、策定の途中で断念するに至った最も大きな理由だろうと見ています。

 

 

防災マニュアルに
毛が生えた程度の対策

i Mag 第1回~第4回の調査結果で、ほかに注目している点はありますか。

白橋 私どもの調査では、第1回から対策別のBCP策定状況を尋ねています。図表6が第4回の調査結果ですが、第1回~第4回の結果を俯瞰すると、個々の回答に多少の変動はあるものの、共通の傾向が見て取れます。すなわち、災害・事故発生時の体制設置や被災・被害状況の確認など初動段階の手順については相対的に高く、それ以降の業務を復旧させるための目標設定や代替策の用意など応急・復旧段階の対策は相対的に低いという傾向です。また、応急・復旧段階の対策を「自社リソース復旧」と「外部連携」に分けてみると、外部連携についてはさらに対策が進んでいない状況です。

 しかし、注目しているのはこの傾向だけでなく、BCPに対する企業の意識、考え方そのものです。

i Mag どういうことですか。

白橋 図表6で挙げた項目(回答の選択肢)は、実はすべてBCP策定に必要な要素です。初動対策はもちろん重要ですが、それ以降のどれ1つが欠けたとしても、本来あるべきBCPにはなりません。初動に偏ったBCP対策は、厳しく言えば、防災マニュアルに毛が生えた程度の対策でしょう。しかし、そうであるにもかかわらず、それを「わが社のBCP」とする企業が多いのが、日本企業のBCP対策の問題点です。そしてそうなる背景が、自社だけでは本来あるべきBCPを策定できないという、先ほど触れた事情です。別の観点から言えば、自社だけでBCP対策を検討・策定する、従来からのBCP策定の手法・スタイルそのものが限界にきているのだと考えられます。

 

 

ブレークスルーは
企業相互の連携

i Mag では、どう取り組むべきですか。

白橋 先ほど自社単独でBCPを策定することの限界について触れました。どの企業もサプライチェーンやバリューチェーンのなかで事業を推進しているので、自社だけでいくらがんばってBCPを策定しても、有事の際に調達先が物を供給してこなかったら事業継続は成り立たない、と考えるのはもっともな話です。

 これに関するブレークスルーは、企業相互の連携です。企業間で連携してBCPの計画・策定を行い、有事の際にはそれに基づき相互に協力し合うという体制です。これにはすでに数多くの事例があります。

 図表7は、当社で整理した、連携BCPに関する主な取り組みです。たとえば、神奈川県メッキ工業組合と新潟県鍍金工業組合は、会員企業が被災して事業継続が困難になったら生産を代替し合うなどの相互協定を2011年に締結しています。「お互いさまBC連携」と呼ぶそうですが、競争から協業へ発展した同業者連携の好例です。

 また、JR貨物(日本貨物鉄道)は、自然災害や運転事故などによって貨物列車の運行が困難になった場合、鉄道コンテナ輸送を担う運用事業者が、トラックによる代替輸送を行う協力関係を築いています。これなどはバリューチェーンにおける連携と言えます。さらに、工業団地や産業地域内など地域内の連携も登場しています。

 

 

i Mag すでに多数の先行事例があるのですね。

白橋 連携BCPの形態を、当社の示唆を加味してまとめたのが図表8です。このうち「バリューチェーン連携」は今挙げたJR貨物の例、「同業者連携」は神奈川県と新潟県の両メッキ組合の相互協定が該当します。ほかに、自治体や地域の社団法人などが中核となって推進する連携BCPも登場しています。

 それと、この連携BCPは有事だけでなく、平時における効果も考えられます。つまり事業には需給の繁閑がありますから、相互に利用可能な経営資源に関して、需要期にある企業が閑散期の企業の資源を利用できれば、固定資産の稼働率向上による収益性の向上が期待できます。BCPはリターンの見通しの立たない投資と見なされ、必要な投資が後回しにされる傾向があります。しかし平時においても活用できるBCPならば、自社の経営効率を高める、企業競争力を強化する投資と捉えることが可能です。

 

 

i Mag 相互に利用可能な資源とは、たとえばどのようなものですか。

白橋 たとえば、汎用的な機械・備品、遊休施設、各社の人的リソースがもつスキルなど。また、IT資源の相互バックアップ環境や、災害・被災情報を共有するためのシステムを、平時の業務オペレーションに活用することも考えられます。連携BCPの取り組みでは、ITが大きな役割を担います。

i Mag 実現にはいくつかの壁を乗り越える必要がありそうですが、自社単独によるBCP策定の限界が明確になってきている現在、必要な観点ですね。

白橋 私どもの調査結果にあるように、初動対策が進んでいること自体は大きな進展です。ただし、それだけではBCP対策とは言えないことを、企業の経営者、BCP推進担当者は肝に銘じておく必要があると思います。

[i Magazine 2018 Winter(2018年11月)掲載]

 

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