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カラードコインで災害時義援用の 仮想通貨「IP024Coin」を開発

巧みな仕様の策定で義援金配布の課題を解決

JGS研究プロジェクト IP-024チームの実装・検証

 

義援金配布に関わる課題を
仮想通貨の導入で解決

2017年のJGS研究プロジェクト論文で「優秀論文賞」を受賞したIP-024チームは、ブロックチェーンをベースとする仮想通貨のユースケースとして「災害復興時の義援金用仮想通貨」を開発し、実装・検証を行った。

災害復興時に着目した点について、リーダーを務めた佐々木優氏(三井住友トラスト・システム&サービス)は、「義援金の配布は、日本赤十字社によると迅速性・透明性・公平性が3原則とされていますが、配分基準決定に時間がかかること、配布状況公開にかかわる事務負荷も相応にあることなどから、実際は3原則を完遂できていないことが報告されています(図表1)。その義援金配布に関わる課題を、仮想通貨の導入により解決することを目指したのが今回の研究です(図表2)」と説明する。

【図表1】災害復興時義援金の現状

【図表2】義援金用仮想通貨導入案

図表3は、仮想通貨を導入したときの効果の考察である。3原則のそれぞれの課題を解決する「取引直接性」「透明性」「証明性」に加えて、「インセンティブ多様性」「使途限定性」という仮想通貨ならではの付加価値も見いだしている。

 

【図表3】義援用仮想通貨の導入効果

 

開発する仮想通貨の基盤としては、ビットコインの派生である「カラードコイン」を採用した。カラードコインには、ビットコインの基盤上に付加情報を記述できるレイヤ(メタデータ領域)があり、そこへの機能追加で指定した価値の移転を独自に表現できる。

今回開発した義援金用の仮想通貨「IP024Coin」では、そのレイヤを「誰から誰へ、どのような価値を移転するか」を表す仕様とした。

たとえば、「JGSIP024F25T25_P1」は、支払元から対象領域内の支払先へ25コイン(JGSIP024Coin)を送金したことを示す。「JGSIP024」がIP024Coinであることの識別記号、F(数字)=支払元の減算額、T(数字)=支払先の増加額、P=送金またはモノやサービスとの交換(Payment)、1=取引が対象地域内(0は対象地域外)の意味で、「F25T25」は、ビットコイン基盤のトランザクションの1番目のアドレスから2番目のアドレスへの25コインの移動となる仕様とした。

また、コインの移動目的を示す区分として「P」のほかに「I」と「V」を設定し(I=発行者から被災者への発行:Issue、V=被災地でのボランティア活動の対価:Volunteer)、さらに取引の発生を対象地域内と対象地域外に分けた。これは、対象地域内でのボランティア活動や商品購入などがあった場合にインセンティブを付与するための仕様である(インセンティブ多様性と使途限定性の実現)。実装を担当した佐々木氏は、「ビットコイン基盤の仕組みを使いつつレイヤ上でルールを策定したのが、実装面で最も工夫した点でした」と話す。

 

カラードコイン用の
ライブラリを使い、C#で開発

図表4は、仮想通貨「IP024Coin」の概要である。チームでは図表のような取引直接性を実現するために、コイン発行者用の「マネージャウォレット」と、寄付者・被災者用の「クライアントウォレット」を開発した。

 

【図表4】IP024Coinの概要

開発に用いた言語はC#で、カラードコイン用に公開されているライブラリを活用した。プログラムの検証を担当した三宅浩亮氏(三菱UFJ信託銀行)と喜村慈英氏(Keepdata)は、「ビットコイン基盤を使えば、非常にシンプルに、ほぼ無料で仮想通貨を開発できることに驚きました」(三宅氏)、「予想外にあっさりと開発でき、取っつきやすい印象でした」(喜村氏)と感想を述べる。

また松田浩明氏(アイ・ティー・ワン)は、「プロジェクトのスタート当初に、通貨および仮想通貨とは何かや、募金と義援金の違いを整理したのが、IP024Coinの仕様策定に役立ちました」と振り返る。募金と義援金の違いの整理を担当した小林博之氏(東京海上日動システムズ)は、「義援金のas-isとto-beを定義にしたことで、義援金用の仮想通貨に盛り込むべき機能が明確になりました」と語る。

図表5は、ビットコインとIP024Coinのそれぞれのトランザクションを示したものである。IP024Coinでは、ビットコイン(BTC)自体の移動はなく、メタデータ領域内の「JGSIP024F25T25_P1」でコインの移動が示されている。また、「マイニング手数料」(ここでは0.005BTC)の発生が見て取れる。「ビットコイン基盤の仕組みに由来する手数料ですが、義援金は本来、全額配布すべきという原則に合いません。本格開発する際の運用面の課題とチームではとらえています」と、西出達郎氏(オージス総研)は指摘する(論文では、運用面・技術面の課題が細かく考察されている)。

 

【図表5】ビットコインとIP024Coinのトランザクション仕様

 

また荒木真美氏(NTTデータソフィア)は、「研究プロジェクトの開始当時は、誰もブロックチェーンや仮想通貨の知識をもっていませんでしたが、論文の執筆後は、メディア上の話題などもすんなりと理解でき、議論を交わせるようになりました。有意義な研究活動だったと思っています」と総括している。

なお、論文はIBMユーザー研究会のサイトで閲覧可能(U研会員限定)、IP024CoinのソースはGitHub上で公開されている(http://bit.ly/ip024)。

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JGS研究プロジェクト・メンバー

◎リーダー

佐々木 優氏

三井住友トラスト・システム
&サービス株式会社
開発第二部 第二グループ

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◎サブリーダー

喜村 慈英氏

Keepdata株式会社
IoT/BIGDATA/Analytics/
AI開発Div. エキスパート
(研究時:アドソル日進株式会社在籍)

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◎サブリーダー

三宅 浩亮氏

三菱UFJ信託銀行株式会社
業務IT企画部
業務ITソリューション室
第3グループ 調査役

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荒木 真美氏

NTTデータソフィア株式会社
第二開発部
預金G

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小林 博之氏

東京海上日動システムズ株式会社
ITサービス本部
ITサービス管理部 デザイナー

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西出 達郎氏

株式会社オージス総研
営業本部 東日本営業部
第一チーム

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松田 浩明氏

株式会社アイ・ティー・ワン
サービス推進事業部
サービス企画部

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