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ストレージの使い方で企業力に差、オールフラッシュを基点にHDD・テープなどと多様な構成 ~日本IBMの佐野正和氏に聞く

 

 

 

2系統のオール・フラッシュ製品を
ラインナップ

 

 日本の企業向けストレージ市場が停滞するなかで、オール・フラッシュ製品は順調に売上規模を拡大している。2016年は前年比84.3%増、2017年は同88.9%増という成長で、市場全体に占める割合は2017年末で18.4%(318億3800万円)にまでなった。そのオール・フラッシュ市場で、2013〜2017年の5年連続で第1位をキープしているのが日本IBMである(IDC Japan調査)。

 日本IBMのオール・フラッシュ製品には、SSD搭載とFlashCoreモジュール搭載の2系統がある。FlashCoreモジュールとは、IBMが独自設計したチップにフラッシュメモリを実装したカードで、これを搭載した製品は、HDDと同様の仕組みを使うSSD製品よりもさらに高速という特徴がある。

 日本IBMではこの2系統あるフラッシュ・モジュールに、ハードウェアおよびソフトウェアによる強力なストレージ機能を搭載して多彩なオール・フラッシュ製品をラインナップしている(図表1)

 

 

 

 主な製品には、パフォーマンス重視ながら価格選好のユーザーへ向けたIBM Storwise V5030F/V7000F(SSD搭載)や、SSD・HDD・FlashCoreモジュールを混載可能で基幹システム向けの多様なストレージ機能を提供するIBM FlashSystem V9000、プライベートクラウドやVDIなど大規模仮想環境向けのIBM FlashSystem A9000/A9000R(FlashCoreモジュール搭載)、超高速ストレージのIBM FlashSystem 900(FlashCoreモジュール搭載)などがある。

 

SSDとFlashCoreを搭載可能
IBM FlashSystem 9100を投入

 

 そして昨年(2018年)7月には、IBM Storwise V7000FとIBM FlashSystem V9000の中間に位置づけられる、SSDとFlashCoreモジュールの両方を搭載可能なIBM FlashSystem 9100を発表し、ラインナップに加えた。

 IBM FlashSystem 9100は、IBMのストレージ製品として初めてNVMeに対応し、ミッドレンジ製品でありながら250万IOPS(1秒あたりのI/O数)を実現するとともに、2U(24ドライブ)の筐体に実効容量で379TBまで搭載可能な、高速・大容量のオール・フラッシュ製品である。また、ハードウェアによるデータの常時圧縮・常時暗号化(図表2)やメモリの劣化を低減する「非対称ウェア・レベリング」技術を採用してセキュリティと可用性を高めるとともに、フラッシュ・コピー(スナップショット)、遠隔コピー、Easy Tier(ストレージ階層管理)、マルチクラウド対応などの機能をベースライセンスで揃え、使いやすさを追求した製品でもある。さらに、4台までクラスタ接続できる拡張性も大きな特徴で、最大で1000万IOPS、1.5PBまでの拡張ができる。

 

 

 このように見ると、日本IBMのオール・フラッシュ製品が好調である理由は、エントリーからハイエンドまでの多様な品揃えと、先進技術を適用した製品の積極的な投入にあると言えそうである。

 

 

TB単価はSSDのほうが
HDDよりも安価な時代へ

 

 

 これに加えて、IBMストレージ・エバンジェリストの佐野正和氏(ハードウェア事業部)は、「フラッシュ・メモリのTBあたりの低価格化によって選択しやすい製品が揃ってきているのも大きく寄与しています」と、次のように説明する。

 

佐野 正和氏 日本IBM ハードウェア事業部 部長 ストレージ・エバンジェリスト

 

「フラッシュ製品は、ドライブあたりの価格で比較するとHDDよりも高く感じられますが、TB単位で比べるとHDDよりも安い製品が登場しています。たとえば、昨年(2018年10月)発表されたSSDとHDDの両方を搭載可能な IBM Storwise V7000 Gen3では、HDDのTB単価が定価約60万円なのに対してSSDは約40万円と低額です。しかも、フラッシュ製品は圧縮や重複排除が可能なので、それらを考慮するとさらにTB単価は下がります。この結果、ミッションクリティカルなシステムだけでなくバックアップなどの待機系にもフラッシュ製品が適用されるようになっています。もはやHDDを多数並べる構成は得策とは言えません」

 

 

高速HDDは不要
フラッシュ + 低速SATAが最適

 

 

 しかし、データの種類によっては高速かつ頻繁なアクセスが不要なものもあるだろう。そうしたデータもフラッシュ・ストレージに配置するほうが得策なのだろうか。

 これについて佐野氏は、「フラッシュ製品ですべてを構成できるのなら、スピードや管理面でそのほうがよく、フラッシュ/SSDを優先して考えるのはもう基本です。しかし、ストレージ・システム全体のコストを下げる必要があるのなら、フラッシュ製品とSATAディスクの構成にし、頻繁なアクセスが不要なデータは低速のSATAディスクに配置すべきです。従来のようなフラッシュ・高速HDD・低速HDDの3層構成は、パフォーマンスを含めて技術的なメリットを得にくく、フラッシュ製品のTB単価が下がってきた現在、コスト削減効果も薄いので、現実的ではなくなりました」と話す(図表3)

 

 

 また佐野氏は、外部から大量のWebアクセスがあるネット企業やMSP企業のようなシステムであれば、「フラッシュ製品や高速HDDも不要で、低速のSATAディスクを多数並べるほうがパフォーマンスが出る場合もあります」と付け加える。

 

 

アナリティクス用途なら
フラッシュ + テープストレージ

 

 一方、アナリティクス用途のためにデータを蓄積・保存する場合は、「フラッシュ製品とテープ・ストレージとを組み合わせるFLAPE(Flash+Tape)構成が最適です」と、佐野氏は述べる。

「テープへのデータ保管は旧式のストレージ形態と思われがちですが、想像以上に進化していて、大容量・低価格という特徴を残しつつ、SSD・HDD製品と同じドラッグ&ドロップの操作性やHDD製品を凌駕する転送速度を実現しています。最新のLTO-8データカートリッジは12TB、テープドライブのIBM TS1160は20TBもあり、ランニングコストとなる電気代もHDDより大幅に安く済みます。最近は、データを消去するよりも保管しておくほうが価値が生まれるとの考え方が浸透し、中型のIBM TS4300(192TB〜1.63PB)や大型のIBM TS4500(351PB)のテープ・ライブラリを導入し、フラッシュ製品との組み合わせで利用するケースが増えています(図表4)

 

 

SDS製品の拡充も進め
10種類以上をラインナップ

 

 日本IBMでは、Software Defined Storage(SDS)製品の拡充も進めている。すでに、ストレージ仮想化、バックアップ/リストア、ファイルストレージ、ストレージ・インフラ管理、メタデータ管理、コピー管理など10種類を超えるSDS製品があり(図表1・右)、これらとストレージ製品や汎用サーバーとの組み合わせにより、従来にないストレージ・システムの構築を容易に実現する環境を整えている。たとえば、オンプレミスのストレージ製品とクラウド上の汎用サーバーとをIBM Spectrum Virtualizeによって連携させるだけで、相互のデータ交換とストレージ管理が可能である。

 

 

ストレージの活用いかんで
企業力に大きな差

 

 

 佐野氏は、「企業のデータは必ず増加していくので、どの企業でもストレージに対する関心と需要をもち続けるでしょう」としながらも、「ストレージの活用いかんによって企業力に差が生まれる状況になりつつあります」と指摘する。

「今、Webサイトのレスポンスが遅ければ、アクセスしたユーザーはすぐに別サイトへと移動してしまいます。それがECサイトなら商機の損失にほかならず、企業にとっては痛手です。またデータの分析で対象データを迅速に読み込めないことも、ビジネスのロスにつながる恐れがあります。私のお客様でストレージをうまく活用されているユーザーは、経営者がストレージを競争力の手段と考え、IT担当者がデータ量や処理性能、セキュリティ、管理機能などを考慮して最適なストレージを選択している企業です。多種多様な製品が登場している現在はそうした選択が可能で、言い換えれば、漠然としたストレージ選択では競争力の向上は望めません。この傾向は今後ますます強まっていくと見ています」

[IS magazine No.22(2019年1月)掲載]

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