総力特集 東日本大震災|3.11後の災害リスクマネジメント

震災被害の特徴と今後の災害対策に必要となる視点  

東日本大震災がもたらした被害は広域かつ長期にわたり、その後の復旧を大きく遅らせている。この多面的で複合的、重層的な災害の教訓を、今後の災害対策・事業継続策にどのように生かしていくか。震災被害の特徴と今後への視点をまとめた。

 

 

 

被災地にとどまらない被害広域かつ長期化、
多面的・複合的・重層的という特徴

 3月11日14時46分、太平洋三陸沖を震源として発生したマグニチュード9.0という巨大地震は、北東北から関東までの広い地域でかつてない大規模な被害をもたらした。特に、想像を絶する津波は、沿岸部の社会インフラをなぎ倒し、とてつもない数の産業および企業と人々の生活を壊滅させた。しかし、この被害は被災地域だけにとどまらない。

 東京商工リサーチが2011年7月8日に発表した「震災関連の経営破綻件数」によると、東北地方で経営破綻した会社は44件。これに対して、それ以外の地域は185件と、圧倒的に被災地域以外が上回る。またその理由は、被災により破綻した「直接型」が22件、被災以外の「間接型」が207件で、実に9割が間接倒産なのである。

 以上のデータは、東北地方の多数の企業が東北以外の企業とサプライチェーンや取引関係で結ばれ、被災の影響を大なり小なり与えていることを推察させる。

 実際、自動車メーカーのサプライチェーンに属する中堅・中小の部品メーカーの被災によりサプライチェーンが途絶し、日本のみならず海外の部品メーカーにも深刻な影響を与えたことが新聞などで報じられている。むろん、こうした連鎖的な被害は業種・業態を問わず起きている。

 今回の大震災は、その被害が広範囲に及ぶことと長期にわたる点が、過去のどの災害と対比しても類例のない特徴である。今後の災害対策・事業継続策は、この震災の経験と教訓を踏まえて立案することが必要になる。
 以下、最初に今回の震災の特徴を見、次に災害対策・事業継続策を立案する際のポイントについて考えていこう。

 今回の震災被害が広域化・長期化したのは、地震と津波により電力・ガス・水道などの社会インフラが大打撃を受けたことが大きな要因になっている。特に、想定を超える長期の停電が、情報システムに甚大な影響を与えた。停電は、秋田・山形などの日本海側では翌日・翌々日に終息したが、太平洋側の沿岸部は4カ月経った7月末時点(2011年)でも継続中のところがある。Part2(被災ユーザーのその時・その後)でレポートした大船渡市農業協同組合や宮城県多賀城市のゼライスで電力が完全に復旧するのは、実に5月中旬のことである。

 

長期停電・電力不足、通信途絶
事業再開を大幅に遅らせる社会インフラの損壊・損傷

 この長期停電により、システムとネットワーク関連の機器が完全に作動しなくなった。

 サーバーを自社に置く企業はUPSを設置している場合が多いが、基幹サーバーでの利用が大半で、PCサーバーやネットワーク機器に接続させているところは少ない。しかもUPSは最大でも2日程度の電力供給能力しかないため(供給能力は機器による)、長期停電により自社に設置していたサーバーを稼働させることができなくなった。

 また、基幹サーバーをデータセンターに配備していた企業でも、PCサーバーを自社に置いていたため、基幹サーバーは稼働しているもののPCサーバーが作動せず、システムを継続運用できなくなったケースもある。

 また、自家発電装置を導入し停電に備えていた企業も、ガソリン・燃料不足という事態が起き、その調達が困難となってシステムの運用を断念したところもある。

 このガソリン・燃料の調達難を、システムの復旧を遅らせた要因に挙げる人も少なくない。ガソリンがないために被災拠点へ赴いて修復作業を行うことができない、別の施設へオフィス機能を移設しようとしたが燃料の調達が遅れ、移転そのものが遅れた、など。こうした声をさまざまな企業で耳にした。これに道路網の寸断や交通マヒが加わり、事態は深刻の度合いをいっそう深めた。

 停電によるネットワーク機器の停止や機器そのものの損傷により、通信やネットワークの停止に追い込まれた企業も多い。Part2(で登場する高速では、IP電話システムが停電により停止し、他の拠点や外部とのコミュニケーションが途絶した。

 ただし今回の震災では、通信とネットワークの停止は、通信キャリアの設備・施設の損壊による側面も大きい。通信キャリア3社の合計で固定回線が約200万回線、携帯・PHSの基地局は約3万6000局が機能停止・使用不能となった。特に沿岸部では復旧が進まず、大船渡市農業協同組合とゼライスで電話回線が使用可能になるのは6月中旬である。通信・ネットワークの途絶が、震災直後の応急対応とその後の事業再開に多大の影響を与えた。

 地震や津波によりオフィスそのものが使えなくなり、業務を継続できなくなった例も多い。サーバーやPCは損壊を逃れたもののオフィススペースが使用不能になったため、業務を続けられなくなったというケースである。被災を逃れた地域に拠点を持つ企業は、オフィス機能を移転し業務を早期に再開させることができたが、そうでない企業は仮設オフィスの設置まで業務の停止を余儀なくされた。

 また、代替オフィスへの移転にともなう電源・ネットワーク工事のための技術者や業者の確保も、今回のような広域かつ長期の災害では困難をきわめた。技術者や工事業者がインフラ系や公的な復旧作業に取られ、不足したからである。

 同様に、損傷を受けた機器やパーツの交換も、業者の在庫が早期に払底し、さらにロジスティックスの混乱が拍車をかけ、通常のようには進まなかった。

 以上見てきたように、今回の震災による被害は多面的で、かつ1つの被害が他の被害と密接に関連している点で複合的・重層的であった。こうした災害に対応し、システムを安定的に運用し事業を継続させるためには、これまでの視点とは異なる、新たな取り組みが必要になる。

 次からは、今後の災害対策・事業継続策に欠かせない視点について考えていこう。

 
原因基点から結果基点の事業継続策へ
残されたリソースを基に対策を講じる

 最初に、衝撃的なデータを紹介したい。帝国データバンクが6月27日に発表した「BCP(事業継続計画)についての企業の意識調査」の結果である(全国2万2240社にアンケートを実施。回答1万769社)。

 それによると、東日本大震災の前までに「BCPを策定していた」企業は7.8%。規模別でみると大企業が21.5%、中小企業は6.5%。衝撃的というのは、この導入率の低さである。

 日本においてBCPは、1995年の阪神・淡路大震災を機に注目され、西暦2000年問題と2001年の米同時多発テロ事件で導入の機運が高まった。2000年代には、経済産業省、総務省、中小企業庁がBCP策定のガイドラインを相次いでまとめ、金融や物流の業界団体でも独自にガイドラインを策定する動きが続いた。とはいえ、複数のコンサルティング会社が2000年代中盤に上場企業を対象に行った調査では、「BCPを策定済み」は10~20%程度にとどまっていた。それらと直近の帝国データバンク調査とを単純に比較することはできないが、BCPの導入は進んでいない、とは言うことができるだろう。そうした状況のところへ、今回の震災が来た。

 帝国データバンクの調査はもう1つ、興味深い傾向を明らかにしている。「東日本大震災を受けてBCPについて今後どのような対応をとるか」という設問に対し、最も多かったのは「分からない」55.8%、「新たに策定する(した)、見直す(した)」が25.9%、「策定する、見直す予定はない」が18.3%。これを、BCP策定済みと未策定の違いでみると、新規策定・見直し率は、未策定企業が37.1%であるのに対し、策定済み企業は68.2%とほぼ2倍近くに達するのである。つまり、BCPについて一定の意識を持ち取り組みを行っている企業ほど、今回の震災を受けてBCPの必要性を募らせているということだ。このことは今後、自社内において災害対策・事業継続策を見直していく際に留意すべき点となるだろう。自社のBCP意識をどう高いレベルに持っていくかがBCP策定・見直し成功の鍵になるからである。

 今回の震災被害は、広域かつ長期にわたり、多面的で複合的・重層的であった。こうした災害に対しては、これまでのような「震度7の地震が発生した」「大規模停電が起きた」といった単一事象を対象とする想定シナリオだけではカバーし切れない。今回のように、地震と津波によって長期の停電が広範囲に起き、通信・ネットワークが途絶し、移動や交通もままならないという複合的な事態になると、シナリオの応用が利かないからだ。

 

 

 本誌ではここで、「結果基点」による災害対策を紹介したい。この考え方自体は以前からあり、米同時多発テロ事件の後に急浮上したと言われる。この事件以前には、旅客機によるビル突入など誰も想定しなかったが、しかし現実的には発生した。そこで予期せぬ事態に対処し得る対策が求められるようになったのである。それが、結果起点による災害対策・事業継続策の考え方である。

 結果基点による災害対策は、さまざまな要因による複合的な被害を想定した結果、そこに残されている経営資源やシステム資源をベースに講じる対策である。

 今回の震災被害でも、さまざまな要因によりオフィスが使用不能になるケースが多発した。それに遭遇したデンコードーと高速は、入手し確保し得るヒト・モノ・カネ・情報・外部を動員し、眼の前の事象に臨機応変に対応してオフィス(機能)の移転に成功している。

 もとより、この取り組みに想定シナリオは用意されていなかったが、オフィス使用不能というこうした事態を想定し、そこにあるリソースを活用して対策を講じていくのが結果基点の災害対策である。もちろんこれはオフィスだけにとどまらず、その企業にとっての重要業務にかかわる重要事項が想定シナリオの対象となる。

 想定外の災害を想定し事前に対策を講じるのは、いくらリソースがあってもきりがない。しかし、何らかの災害が起きた時にそこにある(と想定される)経営資源やシステム資源を使い、重要業務の優先順位に基づき復旧と事業継続へ向けたシナリオを描くことは可能である。そのシナリオには、誰がどのような権限を持ち(委譲され)、どう動き、機器・装置をどこへ配備するかというプロシージャが織り込まれる。これが、今後の災害対策・事業継続策に必要となる視点である。

 また今後の対策では、社員および社外・取引先との通信・コミュニケーション手段の確保と、長期停電に備える電源・電力の確保、情報系データの保全、代替オフィスの用意などが、今回の震災の教訓として注目されるべきだろう。「1000年に一度と言われる大災害が、わずか16年の間に2度も起きた。今後起きない可能性はどこにもない。災害対策・事業継続策の見直しが急務の課題になる」とある被災企業のCIOは語っている。

 

図表 取材した10社の事前対策・被害状況・今後の対策

 

[i Magazine 2011年8月号掲載]

 


i Magazine 2011年8月号「特集 東日本大震災」

被災ユーザーのその時・その後  2020年11月後半公開予定

・株式会社デンコードー(宮城県名取市)
・株式会社高速(宮城県仙台市)
・東北電化工業株式会社(山形県山形市)
・古川エヌ・デー・ケー株式会社(宮城県大崎市)
・東北容器工業株式会社(青森県八戸市)
・第一貨物株式会社(山形県山形市)
・株式会社カネサ藤原屋(宮城県仙台市)
・ゼライス株式会社(宮城県多賀城市)
・大船渡市農業協同組合(岩手県大船渡市)
・高周波鋳造株式会社(青森県八戸市)

 

事業継続に備えるユーザー

・プジョー・シトロエン・ジャポン株式会社
・月星商事株式会社
・滝川株式会社

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2012年3月 特集 東日本大震災Ⅱ 

再訪・東日本大震災 被災ユーザー 2020年12月11日公開予定

・株式会社高速(宮城県仙台市)
基幹システムを二重化し「最悪」に備えた万全のBCP策定へ
〜BCPの強化が事業の成長につながる

・株式会社デンコードー(宮城県名取市)
適材適所のサーバー配置でBCPにもコストのメリハリが重要
〜真に継続すべき業務が見えてきた

ユーザー座談会 

3.11の前と後で
BCPへの考えはどう変わったか

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i Magazine 2012年11月号 別冊
わたしたちの3.11その後:経験を力に 

東北からの声 29社31人の証言 2021年1月11日公開予定

 

◎青森県弘前市
・弘果弘前中央青果株式会社株式会社

◎青森県八戸市
・高周波鋳造株式会社
・東北容器工業株式会社
・株式会社吉田産業
・株式会社吉田システム

◎秋田県秋田市
・株式会社アキタシステムマネジメント

◎秋田県横手市
・JUKI電子工業株式会社

◎岩手県盛岡市
・株式会社IBC岩手放送

◎山形県東根市
・山形カシオ株式会社

◎山形県天童市
・株式会社山形丸魚

◎山形県山形市
・東北電化工業株式会社
・第一貨物株式会社

◎宮城県大崎市
・古川エヌ・デー・ケー株式会社

◎宮城県多賀城市
・ゼライス株式会社

◎宮城県仙台市
・株式会社高速
・株式会社クロスキャット仙台支店
・データコム株式会社
・株式会社カネサ藤原屋
・東北電力株式会社
・東北インフォメーション・システムズ株式会社
・株式会社仙台水産
・株式会社オプトロム
・青葉化成株式会社
・生活協同組合連合会 コープ東北サンネット事業連合
・日本アバカス株式会社仙台営業所
・株式会社宮城県農協情報センター

◎宮城県名取市
・株式会社デンコードー
・製造業(匿名)

◎福島県郡山市
・福島コンピューターシステム株式会社

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