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2018-2019 エンジニアたちのプロフィール ~日常のなかでスキルを積み・磨き・広げる6人のエンジニア

ITの力によって物事を変革していくデジタルトランスフォーメーションの動きが勢いを増している。
その只中にあって、若い中堅のエンジニアたちは自らの仕事をどう捉え、
個性・強み・持ち味をどのように発揮し、
キャリアをマネジメントしようとしているか。6のエンジニアに話をうかがった。

社内外のコミュニティに参加し
スキルのレベルアップを図る

杉本 慎也氏
JBCC株式会社 
SI事業部  東日本第三SI本部 
第二SI部

 最初に登場いただくのは、JBCCの杉本慎也氏(SI事業部 東日本第三SI本部 第二SI部)である。2009年の入社以来、アプリケーション・エンジニアとして数々のプロジェクトに参加し、「アプリケーション開発者がスムーズに活動できるようにするための仕組み作りや支援」(杉本氏)を経験してきた。現在はシステム構成の検討や構築の担当である。

 杉本氏は2018年の1年間を通して、社内・社外のさまざまな技術者コミュニティに参加し、発言や発表を行ってきた。

「会社の仕事で得られることは非常に貴重だと常々思っていますが、しかしそれだけでは一人のエンジニアとして生きていくには限界があると感じ、積極的に社内・社外の集まりに参加しています。必要な新しいことは自分で見つけスキルを身に付けていく必要があるとの考えです。コミュニティで発表し発言することは、言い訳のできない状況に自分を置くことにもなり、個人としてより質の高いインプット/アウトプットをしていこうと意識しています」

 そうした技術者コミュニティのよさは、「エンジニアにとって必要な情報を利害に関係なく、メンバー間で共有できること」と、杉本氏は話す。

「多くのエンジニアが知りたいのは、なぜうまくいくかというきれいな説明ではなく、実際に手を動かしてみて失敗した話や課題解決のために苦労した経験です。肝心の話を幅広く聞けるのがコミュニティのよさであると実感しています」

 しかしその一方で、「実際に手を動かして未知の問題を解決できる本物のエンジニアは、それほど多くない」との感想ももつという。そして、杉本氏はその視線を自身にも向ける。

「現在の自分のスキルは業務アプリケーション中心です。しかし、そのスキルだけでは立ち向かえないテーマも多く、自分に不足するスキルや知識を自覚する毎日です。クラウドやAI、RPAを含め新しい技術・知識を吸収して柔軟にシステムを描けるようにならないといけない、という強い危機感があります」

 杉本氏は「エンジニアを育てていきたい」という夢を抱いている。

「イキのいい卓越したエンジニアが多ければ、競うようにエンジニア個々のスキルやマインドが上がっていき、会社全体の技術力も向上していくと思います。そうしたエンジニアが偶発的に誕生するのではなく、定常的に生まれる土壌を会社のなかに根づかせること。その実現に向けた知見を蓄えていくことが自分の課題であり、将来像でもあると考えています」

将来像は見えない
今は技術の幅を広げていく

杉田 想土氏
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
クラウド・アプリケーション
アドバイザリーITスペシャリスト

 杉田氏は2006年の入社以来、WebSphere Application Server(以下、WAS)のエキスパートとしてのキャリアを積んできた。2010年代前半には4年あまり客先の銀行に常駐していたこともある。この経験のなかで、「製品スペシャリストとしてのスキルや知見だけなく、周辺技術を修得し、守備範囲を広げていかなければいけない」との思いを深くしていったという。

「WASは製品自体が成熟化かつコモディディ化し、技術者としてのスペシャリティを求められる機会が限られてきたと感じていました。仕事のなかでリーチする技術もWAS本体と関連製品のごく限られた範囲で、自分のスキルや経験の狭さを痛感していました。また、クラウドが普及することで、インフラ寄りのエンジニアにもアプリケーション設計・開発に関連する幅広い技術が求められることを強く感じていました」

 2017年にコンテナ・Kubernetes(IBM Cloud Private)の担当となり、「今まで以上にITは面白いと思うようになりました」と語る。

「コンテナ・Kubernetesはクラウドや自分のPCに導入して、関心をもったことをすぐに試せるのが面白いところです。それを糸口にしてさまざまなオープンソースや最新技術の成果に直接触れられるので、興味が尽きません」

 杉田氏は2018年5月からQiitaへの投稿をひんぱんに行うようになった(ユーザー名:sotoiwa)。12月末までの7カ月間に40件以上の投稿。週1?2件のペースで、1件あたりの調査と執筆に5?6時間をかける。

「仕事で検証した内容や興味をもって調べたことを忘れないようにする目的です。Qiitaを見た人からの反応は多くありませんが、それでも“いいね”などのフィードバックをもらえるとうれしくもあり、IBM Cloud Privateを知っていただける機会にもなるので続けています」

 このほか、Kubernetes関連の技術者コミュニティに参加して知見を広げ、書籍やオンライン研修で興味のある技術を学んできた。2018年に取得した技術資格は、AWSの認定ソリューションアーキテクト -アソシエイトとKubernetesのCKAとCKAD の計3つ。着々と技術の幅を広げてきた。

 杉田氏は、「エンジニアとして今後何を軸に生きるべきか、確信はもてていません」と漏らす。「次々に登場する新しい技術をしっかりとキャッチアップしつつ、そのなかで伸びていくものを見定めて修得し、自分の強みにしていきたいと考えています」

 それでも、「最近、仕事に興味が向いてきて、趣味として仕事に関われるようになりました」と、話す。プライベートでも趣味を楽しむように仕事に関連することをやっている。「自分ではいい方向ではないか、と思っています」と、杉田氏は笑う。

IBM Z Db2の
スペシャリストの道を究める

大森 泰弘氏
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
ミドルウェア・テクノロジー  
シニアITスペシャリスト

 ISEの大森泰弘氏(ミドルウェアテクノロジー、アドバイザリーITスペシャリスト)は、前出の杉田氏とは対照的に製品スペシャリストとしての道を究めようと考えているエンジニアである。

 2001年の入社後、IBM ZのDb2の担当となり、以来一貫してテクニカルサポートとしての道を歩んできた。この過程では、2009年、2011年、2013年の都合3回、米国本社のLABへ渡り、3冊のIBM Redbookを共同執筆するという経験もした。

「最初の本(『DB2 9 for z/OS:Distributed
Functions』)はDb2の分散接続について解説したものですが、可用性、関連性、データ共用、セキュリティに関する重要なパートを3つも任され、非常に貴重な経験をしました。他のパートについては、日本での経験を執筆メンバーにフィードバックやレクチャーすることができ、一方で、各国のDb2のエキスパートたちの見方や考え方から得たことも多々ありました」

 IBM Zについて大森氏は、「既存のシステムを維持しつつ新しいテクノロジーの強みも取り入れられるのが最大の価値」と言い切る。

「オープン系システムでは新しいシステムを別システムとして構築するのが一般的ですが、IBM Zならば既存システムと新しいシステムを共存させることが可能です。その共存にこそ大きな価値があり、エンジニアとしてのチャレンジもそこにあります」

 しかし日本のメインフレーム・ユーザーは米国のメインフレーム・ユーザーと比較して手堅く物事を進めていく特徴があり、「ITがイノベーションの道具であることを十分に理解しつつも、既存システムの変更について慎重に検討される」(大森氏)傾向が強い。これに対して大森氏は、「だからこそ、お客様にご納得いただけるよう、いかに提案できるかにかかっていると考えています」と話す。

 大森氏のエンジニアとしての将来像は、「製品スペシャリストとしての道を究めること」である。「仕事でやっていることでも技術的興味は尽きません。Db2、そしてIBM Zという基盤を活かしてお客様にご提供できることは、まだまだあると感じています」

 製品スペシャリストとしてのスキルの維持・拡張法は、「実際に手を動かしてみること」。「これを常に心がけています」と言う。また、新しい開発言語や大学院時代の研究テーマであった画像解析関連の技術に手を伸ばすことも多い。

「新しい言語で何かを作りたいわけではなく、市場に登場しては消えていくポイントがどこにあるか、それを見極めることに興味をもっています」

 大森氏は昨年(2018年)、自身のPCの全データが使えなくなるというトラブルに見舞われた。バックアップしていたデータもうまく復旧できなかった。そのなかには、入社以来17年間継承してきたデータや自作のプログラムも数多く含まれていたという。

「当初は相当に落ち込みましたが、蓄積していたデータを調べ直すと意外な発見があったり、かつて作成したJavaプログラムをRで作り直してみると新しい発見があり、面白い経験をしました」と振り返る。

セキュリティ・エンジニアを育てる
それが自分の使命と感じる

西澤 匡泰氏
JBサービス株式会社
セキュリティ事業部
第一SOC サイバーセキュリティ グループリーダー

 

 JBサービスでサイバーセキュリティを担当する西澤匡泰氏(セキュリティ事業部 第一SOC サイバーセキュリティグループリーダー)は、ISEの大森氏とも異なるスペシャリストの道を進もうとしているエンジニアである。

 西澤氏の入社は2010年。当初はユーザー環境の保守を主業務とするサービスエンジニアとして活動していたが、2015年にSOC(セキュリティ・オペレーション・センター)の立ち上げに参加。以来、サイバーセキュリティの専門家としてのキャリアを刻んできた。

 現在の仕事は、セキュリティ監視チームをバックアップするエキスパート・チームのリーダーである。モニターを監視するセキュリティ監視チームの担当者が判断や対処に迷うインシデントがあると、それを引き継いで対処法を検討し、判断を下すのがチームの主な役割である。

 サイバーセキュリティに関する知識やスキルは、社外の勉強会やセキュリティ・コンテストに参加することで身に付けてきた。さらに業務とは別にプログラミングを自主的に学習してきた。

「プログラミング言語を学ぶのは、インシデントの調査をするときに攻撃者たちが使っている言語の知識が必要になるからです。以前はPython、現在はC#を勉強中で、調査を補助するツールを作っています。今はリーダーとしての仕事柄、勤務中にセキュリティの分析を行うのは時間的に難しいので、帰宅後の深夜や休日にマルウェア解析や脆弱性の検証をしています」

 しかし、サイバーセキュリティのスペシャリストとしての西澤氏が、いつも順風満帆であったわけではない。

「コミュニティに参加してくるエンジニアのなかには、10代からハッキングに親しんできた化け物のようなエキスパートがごろごろいます。私がサイバーセキュリティの担当に就いたのは20代半ばからですが、もっと若いときから関りたかった、と挫折感を味わうことも以前はありました。しかし、その挫折感があったおかげで、今は新しい展望が開けてきたように感じています」

 その展望とは、「将来、CISO(最高情報セキュリティ責任者)になること」と西澤氏は言う。

「サイバーセキュリティのスペシャリストと一口に言ってもさまざまな分野があります。1つの分野を極めるのではなく、いろいろな分野を理解し、手を動かせるセキュリティのゼネラリストになりたいと思っています。その最終的な将来像はCISOだと考えています。今はその方向でキャリアを進めていきたいと思っています」

 セキュリティ担当者の資質について西澤氏は、「セキュリティの仕事が面白いと思えるかどうか」と指摘する。

「セキュリティ担当者には確かに素養も必要ですが、それよりも面白いと思えるかどうかが重要です。セキュリティをやりたいと思っているエンジニアは、セキュリティのことになると本当に目を輝かせます。私の仕事はそういうエンジニアを集めて、彼らを伸ばしていくプログラムを作ることです。それが自分の使命だと、最近強く感じています」

化学反応が起きる環境と空気
それを作る役割を担いたい 

近田 依子氏
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
ワトソン・ソリューション  
シニアITスペシャリスト

 ISEでWatson ExplorerとWatson APIの技術支援を担当する近田依子氏(ワトソン・ソリューション、ITスペシャリスト)は、入社(2006年)してから13年間、「常に自分の成長を感じてきました」と話す。

「入社してからしばらくは、それまで経験したことのない案件ばかりだったので技術面のスキルが積まれていくのを自覚していました。最近はWatson関連の新しい技術の蓄積もありますが、それよりもコミュニケーション能力や対人的なスキルの向上を感じています」

 Watson関連の仕事では、技術の説明、支援のほかに、アプリケーション開発のプロジェクトに開発者として参加することも多い。そうしたなかで、Watsonに対するユーザーの期待の高さとともに、混乱を感じることも少なくないという。

「ITとは何か解決したいものがあり、それを解決する手段だと思いますが、Watsonを担当していると、Watsonをやりたいという一心でお声がけいただくことがあります。また仮に目標があったとしても、必ずしもWatsonでなくてもよい場合があり、Watsonが目的になっているのが見受けられます。お客様に、ご要望に適う最善の手法を選択していただけるよう、今、Watsonのポテンシャリティをきちんと説明していくことが必要だと思っています」

 一方、プロジェクトの一員として働くことについては、「尽きない関心と楽しさを覚えます」と語る。

「ISEではいつも違うメンバーとチームを組むので、1つとして同じプロジェクトはありません。そして人と人がチームとなることによって化学反応が起きることを、チームの一員として何度も経験してきました。そのダイナミズムはとても素晴らしく、楽しくて興味が尽きません」

 近田氏は今、「一緒に働いている人のいいところを引き出す、そういう役割を担いたい」と考えている。

「仕事はチーム作業が多く、チーム力を高めることこそ仕事の成果に直結することを、経験からたくさん学んできました。チーム力を高めるには、人のいいところを引き出し、メンバー間で共有することです。その人のいいところを引き出し化学反応が起きる環境と空気を作っていくことに強い関心をもっています」

 インタビューの最後に「趣味は濫読」という近田氏に、2018年に読んで印象に残った本を挙げてもらった。そのうちの1冊、山元賢治著『答を探さない覚悟』の感想は次のようなものだ。

「山元さんは第一線で活躍されたのち、今は次世代のリーダーを育成すべく情熱を燃やされていて、そういった生き方の姿勢も尊敬しています」

コミュニティ活動と情報発信のため
“セルフ働き方改革”を実践

白石 歩氏
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
IoTソリューション 
アドバイザリー ITスペシャリスト

 白石歩氏はISEへの入社(2009年)後、Db2の担当となり、その後データモデリングやアプリケーション開発の経験を経て、現在は分析系やディープラーニング関連の仕事に就いている。業務の80%はプロジェクトで、客先に出向いたり、分析系のアルゴリズムやアプリケーションを開発することも多い。

 その一方、業務の傍ら、技術者コミュニティのリーダーを務めたり、さまざまなコミュニティのステージに登壇し、講演やプレゼンテーションを行ってきた。

 2018年の成果として白石氏の口から真っ先に挙げられたのは、「セルフ・ブランディング」ということである。

「年初にはまったく意識していませんでしたが、コミュニティで講演したり、Slackで情報発信をしているうちに、次第に未知の人から声をかけられたり、連絡をもらうようになりました。今は、私が情報発信すると人が集まり、人が集まると情報が得られるという好循環ができていることを、身をもって実感しています」

 しかし、その情報発信のためには並々ならぬ努力をしているようだ。

「何らかの情報を発信するには、自分で勉強したり調べることが欠かせません。しかしそれを実践することで、得られるものの深さが違ってきます。とにかく、やれば効果があることはわかっているので、いつでも、まず行動を起こそうという気持ちでいます」

 また、コミュニティや情報発信のための時間を作り出すために、「意識して自分の働き方改革を実践し、効率よく仕事をすることに努めています」とも語る。

 白石氏がリーダーを務めているのは「Innovatty」という、外部の非エンジニアを含め、ISEが中心となって活動しているコミュニティである。イノベーションについての知見を高め、行動を起こすことを目的とするグループだ。

 昨年(2018年)、ITによる障害者支援のアイデアソンに運営側として参加し、大きな刺激を受けた。

「アイデアソンに参加してくれた障害者から支援を受ける側の本音が聞けたからですが、当事者の声を聞くという、ごく当たり前のことがとても新鮮に感じられ、刺激になりました」

 白石氏は今、「エンジニアとして世界にないものをゼロから作り出す」という目標を掲げている。

「イノベーションを起こすには、そのイノベーションのメリットを受ける当事者が必要ですが、それと同時に、一緒になって行動を起こすエンジニアも必要です。今自分は、人が動くよう場を盛り上げることはできるものの、人が自発的に創造的な活動をする環境を作り出すところまではスキルが追いついていません。いろいろと課題は多いと感じています」

[IS magazine No.22(2019年1月)掲載]