生成AIは、人間の仕事を「代替する」のか、それとも「支援する」のか――。
AIと雇用をめぐる議論では、これまでこの二者択一が大きなテーマになってきた。しかしOpenAIが2026年7月に公表した調査報告書「最前線で働く:AIが仕事でできることを広げる(Work at the Frontier:How AI is expanding what people do at work)」は、少し違った角度からAIと仕事の関係を捉えている。AIによって変わるのは、仕事の進め方だけではない。「誰が、その仕事をするのか」も変わる可能性があるというのだ。
OpenAIがChatGPTの業務利用を分析したところ、ユーザーは自分の本来の職種だけでなく、従来なら別の専門職が担当していた仕事にもAIを使っていることがわかった。
営業担当者が自分でデータを分析する。マーケティング担当者がWebサイトの不具合を調べ、修正のための簡単なスクリプトを書く。デザイナーが財務やマーケティングの仕事までを手がける――。生成AIによって、これまで企業の中に存在していた「職種の壁」が少しずつ低くなり始めている。
業務メッセージの16.8%が「職種の境界」を越えていた
今回の研究でOpenAIが着目したのが、「職業的境界」という考え方だ。営業、マーケティング、エンジニアリング、財務など、それぞれの職種には歴史的にその職種が担ってきた仕事がある。OpenAIは米国労働省の職業データベース「O*NET」を使って、その境界を設定した。
そしてChatGPTの仕事関連メッセージを、
•「汎用」――メール作成など、多くの職種に共通する仕事
•「職種内」――自分の職種に従来から結び付く仕事
•「職種横断」――本来は別の職種に結び付く仕事
の3種類に分類した。この分類は、ChatGPT Businessの登録者のうち米国ユーザーの職種情報と、その80万件超の業務関連メッセージを基に行われている。
結果は興味深い。仕事関連メッセージ全体の61.5%がメール作成などの「汎用」的な内容、21.8%が「職種内」で利用者の職種の従来から結び付く仕事の内容、そして16.8%が本来は別の職種に結び付く「職種横断」の内容だった。
つまり、ChatGPTを仕事に使う際、およそ6件に1件は従来なら「別の職種の仕事」と考えられてきたタスクだったことになる。さらにメール作成などの汎用業務を除外し、職種に特有のメッセージだけを見ると、43.5%が職種横断という割合になった。
これは、AIが既存業務を速く処理するためだけのツールではないことを示している。AIを手にした働き手が、自分の担当範囲そのものを広げ始めているのである。報告書は次のように述べている。
「本研究の結果は、AI による職業変化をより広い視野で捉える必要があることを示している。AI は既存のタスクの一部を自動化し、別のタスクでは働き手を補完するかもしれない。さらに、働き手がこなせるタスクの範囲を広げ、ある職種に結び付いていた仕事が別の職種へ移っていくことで、仕事の分担そのものを変える可能性もある」
カスタマーエクスペリエンスでは77%が「別職種」のタスクでChatGPTを利用
さらに興味深いのが、職種ごとの差である。
OpenAIは、
・カスタマーエクスペリエンス(顧客対応・カスタマーサポートなど)
・デザイン(プロダクトデザイナー、UI/UXデザイナーなど)
・エンジニアリング(システム部門など)
・財務
・人事
・法務
・マーケティング
・営業
という8つの職種グループを分析した。
汎用業務を除いた「職種特有」のChatGPT利用のうち、職種横断の割合が最も高かったのはカスタマーエクスペリエンスで77%。次いでデザインが75%、人事が69%だった。
ただし、この数字を「AIによって専門職が不要になる」と読むのは早計だ。むしろ重要なのは、職種によってAIを通じた仕事の広がり方が違うという点にある。
デザイナーは「仕事を取り込む」、エンジニアの仕事は「外へ広がる」
OpenAIはこの「越境」を、さらに2方向に分けて分析している。1つは、ある職種の人が他職種の仕事を取り込む方向。もう1つは、ある職種が従来担当してきた仕事が他職種へ広がっていく方向だ。
この違いが最も鮮明なのが、デザインとエンジニアリングである。デザイナーがChatGPTに送った仕事関連メッセージのうち、35.2%は別職種に結び付くタスクだった。8職種の中で最も高い。
ところが逆方向、つまり「デザインの仕事を他職種が行う」割合は1.7%にすぎない。デザイナーはAIを使ってマーケティングやエンジニアリングなどの仕事を自分の領域へ取り込んでいるが、デザインの仕事そのものは他職種へあまり流出していない、と言うことができる。
エンジニアリングでは逆の現象が起きている。エンジニア自身が別職種のタスクを行う割合は18.5%と8職種で最も低い。一方、エンジニアリングのタスクが他職種の仕事に現れる割合は7.4%に達する。つまり、エンジニアは比較的専門領域にとどまっているが、エンジニアの仕事は他の職種の人へ広がっている。
そして両方向で存在感が大きいのがマーケティングだ。マーケティング担当者のメッセージの24.3%が他職種のタスクである一方、マーケティングの仕事が他職種に現れる割合は8.9%。これは8職種で最も高い。
この違いから、「生成AI時代の職種を考える新しい視点が見えてくる」と、報告書は次のように指摘する。
「デザイナーはAIを使って複数分野の仕事を組み合わせる。エンジニアリング(システム部門など)のタスクは、他分野の働き手に取り入れられることが多い。マーケティングはその両方で、マーケター自身が職種横断の仕事をかなり担う一方、マーケティングのタスクも他の職種に広く現れる」
報告書は結論として、次のように述べている。
「AI と仕事を扱う研究の多くは、あらかじめ固定したタスクリストを用意し、モデルがどれをこなせるかを問うところから始まっていた。ところがOpenAIの調査・分析が示すのは、その「リスト」そのものが変わりつつあることを示している。人々は、従来その職業の枠外とされてきた仕事にもAI を持ち込み始めている」
「労働者が伝統的な職務範囲を超える活動でAI を繰り返し使うことが、職務内容の恒常的な変化につながるのかは、まだ答えの出ていない問いではある。もしそうなるなら、労働者には自分の専門領域外でのAI 支援作業を評価するための訓練が必要になり、組織側もレビューと説明責任のための明確な手続きを整える必要が出てくるだろう」
[i Magazine・IS magazine]










