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「まず調べて、手を動かす」 “1人情シス”から切り拓いた、新しいシステム担当者像 ~山口昌一氏 株式会社松沢書店 |IBM iの新リーダーたち ⓳

山口昌一氏
株式会社松沢書店
システム部 部長

半導体会社の設計者、楽器店勤務などを経て、2006年に松沢書店へ入社した山口昌一氏。
ITの知識がほとんどないまま、2013年に突然システム担当に指名された。その後、自らプログラミングを学び、インフラ技術も習得。技術者やコミュニティとの出会いを糧に、「まず調べて、手を動かしてみよう」という姿勢で新しい技術に積極的に挑み、システム基盤の改善やアプリケーションの刷新を進めてきた。山口氏の歩みを通して、新しいシステム担当者像を探る。

 

半導体設計から音楽の世界へ
そして松沢書店に入社

i Magazine 最初に経歴からお話いただけますか。

山口 私は高専を卒業後、半導体の会社に入り、ICソケットの設計に従事しました。とても忙しい会社で、明け方まで仕事をすることも少なくありませんでした。一方で、音楽関係の道に進みたいという思いもあり、23歳のときに退職しました。

それから26歳の時に楽器店に就職し、30歳になった2006年に当社へ入社しました。当時、リコーダーなどの教育楽器やギターの弦などの小物を扱う部署を立ち上げる動きがあり、その担当としての入社でした。以前に楽器店で副店長を務めていたことがあり、その経歴を買われたのかもしれません。

i Magazine 音楽はいつからやっていたのですか。

山口 中学からです。高専時代にのめり込み、バンド活動に明け暮れる毎日でした。私はギター担当で、ハードロック系のバンドをやっていました。その活動が就職によって途切れてしまったのですね。

i Magazine 入社されてからはどのような経歴ですか。

山口 入社後しばらくしてから、ネット販売も担当するようになりました。当時はシステムの右も左もわかりませんから、ベンダーの方に仕組みを作ってもらい、私はその調整役を担当していました。そして2013年、突然システム担当に指名されました。それから4、5年間は、かなり鬱屈した毎日だったと記憶しています。前任者から十分な引き継ぎがなく、ベンダーの方が話す専門用語もまったく理解できなかったからです。

4、5年ほど経った頃、「このままではいけない」と思い、自腹を切ってプログラミングの専門学校に通い始めました。

i Magazine 何を学んだのですか。

自腹でプログラミングを学び
ITの仕組みが見え始める

山口 JavaやWeb、スマホ・アプリのプログラミングです。1年間で全単元を履修すればよいコースでしたが、仕事を終えてから週1~2回、さらに日曜日にも通い、3カ月も経たずに修了しました。

この学びの過程で、それまでベンダーの方たちが話していたのはこういうことだったのかと、ものすごく腑に落ちる経験をしました。システムの仕組みというか、それまでブラックボックスだった中身を覗いたような気持ちになりました。

i Magazine それからどうしましたか。

山口 ITに俄然興味が出てきて、次はインフラについて学びたいと思いました。こちらについては会社に掛け合い、受講費用を負担してもらいました。

今度はLinuxやWindowsなどを使ったシステム基盤の構築や設定、運用などを学ぶコースで、Linux技術者認定資格のLPIC-2あたりまで学びました。これによって、また一歩、システムの仕組みの中を覗くことができたような気持ちになりましたね。

i Magazine 学んだことは、仕事にどう活かされていきましたか。

山口 1つは、当社のシステム全体が抱えている問題が見えるようになったことです。

当社は1968年の創業以来、さまざまなシステムを構築し、運用・保守を続けてきました。その結果は、一言で言えば「個別最適の集合体」です。必要な作り込みやシステム間の連携が十分になされていないため、非効率や無駄が目につき、安全性についてもいくつか課題がありました。そうした問題に気づけるようになったのです。

もう1つは、ベンダーの方々と以前よりスムーズに会話できるようになり、双方にとってよりよい関係を築けるようになったことです。その中で、まだ専門学校に通っていた頃ですが、私のシステム担当者としてのあり方を大きく変える出会いがありました。

技術者との出会いが変えた
システム担当者としての意識

i Magazine それはどういうものですか。

山口 2010年代の中頃、当社では基幹データの活用が大きなテーマになっていました。そして、その解決策を探る中で、オムニサイエンス(当時)のPHPQUERY(現在の開発・販売元はkozokaAI)を知り、それを推進していたエンジニアの方と出会ったのです。

その方は、PHPQUERYについてわからないことがあると、すぐに飛んできてくれました。そして「山口さんがやりたいことは、こういうことですか?」と言いながら、目の前でコードを書いて疑問を解いてくれるのです。

その経験はとても強烈で、ストレートに「すごい!」と思いました。技術によって問題を解決することの力、そして技術を学ぶことの本当の意味を教えられたように思います。

i Magazine “1人情シス”の時代は長く続いたのですか。

山口 システム担当になってから約10年間は、私1人で開発と運用をやり繰りしてきました。そして10年目に、開発経験のあるエンジニアが入社しました。私はその若い同僚からも大きな刺激を受けました。

i Magazine というと。

山口 2021年に、小売店向けの返品システムをスマホ・アプリで作ることになりました。そこで私は、それまでの慣行に従って専門会社に開発を依頼しようと考えていました。ところが、その同僚が「自分たちでも開発できるのではないか」と言うのです。

最終的に私と同僚が手分けして開発することになりましたが、このときの経験は私にとって非常に衝撃的でした。自分にできることの範囲を、無意識のうちに自ら狭めていたことに気づかされたからです。この私自身が設けていた根拠のないリミッターを外してもらったことは、とても大きかったと思います。それからです。「まず調べて、手を動かしてみよう」と考えるようになったのは。

i Magazine これまでの取材経験から言うと、山口さんは、ベンダー・ツールの使い分けや自社開発とツール活用のバランス、そしてベンダーとの付き合いがとてもうまくいっている印象です。

山口 それは、よい製品、よいサービスに出会えたからです。そして、ベンダーの優秀な担当者や技術の方々に出会えたことが、ものすごく大きいと思っています。それと、「IBM i Club」などのコミュニティのメンバーの方たちとのつながりです。それも私にとって、とても大きな存在です。

システム部は現在2名しかいません。それでもシステムを継続的に改善し、向上させていけているのは、そうしたベンダーやコミュニティの方々とのお付き合いとサポートのおかげだと痛感しています。

i Magazine 先ほどお話になった、会社のシステムの問題点はどのように解決したのですか。

山口 私が最初に問題だと思ったのは、Webアプリケーション・サーバーが林立しているにもかかわらず、1台も冗長化されていなかったことです。1台でも停止すれば業務に支障が出ることは明らかでした。しかし当時は、Webサーバーの構築をすべて協力会社にお願いしていたので、問題の解決にすぐには動けませんでした。

ちょうどその頃、Kubernetesが話題になっていたので、この技術を使って自分で問題を解決してみようと考えました。書籍で勉強し、ネットでも徹底的に調べて、何とか技術を身につけました。そして、既存のサーバーを1台ずつ、Kubernetesを適用した環境へ置き換えていきました。

基幹システム上のDb2 for iとWebアプリケーション・サーバーとの連携についても、以前に経験したWebアプリケーションとAPIとDb2 for iとの接続方法などを思い出しつつ、試行錯誤しながら進めていきました。

これは結果論ですが、ランサムウェアの被害を受けた際にも、WebサーバーをKubernetesで構築していたことが、サーバーの復旧に大きく役立ちました。

ランサムウェア被害で痛感した
セキュリティ対策の重要性

i Magazine 今年5月初旬にランサムウェア被害にあったわけですが、収束した現在、どのような気持ちですか。

山口 ランサムウェア被害を受けた背景には、私自身の認識の甘さがあったと思っています。まさか当社が被害にあうとは夢にも思っていなかったのです。被害に遭う前は、セキュリティの話を聞いても他人事で、対岸の火事としか考えていなかったと思います。

実際にランサムウェアの被害にあうと、精神面でも体力面でも想像以上に疲弊します。それだけではなく、会社の体力も疲弊するのです。

今、お会いする人ごとにお伝えしているのは、「セキュリティ対策には思うようにコストをかけられないこともあるでしょうから、せめてパスワード管理の徹底と、サイバー保険への加入だけはやっておいてください」ということです。それらは、それほど大きなコストをかけずに取り組める対策です。

i Magazine 企業におけるシステム部門はどうあるべきと考えていますか。

山口 各社それぞれの考えがあると思うので、あくまでも当社に限っての話ですが、1つは、自社での開発・運用とベンダー製品・サービスとのバランスだと思います。

当社のような小規模企業はIT予算に限りがあるので、どうしても自社開発・運用へ走りがちです。しかし、内製化に傾きすぎると属人化する危険がありますし、限られた人員の中でリソースをどう割り当てるかという問題も出てきます。

会社のミッションを遂行するためにITシステムやシステム部門があるのだと考え、自社で取り組むところと、ベンダーの製品やサービスを活用するところを見極めながら、バランスよく取り組んでいくことが大切だと考えています。

もう1つは、「知らない」ということの危険を理解しておくことだと思います。知らなかったために重大な事故や被害を招くことがないよう、日頃からアンテナを立て、外部とのコミュニケーションを絶やさず、システム部門として必要な情報に敏感であるべきだと考えています。

撮影:広路和夫

 

[i Magazine 2026 Autumn掲載]