ハイブリッドクラウドとAIを中核に位置づけ、IBM AIセンターが企業のデジタル変革を牽引する~山田 敦氏 IBM AIセンター長

山田 敦氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM AIセンター長
データサイエンティスト職リーダー
技術理事

 

AIの全社展開に必要なスピードと効率化
その2つの課題をどう解決するか

i Magazine(以下、i Mag) 今年6月に開催された「Think 2021」では、「IBM Hybrid Cloud & AI」の考え方が紹介されました。

山田 ハイブリッドクラウドとAIをデジタル変革の中核要素と位置づけ、オープンで一貫したアーキテクチャにより、お客様自身の変革、そして業界をまたがって顧客、パートナーの連携を可能にし、業界全体の再編成を促進していくことが強調されました。

また顧客接点、サプライチェーン、バックエンド業務など、今後は企業の全ビジネスプロセスにAIが組み込まれ、インテリジェント化していくことになりますが、そこではスピードと効率性がますます重要な観点となります。

この2つの方向性に沿ってデジタル変革を推進するために、IBMでは4層のアーキテクチャ(図表1)をご提供し、各層で製品やサービスを充実させています。

図表1 ハイブリッドクラウドとAIに向けた4層のアーキテクチャ

i Mag インフラからプラットフォーム、ソフトウェア、サービスの4層で構成されていますね。

山田 そうです。上から2層目の「ハイブリッドクラウド・ソフトウェア」では、「自動化」「予測」「モダナイズ」「セキュリティ」という4つの領域で、スピードと効率化に向けた多彩な道具立てをご用意しています(図表2)。

図表2 ハイブリッドクラウド・ソフトウェアの4つの領域

たとえば「予測」を見てみましょう。予測はいわばAIの中心地と呼ぶべき領域ですが、ここで考慮すべきは、データが巨大化する圧倒的なスピードです。データが爆発的に増加し、かつハイブリッドクラウドのような複雑な分散環境に散在している状況では、データをどこか決まった場所に動かしてから、分析などの処理を実行するのは難しくなります。

そこでデータを動かさずにその発生場所で分析・処理する「エッジAI」や「エッジ・アナリティクス」、それでいて、あたかも全データが手元にあるかのように予測モデルを構築する「Federated Learning」技術が重要となります。

i Mag 「予測」の領域では、OpenShiftベースのデータ分析基盤ソフトウェアである「IBM Cloud Pak for Data」も重要な役割を果たしていますね。

山田 そうです。IBM Cloud Pak for Dataでは、データがどこにあってもアクセス可能で、一元的に管理する「Intelligent Data Fabric」という新しいコンセプトを掲げ、4つの自動化機能を提供します(図表3)。

図表3 IBM Cloud Pak for Dataの新コンセプト

すなわち点在するデータソースを仮想的に統合してデータ準備を自動化する「AutoSQL」、データカタログ構築/更新を自動化する「AutoCatalog」、データのガバナンスを自動化する「AutoPrivacy」、そしてAIモデル開発を自動化する「AutoAI」の4つです。これらの自動化機能はデータ活用のスピードや効率性を飛躍的に高めることになります。

i Mag 「信頼できるAI」は、IBMのAI戦略を語るうえで重要なキーワードですか。

山田 そうなります。企業全体でAIを活用する場合、重要なのは「信頼できるAI」であるかどうかという点です。信頼できるAIを構築する時、「信頼できるモデル」「信頼できるデータ」「信頼できるプロセス」の3つの要素が重要です。AIモデルの精度やバイアスの可視化を実現する「IBM Watson OpenScale」をはじめ、「AutoCatalog」や「Au
toPrivacy」「AutoAI」などによって、モデル、データ、プロセスのすべての信頼性を担保していく仕組みをご用意しています。

i Mag 「自動化」「モダナイズ」「セキュリティ」も同様に、それぞれの狙いに沿って製品やサービスをラインナップしているのですか。

山田 そのとおりです。たとえば「自動化」は、業務のインテリジェント化を実現する自動化と併せて、IT運用業務の自動化も含みます。今後、システムが複雑化するのに伴い、IT業務も増大し、システム部門の負荷は深刻化していくでしょう。その負荷低減に向けて、IT運用業務の自動化を狙いとした製品やサービスを充実させていきます。

またスピードとアジリティ(機敏性)の実現に向けて、既存アプリケーションを柔軟に変化できるように改良していくことが「モダナイズ」であり、ハイブリッドクラウドの複雑な環境でも安全かつ安心してデータを活用できるように環境を整えるのが「セキュリティ」です。それぞれに製品やサービスをラインナップしています。

IBMのAI戦略を具現化する
IBM AIセンター

i Mag 2020年2月に発足したIBM AIセンターは、こうしたIBMのAI戦略を推進する中核的な存在ですか。

山田 そうなります。IBM AIセンターは「お客様をさらなるAI活用の未来に導く」ことをミッションに設立されました。日本IBM社内の人材を部門横断的に結集し、業界ナレッジ、技術、サービスを活用しながら、それぞれのお客様に適した「Journey to AI」(AI活用への道筋)を推進するのが狙いです。

これまでも部門ごとに、あるいはプロジェクトごとにAIへの取り組みは進んできました。しかし先ほどもお話ししたように、今後企業全体でAIを活用していくことになると、「信頼できるAI」やスピード、効率性など、今までとは異なるさまざまな課題が浮上してきます。そこでIBM AIセンターでは約150の製品やソリューションをご用意し、それらを組み合わせ、組み立てることで全社展開を目標とするJourney to AIをご支援します。

i Mag IBM AIセンターが発足した当時と今を比べると、どのような違いを感じますか。

山田 多くの企業が今、まさにデジタル変革へのスイッチを入れた状態にあります。2020年だけでもAI活用に関するご相談が100件以上寄せられるなど、様子見のフェーズが終わり、お客様の取り組みに本気度が感じられます。

今年からIBM AIセンターでは、「IBM Garage」の手法も積極的に活用しています。IBM Garageはデザインシンキングの手法を採用し、短サイクルかつ段階的にAI活用の具体化を実現していきます。

「経験とカンの世界」から「分析を元に意思決定する世界」へ変革するには、これまでは「データの壁」「分析の壁」「ROIの壁」「現場への定着の壁」の順番で、4つの壁を乗り越える必要がありました。しかしIBM Garageのワークショップに参加した現場ユーザーはプロジェクト推進の最大の擁護者となるので、「現場への定着の壁」を最初に攻略する有効なアプロ―チになります。

i Mag  IBM AIセンターで担当した成功事例を教えてください。

山田 ある製造業のお客さまでは、製造品質改善をテーマにしたAI構築からスタートし、データ基盤構築、さらにはデータ活用人材の育成に取り組み、約3年をかけて製造領域でのAI活用を成功させ、今は全社の業務領域への展開に取り組まれています。

データとAIを使って、モノづくりの生産性を飛躍的にレベルアップさせたいという経営者の意思を信じて、現場のリーダーたちが奮闘したことが、プロジェクトを成功に導いた大きな要因だと思います。私たちはこうした経営課題に直結した事例を、「骨太のユースケース」と呼んでいます。

i Mag 現場のリーダーをやる気にさせたことが勝因なのですね。

山田 そうですね。通常、失敗事例では現場のリーダーのような中間層、いわゆるミドルマネジメントが改革を「自分ごと」と捉えないことに起因するケースが圧倒的に多いです。DXやAIの観点から見た人材育成は経営層、中間層、実務者層とそれぞれに向けた教育が必要です。とくに業務をリードする中間層向けの教育では、改革を「自分ごと」と捉える意識改革が、また実務者層向けには、「問題を発見し、解決策をデザインする力」を育てることがポイントになります。現状では「問題を定義してくれれば、解決策を考えよう」という実務者は多いのですが、自ら問題を発見・定義し、その解決策をデザインし、企業にどういうインパクトを与えられるかを経営側に語れる人材は圧倒的に不足しています。この点を強く意識しながら、今後のAI人材育成を考える必要があると感じています。

2020年2月に発足したIBM AIセンターは、IBMのAI戦略を推進する中核的な存在である。日本IBM社内の人材を部門横断的に結集し、業界ナレッジ、技術、サービスを活用しながら、それぞれのユーザーが歩む「Journey to AI」(AI活用への道筋)を推進する。その部門を率いる山田 敦氏に、IBMのAI戦略、IBM AIセンターの役割、そしてデジタル変革を成功に導く秘訣を聞いた。

 


 

山田 敦氏

1995年、日本IBMに入社。東京基礎研究所にて、主に3次元形状処理の研究に貢献。2008年にコンサルティング部門に異動後、2009年に新設された「先進的アナリティクスと最適化」チームのリーダーを務める。併せてデータサイエンティストとして、製造業、流通業、保険業を始めとした多くの企業に対して、データとアナリティクスを活用した業務変革を支援。 2017年よりIBM技術理事。社内では、データサイエンティスト職のリーダーを務める。2019年より現職。IBM Academy of Technologyメンバー、工学博士。

 

[i Magazine 2021 Summer(2021年7月)掲載]

 

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