東映アニメーション株式会社

再構築の狙い

東映アニメーションはシステム/38時代からのAS/400、iSeriesユーザーであったが、2005年1月、それまで運用してきた基幹業務システムをERPパッケージである「mySAPERP」(SAPジャパン)で再構築した。狙いはアニメ事業の国際展開に伴い、多通貨・多言語処理および国際会計基準に対応すること。管理会計を実施すること。そして、作品のライフサイクル全般にわたり、版権管理・収益管理を支援するための新システムを構築することにあった。

導入したシステム

導入したのは、mySAPERPのモジュール群の中から「SD(販売管理)」「F(I財務会計)」「CO(管理会計)」「PS(プロジェクト管理)」の4つ。財務会計・管理会計については、モジュールの備える機能をほぼそのまま使用して実現。一方の版権管理システムについては、SD(販売管理)のアドインシステムとして、SAPの開発言語であるABAPを使用して開発した。もっとも版権管理システムは、バックグラウンドでSDのデータベースと連携させるものの、アドインというよりは全面的な新規開発システムに近いものであった。

導入スケジュールとプロジェクト規模

2004年2月にキックオフ。2005年1月に本稼働(詳細は図表1)。プロジェクトは各部門から24名、システム部門から3名、ERP導入のパートナーであるSIベンダーおよび協力会社から13名+開発メンバーで総勢50名。

システム選定の理由

再構築の柱の1つとなる会計システムは当時、iSeries上で多通貨・多言語処理をサポートする財務会計/管理会計システムが、mySAPERPのみであったためこれに着目した。版権管理は、mySAPERPのモジュールの1つとして著作権管理を支援する「IPM」が提供されていたが、iSeriesに対応していなかったため断念。アドインという新規開発手法を選ばざるを得なかった。もっともERPの導入パートナーであるSIベンダーからは、「SAPはiSeriesでの導入実績が少ない」ことや、このベンダー自身もiSeriesでの開発経験に乏しかったことなどを理由に、Windowsサーバーでの導入を強力に推奨した。しかし同社ではiSeriesの運用経験が長く、信頼性に優れることを熟知していたため、「ただでさえ、基幹システムの再構築という大仕事に加え、不安定なサーバーの運用管理まで担うのでは対応できない」と、情報システム室は強く抵抗。

iSeriesとWindowsのダウンタイム率の違いに、システム復旧に要する人件費や日常的な運用管理費を加味した5年間の導入・運用管理コストを試算し、経営側に提案することで最終的にiSeriesの導入が決定した。

プロジェクトの難所

プロジェクトの中心メンバーであった情報システム室の平川賀子氏は、版権管理システムの詳細設計に入った2004年8月頃から次第に、開発中のシステムに不安を感じるようになった。SIベンダーから提示される業務フローや詳細な機能要件が明らかになるにつれて、考え方の違いが表面化し始めたのだ。

平川 賀子 氏 情報システム室
平川 賀子 氏
情報システム室

「このままでは入力が煩雑すぎて、実務者に受け入れられない」「この機能では業務を十分にサポートできない」と感じた平川氏は、SIベンダー側と議論をら説明しても一致点を見出せない日々を重ねるが、理解は得られず紛糾。いくら説明しても一致点を見出せない日々が続く。その間にも、開発は並行して進んでいく。「データベース構造に問題がある」という決定的な要因に行き着く頃には、既に後戻りできない地点にまで開発は進行していた。苦悩する平川氏に対し、「もし開発をやり直せば、本稼働の時期を遅らせることになるし、コストも予定より増額する」と、SIベンダー側は通告。上司とも相談した結果、小規模なプログラム変更や運用で機能をカバーすることを前提に、このまま開発を進め、目標どおりの本稼働を目指すことになった。

しかし、完成した版権管理システムのオペレーション面においては、平川氏の危惧したとおり、当初の効率化要件を十分に果たさない「使いにくいシステム」となっていた。

プロジェクトを振り返って、今

「このプロジェクトは失敗だったのか」本稼働から半年ほどの間、悩み抜いた平川氏であったが、今はプロジェクトを振り返って、次のように語る。「あの時点で、本稼働を遅らせて開発をやり直す選択をしたとしても、10~15%ぐらいは前進したでしょうが、100%のシステムとして再設計することは難しかったでしょう。ベンダー側に要件を十分に伝え切れなかった点が大きな反省点です。しかし『形あるシステム』として稼働したことで、経営サイドからは、作品を軸にした新たな収益管理システムとして高く評価されました。今回のプロジェクトを分析すると、いくつかの要因が見えてきます。まず過去に運用経験のない、全社で一元化した版権管理システムを開発するには、10カ月という期間は短すぎました」。版権は販売許諾ごとに管理方法が多様であり、今までも各部門がAccessやExcelなどを使い、それぞれの管理方式に合ったシステムを個別開発していた。

「それを一元化するわけですから、もっと時間をかけて各部門と要件を検討し、それを正確にベンダーへ伝える努力をすべきだったかもしれません。できれば第1次として販売・会計システムを稼働させ、ERPを十分に理解したうえで、第2次として版権管理を実現すべきだったかもしれません」コンテンツを利用する媒体の増加とともに版権管理方法は、日々刻々と変化する。プロジェクトには部門担当者が参加し、各部門にヒアリングを実施したが「、今までの使い勝手が変わる」「余分な入力が増える」というユーザー側の不満も垣間見えるため、そうした感情に配慮しながら、要件を聞き出すのが精一杯。“要件の本質”を見抜き、全体最適として各部門の合意を得るのは困難であった。

「存在しないものをイメージするのは難しい。“形あるシステム”として使って初めて、本当に必要な機能が分かり、当初求めていた機能は不要であることが理解できるのだと思います。だから100点ではなかったとしても、まずは“形あるシステム”を完成させ、確実に意見や要望を集め、それらをバージョンアップに反映させることが重要です。本稼働後に、mySAPERPに詳しい技術者を2名採用できました。彼らには当社の業務をさらに理解してもらい、技術者の顔だけでなく、運用スキルも持ち合わせたスペシャリストになってほしいと思っています。今回のプロジェクトを糧に、次期バージョンアップではユーザーの要望をより高く反映、真の情報を捉えていくことで、経営に価値を生むシステムへの第1歩を踏み出せたものと考えています」

注1標準機能のヒアリング、フィット&ギャップ、会計システムのカスタマイズなど
注2会計システムの運用周り決定、版権管理システムの詳細設計など

 

COMPANY PROFILE

•設立:1948年
•本社:東京都練馬区
•資本金:28億6700万円
•売上高:201億5300万円(連結)194億1700万円(単体)
•従業員数:505名(連結)290名(単体)
•事業内容:アニメーションの製作、各種メディアへの販売および版権事業、関連事業
•http://toei-anim.co.jp/