事例|株式会社高速

震災後のBCP 強化内容

基幹システムとオンラインサブシステムが稼働するPower 720はデータセンターと自社流通センターで二重化
管理系システムが稼働するWindowsサーバーはバックアップディスクを二重化
売上高1000 億円を目指すシステム基盤の強化とBCP対策を同時に実現

BCPの強化は
事業の成長を後押しする

東日本大震災からほぼ1 年。あの日と同じように、小雪が舞い散る仙台の高速本社で、高橋友一氏(経営企画本部システム部 次長)と山下博之氏(同部 顧問)に再会 した。

前回の取材は、震災からほぼ2カ月半が経過した頃。 直後の混乱は落ち着いていたものの、甚大な災害の余波は大きく、2人は今後のBCP の見直しに向けて検討していく課題が多いと語っていた。復興・復旧に向けた、そしてBCPの強化に取り組んだこの1 年で、同社はどのような結論を見出したのであろうか。

サーバールームは結局、本社に戻ることなく、今も流通センターの一角にある。センターの建設前に実施した地盤調査の通り、この地域は地盤が強固で、震度6強の揺れにも建屋や内部はほとんど被害を受けなかった。そのため、電源と空調の拡張工事を実施した上で、サーバールームの恒久設置を決めたのである

同社は2009年、経営主導でSystem iのデータセンター移設を決定している。相応のコストをかけて、データセンターの移設を含めた災害対策を実施したのは、宮城県沖地震への懸念があったからだ。しかし「内心密かに、そこまでやる必要があるのだろうかと思っていた」と語る高橋氏は、さらにこのように続ける。

「 今回の経験で、その考えは吹き飛びました。当社の事業は食品包装資材の販売であり、命をつなぐ食のサプライチェーンの一角を担っています。有事であってもその供給を途絶えさせないためには、受発注・在庫・ 出荷を支えるシステムの稼働が不可欠であり、それはハードウェアやソフトウェア、そしてアウトソーシング先やパートナーとの連携など人的側面を含めたシステム周辺のすべてを指します。その意味で、当社のBCPはまだ十分ではないと言わざるを得ません。相応の予算をかけても災害対策レベルをさらに高め、BCPを万全に整えることが、今は事業の成長にもつながると考えています」

取材に応じる高橋氏の手には、昨年12 月、経営トップに対してシステム基盤の強化を提案した際の説明資料が握られている。そこには災害対策レベルの強化に加えて、創立50周年を迎える2016 年に売上高1000億円を目指すべく、必要なシステム基盤の要件が以下のように記述されている。

(1)本番機が万一停止してもバックアップ機を稼働させ、取引先からのオンライン受注を停止させない仕組みの構築
(2)次世代EDI である流通BMSにいち早く対応し、取引先からの要求にいつでも対応可能な環境の確立
(3) 売上高1000 億円に向けて営業所や売上処理明細が増えても、処理が遅延しない仕組みの実現
(4) 管理系サーバーを仮想化技術で統合し、売上高1000億円に対応可能な管理系システムの構築

高橋 友一 氏 経営企画本部 システム部 次長
高橋 友一 氏
経営企画本部 システム部 次長

データセンターの
大連移設を検討

現在のSystem iは導入から7年が経過し、処理能力低下が目立ち始めていたため、売上高1000億円を支援するIT環境の整備に向けて、まず基幹サーバーは Power 720へリプレースすることを提案した。

またBCPの強化という面では、データセンターのロケーション再考と、基幹系システムおよび管理系システムの二重化対策が主眼となった。中でもデータセンター のロケーション変更については、震災による被害が落ち着き始めた5月頃からリサーチを始め、真剣に検討したという。

同社が利用するデータセンターは、東京都の臨海部に位置する。今回の地震では一切被害はなく、基幹サー バーは支障なく稼働を続けた。

しかし首都直下型地震や東海・南海・東南海の連動型地震などの発生確率が高まったとの指摘がある現在、地震や津波、液状化の被害から現在のデータセンターが無傷でいる保証はない。原発からの距離を含め、まずロケーションそのものを見直すべきではないか。そう考えた山下氏は、次のように語る。

「震度や津波の高さ、火災の発生など細かい被害想定を積み上げて災害対策を考えても全く意味がないことを、今回の震災は教えてくれました。私たちは宮城県沖地震 を想定していましたが、地震の規模も津波も原発も停電 も、全く想定を超えたものでした。だからBCPの策定については、『最悪』を想定する。つまりどういった理由 であれ、現在のデータセンターが被災し、サーバーや ネットワーク、電力が全て停止するという想定からBCPを描き直しました」

高橋氏と山下氏はまず、臨海部にある現在のデータセンターを、東京都の内陸部(西東京)および関西(大阪)、 そして海外へ移設する3 つの案を検討した。海外の候補 地は大連である。

日本国内であれば、どこであっても活断層を避けられない。つまり、西東京であれ大阪であれ大地震発生のリスクを回避できない。

しかし大連は有史以来、地震の記録がない。約6000社の日系企業や日欧米のIDCが進出し、電気・通信などのITインフラが充実している。それに、大連に拠点を置くJBCC の現地法人(JBCN)やIBM のサポートも受けられる。

山下氏がかつてこの地でのビジネス経験があったことも加わり、大連は一時、データセンター移設の有力な候補地として社内で検討されたという。

しかし結論から言うと、大連への移設は見送られることになった。理由は、移設・運用コストと仙台本社からの距離である。

大連は何かトラブルが発生した時に、簡単に足を運べる距離ではない。それにハウジングコストや人件費は確かに安いが、中国の増値税(付加価値税、日本の消費税 に相当する)は17%で、ハードウェア購入コストが日本よりも高額になる。

また仙台・大連を接続する国際回線の料金も、国内にデータセンターがある場合よりかなり高くなることが判 明した。

「こうしたコストを試算した結果、大連のデータセン ターへ移設した場合と、今のデータセンターで本番機の運用を続けるとともに、仙台へバックアップ機を設置する二重化体制を構築した場合を比べると、それほど大きなコスト差にはならないことが判明しました」(山下氏)

そこで本番機をPower 720 へリプレースするととも に、バックアップ機として同等の処理能力を備えた Power 720をもう1 台導入し、泉区の流通センターへ設置することを決定。HAソリューションとして「MIMIX Availability 7」(JBCC)を利用した二重化体制が、今年 8月からスタートすることになった。

山下 博之 氏 経営企画本部システム部 顧問
山下 博之 氏
経営企画本部システム部 顧問

 

管理系のWindowsサーバー
二重化に多くの壁

システム部がBCPとしてもう1 つ重視したのは、管理系サーバーの二重化である。 「IBM iの二重化仕様が比較的スムーズに決定したのに対し、Windows環境の二重化の方は相当に頭を悩ませ ました」と、高橋氏は振り返る。

OSからDB、ミドルウェアまでオールインワンで統合されたIBM iを二重化するのと違って、Windowsの場合はHAソリューションが機能的に十分ではなく、全データを一元的にバックアップできないのに加え、ミドルウェア個別の対応が必要となる。また二重化に際してはソフトウェアの保守料金が割高で、場合によっ てはライセンスの二重購入が必要になる。

「下手すると、IBM iを二重化するよりも高額になりかねず、あらためてIBM iが備える統合性・運用性の優秀さを再確認した次第です。結局、Windowsは二重化を断念し、バックアップ用ディスク装置を二重化して安全性を高めることになりました」(山下氏)

同社が採用したのは、「AI Container」(JBCC)である。これはバックアップ専用のディスク装置で、データセンターに移設予定の管理系Windowsサーバー(ブレー ドサーバー)の本番機に1 台を接続してデータをバックアップ。もう1 台を流通センターに設置して、回線経由で二重化する仕組みである。

「AI Containerはバックアップ用のPCサーバーが不要なので、サーバーの数が増えない点も評価しました。サーバー数が増えれば、それだけリスクが増大すると認識しています」(山下氏)

この仕組みも今年8 月にスタートする予定である。こうした対策により、基幹系システムでは災害発生時の復旧時間(RTO)が2時間、管理系では24時間をクリアできることになるという。

ちなみに停電の復旧が遅れたケースを想定して、直後は自家発電機の導入も検討した。しかし実際に導入すると、定期的な稼働や燃料の入れ替えなど日常的なメンテナンス作業が煩雑で、同社の人員体制では維持が難しいと判断した。

そこでベンダーと非常時のレンタル契約を結び、停電後は3 時間程度で、流通センターに自家発電機を運び込める目途がつけられたため、自社での購入は見送ったという。

同社では今夏に向けて、本番機からバックアップ機への切り替えに関する意思決定や伝達の仕組み、作業担当者の割り当てや実作業のステップ化・マニュアル化など、人的運用面の整備を進めていく。

甚大な災害を経験した同社は、BCPの強化が事業拡大と同義であるとの認識を新たにし、システム基盤の強化に向けて着実に進んでいくことになるだろう。img_56fd5fd822c33

● 震災発生時の状況

仙台市宮城野区に本社がある高速は、東日本大震災で震度6 強の揺れに襲われた。同社の基幹システムが稼働するSystem i(9406-520)は日本ビジネスコンピューター(以下、JBCC)のデータセンターに設置してあり無事だったが、会計・人事・給与の管理系サーバーやノーツ/ドミノなどの情報系サーバー、そしてIP電話システムは本社にあり、震災直後からの停電で全サーバーが機能を停止した。

本社社屋内は物が散乱して足の踏み場もなく、サーバーの停止もあって業務再開は困難と判断。翌日には被害が少なかった同市泉区の流通センターに本部機能の移設を決定した。ノーツサーバーやファイルサーバーなど5 台のPCサーバー、5 台のブレードで管理系システムを搭載するBladeCenter、約30 台のクライアントPC、IP電話システム、LAN ケーブルやスイッチ類を流通センターに運び入れたのである。

流通センター側では、ガソリン不足とコミュニケーション網の途絶により、人員の手配や輸送手段の確保が困難を極める中、ブレードサーバー稼働に必要な電源工事(100Vから200V へ)や、IP電話の移設工事、ネットワーク回線の帯域増強(3Mから10M)などの作業を進め、3月16 日、無事に本部業務を再開した。震災発生から5 日めのことである。

COMPANY PROFILE

本  社:宮城県仙台市
設  立:1966年
資本金:16億9045万円(2011年3月)
売上高:589億5293万円(連結、同上)
従業員数:730名(連結、同上)
業務内容:食品軽包装資材や包装機械・設備の販売
http://www.kohsoku.com/