株式会社ミクニ

3.11後のBCP強化内容

・衛星回線の利用で断線リスクに備えた有事のネットワークを確保
・サーバーの二重化やクラウドサービスで安全性を向上
・処理分散を含めたグローバルな視野でIT環境の設計に注力

3.11前のBCP
自家発電装置を備えた
堅牢な自社データセンターを建設

ミクニの主力製品は自動車部品である。特定の自動車メーカーに属さない独立系のメーカーとして、キャブレターを中心に事業を展開してきた。創業当初から「キャブレターのミクニ」と呼ばれた同社も、現在は多種多様な製品を供給する総合自動車部品メーカーに成長した。また最近では、福祉や健康分野にも力を入れている。

東京都千代田区に本社、小田原事業所に総合研究開発拠点、静岡県菊川市に二輪・四輪の主力工場を置くほか、岩手県盛岡市周辺に3工場を擁する。さらに中国、タイ、インド、インドネシアなどに広く生産拠点を展開する。

同社はSystem i上で、ERPソリューションである「JDEdwards EnterpriseOne」(オラクル)を利用し、販売管理・生産管理システムなどを運用している。System iをはじめ、メールサーバーやファイルサーバーを含めた一連のサーバー群は、小田原事業所の一角に建てられたデータセンターに設置している。

同じ敷地内にガソリンスタンドと自家発電装置を併設するこのデータセンターは、同社の情報システムを守る要塞とも言える存在である。

小田原市は近くを関東大震災の震源地となった相模トラフが伸び、東海地震の震源域にも近い。また市内には、神縄・松田−国府津活断層も走っており、直下型の神奈川県西部地震の発生が懸念されている。

「 データセンターが竣工したのは2006年です。それまでは同じ小田原事業所内の建屋にサーバールームがありましたが、地震を想定し堅牢な設備への設置が不可欠と考えました。外部のデータセンターにハウジングすることを考えたものの、当時は今より利用コストが高額で、全サーバーを移設した場合を考えると、小田原事業所の敷地を有効活用した方がランニングコストを下げられると判断しました」と語るのは、情報システムセンターの山岸秀一センター長(経営企画・管理本部)である。

同センターの建設に際しては、徹底した地盤調査を実施した。小田原事業所は相模湾から内陸に5kmほど入った丘陵地にあり、海抜も67mと高い。津波や液状化の心 配がない上、地盤も強固であり、立地条件は何ら問題がないと診断された。

約8万5000㎡の広大なスペースを擁する小田原事業所の敷地内で、土手崩壊の影響を受けず、障害物を避けて地中に通信路を確保でき、さらに自家発電装置に近く、ガソリンスタンドからは十分に距離のある場所を選んで、震度7の揺れにも耐えられる約80㎡のデータセンター棟が建設された。停電時には併設する自家発電装置 からデータセンターへ自動的に電力を供給する。ガソリンスタンドの燃料備蓄量から考えると、優に月単位の電力供給が可能である。

山岸 秀一 氏 経営企画・管理本部 情報システムセンター センター長
山岸 秀一 氏
経営企画・管理本部
情報システムセンター センター長

 

3.11後のBCP
衛星回線を利用して
有事のネットワーク対策を実現

「災害発生時は電気と通信を守り、客先への確実な製品供給を維持する」

この事業継続の考え方に沿って、同社ではデータセンターとその付帯設備、電源供給体制、要員体制、通信ネットワークの強化に万全を期してきた。

要員体制について言えば、センター要員の80%は小田 原市内および近郊の足柄上郡に居住し、都心と違って、現在予測されている地震発生時の初動およぶ継続稼働 対応は問題なく実行できると考えている(ただし直下型地震の発生で被害が甚大な場合を想定し、現在静岡からの要員支援計画を策定している)。

またネットワーク環境の冗長化にも取り組んできた。しかし3.11後、そのネットワークに関して災害発生時のリスクが指摘されるようになった。

図表1のように、同社では今まで2系統の通信キャリアでインターネット回線を二重化し、また中国の各拠点は国際IP-VPN回線を採用していた。

このように国内では回線と基地局を2系統に分けてきたわけだが、物理的にはどちらも同じエリアに有線で敷設されている以上、断線のリスクは避けられない。

とくに、「ラストワンマイル」と呼ばれる同社と基地局を結ぶ接続経路で、例えば電柱などに被害が生じて断線した場合、他拠点からはアクセス不能になる。阪神淡路 大震災で震度7の揺れが襲った地域では、建物の被災や火災を含め、電柱の被害率は6.7%であったと報告されていることも懸念材料となった。

そこでそうしたリスクを回避するネットワークの強化策を、3.11後にすぐさま検討し始めた。選択肢は衛星回線もしくは地上波無線系、つまり携帯型Wi-Fiルータな どを利用したモバイル回線の2つである。両者にはそれぞれ一長一短がある。

衛星回線はネットワーク間を接続するとなるとランニングコストが高額になるほか、回線速度に制約があり、 画面の応答速度が劣る。

一方、モバイル回線は安価で、比較的高速な回線速度を確保できるが、基地局が被災した場合は利用不能となり、バッテリーが切れたら使用できなくなる脆弱さがある。

同社は検討を重ねた末、衛星回線の採用を決めた。拠点ごとに2 〜3台のクライアントPCを特定し、衛星モデムを搭載させ、有事には最低限のアクセス環境を確保す る(図表2)。

データセンターの屋上に衛星アンテナを設置し、2012年5月から利用をスタートさせる。各拠点に配布している衛星携帯電話と同じような運用方法で、災害発生時は 各拠点のPCがインターネットにアクセスし、小田原事業所の衛星インターネット経由でSS-VPNを利用することになる。

同社では日常的にテレビ会議を活用しているが、小田原事業所のネットワークが利用不能になっても、それ以外の拠点間ではテレビ会議システムの利用が可能である。

ちなみに3.11の際は、盛岡事業所が建屋や生産設備に 被害を受け、停電と電話の不通で連絡が途絶した。盛岡事業所ではすぐに自家発電装置を稼働させるとともに、 本社・小田原・菊川・盛岡間でテレビ会議を行い、初動 の情報確認に大きな成果を上げた。これが社内で高く評価されたという。

また3.11以降の計画停電で、実際に小田原事業所も数回の停電を経験したが、自家発電装置の稼働でデータセンターは全く影響を受けなかった。

 

 

 

今後目指すべきBCP
グローバルな視点での
リスク対策を考える

同社では2010年度から防災復旧対策分科会・巨大地 震対策小委員会を発足させ、さまざまな角度でBCPの策定に取り組んできた。3.11以降は、大震災の発生地域を 個別に想定した全社一斉の防災訓練を実施。今年3月には、東海地震を想定し、小田原や静岡の事業所で業務が停止した場合、東京本社やそのほかの拠点がどう支援 するかを想定した訓練が実施されている。

今後は首都直下地震で東京本社が被災した場合を想定し、本社業務の移転を含めた行動訓練とマニュアル化も実施していく計画。同社では、データセンターと付帯 設備、電源供給体制および人員体制、事業所外と通信が途絶するリスクに対しては衛星通信での対処により、災害発生時もシステム稼働を維持できると考えている。 「しかし基幹をはじめ重要な業務システムの信頼性を高 めるには、やはりサーバーを二重化していくことが必要だと考えています。今後段階的に、データ保全とサー バーの二重化に取り組んでいく計画です」(山岸氏)

ファイルサーバーについては、他拠点にバックアップサーバーを設置する方向で、またメールサーバーについては、クラウドサービスの利用を検討していくという。

さらに最も重要なSystem iの基幹システムについても慎重に検討を重ねている。同社はERPソリューションを運用していることもあり、早急に二重化するとなると、ライセンス費用も含めてコスト面が課題となる。

そこで当面は、データのみを遠隔地でバックアップするサービスを利用することで、災害を想定したデータの保全を図っていくことを考えている。

本格的な二重化については、サーバーの次期更新時に目標を定め、災害に強いシステム環境のあり方を根本から検討していく方針だ。

日本企業の海外進出が加速化する中、同社も例外ではなく、生産拠点のグローバル化に直面する。タイでの洪水や政治・労務リスクなども含め、「今後は日本だけでなく、グローバルな視点でリスク対策を考えていく必要がある」と、山岸氏は指摘する。

長期的には、各生産拠点での代替生産や海外拠点を視野に入れた処理の分散化など、トータルな視点で今後のBCPに取り組んでいきたいとしている。img_56fd5fd822c33

CompanyProfile
本社:東京都千代田区
設立:1923年
資本 金:22億1500万円
売 上高: 797億6200万円 (連結、2011年度)従業員数:5763名(連結)
http://www.mikuni.co.jp/